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53 戦士と避難パンデモニウム

月曜の25時ということで、投稿します。


 

 天上より降り注ぐ無数の砲撃。

 紫色の魔法弾は外壁を壊し、建物を崩壊させ、逃げ道を閉ざす。

 遠くに見えていた王城は霞み、街には悲鳴と崩落による地鳴りが響く。

 それに触れたものは跡形もなく姿を消し、今も目の前の住民が頭からすっぽりと紫の光を被り、そして消滅してしまった。

 流石の勇者でも全ての砲撃から民衆を守るのは難しい。

 というか、勇者だけ砲撃が集中して襲ってきている。

 俺は逃げ惑う人々の流れから外れるように移動したが、無人となった通りに出たとき、頭を抱えてしまった。


(どうする……このままだと王都脱出は失敗だ)


 俺たちが壊した王都を、魔王の部下は再び自分の支配下に置きつつある。

 内側から人々の意志という攻撃で崩壊させようとした箱庭を、人自体を取り除くことで威力を下げてくる。俺たちにとってたった一度の好機が、絶望に変わっていく。

 この状況を打開するには、なにか新たな方法を考えなくてはならない。

 それも今までの手と同じではなく、もっと大きなものを……


 俺が悩んでいると、背後でストンと音がした。

 振り返れば、着地の姿勢から立ち上がろうとする黒い影。

 狩人か!? と思ったが、その衣装は先ほど勇者と一緒に芝居をしていた彼のものだった。


「戦士!! 一体今までどこに……」


「なに、訳の分からない攻撃が始まったので、もしやこれは狩人の仕業ではと思いま彼を民衆から探していました。しかし、彼は立ち尽してるのみで動く様子もありません。ですから、先に貴方や人々の避難を優先しようかと」


「狩人を放置して大丈夫なのか? 突然暴れ出す心配とかあるだろ」


「ええ、彼もこのパニックの有様では、自身の避難で手一杯でしょう。見張りもつけていますから。それより早く避難を……どこへ逃げるべきかは分かりませんが」


 避難先……

 確かに街全体に砲撃が降り注いでいるのだから、下手に逃げても意味がない。

 加えて王都の門から出ようともしても、いつの間にか来た道へ戻ってしまう。

 俺は空を見上げて、次々と放たれる砲撃の落下先を考えた。

 この魔法は人と建物を消す。では、もし俺が魔王の部下なら、何を基準に消す?

 例えば地面。本来なら砲撃により穴ぼこだらけとなるはずの地面だが、消滅を免れている。

 また、砲撃は全方位へ放たれているようで、その量に差がある。

 俺はそれに気付いてその方向の空を見ると、落ちる砲撃は殆どない。

 更にいえば、薄い膜がドーム状に張られており、砲撃が弾かれている。


「射手の教会だ!! 彼処は俺が死に戻りをしてから最初に目覚める場所。あの方向に砲撃は殆ど落ちていない。庭園が広いから、建物の崩落に巻き込まれる心配もない。何より射手が防御魔法を張っている!!」


