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62 戦士と旅先グレイブ

普段より早い時間帯ですが、投稿します。

 


「王都へ帰還しなくては」


 それが僕の、勇者パーティーの一員である戦士としての、真っ先に行うべき使命と考えました。

 というのも、僕は狩人の眠る墓に、魔王を倒したことを報告に向かっていました。

 ですがそこには、地面にぽっかりと空いた穴と荒らされた跡。

 埋葬した遺品の多くが散乱していますが、遺体はなかった。

 なにより奇妙なのは、遺体自身が墓から這い出したような跡が残っていること。

 穴の外壁には指で辺りを掻きだしたような無数の粗雑な筋。

 さらには墓穴の外に、土塊が点々と跡を残しており、それはまるで足跡のように向こうの道へと続いてます。

 頭の隅に追いやっていたはずの嫌な記憶がうずきました。

 なにが起こったかは分からないが、これはまるで狩人が蘇ったようではないか、と。


「狩人……お前は、どうして……僕に再び悪夢を見せようとするのか!?」


 判断は既についてました。

 狩人の遺体、魔王の息子、それらにつながりがあるはずと。

 ですから急いできびすを返し、この王都へ戻ってこようと支度をしました。

 そうして僕が王都に辿り着いたのが今日の夜です。

 既に正門は閉まっていましたが、見張りに何とか許可を取り王都へ入ることはできました。

 勇者たちに会おうとした途端、遠くで戦闘の音と光が放たれていることに気付きました。

 これはマズいと急いで貴方たちの元へ向かうおうと走ったのですが、そこで見たのが壁や道に描かれた無数の魔法陣が光り輝く光景でした。


(これは敵の魔法か……!? ともかく完全に魔法が破壊する前に破壊しなくては……)


 しかし量が多くては処理しきれず、周囲が民家であるために大技で薙ぎ払うこともできません。

 仕方なく周囲の魔法陣を手当たり次第破壊した後に、一度安全な領域に撤退しようとしました。どんな魔法が発動するかも知らずに相手の懐に飛び込むのは危険と判断したからです。

 ですが……その前に一時気を失っていたようでして、どれくらいの時間かは分かりませんが、道端に倒れ込んでいました。

 それも魔法陣の効果だったのでしょうか。長い夢を見たような覚えもあります。

 ともかく、目を醒ませた僕は思考を切り替えて、行き先を決めます。


(ともかく、まずは仲間を助けなくては……ここからだと射手のいる教会が近いか?)


 幸い、あそこは余程のことがない限り安全な防御結界を張っていたはず。

 勇者や人々もそこへ逃げているはずだろう。

 そう思い道を戻ったところ、人が倒れていました。

 教会の柵にもたれかかるようにして、肩で息をしています。


(……子供? いや、暗がりでも分かるあの虹色の髪は)


「賢者ですか、一体どうして…!?」


 僕の呼びかけに彼女は弱々しくも僕の方を向きました。

 駆け寄って様子をみると、出血はなく、しかし随分と疲労しているらしい。

 ですが絞り出すような声で、僕に呼びかけました。


「……彼が攫われたの、助けてあげて」


「彼? ……もしかして、君と一緒にいたはずの」


「魔王の部下に攫われ……たの、追跡用の印なら、つけて、ある」


「分かりました、けれどまずは君の安全を」


「平気かしら……魔法の解析……終えたら…そこの教会まで、自力で…………」


 彼女はそう言いながら、僕の槍に触れました。

 すると僅かに光を帯び、その槍先から細い煙のような輝きが出て、その揺らめきは一つの建物のほうをさして流れ出ています。

 そして彼女の瞳は僕を射貫くようにハッキリと捉えました。



「行って」



 そして僕は……




 □□□


「……追跡用の煙は魔王の部下を指し示していました。そして細かい経緯は省略しますが、その足取りを追うことで、君を助けることができたというわけです」


 俺を抱えて駆けて、戦士は教会へと辿り着いた。

 ここは既に教会の中。灯りという灯りが点けられた堂内に、忙しく走り回る足音。

 戦士ともに部屋に案内された俺たちは、その奥では聖女の格好をした射手と、ソファの上で毛布に包まれて眠る賢者がいた。

 額にぬれた布を当てられ、眉間に皺を寄せて目を閉じている。

 虹色の髪の艶やかさも色あせて白っぽく見えるのは、気のせいではないだろう。

 胸からあふれ出る不安を何とか押さえ込み、震えた声ではあったが何とか射手に聞いてみた。


「賢者の容態は……大丈夫なのか?」


「検査したところ、一時的に体調を崩しているだけみたいよ。魔法の酷使と限界まで魔力を消費したせいで倒れてしまったみたいね。今は魔力も注入したし、安静にしていれば問題はないわ」


