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17 魔王は真に理解した

今回も予定通り………です。



 彼女は何度も呟く。



 やり直し、また駄目だと。



 よく考えると、可笑しな話だ。


 彼女は俺と同様に、時間を繰り返している。

 そして俺が永久に死に続ければ、彼女も当然この部屋から出れないだろう。

 そんなデススパイラルから脱出したいと思うのは、俺でなくとも誰もが思う。

 無限に戻り続ける世界には、希望も未来もないからだ。


 けれども、彼女は何度も繰り返そうとしている。


 そんなことをしても、彼女自身を追い込むだけのはずなのに。

 無限に続く同じ時間に呆れ果てることになるだろうに。

 俺が百万回死ねば、彼女も百万回同じ光景を見ることになる。

 俺が代わり映えのない百万時間を過ごせば、彼女もその百万時間に縛られる。

 この死に戻りを終わらせれば、俺を殺すことも、勇者を殺すことも、彼女の力なら容易いはずだ。


 それでも、彼女はこの何時終わるか分からない繰り返しの世界に、自ら身を置いている。


 ならばそこにあるものは一つの目的。


 俺を殺し、仲間を傷つけ、自分を犠牲にしてまでも果たそうとする願望。




 ……その時俺は、何となくだったが予想がついていた。










「賢者……お前は何故俺たちを殺すんだ!?」



 この質問はこれで2回目だろうか。

 口には出したものの、彼女が答えないことも知っていた。



「……私が教えるのは、貴方が自力では辿り着けないことだけよ」



 ヒビが入り、破片が散らばり、血の飛び散った、嘗ての神々しさを完全に失った部屋。

 そんな空間で、少女は相変わらず無表情で俺を見た。


 その返しに、俺は確信を持った。





「だったら聞くが、お前の目的、それは……




……俺にある事を自覚させるためだ、そうだろ?」







ピクリ




 少女の目の色が僅かだか変わった。どうやら俺の推理は成功らしい。

 彼女は、俺に何かを教えたがっている。だからこそ俺が死ぬ寸前に少女は呟いたのだ。


 やり直せ、と。


 けれども直接口に出さない事を考慮すれば、そこから彼女の意図らしきものが読み取れる。

 要するに、自分で気付けというやつだ。

 最初は何かを伝えたくても言えない事情があるとも考えた。

 だがそれでは、彼女の余裕そうな態度とは上手く結びつかない。

 彼女の言動で判断するならば、説得力があるのは前者の方だろう。


 さて、ここからは俺の勝手な予測となる。



「更に、もう一つ俺には分かったことがある」


「……何かしら」


「お前は、俺をこの部屋から出したくない。いや、出してはいけない。……俺がこの部屋から出ると、お前にとってかなり都合の悪いことが起きるからだ」



 俺がこの部屋から外を知らないのは事実。

 確か、勇者と打ち解けることで扉を開くチャンスが生まれたこともあった。

 失敗だったが。

 あの時は、賢者が何を考えているかなんて、全く分からなかった。

 けれども今になって冷静に思う。

 彼女の目的は、首尾一貫としているのだ。

 全ての行動に意味が隠されている。


 俺はその意味を、彼女にとって悪い事を防ごうとしていると、そう捉えた。

 そして、俺の持っているカードの中で、最も彼女にとって悪である事とは何か。


 そう考えると、解は一つしかなかった。






「お前が俺を閉じ込める理由………例えば」



 俺は少女を見ながら、言い切った。










「……死に戻りができなくなる、とかか?」













「……どうして、気付いたのかしら?」


 賢者は溜め息をついた。

 それは俺に対するものというよりは、彼女自身に悪態をついているように見えた。



「気付くも何も、俺は一回も外に出てないんだぜ?何回も殺される中で一回も。流石に理解していたさ」




「だったら……」



 少女は、そう言いかけて、口を閉じ、目を逸らした。

 数秒間、何かを悩んでいるように見えたが、意を決したらしく、もう一度口を開こうとした。




 その時だった。



 勇者が声をあげたのは。






「 …グ………グ…ア゛…………アアアアッ…」







 俺と賢者は、思わず振り向く。








 微かに震える右手があった。

 その右手は静かに倒れたかと思うと、指でガッチリ床を掴んだ。


 身体についていた床の破片が音を立て、なだれ落ちる。


 そうして、彼は足を使って、大きく立ち上がった。


 俺は更に驚く。

 勇者の身体は擦り傷一つなく、剣に光が戻ってきていたからだ。

 彼は猫背になって、大きく息を吸い込む。



「ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!」



 勇者は狂った絶叫を部屋に響かせた。


「……渋といとは思っていたけど、やっぱり普通の人間じゃないのね」



 少女は、そう呟くと、俺に背を向けたまま杖を振りかざそうとした。













「マア゛………オオオ……ヴゥゥゥ………」










 それは、壊れた喉から絞り出した精一杯の声。

 酷い擦れ具合だが、その言葉は確かに聞き取れた。



『魔王』




 これは、勇者が理性を取り戻したのか!?

 いや違う。そもそも勇者は床に埋まって気絶していたはずだ。

 その状況で起き上がるとは………強過ぎる本能としか、説明できない。


 彼は今、理性と本能のどちらなのか。


 俺が、警戒をしていたときだった。





 次の瞬間、彼は気力を振り絞って、声を出した。

 風が吹けば聞き取れないほど小さく、口から血を吹き出しながら彼は喋った。

 目を血走らせ、荒い息を口から漏らし、彼は俺に伝えてきたのだ。

 自分にできる最善を、今ここに尽くしたのだ。


 俺は衝撃で動けなかった。















「オレ゛…………オモイ゛…………ダジダ…………」



「勇者、無事か!!!」


「……貴方、まさか!!?」








「……オマエ……ヲ゛………タオジダゴド……」








「……マオヴ………ヲ………オレ゛ハ…………コロシタッ!!!!」







 つまり、彼は俺と、いや魔王との記憶を思い出した。





 俺の思考が一気に加速していく。








 そうして、謎が解けた。









やっと終盤です。

これからの話に文字数を割いているため、今回までは短めでした。

もう暫くお付き合い下さい。

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