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71 勇者の凱旋リバイバル

いつもと曜日が違いますが、投稿いたします。

 

 射手と勇者の二人を置いて教会を出た後。

 戦士は振り返り、「では、僕もここで」と俺たちから別れようとした。

 変装用に髪色を変えた賢者が、彼に尋ねる。


「あら、街に不慣れな私たちを放り出すなんて、まさか貴方も誰かと会う予定があるのかしら?」


「フフッ、その言い方では言葉も返しづらいですが……そうですね、知り合いの憲兵に声をかけて、その後はパレードの警護でも手伝わせて貰いましょうか。この人の集まりを狙って、また魔王の部下のような輩が現れるかもしれませんから」


「でも、それだと折角の祭りが楽しめないじゃないか」


「僕はこれで良いんです。自分たちの守り通せた街とその人々を目にできた。それだけで十分なんですよ」


「……そうか。だったら、ここで今日はさよならだな」


 思えば、戦士もまた狩人との闘いで、過去の未練を断ち切れた一人だ。

 その解放感と、狩人との思い出を、しばらくこの街で浸っていたのかもしれない。


「戦士……ありがとう」


「私からも、お礼を言うわ」


 普段は皮肉の多い賢者も、今日は素直に感謝の言葉を述べる。

 戦士は驚きながらもほほえみ、俺たち二人の顔を交互に見て、最後にもう一度微笑んだ。


「こちらこそ、改めてありがとうございます。彼のことも」


 彼はそういって手を振り、人込みのある通りの中へと消えていった。

 俺は賢者と二人きり、教会の入り口にたたずむこととなった。


(折角だし、俺は祭りを楽しみたいものだが……)


 それは賢者の機嫌によるだろう。

 人混みが苦手であるならば、しばらくはどこかの店に入り込み、中央通りでのパレードに人が集まる時間帯に、逆に少しはすくであろう町外れの店舗を回るくらいが丁度良いのかもしれない。


「なあ、賢者。俺たちはこれらから・・・・・・」


「何を惚けているのかしら。ほら、早く祭りに戻りましょう」


(あれええええ!?)


 人混みが苦手だとかいう話はどうしたんだ。

 驚きを声には出さなかったが、顔には出ていたようで、賢者が呆れかえったように溜め息をつく。


「確かに私は大勢の前に出るのが苦手だわ。私を賢者と知る人には異端の目を向けられ、変装すれば迷子の子供と勘違いされるの。今日だって、貴方と手を繋いでいなかったら、そんな扱いを受けてたのかもしれない」


