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52 部下の選別メテオライト

一ヶ月も間をとってしまい、申し訳ありません。てんやわんやしてました。


 魔王の部下により、俺たちは偽物の王都に閉じ込められていた。

 それに気付いた俺は、勇者たちの手を借りて脱出を試みた。

 目をつけたのは、この王都はおそらく閉じ込められた人々の精神世界を縫合して成り立っているのであろうという点だ。

 これを逆手に取り、群衆心理を上手く扇動すれば、この世界に影響を及ぼして崩壊させるのではないか。

 だからまずは、射手の射撃で王都の街を破壊して「恐怖」を植え付ける。

 そこに勇者が登場して「希望」を見せつける。更に、この絶望に満ちあふれた王都を脱出するという意志を皆に植え付ければ、この王都は自己矛盾を孕んで壊れるはずだ。

 もちろん、常に邪魔をしてくる狩人にも対策はした。

 奴の使う空間跳躍ワープに必要な魔法陣の大半を、流入する魔力過多により破壊。

 更に奴は追い詰められると魔王の魔力により暴走を始める。

 だが、その頭が追いつかぬうちに次々と行動を起こし、戦闘も行わないことでそれも防いだ。

 そして今、作戦は佳境を迎えていた………

 



 勇者と戦士演じる悪役による、戦闘芝居。

 我らの英雄が目の前で剣を振るい、街を颯爽と飛び回る。

 戦場に出たこともない市民は、初めてみる彼の雄姿に心奪われてしまう。

 そして勇者の正義に燃える激励により、人々は希望を見いだし、勇者の言葉に沿って「偽の王都から脱出する」という意志を持って彼を応援する。

 熱狂が街に溢れかえり、俺はこれ以上なく勝利を確信した。

 この偽物の王都を作り出すのは、人々の精神。

 それが一丸となって王都を抜けだそうと思い立てば、矛盾をはらんだ世界は歪み、崩壊するはずだ。

 見上げた空は、最早天球といえなくなってしまった。

 ひび割れた向こう側には真っ白としか表現できない空間が広がる。

 そして半分ほどとなった昼過ぎの青色が、壊れていくジグソーパズルのように、一枚ずつ剥がれ落ちては向こう側へ消えていく。

 魔王の部下が放つ紫色の魔力が火花のようにあちこちで光るが、最早修復が追いつかない。

 この王都に終焉が訪れるのも、時間の問題となっていた。


「……本当にこれでおわるくらいの相手だったら、苦労しないんだけどな」



 いくら先手を取られたといえど、敵も動かないわけはない。

 そう思い出させたのは、空に煌めく紫光が一筋の放物線を描きながら眼前へ落下してきたときだった。

 車一台ほどの巨塊が隕石のように速度をあげて、人々の方へと落ちていく。

 勇者の熱に浮かされていた観衆はそれに気付かず、俺も含めて、気付いたときには逃げられなかった。

 俺は思わず背を向け地面にしゃがみ込み、身を縮こまらせる。

 近距離での衝突音で聴覚がやられるのを避けるべく、耳を塞いで耐える。


 ………1分。あるいは5分。ともかく危険が過ぎ去ったと思うまで、俺はその場を動けなかった。

 手を耳から離すと、ワッと人々の悲鳴が聞こえてきた。

 俺は人の群れを掻き分けて、光の落ちた場所を確認する。

 だが、そこには何もない。

 飛来物も壊れた歩道も、それに巻き込まれた人の姿もなかった。

 よく目をこらせば、僅かに紫光が粉のように舞っていたが、それも風にかき消えた。


「何だ・・・・・・?」


 人々を鼓舞していた勇者も、異変に気付く。

 そして空を見上げたときには、既に第二撃が放たれていた。

 今度こそ人々は恐怖し、紫の光に背を向けて我先にと走って行く。


「なんだ!? また砲撃が始まったのか!?」


 そんなはずはない。

 始めに放たれた砲撃は射手による威嚇射撃のようなもの。

 だが今の攻撃は、状況からみて魔王の部下によるものだ。

 一体これはなんなのかと理解するまもなく、広場に魔弾が飛来する。

 その落下先を予測した勇者は屋根を飛び移り、その場所で聖剣を振りかざした。


