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16 魔王に掛かりし長電話

 


 食事のお陰で気力の戻った俺は、部下に質問することにした。

 今までは早く脱出せねばという焦りがあったものの、心に余裕ができた今は、彼女についてちゃんと知るべきだと考えた。


「なあ部下、君は俺以上に迷宮について詳しいみたいだ。他に知ってることがあれば教えてほしい」


「わかり……ました……すぅ」


 でも、今は無理だな。

 応答ことしたものの、部下は先ほどから俺の膝を枕にしていて、そのまま眠りについた。

 疲れすぎて気絶してた俺に咎めることはできず、子供の睡眠を邪魔するわけにもいかず、仕方ないので俺は部下の頭を撫でた。


 ゾクリ


(……ツノが生えてる)


 触って分かる、その硬さ。

 全体的に黒紫の色だが、角度によって表面の光沢が虹色に変化する。

 頭にこんな重いものをつけては邪魔だと思ったけど、意外と軽い。

 動物は相手を追い払う武器としてツノを使うけど、魔族のツノは魔力を増大し、あるいは魔力の流れを読むための器官だと聞いたことがある。


 とはいえ、魔族を実際にみた人間というのは少ない。

 人間の繁栄に負けて以降、世界各地へ散り散り存在だと言われている。


(彼女はどんな人生を送ってきたんだろうか)


 そんことを考えていると、部下の手からポトリと何かが落ちた。俺はそれを手に取る。


「宝玉か」


 部下に預けっぱなしだったな。

 下手に触って魔法が発動してしまうと俺が暴走してしまうから、持ちたくはないんだけど。

 でも、何か変だな。


(ちょっと光っている?)


『通信開始……魔王、応答しなさい』


「はい、こちら魔王……え!?」


 なんだ今の声、どこから聞こえた!?

 部下は寝てるし、というか耳の中に直接響いたし。

 俺の声を確認したのか、男かも女かも分からない声が機械的に何かを捲し立てる。


『通信快適度、中程度。魔力遠隔操作、良好。最長通話時間、演算中。会話への支障は微弱……』


「なんだこれ、もしかして宝玉のせいか!?」


 俺が触れたことで、何か魔術を起動してしまったのか。このままだと魔力を消費した宝玉の色が変わってしまい、また発狂寸前に追い込まれてしまう。

 どこかに放り投げなくては、そうだ、目の前こ宝箱にしまい込めば。


「調整終了……お待たせー、それじゃ挨拶しよっか!」


 突然の流暢な喋りに、俺が口をパクパクさせる。

 機械のノイズが取れて、聞こえたのは中性的で若い声。




「僕は魔導士。魔王を導くものだ」






 ◻︎◻︎◻︎



「つまり、どなたでしょうか?」


「だから、僕は魔導士だって。それとも、急な性格変化(キャラチェン)に驚いた? あれは通信環境が悪いから、淡々と必要最低限しか喋れなくてさー」


 うん、確かにこの声は口調こそ違えど、宝玉で聞いたもののと同じだ。

 そして向こうは俺のことを、どこから聞いたのか分からないが魔王と認識している。

 そして遠隔で俺に話しかけているらしい。


「『念話(ヒアニム)』は通常、魔族同士が側にいなくても会話するための魔術なんだよね。でもそれにはツノが受信器官(アンテナ)として必要なんだけど、君ってツノ生えてないでしょ? だからその、君が宝玉(オーブ)と呼んでいる魔術受送信装置を用いることで、こうして会話が成功したのさ」


 更に俺がまだ状況を受け入れきれてないといういうのに


「でも迷宮の入り口付近じゃ念話状況が悪いのもあって、環境の構成はもう少し奥へ進んでからじゃなきゃできなかったんだよ。幸い君がそこでしばらく時間を潰してくれてたから、僕も念話ができたってわけでね」


 こうして一方的に話しかけられている。


「分かったよ。それより最優先で確認なんだけど」


「君が暴走しないか、でしょ? 大丈夫じゃないかなー。観察していた感じ、君の暴走のスイッチは宝玉の色が変わることに起因するんでしょ。逆に言えば、明確な変化が起こらない量の魔術であれば、影響はないと仮説が立てられる。現にこうして宝玉を使って魔力消費しながら念話しているけど、宝玉を見ても暴走はしないでしょ?」


「ああ、そうだけど」


「君が暴走するきっかけになった魔術は、宝玉を転がして道案内させるというものだった。あれは念話以上に遠隔操作の難易度が高くて、その分だけ魔力消費も大きくなったんだ。それを長時間やったせいで、宝玉の色調も変化してしまった、ってことだね。まさか君が暴走」


 まさか、宝玉に俺を道案内させたのもコイツの仕業だったのか?

 暴走すること自体は知らなかったから許すとしても、宝玉を追い回させるのはかなり疲れたんだが。

 でも、文句を言うのは後回しだと、グッと堪える。


「この通話ぐらいの魔術では暴走しない、ってことでいいか?」


「そういうことー!」


 ずっとテンション高いな、この魔導士。

 だが導いてくれるというなら、大人しく頼もう。


「じゃあ早速俺たちを迷宮の出口まで導いてくれ!」


「それは無理ー!」


 嬉しいそうに言いやがった。


「いや、俺を導いてくれるんじゃなかったのか!?」


「ある程度まではね。でも出来ることと出来ないことはある。例えば今いる地点から君を元の入口に案内するのは、難しい。念話も届きにくくなる。出口への案内もまだ遠くて……」


「出口があるのか!?」


 朗報ッ。

 それは最高に僥倖だ。

 迷宮の入口は街にある1つしか知らないが、どこかに続いていたとは。


「正確には違うけど、ね」


「何にせよ、途中まででも良いから案内を」


「それも無理」


 声が一段階低くなった。


「理由を、聞いてもいいかな」


「うーん……あ、今は時間がないからまたね。その魔族が起きつつある」


 下を見ると、部下の寝息が聞こえなくっていた。

 目を瞑って可愛い横顔を見せているが、起きそうといえば起きそうだ。


「魔力消費が少ないと言っても、無駄遣いはできない。それに僕は、他人に会話を聞かれたくもない。だから次は、必要なときに助けるよ。道案内はそこの魔族に頼むと良い」


「おい、ちょっと待て。アンタは何のために俺と連絡を取ってきたんだ!!」


 長く話したが、魔導士からは肝心なことを何一つ聞き出せていない。

 何者なのか、どこにいるのか、その目的はなんなのかすら。

 この宝玉が何なのかすら、俺は分からないままだ。

 謎は一層深まるばかりだったけれど、最後に魔導士は言った。


「そうだ、大事なことを言い忘れてた!」






「本当に奥へ行く気があるのなら、女騎士の手を借りなさい」





『通信終了』




 「……うぅん、魔王様? そんな顔してどうしたの、ですか」


 それからは、部下が目を覚まし声をかけるまで。

 俺は光の消えた宝玉を握り続けていた。




 「女騎士って誰だよ……」




次話は今週中に投稿予定です。

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