 なるほど、単に人付き合いが苦手なだけじゃなく、そういう背景もあるのか。

 背丈も小さい分、いろいろな誤解を受けやすいわけである。


「でもね、誰かと一緒に珍しい物を見て回るのは、苦手であっても嫌いじゃないの。それが好きで、私は勇者パーティーに入ったのだから」


 そう言って俺の手を取りながら、賢者はほほえみ祭りへと誘う。

 屈託のない表情を見せられては、誰もが納得するしかない。

 だったら俺もまた今日の祭りを楽しむしかないな。


「・・・・・・ああ、じゃあ行こうか!!」


 」


 □□□



 それからは、俺は随分と祭りを楽しんだ。

 自分の知らない匂い。知らない色合い。

 それは未知との出会いの繰り返しで、けれど祭りは何処の世界でも似た雰囲気が漂っていたりもして。

 賢者に導かれるまま、様々なものを五感全体で体験することとなった。

 あっという間に時間は流れて昼に差し掛かり、日差しも一層と賑わう王都を眩しく照らしていた。


「・・・・・・ふぅ、目を回しそうだな」


 流石の人混みに疲れれたので、俺たちは一息つこうと近くの店で菓子と飲み物を注文し、外に並べられた木製の円形テーブルに向かい合わせで座った。

 ここは依然、勇者と魔王の息子について話すために立ち寄った店である。

 もう何度嗅いだか分からない砂糖と生地の焼ける匂いに、俺は既に懐かしさを感じていた。

 青空の下、ゆったりとくつろぐのもまた最高だ。


「やっぱり、今まで人と会わない生活を送ってたせいか、普通以上に疲労が溜まりやすくなってるみたいだな」


 そうは言いつつも、店員と会話したのは殆ど賢者である。

 何しろ俺は、目の前の商品がなんなのか、知識がない。

 値段を見ても相場を知らず、品質もよく分からない。

 祭りなのだから、とりあえず色々気前よく買ってみるのも楽しみの一つではあるだろう。

 しかし俺の場合は余りの知識のなさに、そもそもそれが食い物なのかどうか、そもそも使用用途すら分からないといったレベルである。

 その酷さを例えるなら、綿飴を見て、なぜ羊の毛を飾っているのか。焼きそばとは、なぜ小汚い藁の紐に味付けしているのか、などと頓珍漢に考えているようなものだ。


 そんな俺に呆れることなく、商品の丁寧な説明から、実際に店員と交渉し買い取るまで、賢者は随分と俺に付き合ってくれた。


「改めて、ありがとう。おかげで随分と祭りを楽しめてるよ」


「私も楽しめているから礼は不要なのだけれど・・・・・・そうね、感謝しながら、ちゃんとこの世界の文化を学びなさい」


 どうやら賢者もまた上機嫌らしく、ケーキを頬張ってはニコニコとしている。

 毒舌を飛ばすこともない小動物のような愛らしさは、見ているだけで癒されるな。

 彼女もまた裏路地を通って、魔術に関する材料などを購入していたから、個人的な目的も果たせているようだ。



「………さて、そろそろパレードが始まる頃合いかしら。少し見に行きましょう」


「ああ、もうそんな時間か。でも今から言ったところで、かなり人だかりがあって見えなんじゃないか?」


「いいえ、わざわざ通りに出る必要はないわ。見下ろすだけで良いの」


 いつの間にか完食し終えていた賢者は立ち上がり、俺は首を傾げながらもついていく。

 そうして少し歩いたところで、人混みの増える中、俺は見覚えがある道を歩いていることに気付いた。


「まさか、その見下ろすっていうのは」


「察し通りよ」


 俺たちはある建物に辿り着き、そのまま上の階へと向かう。

 見慣れたバルコニー。見慣れたシャンデリアと、蘇った記憶から来る寒気。


「ここって……俺が魔王の部下に攫われた部屋じゃないか」


「部下の手がかりとして現場保存されていたのが丁度終わったからと、戦士が先立って借りておいてくれたの」


 そう、これは俺が魔王の部下に二度目にあったとき、教会付近からこの部屋にまで空間跳躍ワープで運ばれた場所だ。

 内装はちゃんと綺麗なものへと直され、、事情を知らなければ、随分と立派な上級客室である。

 下を見れば人だかりが通りの左右に広がっていることから、丁度この目の前をパレードが通るらしい。

 ただ、俺はこの部屋で部下に刺され、このバルコニーから落下したので、あまり手すりから乗り出したくない。

 まあ、これくらいは辛抱しよう。



「それにしても、戦士は随分と気前が良いな。いくら勇者パーティーで王都に顔が利くからって、借りるには良い値段がするだろう?」


「『どうしても見て貰いたかったんです』だそうよ」


「……?」


「それに呼ばれたのは私たち2人だけではないみたいかしら」


 賢者がそういったとき、丁度誰かが部屋へと上がり込んできた。

 それはカジュアルな服に着替え、先ほどまで勇者と祭りを楽しんでいたはずの射手であった。

 前髪を纏めるお洒落なヘアピンは、お祭りで一度みかけたものと似ているから、勇者に買って貰ったものかもしれない。


「うそ、アナタたちもここにいるの?」


「ええ、戦士に来るように言られたわ」


「そ、そうなの……ワタシは勇者に言われて……」


 そういってベッドの上にストンと座る射手。

 ほほ笑んではいるが、なぜか放心している。


「……そうよね、勇者のことだもの。そういうことって知ってたでしょワタシ……でも、一室を借りといたなんて言われたから、もしかしてもしかしてそういうことなの、って動揺するのは当然のことで……」


 なにか呪文をはくように独り言を呟いているが、とりあえずソッとしてあげよう。

 それにしても、勇者もこの特等席に皆を呼ぶ計画に参加していたとは。

 そんなに勇者のパレードを見せたかったのか?