「湧き出ずる聖光よ、厄災を振り払え!! 破邪聖泉ベルナデッタ!!」


 聖剣は柄から青い光に包まれていき、その刀身を十倍以上にも伸ばす。

 腰を捻り、左脇に構える。身体を半身に、刀身を寝かせ背後へ下げた姿勢だ。

 接近する紫の光。狙うべき瞬間を待つ。

 民衆は息を呑む。そして。


 砲撃が勇者をまばゆく照らした瞬間、刀身を斜めに振り上げ、その真横を捉えてぶつけた。

 青光が激流に跳ねる水のように飛び散る。

 踏ん張る足が屋根の瓦を削ってずり下がる。

 勇者は雄叫びを上げて、最後まで剣を振りきった。

 ギィィンと金属の弾く音の後、、砲弾は街の屋根と平行に吹き飛んだ。

 速度を落とすことなく、民衆の頭上を越えて、水平に遠方へ去って行く。

 このままいけば、王都の壁も越えて郊外までいきそうな勢いだ。

 だが、その方向には一つだけ背の高い塔がある。

 これだけは避けられないと思い、衝突音を聞かぬようにとまた耳を塞いだ。

 しかし、今度は目を見開いて何が起こるのかを確かめる。


「……あれは」


 塔と砲弾がぶつかる寸前、紫の光が一際輝いた。同時に甲高い音が響き渡る。

 だが音はそれだけで、まるで塔を通り抜けたかのように、砲弾は速度を落とさずに遠方へと消えていった。


(今のは・・・・・・何も起こらなかったのか?)


 いいや、違う。見れば塔が消えていた。

 砲弾に触れた場所から上が、跡形もなく消えていた。

 先ほどの砲撃も、下にいたはずの人々の姿がなくなっていた。

 この魔王の部下が作り上げた空間から、それらは()()されたのだ。


(まさか・・・・・・これは)


 恐らくあの攻撃は、触れた物をこの世界から除外する魔法。

 今の二撃とも人の集まっていた広場目掛けて降ったのだから、消す標的は民衆。

 まさか、民衆を再び絶望に落とすことで、世界の崩壊を防ごうというのか?

 だったらわざわざ排除する必要はないはずだ。

 民衆の精神世界がこの偽の王都を作る基盤であるのだから、人が消えた分だけ世界は縮小する。

 同時に偽の王都を作るイメージが不足するのだから、結局この世界の存在は不安定なままではないか?

 いや、魔王の部下にとってみれば、今はこの偽の王都が崩壊していくという緊急事態。

 せっかく閉じ込めた「俺」という大切な飼育物が、外へ出ようとしている。

 

(もし自分の作った箱庭の補強が間に合わないとすれば、奴は次に何をする?)


 大きすぎる箱庭で管理ができないのならば、箱庭を小さくしようとする。

 既に壊れた部分は捨ててしまい、残された強固な部分をつなぎ合わせる。

 例えそれで他の人々が騒ぎ出そうとも、最も重要な俺さえ閉じ込め続けられればそれでいい。 

 一度世界を崩壊から防げれば、再び人々の記憶を消して時間を巻き戻せる。

 そして次からは、二度とそんなことが起きないように厳重に対策を張ればいい。



 そうなれば、今度こそ俺が外に逃げるチャンスを奪ってしまえるのだから。



 つまり奴の目的は………自分の手で住民の数を減らし、この王都を都合の良い形に破壊せいりすることだ。


 (……何だ? やけに空が明るい)


 思考してたとき、妙に視界が輝いたように思い、空を見上げた。

 そして見なければ良かったかもと後悔する。

 ああ、あれが全てただの星であれば、素直に喜べたのだけれど。


 夕方へと近づき、少しだけ暗くなり始めた空。

 崩壊により穴だらけとなっていた空間は、僅かにだが修復が追いついてきている。

 そこに天頂を中心に、数百もの紫色の光が放射状に並んでいた。

 最悪なことに、その星々は徐々に輝きを増しながら、俺たちの方へと落下してくるのだった。


本当に長く空いてしまいましたが、次回は日曜日までに投稿します。

今夏の間には、終わりがみえそうです。


*8月12日 追記

今日中には投稿しますので、もう少しお待ちください。、


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