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64 ……が魔王を目指した日

一カ月ぶりの更新です。

とんだ大嘘を吐きまして、どうもすいません。

本当は最終話なのですが、長くなりそうなので分割しました。

これで「一カ月更新されてません」の表示は出ないはず!


まだ星の輝く早朝。

俺は何故か、目を覚ました。


広がる薄暗い天井。

俺は身体を起こして、ベッドから這い出る。

起床したばかりのくせに、やけに目が冴えていた。

急に早起きするなんて、と不思議な気分にもなる。

けれど目に入ってくるのは、何も変わりはしない自分の部屋。

シミで汚れた赤絨毯に小さな照明だけの無機質な天井。

そのくせ扉だけは妙に装飾を施していて、部屋と不相応だ。

散らかった勉強机に、俺は腰かける。

けど、教科書も漫画も読む気にはならない。

今日の学校も、部活も、放課後も、もう俺は疲れてしまった。

学生なら誰しもが経験するだろう規則的で平凡となる日常。

週末にどこかへ遊べば、この憂鬱も晴れるだろうか。

イスを回転させ、窮屈な部屋を見渡して溜め息をついた。


……そんな俺に向かって、冷たい風が突き抜けた。


みると窓のカーテンが上がっていることに気付く。

そういえば、部活でクタクタになったせいで、窓を開けっぱなしにしていたな。

朝早く目が覚めたのも、部屋に寒波が吹いたからかもしれない。

俺は立ち上がり、窓の取っ手を掴もうとして身を乗り出し……


……代わりに言葉を漏らした。



「……綺麗だ」



開け放たれた窓から広がる街並み。

静寂と暗黒に包まれたその景色が、俺の関心を奪っていった。

見慣れたはずの街が、自分の知らない色に染まっている。

人も車も通らないだけではない、街道の光が点々とする以外、この街には何も存在しない。

その活気の全てが、まるで星々に吸い取られたかのように、天地は日々の煌びやかさを逆転させていた。

まるで別の世界の未知なる場所にいるかのようだ。


いつもの慌ただしい朝が来る前に、良いものが見れた。

徹夜のせいで起きているわけでもないからか、実に清々しい気分だ。

たった一つの風景で、ここまで気持ちが揺り動かされるとは思わなかった。

けれど無駄に長く目覚めていては、昼間にウトウトする羽目になるし、もうひと眠りしよう。

名残惜しくもあるが、俺は窓を今度こそ閉めてた。

もう二度と目を覚まさないように。


けれど、俺の肌には外の風に触れた感触が響いていた。

あのヒヤリとした冷涼感が、ジンジンと熱く思い出される。

眠ろうと床に着くも、あの景色が強く脳裏に焼き付いき、心臓を駆り立てる。

何より燃え滾る欲望が、俺をジッとさせなかった。



「遠くへ……遠くまで行きたい」


これが自分の声だったのか、別の何者かの声だったかは分からない。

けれども身体は、この衝動を叶えようと動き出し、俺はベッドから飛び降りる。

いつもの部屋、赤い絨毯に白い天井。

こんな風景よりも、見たい景色がある。

もっと未知を、不思議を、奇天烈を、まだ見ぬ空を追い求めたい。

そう、あの異世界のような星空を、俺は手にしていたい。

暗がりに潜む小さな光を数え上げ、視界の全てを夜空に犯されるほどの場所を見てみたい。

ああ、駄目だ。

胸が苦しい。心が暴れだす。理性が止められない。

落ち着け。こんな妄想は実現するはずない。現実を見ろ。

でも欲しい。今すぐ全てを捨て去ってでも俺は欲しい。馬鹿だな、学校はどうするんだ。生活は。学生風情が変な情熱を持つな。それでも俺は、動かなければ。ああ、悶えてしまう。この感覚は何なんだ。息が苦しい。脳に欲望の声が満ちてくる。頭が割れそうだ。痛い。痛いんだ。助けて、助けて。我慢すると涙が止まらない。我慢できない。痛いし苦しい。切ない。いっそ死にたい。でも欲望が抑えきれない。だから動かなければ。この気持ちを抑えるために。でも叶うはずがない。できるはずがない。それでもやり遂げないといけない。痛みが耐えられない。もう嫌だ。何が?何もできないことが?望みが叶わないのが?ならば邪魔なものは置いていけばいい。家族も友人関係も。そうすれば達成できる?けどそんなことすれば、俺はどうなる?欲しい。でも。いや。だが……欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しくて、欲しい。欲しいから、欲しい。欲しくなり、欲しい。欲しいけど、欲しい。欲しいため、欲しい。欲しいし、欲しい。欲しくて、欲しい。欲しいので、欲しい。欲しいが、欲しい。欲しいのに、欲しい。欲しいとは、欲しい。欲しさで、欲しい。欲しいことが……


「ウッ!!」


嘔吐するような本能の声。

一瞬だが理性が掻き消え、意識が飛びそうになる。

全身から汗が噴き出し、寝巻きはグショグショに濡れていた。

いつの間にか鼻の奥からツーッと赤黒い鼻血が流れ、思わず抑えた手はベッタリと汚れてしまう。

それでも頭の血管はうねり続け、俺の興奮が冷めることはない。

かといって風邪のような高熱も怠惰も嫌悪感もない。

ただ、どうしようもない焦燥感が俺を縛り付けるのだ。


「……何だ、この感情は?」


今まで体験したこともない、湧き上がるような欲望。

その勢いは四肢の先端まで支配しそうで、異常事態だと察知する。

俺の中で、何かが目覚めたような。

間違った感情を抱いてしまったような。


「けど、それに構ってる暇はない」


この目で見たい景色がある。

平凡を抜け出した先に、体感したい夜空がある。

俺はそこに辿り着きたい。

辿り着いてみたい。その経験が欲しい。その夜空も欲しい。

全てを思うがままに感じたい。

この欲望を、満たしたい。


「ただ、それだけのことなんだ」


欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。


「俺は、絶対見つけてやるさ。だってこれが……」


欲しい。欲しい。欲しい。欲しい……だが。

頭の中に渦巻く声は関係ない。

絶対、俺が操られている訳ではないはずだ。

だってこの願いは、俺が俺自身で……



「初めて強く持った願望なんだから」



ーーきっといつか来るはずだ。

俺の心が満たされる、そんな未来が。



そうして俺が街を抜け出したとき、虹彩の朝日が俺を照らしていた。

光輝く七色に、何故かそう遠くない未来で、俺はまた出会うような気がした。





次回更新は、3日以内になりそうです。

信じられない?

最後くらい、自分の言ったことを守ってみせますよ。


……多分。


✳︎追記

あと、もう少しかかりそうです。


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