50 狩人と玩弄デマコーグ
夜遅くになりましたが、予定通り投稿できているはずだと思います。
期限を守れたのは嬉しいですが、それが当たり前じゃない自分が悲しいです。
災害。
不安定な情勢の王都に降り注ぐは、数十発もの光矢。
一つは家を粉々にし、一つは橋を瓦礫に帰す。
十字路は巨大な陥没に変わり、人々は幾度となく叫び逃げる。
少なくとも狩人の目には、ここをそんな地獄とみているはずだ。
そして思考は切り替わり、この矢を放った射手を探そうとする。
矢の飛んだ方向から、射手位置を絞ることはできないか。
いや、通常の射撃ならともかく、この軌道では無理だ。
一度天頂までゆっくりと浮上し、先端が標的をむくとグルグルと弧を描いて落下する。
つまり矢は慣性の従わず、放たれてから時間をかけて街を射抜く。
だから仕方なく教会やら高い建物など、いくつかのめぼしい場所を回ろうとするだろう。
その時間が、命取りだとも知らずに。。
真っ青な空がグニャリと歪む。
今俺たちのいるこの王都は、魔王の部下が作り出した偽の世界。
俺という魔王の素材を閉じ込める箱庭だ。
その維持に必要な魔法陣が破壊され、箱庭の壁は崩れていく。
射手が王都の建物を壊したことも、少なからず貢献しているだろう。
しかし、これだけの攻撃で壊れるなら、勇者パーティーを含めた王都の住人をこの世界が拘束するなど元より不可能。
より大きな波紋を立てなければ、歪みは魔王の部下により修復されてしまう。
だから、ここで大事なのは、王都の民たちだ。
そもそも、この箱庭はどうやって作られているのか。
答えは、王都の民の心象世界によってだ。
魔王の部下は、俺がかつて自分の精神の中で魔王が作り出す光景をみたのと同じく、人々の精神が作り出す世界を同調、切り貼りすることで現実通の世界を真似た。
個々の精神世界が布きれなら、魔法陣は針。
王都の記憶を人々から切り出し、重ね合わせ、最も多くの人が想像する王都に仕立て上げる。
そして鋼線が空間跳躍を通して王都を縫い、狩人により夜の迷宮が作り上げる。
そして今、敵は針と糸を抜かれた。
精神世界の重なりはほつれ始め、だから世界は歪みだしている。
ここで、更に布自体に負担を掛けてみればどうなるか。
恐怖や混沌といった感情で人々を揺さぶり、その精神を不安定にさせるのだ。
もろくなった布では何も包めず、ボロボロに解きほぐされてしまう。
最終的には修正することすら叶わず、この箱庭は崩壊を迎えるだろう。
だから、この段階で重要なことは、狩人から行動を奪い、人々に不安を伝染させる時間を稼ぐことだ。
実際、人々が逃げ惑うほどに、空の歪みは大きく波打っているようにみえる。
泣き叫べ。怯え惑え。その恐怖こそが、俺たちの目的だ。
「でもそれって、勇者は納得するの?」
会議中、射手にそう質問された。
いくらこの事件を解決させるためとはいえ、罪無き人に恐怖を与えていいものか。
一応、射手も怪我人がでないよう攻撃に注意は払って貰ったが、怪我をさせなければ良いというものではない。誰だって怯えれば、心に傷がつく。
やはり、勇者の言う正義に反しているのではないか。
俺もその点については承知している。
だから……ここで終わらせない。
□□□
おのれ、この混沌はなんだ!?
我らが計画は破綻し、仕方なくこの災害をもたらしたであろう射手の姿を探す。
人々の流れを避け、街の隅々まで探してみるが、既に砲撃がやんでしまい、これ以上の追跡は難しくなってしまった。
しかし、一体どうして彼女はこのようなことを?
此方が今宵決行するはずだった計画を知っているはずもなく、いや周知であろうともこの蛮行を行う意味がない。
よもや・・・・・・魔王の仕業か?
やはり奴がこの王都に潜んでおり、この攻撃により王都陥落を企てにきたのか!?
射手が王都を破壊する意図を見いだせない以上、そう考えるほかあるまい。
「ああ・・・・・・やはり貴様か魔王!!」
貴様はいつでも人々を愚弄し、我が人生をも弄ぶ!!
おおお、殺してやる!!!
お前の持つ有象無象を、全て狩り尽くす!!
世界が貴様の物と言うのなら、それを破壊してやる!!
貴様が闇に立つならば、激情の炎で暴き出す。
例え光に寄ろうとも、俺が陰となりその髪先までも覆い尽くす。
貴様の命を断つのは、凡庸なる兵の一撃でもなく、誰しもがかかる病でもなく、胸中に湧く自責の念でもなく、寝床で受ける天命でも、悲運な事故でも、仲間の背徳でも、民の反乱でも、死刑判決でも、流れ弾でも、灼熱でも極寒でも飢餓でも戦争でも災害でも毒でも獣でも雷でも炎でも水でも罠でも剣でも槍でも矢でも魔法でも人でも悪魔でも神でもないッッ!!!!!
この狩人がッッ!! お前の命を断つ者だ!!
「・・・・・・ハァ、ハァ」
・・・・・・冷静となれ。奴の挑発に構ってはいけない。現状の理解を。
この騒動で、射手や戦士は憲兵と共に人々の避難へと駆り出される。
勇者は論外だ。既に心を壊してある。動く気力もないはずだ。
つまり、この攻撃の犯人を見つけ出せるのは、この狩人のみとなる。
市民は魔王の息子を犯人だと思い込んでいるかもしれんが……奴の動きを予測しなくては。
だが、そう考えを纏めた矢先、既に敵は次なる手を打っていた。
ただ右往左往するだけだった人の群れが一つの方向へとまとまりだし、その奥から情報が伝わり出す。この耳にも、それはハッキリと聞こえた。
「おーい、みんな!! 魔王の息子が現れたぞ!! 魔王の息子が、向こうで暴れ回っている!!」
「何だと!? じゃあ俺たちは何処に逃げれば良い!?」
「いいや、その心配はないみたいだぞ。何せ………」
「「「勇者様が!! 勇者様が魔王の息子と闘っているそうだッ!!」」」
次も2週間以内に投稿したいと思います。
期限を連続で守るつもりではいますが、気長に待って頂きたいです。




