プロローグ
出られない! 出られない!
私がここに来てから、数日。脱出を試みて、そして失敗した。
終わりのない道が私を惑わし、まやかしの出口に絶望した。
今も遠くで聞こえるのゴォンという重音。壁際の這回者が出すヒタヒタという音。
五感で感じる全てが、私の頭に恐怖を増大させ続ける。
もうダメだ。涙で赤くなった目をぬぐい、せめて私の生きた証を残す。
壁際にて身をよせ、指を組み、最後の祈りを捧げる。
「ああ、どうか魔王様。私の手を掴んで下さい。私に慈悲をお恵み下さい。どうか、彼方の地へと誘い下さいッ!!」
背後にあの悪魔がせまる。もう助からない。
私は目を閉じ、この祈りがいつか聞き入れられることだけを願っていた。
□□□
数年後。
「魔王、お前を倒す!!」
へ?
いやいや何の話ですか。
目の前で剣を向けるのは、女騎士。
長い赤髪を後ろで束ね、銀の甲冑を身に纏い、キツイ眼差しで俺を睨む。
俺の背後には、一本の通路。
ならば全速力で後方に逃げればいいのだろうが、そうはいかない理由がある。
俺の横で怯えている少女だ。
「……」
怯えて無言のまま、俺の袖口を引っ張ている。
彼女を置いて逃げれば、すぐさま相手に捕らえられてしまうだろう。
さて、この3秒後、
「騎士よ、君はなにか誤解している」と言い訳をする俺に
「問答無用!!」 と斬りかかる女騎士の姿が見てとれるわけだが
こんなときには回想をするのが良いとなっている。
なぜかって? それが走馬灯というものだからだ。
けれど、そういうのはもう少し後回しにしよう。
そうそう簡単に斬られてたまるか。
「騎士よ、君はなにか誤解している」
「問答無用!!」
騎士は間合いを詰め、電光の如く剣を斬りつけた。
凝視するに、後退して避けるにはあまりに大きな振り。
武器もない生身の俺は、一秒後に肩から胴体が真っ二つになる。
この太刀筋なら、横にいる少女もその刃の餌食だ。
けど、そんなことさせるわけない。
両手をかざし、その剣の歯を真正面から掴みかかるように伸ばす。
開かれた手の平に刻まれているのは、魔法陣だ。
「拒絶聖域!!」
防護魔法の展開。
俺を包むように展開された、半透明の膜が、剣とぶつかり火花を散らす。
眼前までせまる剣の煌めき。俺は、もう一歩踏み出し、魔力を急激に込める。
魔法壁は膨張し、そして過負荷により、激しい閃光と衝撃波をあげてはじけ飛んだ。
「クッ!?」
思いもせぬ反撃だったのか、見事に裏をかかれた騎士は目をやられ、的から逃れるべく、背後に飛び退いた。
この瞬間、俺は少女を抱きかかえると、敵に背を向け、背後の通路を走っていく。
彼女には頭にツノが生えているから、身体に刺さらないよう上手く抱えなくてはならない。
とりあえずは、奥へ奥へと逃げ進み、敵の追跡を逃れる。
作戦はまず成功といったところか。
(けれど、これで何か解決したわけじゃないんだよな)
むしろ、この通路を進むほどに。
俺は罠にはまり、元の場所に戻れないことが分かりきっているからだ。
此処は、無数の道と謎の施された、地図も道しるべもない地下遺跡。
視界は壁に阻まれ、一度入れば出口を求めて彷徨い続ける世界。
もっと分かりやすく言うのならば。
(『××××』という言葉が適切だろう)
だが、その正体を知っていても、ここで不安を見せてしまえば、この少女を更に怯えさせてしまう。
俺が何を思おうと思うまいと、この場所を抜け出さなくてはならないことに変わりない。
ならば今は、この困難を毅然として乗り越えよう。
脱出できて当然だと、全てを見据えるがごとく振る舞ってやろう。
少女の信じる俺ならば、それをなし得てみせなくては。
何しろ彼女は魔王の部下であり、それを従える俺こそ、魔王その人に違いないのだから。。
こんばんは。まだまだ続く、魔王の脱出系作品です。
新章ですので、分量はまだまだないですが、同時に3話ほど投稿します。




