34 騎士は問いかけ攻防戦
戦闘シーンが増えてきて、楽しくなってきました。
「お前は、何者だ?」
見慣れた軽装の鎧姿に、冷徹な美貌。
女騎士は、剣を抜いて立っていた。
俺が沈黙すると、騎士は再び口を開いた。
「重騎士から逃げ、スライムから逃れた。それくらいならば、過去の生贄たちもやってのけた」
女騎士は淡々と瞬き一つなく俺を見据えて仰々しく語る。
部下は抱きかかえられたまま、俺の襟元をキュっと掴んだ。
「だが、迷宮で迷う気持ちすら見せずこの奥地に巡行した。この騎士たる私の姿を初めて見覚えようも、初めてならざぬ敵対の反応。不可思議と言わざるを得ない」
「そうか? 俺は随分と驚いてるぞ。まさか、こうやって剣を抜いて待ち構えてくれるなんて。俺たちがその扉の向こうに行くのを、背後から見守ってくれるのかと思ってたからな」
いや、そんなわけはない。
女騎士は、スライムや重騎士と同じく迷宮の機構の一部として存在しているのならば、俺たちの行動もある程度把握しているはずだというのは、理解していた。
そうでなければ、危機に陥った生贄を助けられないし、迷宮の入り口から逃げようとする生贄も捕まえられない。
あの冷たい瞳の裏にはこの迷宮全体を見通す、監視映像でも流れているのだろう。
「愚問を否定しよう、彷徨える男よ。生贄の条件を満たせど、不確定要素が逸脱すれば、見逃すわけにはいかない……貴様のことを、単に少女の生贄のついでに迷い込んだ賊人と見なしていたが、修正せねばならない。斬られる前に正体を明かせ」
「いいや、その評価で正しいぞ。俺は迂闊にここへ迷い込んでしまった盗賊だった。さっきまではな」
この様子だと、女騎士は俺たちが時間を巻き戻していることに気づいてないのだろう。
それもそうか、迷宮ごと時間を巻き戻しているのなら、当然機構である女騎士もまた記憶を有してはいない。
だから俺を一度は捕まえたことも、外の世界では数十年経っていることも知らないわけだ。
(もし部下がそのことを上手く隠していなかったら、きっと彼女の立ち回りも変わっていたな。もっと最初から全力で、俺たちを捕まえに来たはずだ)
だから、部下がすぐ俺に時間が巻き戻ったことを話さなかったのは正しい。
どうやって女騎士に情報が洩れるか分からない以上、全てを口頭で説明し、自ら先頭に立って迷宮を歩けば、当然警戒され、まず部下から倒そうと判断されたはずだ。
一方の俺も、経験値と情報不足のまま女騎士と立ち向かわねばならず、きっと最悪の結末を繰り返したことだろう。
(そう思うと、俺の今までの死も、無駄死にじゃなかったな。今はこうやって、女騎士がどんな奴なのかをよく知って、向かい合える)
「さっきまで盗賊だった男よ。ならば再度問いただす。今の、お前は何者だ?」
そして何度も死んでは蘇った今の俺だから、迷うことなくこう答えられるのだ。
「俺は、この少女の主。魔導士に言葉を託されし者にして、古代の大迷宮を踏破し、お前たち番人を打ち破る攻略者! すなわち、俺は」
息を吸い込む。
そう、俺は覚悟を持ってこう名乗る。
「俺は、魔王だ」
「貴様ふざけるか……いや、その目は……」
女騎士は、俺の改造された片目に気付く。
「貴様も魔族なのか? いや、角もなく、魔術も使えないこの男が、そんなわけ……」
女騎士は無表情を崩し、その場で明らかに動揺する。
なんだ、機械人形にでもなったかと思ってたが、まだまだ人間らしい感情を持っているじゃないか。
……いや、俺を一度助けたときも、もっと柔らかな表情をしていたな。
「何を狼狽えている? 先ほどから俺は答えを述べているだろう。俺こそが魔王だと。ならば女騎士、お前はその剣をしまって跪くのが役目だとは思わないか?」