「そうか……良かった」


 ほっと胸をなで下ろす。

 恐らく賢者は、狩人と対決した後で、俺の行方を追った。

 けれど向かうよう伝えた教会の手前に、魔法陣の存在。きっと魔王の部下が連れ去ったことで、俺につけていた追跡用の魔法も一度途切れたはずだ。

 不安になった彼女は、魔法陣を解析して、俺の精神が閉じ込められていることに気付く。

 そこで何とかして魔法にハッキングできないかを試して、俺と会話に成功。

 だが集中力と魔力をかなり消費してのハッキングが負担となり、倒れ込んだ。

 そこで戦士と出会い、彼に救援を依頼して、自分も教会へと逃げ込んだ……といった経緯だろう。


「ともかく、彼女も無事で本当に良かった」


「えぇ……っていうか、貴方の方こそ大丈夫!? 腹にナ、ナイフ刺さってるじゃない!!?」


 そういえば、色々とありすぎて忘れていたが、まだ魔王の部下に刺されたナイフを抜いていなかった。

 射手に注意しながらナイフを引っ張ってもらうと、一切の傷跡なく刃が外れた。

 うっすらと短刀に宿っていた紫色の光も、しばらくすると消えてしまった。

 改めてみると、その鋭利な金属の輝きにぞっとする。

 どういう原理で俺に刺さっていたかは知らないが、魔王の部下からしてみれば大切な魔王の御身に傷をつけたくなかったからこそ、こんな不思議な性質を持っていたのだろう。

 まあ、俺は二度とこんなナイフを触りたくはない。


「それで、今王都はどうなっている? というか、俺たちが偽の王都に閉じ込められたことも、みんなは覚えているのか?」


「ええと……今王都に起こっていることを、きちんと説明する時間はないわね。私だって分からないこともあるし、それ以上にやるべきことあるし。戦士もそうでしょう?」


「ええ、僕も出陣しなくては」


「出陣?」


「貴方が魔王の部下を名乗る少女に攫われた後、賢者により狩人は一時撤退しました。が、再び出没し、兵士たちを攪乱。更に魔法陣の活性化により、各地の教会へ王都の数百人が意識不明、混濁、精神衰弱などにより搬送。ですが、僕が貴方を助け出す少し前に魔法陣が停止。これにより、狩人が撤退。これで一安心といしたかったのですが……」


「狩人が再び出現。更には暴走をしているらしく、雄叫びを上げながら王城へと向かって進行しています。憲兵たちが包囲していますが時間の問題なようで……僕も彼を倒すべく、今から援護に向かいます」


「城に進行って……なんでだ」


「暴走状態ということは理性を失っているのでしょうが、恐らくは魔王の首が、王城に保管されていことを知り、『魔王を探す』という目的を果たそうとしてるためだと思います」


 そうか……それはつまり、狩人として本当にしたかったことが失われ、過程が目的と誤認され、その残骸にすがりつく衝動の塊だけが獣となって暴れているということ。

 あまりに悲しい末路だと、その言葉を俺が思いつく前に、


「だから、今度こそこの王都で、彼を終わらせます」


 俺は頷く。

 なぜだか狩人を救ってあげたいと、会ったことのない俺も強く思っている。


「僕は狩人と対決。射手は装備を整えた後に、街の警護に合流。勇者は……まだ連絡がついていません」


 勇者は、一体どうなっているのだろう。

 現実世界では、彼は憂鬱となり家に引き籠もったままだ。

 しかし偽の王都で彼は立ち上がり、共に敵と闘ってくれた。

 だが、あの精神世界が現実とどう関連しているのか、俺以外の状況は分からない。

 彼を奮起させたが、現実では塞ぎ込んだままなのかもしれない。

 そんな可能性が浮かんでしまうと、ここで射手と戦士に、偽の王都での記憶を尋ねてもいいが、それを恐れる気持ちも生まれている。


「さて、それでどうします?」


「……何がだ?」


「貴方はどうするか、ということです。知っていますから、貴方がここでただ休んでいられるほど、短絡な性格ではないということを」


「ああ、ここで動かないと、敵に時間を与えることになる。魔王の部下だって、俺のことを探しているはずだ」


 そう、例えば俺という魔王の器を奪われた彼女は、再び俺を奪還しようとする。

 しばらく呆然としていても、盗人は俺をどこに隠すかの目星を付けてくるはずだ。

 そういう意味では、この教会も安全ではない。



「時間は、もうない」



 地響き。

 否、それは建物が大きくひずみ、家具が揺れ動く音。

 雷が落ちたような衝撃が頭上から降り注ぎ、俺たちは姿勢を崩した。

 グラリと再び建物がひずんだとき、窓はきしみ、扉は勢いよく開き壁に激突した。

 まともに立つために、皆が壁や机にしがみつく。


「くそッ……これは魔王の部下の攻撃だろう!? ここにいてもじり貧なら、やるべきことなさないと」


「ちゃんと計画は練ったんですか!? 彼女の魔法は一流で、生半可な闘いでは誤魔化せないですよ」


 また大きく地面が揺れる。ガラスの割れる音。悲鳴。

 吊り下がった天井灯がグルグルと揺れ、光と影のかき混ざる視界に気分が悪くなる。

 このままでは、いくら教会に防御魔法が施されているとはいえ、不安と混乱がふくれあがっていくだろう。


「魔王の部下を押さえ込むには、魔法陣を破壊して空間跳躍を断った今が勝機だ。その隙に狩人から魔王の魔力を消滅させてしまえば、彼女の計画は失敗。俺たちの勝利だ」


「……どうやら、もう考えがまとまっているみたいですね」


 俺はソファで目を瞑ったままの賢者を見た。

 ここで何もしなければ、彼女の側に寄り添える。

 けれど俺はもっと前を向いて、進まなくてはならない。

 鍵となるのは、手元にある魔王の部下の巻物スクロール

 彼女の行動、態度、それらを辿っていくと、何故これを俺に手渡したのかが見えてくる。

 悪いが、俺たちを偽の王都で散々弄んだ分、俺からも利用してやる。

 そして。


「ああ。今度こそ、夜明けを迎えてやる」





読者の皆様、今年もこの物語にお付き合い下さりありがとうございました。

もう数時間後ではありますが、良いお年をお迎えください。

次回投稿は、明日中までにできたらと考えております。


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