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32 賢者と魔王は繰り返す

ああ、気付けば1週間に1回投稿。

一月に終わるとは何だったのか。



魔王は見事、勇者パーティーに倒された!!


テッテレー



……いや、待ってくれ。

ちょっと考えさせてくれ。


えーと、俺は魔王である。

魔王は賢者によって消滅させられた。

以上より、俺はとうに死んでしまった、という三段論法が成立する。



……それは不味い。


だったらこの記憶が間違っているに違いない。

一旦、これまでの粗筋を整理しよう。


勇者たちは魔王と戦い、後一歩まで追い詰めた。

だがそこで魔法の憑依魔法が発動。

戦士は身体を乗っ取られ、やむなく勇者が戦士ごと魔王を倒す。

しかし、魔王は次に勇者の身体に憑依、勇者は死にかける。


そこで活躍したのが我らが賢者だ。


魔王の憑依魔法、更に奥の手であった魔法陣を利用し、魔王を消滅させることに成功した。

苦しんでいた勇者も、倒れてはいるものの無事らしい。

落ち着いた呼吸が聞こえてくる。



成る程、魔王の憑依魔法というのは、強烈な魔法だったらしい。

賢者の言葉を借りれば「他人の身体に自らが魔力となって入り込むことで擬似的に操る」ということだ。………何だか凄そうだということは分かる。

まあ、彼女の記憶からでも憑依の恐ろしさは理解できたしな。




……だからこそ、あの時の彼女は冷静でいたのかもしれない。



ループの時、戦士が扉を開けようとした途端に死んだ。

そして、目の前の光景を見た勇者は、突然狂い出し、絶叫し始めた。

まさに記憶の再現である。

俺たちが呆然と立ち尽くす中、賢者は叫ぶことも、戦いに参加することもしなかった。

一度味わったことで、その原因と対処の仕方を知っていたからだろう。



……待てよ?


どうして、勇者は暴走したんだ?


魔王は巻き戻しの魔法に巻き込まれて消えた筈だ。

だったら、勇者が戦士を殺すことも、狂い叫ぶ姿になることもない。



……俺はまだ、大切な何かを知らない?





「賢者、勇者はどうなったの!?」



射手の声にハッと意識を戻す。

そうだ、記憶は、まだ続いている。この話はここで終わりじゃない。



彼女は賢者へ向かって話しかけてきた。

頰から血を流し、目が赤く腫れ上がり、そして何より焦その瞳からひどく狼狽していることが分かる。賢者の記憶を体験している俺は、当然ながらその目に見つめられる。

そんな様子を見た賢者は、射手を(なだ)めるようにユックリとした口調で言葉を返した。



「大丈夫よ、勇者は生きているわ。それに……もう少しで全て元に戻るから、心配する事は何も無いわ」


「……全て、戻る……一体、どういうことなの?勇者は、魔王から解放されたのよね!?」


「ええ、魔王は消滅したわ。そしてほら、部屋の四方から光が出ているでしょ?」


射手は部屋の隅を見渡した。

そして、この視界からも観察できる光の柱を確認する。

床の魔法陣から出ているそれは、段々と幅をを増しているようだった。


「この魔法……そうよ、この魔法は何なの!?魔王の、あの大量の魔力を殆ど使う魔法なんて、聞いたことないわ!!」


「簡単に言うなら、時間逆転の魔法かしら。指定した範囲において、自分以外の全てを巻き戻すことができる。今回の発動者は私だから……私以外の全員が、この部屋には入った頃までの状態に戻るの。死んだ戦士や魔王もね」


「せ、戦士が生き返るの!?」



魔王(オレ)も生き返るの!?

あの気持ち悪くて迷惑極まりないヤツが!?



「そういう魔法だそうよ、この陣によればね。私以外は記憶をリセットした状態で、私たちの時間は戻る。そうね、もう後数十秒で発動ってとこかしら」


「そう……なら、賢者はどうするつもりなの?もう一度戦って、また同じことを繰り返すの?」


「いいえ、私は既に魔王の手の内を知っているから、今度は誰も死ぬことなく魔王を討伐できるはずよ。魔王を封印する手段も思いついたし、憑依の仕組みを知ってれば対策もできるわ」


そう、ループを経験した俺は知っている。

時間を繰り返すということは、即ち完全なる予知に近い。

こちらが変化させようと思わない限りにおいて、全ては同じ動作のまま進行していく。


相手が何を言うのか、次に何をするのかは言わずもがな。

最初の一歩はどちらの足かすら把握できてしまう。


つまり、相手に勝利することなど、容易(たやす)いことなのである。


……自分にその実力があれば、の話だが。


……俺にはなかったようだ。


けれど賢者なら……




「もう、私たちの勝利は決まったも同然かしら」



そう言って胸を張った賢者。

射手はその自信満々な姿に微笑んだ。


「私にはあんまり分からないけど、賢者がそう言うのなら安心ね!!」


「もちろんよ」


「もう一度、魔王との決戦が繰り返されて……でも賢者が、相手の戦法を既に見ている


「ええ、当たり前かしら」


「良かった……これで戦いが終わるんだ……」


安堵の息と吐き、射手は勇者に近寄った。


「ねえ勇者、もう少しで……貴方の戦いが終わるのよ……」


勇者といえば、うつ伏せになり意識を失っている。

それでも表情に一切の曇りはなく、穏やかな笑みを浮かべている。


「もし、魔王を倒したら……その時、貴方に伝えたいことがあるの……」


眠ったままの勇者に、彼女は(ささや)いた。




「……だから……待っててよね……」



光が部屋全体を包み込む。

それは神々しくもどこか切なく、余りにも穏やかな瞬間だった。

恋する少女が彼に寄り添い、こちらを振り向く姿。

純粋に綺麗だと感じた。


そして……



たった3秒ほどの出来事。

それがこの記憶の終わりであり、全てである。







瞬間的に見えたのは、立ち上がる勇者の姿。



彼の目は、紅い狂気の光が光っていた。





身体からは黒く(よど)んだ煙が溢れ出す。

同時に空間は歪み始め、世界は白に染まっていく。




最後に見えたのは、魔王の残骸が射手を襲おうとし、光に呑まれていく姿であった。












……これを最期に、俺の視界は、彼女の記憶は曇っていく。

ここから先は、俺も知っている。



目を覚ました魔王は、全てを忘れ、死に戻りのループに巻き込まれていったのだ。


さあ、彼女に会わなければ。


俺は彼女と、真実を語らなければならない。





そして今


視界の白霧は消え去り


俺は、その向こう側にいる彼女をみつめていた。


予定では31話で完結でしたが……まだまだ続きそうですね。


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