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プロローグ





「魔王、お前を倒す!!」






 勇者は魔王に向けて剣を構えた。

 彼の脇には槍を携えた戦士の姿。後方で弓をしならせる少女。

 そして一番奥で杖を握った魔術師。



 私がいた。



 魔王が何かを呟いた。

 それが合図。


 部屋全体が爆発した。

 その煙の中を潜り抜け、私たちは魔王と戦った。



 ……激しく響く斬撃音。氷弾が宙を舞い、炎柱がほとばしる。

 その爆撃の中を走り抜けるのは、勇者と戦士。

 素早く走り抜けながらも、魔王の攻撃を避け続ける。

 魔王は近づいてくる彼らを見ると、手を振り上げた。同時に、巨大な岩石の雨が空から降り注ぐ。

 彼らは剣と槍で猛攻を受け流し、その岩の一発を魔王に向けてはね返す。

 

 それに対し、魔王は左手から光線を放ち、岩もろとも勇者を消し炭にする。

 けれどもその光は、射手が放った金色の矢に相殺され、衝撃で周囲の岩も吹き飛ぶ。

 

 彼女は続けて様々な矢を連射する。

 女神の聖矢、巨狼の牙矢、大蛟の毒矢、邪竜の滅矢、……、その全ては魔王に向けられる。

 ある技は街一つを壊滅出来るほどの、国一つを消し飛ばせるほどの、海を割ることができるほどの力を持っていた。


 その全てを撃ち落とさんとばかりに天井から閃光と雷鳴が駆け抜け、辺りで爆発が起きる。

 矢の数発が魔王の元へ辿り着くが、彼は姿を消してそれらを避け、一瞬で別の場所に現れた。

 

 勇者はその瞬間移動を予測していたらしく、爆音に鳴り響く中、魔王に向けて斬撃波を飛ばした。

 攻撃は魔王の腕をかすり、壁に巨大な傷を付ける。

 魔王はその間にも手を動かし、爆炎は一つの球として纏めあげる。

 そうして太陽のように燃え盛った火球が勇者たちに落ちる。私は杖を振るい、魔法を紡いだ。


「……重力の仰せのままに、才人(アブソーバー)の回廊よ、開きたまえッ!!」


 呪文を唱えながら杖を振るい、空中に半径2メートルの小さな円を生み出す。


 この穴は、全てを吸い込む次元の裂け目。


 内部が闇に覆われた輪に中に向かって、爆炎が急速に縮小され吸い込まれていく。

 私がこの魔法に集中する間も、戦闘音が止むことはない。

 それでも、私は自分の役目を果たすだけかしら。


 全ての炎を吸い込まれたのを確認し、魔法を解除する。

 そして……


「……重力に逆らうがままに、愚人(ヴォミット)の回廊よ……」



 ……次に召喚したのは、直径1メートルにも満たない穴。

 これを魔王に対して近くに召喚する。

 槍を振るっていた戦士は、それに気付くと後ずさった。

 そして、照準は魔王に合わせられる。

 

 今しかない。


「開きたまえッ!!」


 そして魔王に向かって放たれたのは、先程の火球を圧縮して作られた熱光線。

 直視すれば目が焦げるほどの光を放出しながら、射撃は魔王の心臓を捉えた。


「………ッ!?」


 流石の魔王も、短時間の詠唱でここまでの攻撃をできるとは思っていなかったのだろう。

 胸を押さえてよろめく。そこに向かい、勇者が鋭く打突した。


「グアアアアアアッッッ!!」


 魔王はその一閃を手で払いのけ、勇者を強く蹴り飛ばした。

 壁まで吹き飛んだ勇者は、ギリギリだが受け身をとり、衝撃を和らげた。


 グニャリ


 魔王の傷跡から、気味の悪い音がする。

 見ると、血管と皮膚がウネウネと動きながら再生して元の状態へと治っていく。


「やはり、一筋縄ではいけないなッ!!」


「ならば……次は頭を狙うとするか」


「二人共、怪我はない!?……そう、ならまだ戦えるわよね!!」


「ああ、やってやろうじゃないかッ!!」


 三人は声を掛け合いながら、互いの気力を高めていく。

 魔王の能力はまだまだ未知数であり、勝敗の行方は分からない。

 けれども私たち勇者パーティーなら勝てる気がしていた。



□□□



 ……これで、恐らく終わりだろう。



 数十時間の激戦も、遂に決着がついた。

 勝者は、勇者パーティーだ。

 魔王は、四肢が右手を残して消し飛び、魔力回路に大きな負担をかけたことで、魔力活動にも限界がきているのを確認した。

 装備はすでに大破し、目には諦めの色が映る。

 つまり、これ以上何もすることができないはず。


 後は……そう、勇者が魔王の首を切り落とすだけ。


 勇者はボロボロになった鎧を脱ぎ捨て、聖剣を大きく振り被る。

 荒い呼吸を押しとどめ、彼は高らかに宣言した。


「これで…………全てが……終わりだあああああああッッッ!!」




 この瞬間は、誰もがこの言葉と同じように考えていた。

 ついに、私たちの冒険も終わるのだ。

 安心という想いから、気持ちが抜けていく。

 それでも立ち続けられたのは、私たちの努力に対するプライドのせいだろう。


 私たちは、終わりの瞬間を見届けようとした。


 していた。


 ……それは、魔王の、今際の際の言葉だった。









「……助けて……」





 聞こえたのは、か弱い少年の、泣きそうな声。

 あそこで誰も立ち止まらなければ、私たちの旅は終着したのだろう。



 けれどそれを、勇者が聞いてしまった。

 ……同情してしまったのだ。



 崩壊の音が流れ出した。




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