 そう思ったとき、窓の外から盛大な音楽と喝采が聞こえてきた。

 もう始まったのか。俺は其方を向く。


 ワアアアッと歓声を浴びながら出て来たのは、隊列を組んだ憲兵たちの一糸乱れぬ行進。

 後方には馬に乗り旗を振る騎士、優雅に舞う踊り子、花びらを巻く子供が続く。

 そしてひと際大きな白馬に乗り、真っ赤なマントをはためかせ、意気揚々と人々に手を振っているのは勇者だ。

 普段は抜けたところのある彼だが、立派な鎧と腰に巻いた聖剣、なによりその凛々しい顔は、確かに勇者を名乗るにふさわしい。

 あんなに身近で、一緒に行動もしたこともあるだけに、今の彼とは奇妙な距離感を覚えたりもする。現実味がない、というやつだ。


「本当に人気なんだな、勇者」


 変な感想を口にしながらも、俺は勇者たちの行進がこちらへ近づいてくる様子を見守っていた。

 だが、人々が興奮に包まれて大声を上げる中、一つ大きな高笑いが聞こえてきた。





「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッッッッッ!!!!!!!!」





 それは熱狂の声より何倍もよく響き、途切れることなく通りへ響きわたる。

 まるで通り中に音量最大のスピーカーが設置されてるかのようで、中には思わず耳を抑える人もいる。

 そんな声に、人々は一度興奮を忘れ、あたりを見回す。

 熱狂の音は弱まり、ただ高らかな声のみが延々と響く。


「……何奴だ!!」


 行進は中断し、憲兵が武器を構えながらあたりを見渡す。

 すると人込みを割いて人影が飛び出したかと思うと、天高くまで飛び上がり、クルクルクルとアクロバティックな宙返りをして勇者たちの前へ着地した。


「やあやあやあッ!! 我こそは、かつて使えし魔王に仕えし者ッ。我が主君を倒した勇者へ借りを返すべく、遥々千里を超えてこの王都へ至りし者ッ!! そう即ちは、悪名高き魔王の配下が一人である!!」


 大げさな身振り手振りをつけながら、まるで周囲に演説でも聞かせるような物言いで、その不審者は大声を出す。

 バルコニーから目を凝らしてみれば、やたらと派手な色使いの衣装に、牙を生やした鬼のような仮面をつけた男性のようだ。

 どこからか槍を取り出すと、ブンブンと自由自在にと振り回すパフォーマンスを周囲に見せつけた。

 その間に勇者は馬からおり、聖剣を抜いて相手と向かい合う。


「さあさあ、いざ尋常に我が前へ立つと良い!! 貴様が真なる勇者を名乗るなら、我を倒すべく、その武勇を民衆に見せつけてみよ!!」


「いいだろう!! 俺こそが勇者、この輝ける聖剣に選ばれ、魔王を倒しこの世界に正義があると示した者だ。ゆえに……ええとだな、確か…………まあ、あれだッ!! 倒してやるぞ、魔王の手下よ!!」


「え、その台詞は打ち合わせに……こほん、いえ、では見せてみろ、その実力をッ!!」


「うおおおおおおおッっ!!」


「いやああああああああッ」



(俺は何を見せられているのだろうか)


 あの槍を振り回す不審者は、どうみても先ほど俺と賢者と別れた戦士だ。

 そしてこの民衆の前で下手な芝居を打って二人が戦う場面を、俺は一度見ている。


 あの死に戻りの中で一度行った、人々を奮い立たせるための「英雄寸劇ヒーローショー」だ


 まさかここで披露しようと計画していたとは……

 思えば、戦士が多くを語らず俺たち二人から別れたのも、そもそも教会に勇者と共に遅れてやってきたのも、全てはこのためだったのか。

 確かにこの演出は俺を含め民衆にとってはサプライズで、二人もそ息の合った攻防を見せられることは確かだから、うまくいけば盛り上がるかもしれない。

 けれどあまりに突然のことでついていけない人や、本当に敵が襲ってきたと恐怖が優る人もいるのではないか?

 そうなった場合、この舞台の結末は悲惨なものとなってしまう……

 そんな不安から、ついゴクリとつばを飲みこむ。


「あら、そんなに緊張して、随分とあの芝居にのめり込んでいるみたいかしら」


 違う、違うぞ賢者。

 これは賢者の考えてるような意味での緊張じゃない。

 だが確かに胸をハラハラとさせられる自分がいるのも確か。


(どっちだ……人々の反応はどっちなんだ!?)



「うおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」



「はあああああああああああああああッ!!!!」



 両者の武器がぶつかり合う。

 瞬間。ひと際大きな歓声が王都に上がった。

 これ以上ない盛り上がり。憲兵たちですら大声を上げている。


「負けないで、勇者ァーーーー!!」


「そこだ、良いぞ倒してやれーー!!」


「キャアッ、危ないわ避けてぇッ!!」


 横を見れば、あんなにしょぼくれていた射手も、目を輝かせ、手を口に当てたまま感極まって何も言えなくなている。

 勇者の戦闘する姿なんて何度も見ているはずだが、見栄えを意識した芝居での戦いぶりは一味違うらしく、かなり魅了されているようだ。



「うおおおお、人々の声援が俺に力をくれるッ!! みんな、もっと大きな声で俺を応援してくれッ!! せーのッ!!」




「「「頑張れーーーーー、勇者ぁーーーーー!!」」」




(…………意外と、王都の住民ってノリが良いんだな)


 そうして無駄な緊張から解放された俺の肩を、賢者がポンと叩いてなぐさめるのであった。


次回はいつも通り、次の日曜日に投稿できればと思います。

ですからいつも通り、期待せず期待して頂ければ…

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