「……調子に乗ったその台詞。お前は敵対を望むのか」
「お前が、恭順してくれたら楽だとは思ってるよ。それに俺の台詞がなんだ。お前の片言口調のほうが、コミュニケーション取りづらいぞ。何百年もまともに他人と話さなかったせいで、口下手になってるのはお間のほうじゃないのか?」
「安い挑発、だが受けよう!」
女騎士は脱兎のごとく腕を伸ばし、俺の心臓を突き刺しに来る。
その動き、その技。
確かに速いが……既に知っている。
俺は再び右手に魔力を流し、切っ先が指先と触れ合う寸前に呪文を告げる。
「『拒絶聖域』!」
防護魔法の展開。
俺を包むように展開された、半透明の膜が、剣とぶつかり火花を散らす。
眼前までせまる剣の煌めき。俺は、もう一歩踏み出し、魔力を急激に込める。
魔法壁は膨張し、そして過負荷により、激しい閃光と衝撃波をあげてはじけ飛んだ。
「クッ!?」
思いもせぬ反撃だったのか、見事に裏をかかれた騎士は目をやられ、的から逃れるべく、背後に飛び退いた。
全て以前知った通りの反応だ。
だが今度の俺たちは、一味違う。
もう一度構えた右手に、今度は部下の手が添えられる。
「『拒絶聖域・重奏』!」
女騎士の体勢が整う前に、今度はより強大な防御壁を展開する。
衝撃波とはいかずとも、突然目の前に膨らむ壁が現れれば、人は受け身もまともに取れずよろめき倒れる。
それは戦い慣れした女騎士であっても、不意に不意を突かれたことで、なんとか横に飛び退き、地面に転がり落ちることしかできなかった。
「いくぞ、部下!」
「……女騎士さん、ごめん、なさい!」
俺たちは女騎士の横路を抜き去った。
そのまま右手を後ろに伸ばす。
そう、彼女はすぐに追ってきて、炎の斬撃を飛ばしてくる。
「もう一度『拒絶聖域・重奏』だ!」
「読んでくるか……!」
バシュゥッ
蒸気の上がる音と共に、魔術壁が炎を無事防いでくれた。
ようし、後は女騎士を警戒しつつ、最奥の間へ下がっていくだけ……
(……そんな上手くいくはずない。嫌な予感がする)
嫌な予感は、考えたくないと避けていた可能性と同じだ。
そして大抵は、そういうのが一番よくやってくる。
ガシャン!!
聞き馴染んだ金属音がどこから聞こえてくる。
(重騎士がもう復活して、俺たちを追いかけに来たのか!?)
けれどそれくらいは予想していた。
嫌な予感というのは……
「前から来るのは予想してなかったな……!!」
俺たちの前方の横道から、重騎士が現れたということだ。
鎧はまだひび割れながらも、その巨体は既に崩落に巻き込まれたことなどなかったかのように、五体満足だった。
前方には重騎士。
後方には女騎士。
いくら優れた防御魔法が使えても、2人同時相手はきつい。
(……横道にかけこんで逃げるか!)
と視線をずらすと、殆どの道からスライムが現れて塞いでしまった。
前後どころか、四方八方敵だらけ。
「……ふはは、魔王相手だ。これくらいして貰わなくては!!」
虚勢を張ってみるが、きっと鏡を見れば泣き出しそうな顔をしている。
それでも、逃げるなんて選択肢はないのだから、足掻くしかないのだろう。
さあ、この絶望はどうすればいい?
単騎連載ですが、催眠術バトルものを描きましたのでこちらもよろしくお願いします。
殆ど描きあがってますので、俺は死んでも~の投稿頻度に影響はない……はず。
催眠戦争プラトノマキア~催眠術士の少女たちvs催眠アプリの少年たち~
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