 戦士も顔を上げ、確かに砲撃が少ないことを認めて頷いた。


「人々を其処へ誘導するよう、憲兵たちに伝えてきます。いや、先に貴方を送り届けた方が早そうです」


「いや、それだと時間が掛かるだろ」


「まさか。一分もかけません」


 そう言うと戦士は抱きかかえた。

 ぽかんとする俺に、暴れないで下さいと声がかかる。

 それに返答するまもなく、彼は身をかがめた。


「飛びます」


 あ、ちょっと待って。

 そう伝えることもできないまま、戦士と俺は一秒後に10メートル以上もの高さまで飛び上がり、全身に痛いほどの風を受けながら屋根を疾走していく。

 砲撃を避けるため、彼は前後左右に跳ね続け、そのたびに俺の平衡感覚はこんがらがる。

 しかも地上より視界が開けた分、世界の終焉を迎えたかのような王都の凄惨な風景が目に映ってしまう。無数の隕石で地上が滅びる様子は、昔みた恐竜映画みたいだ。

 加えてジェットコースターに乗ったような浮遊感と激しい振動。俺は目蓋を硬く閉じ、耐えることしかできなかった。




「うぇぇぇ……」


 ふらつきながら戦士から降りると、足裏に芝生の感覚。

 顔を上げれば見慣れた教会と、そこで弓を頭上に掲げて魔法を唱え続け、砲撃から教会を守る射手の姿があった。

 周囲の人々は手を合わせて彼女を拝んでいる。

 金髪ツインテールが今日ほど神々しく見える日はないだろう。

 と、彼女が此方に気付いた。


「戦士……来てくれたのね!!」


「ええ、彼の判断で。僕も防御魔法を張るのを手伝いましょう」


 戦士は槍の穂先を頭上へと突き伸ばし、地面と平行にクルリと円を描いた。

 すると先端から稲妻がほとばしり、射手の防御魔法の膜へと流れ、一際分厚くなる。


「補強はしました。僕は勇者に声をかけ、人々の避難を続けます」


 そういって戦士はまた一蹴りで風を切り、崩壊する街の中へと飛び込んでいった。

 残された俺は、射手と話をする。


「もう、一体何が起きてるのよ!? 勇者が格好良く演説すれば、それで作戦は成功するんじゃなかったの!?」


「いや、それが魔王の部下による邪魔が入って……」


「こんなめちゃくちゃな事態にならなきゃ、ワタシも勇者の芝居をこの目で見にいけたのに!! 教会に戻ってきた途端にこの有様よ!!」


 随分とご立腹らしい。

 それでも人々は射手の姿に励まされ、勇者により鼓舞された気持ちを取り戻しつつある。

 とはいえ、このまま教会にいるだけでは事態が解決しない。

 彼女はこの場所を守るだけで必死みたいだし、やはり俺が何か手を打たないといけなさそうだ。

 どうすれば……と俺は教会の庭園を見渡す。

 そして、俺が死に戻りをする度に目覚める場所を見つけた。

 何か役に立つ荷物でも落ちてないだろうか、と思うが遠目でも何もないことがわかる。

 この偽の王都に来てから、恐らくは魔王の部下のせいだろうが、手荷物はどこかに消えてしまっているのだ。

 恐らく、賢者に何か役立つアイテムを授かっていることを危惧してだろう。

 そういえば、魔王の部下と王都で出会ったのも、教会付近だったな。

 今此処からみえる外壁に魔法陣が彫られており、彼女はそこから現れて俺を連れ去ったのだ。


(待てよ……)


 庭園、賢者、部下、魔法陣………


 ……


 ……


 ……



「ああ!!」



「なに、どうしたの!?」


 俺は射手の方を向き、思い浮かんだ言葉を告げようとした。

 だが、俺のひらめきと同時に、災難は一緒にやってくる。

 大きな声と共に、教会の正門をくぐり抜けようとする者がいた。

 銀髪を輝かせ、手を振り、嬉しそうな、困ったような顔をして。


「おーーーーい、射手ッ!! ああ、お前もいるのかあッ!!」


「え、勇者!?」


 俺と射手は彼の顔をみて、次いで彼が荷物を担いでいることに気付く。

 人ほどの大きさだ。戦士だろうかと考えるも、身なりは似ているが違う。

 砲撃がやたらと彼に降りかかる中、聖剣から伸びる光がまるで噴水のように沸き上がり、そして傘のように頭上を覆い、砲撃を跳ね返している。

 そして弾を受けた衝撃で少しふらついたとき、担いでる人の顔が見えた。


 ドクン


 まるで距離が一瞬で縮まったかのような感覚。

 冷や汗。目が合う。

 そこにあったのは、2つの見開かれた真っ赤な瞳。

 俺と射手は当時に呟いた。


「冗談だろ……」

「冗談でしょ…」



「おーーい、すまないが………狩人も連れてきたッッ!!」




次回こそは日曜日までに投稿できるよう、計画立てています。


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