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33 魔王は手を取り二重奏

毎日更新したかったのですが……難しい。

 

「さあ、俺たちに挑んでみろ! 図体だけの暴れ牛めが!」


「ーーーーーーーッ!!!」


 野太い咆哮を上げて、重騎士は迷いなく俺たちめがけて突進してくる。

 狭い通路にギリギリ収まる大きさの巨大な甲冑が、撃ち出された弾丸のように速い。


「こっちだ!」


 すぐさま横の通路に飛び退くと、目の前を風塵が舞い、遅れて激突の音が空気を震わす。

 一度でも接触すればこちらの肉体が無惨にも引き千切れるだろう圧倒的な破壊力。


「しっかり捕まってろ、部下よ!」


 部下を抱き上げ、俺は一度距離を取るために走り出す。

 ドスン、ドスンと重い足音が背後から迫る。

 追いかけっこの鬼役としては適任すぎる重騎士だが、逃げるこちら側にだって策はあるんだ。


 俺は右手を伸ばし、部下がそれを両手で支える。

 2人で一対の魔術ならば、呼び名はきっとこうだろう。


「『絶対聖域(アガタ)重奏(デュオ)』!」



 指先から溢れた白光は20歩ほど前方で拡散し、揺らぎを伴う膜なり、層となり、通路を塞ぐ半透明の障壁となる。

 暴走するどころか即座に生み出された魔術壁は紫水晶にも似たほのかな紫煙の濁りを帯び、岩壁のように分厚い。


「すごい、こんなに安定して魔術が使えるなんて! やっぱ部下は優秀だな!」


「こ、光栄、です……でも、気を抜かずに!」


「ーーーーーッ!!! ーーーーーーーーッ!!!」


 重騎士が突進を仕掛け、こちらに迫ってくる。

 衝撃に備えたくもなるが、魔術ここはあえて堂々と仁王立ちで構える。

 激突まで、あと3、2、……1。


「この魔王を押し通せるか!!」



 ガンッ!!!!



 通路が大きく歪むほどの揺れ。

 猛牛の鎧が凹み、床は剥がれて煙が上がる。

 それでも、魔術壁は形も位置もただそのままに、聳えていた。


 ギギギギギギ


 重騎士は曲がって噛み合わない鎧を無理に動かしながら、もう一度壁を突破しようと動き出す。


「いいぞ、部活。なら第二段階だ!」


「はい! 調整準備できてる……ので!」


 俺は魔力を更に壁へ注ぎ込む。

 魔術壁はゆっくりと膨張し、天井に食い込んでもなおミシミシと肥大し続ける。

 衝突によりひび割れた通路は、当然ながら構造の維持をできない。


 簡単に言おう。

 この迷宮は、俺たちの魔術に耐えきれず


「壊れろ!」


「ーーーーーーーッ!!!」



 崩落音に包まれる中、俺たちが魔術壁越しに見えたのは、天井の崩落に巻き込まれる重騎士。

 衝撃は、魔術壁より向こう側のみに弾かれるため、俺たち側の通路は無事だが、その先では天井から侵入した土砂が入り込み、あっという間に通路が埋もれてしまった。

 白い空間ばかり見ていた俺は、久しぶりに色のついた土を見れたことに少し感動する。


「よし、成功だ。今のうちに逃げるぞ!」


 まさか魔術を上手く使えば、こんなにあっさりと重騎士を倒せるなんて。

 俺はかざしていた右手を下ろし、立ち去ろうとする。

 が、背後ではガラガラと音を立てて、瓦礫の山の

 中から腕が飛び出した。

 歪に曲がっていた傷だらけの甲冑の腕が、ギギギと動き、内側から膨らんだかと思うと、すぐさまカッと指先に力が入り、暴れながら土砂から抜け出そうとしていた。


「……うん、本当に逃げたほうが良いな!」


 俺は通路を見渡す。

 魔族に近くなるよう改造された眼は、通路に隠された文字を浮かび上がらせる。

 太古の文字なんて読めないが、案内板なんて大抵内容は一緒で、大きくかかれた文字と矢印を追えばいい。

 俺は部下を抱えながら角を曲がり、奥へと向かった。


(ひとまずこれで、重騎士と出くわしても対処できることがわかった! 残るは……)


「魔王様あそこ、です!」


 部活が指差した先には、体が通路から現れた2匹のスライム。

 俺が迷宮の壁を壊したから修理しようと向かって来たに違いない。

 来た道は先ほど自分たちで壊してしまったから、逃げることもできない。

 動きはゆっくりだが、触れるものを溶かすスライム相手にどう立ち向かうか。

 このまま魔術壁を作っただけでは、スライムはその場から動かないものの、俺たちも前へは進めない。


「……それも想定済みだ!」


 スライムのすぐ側まで近づくと、俺は部下を抱えながら壁に背中をぴたりと合わせる。

 右手を伸ばしながら、ほんの少しだけ手に捻りを入れる。


「『絶対聖域(アガタ)重奏(デュオ)』、縮小して鋭角30度!」


 そうして生み出された魔術壁は、通路の幅より一回り小さい半球となって俺たちを包み込む。

 迫りくるスライムは魔術壁に触れると、そのまま俺たちの頭上や真横にそのぶよぶよとした体を広げてくる。

 

(大丈夫、あいつらはこの防御を溶かしきれない……!)


 スライムはそれでも俺たちを飲み込もうとぬるぬる前進し、魔術壁をすっぽりと覆う形となった。

 万事に窮すにみえるが、お陰で俺たちの前方にいたスライムの大部分は、後方から頭上へと移動している。


「傾度調整、します!」


 部下が俺の腕を握りながら、指先に込める力を変えると、魔術壁の半球は形を変え、前方が盛り上がって垂直となり、後方に向けて倒れる三角形となる。

 乗っかていたスライムはそのまま魔術壁によって持ち上げられると、滑り台のように、ズルリと俺たちの後ろへ滑るって落ちていった。

 

「これも成功か。優秀すぎるぞ、部下! お前はもう最高の部下だ!」


 何度も苦しめられた敵たちを、次々突破できてしまうとは。

 喜びを抑えきれず、俺は部下をただひたすらに褒めちぎる。

 顔から湯気が出ている気がしなくもないが、もう構うものかと撫で続けた。


 2匹目のスライムも難なく突破すると、俺たちは休む間もなく最奥の間へ続く大通りへと向かった。

 このままなら、余裕でゴールにたどり着ける……!

 そんな錯覚さえ持ってしまったが。



 やはり、迷宮というのはそう簡単に解けるものではないらしい。




「お前は、何者だ」




 通路を抜けた先の、広い大通りにて。

 女騎士はただ待ち構えていた。



 既に政権を抜き、揺らめく炎を俺に向けながら。



次話は明日~数日後に更新予定です。

呪文は重奏デュオでなく、ラテン語で第二という意味のdeutero(デューテロにしようとしたのですが、効き馴染んだ言葉にしました。なので複数言語の交じった呪文になってます。

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