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49 射手の壊滅タークティカ

お久し振りです。

中々執筆する時間が取れなかったのですが、ようやく投稿させて頂きます。

また新機能である誤字報告でミスを知らせてくれた読者の皆様、ありがとうございました。

 

「………」



 何が起きたのだ。

 身体が揺れるほどの爆音。

 ついで、ガラスの割れる音。炎の轟々と燃える音。

 一つの方向からではない。幾つもの場所から煙が沸き立ち、破壊の音が繰り返される。

 人々はどこへ向かうべきかも知らず、ただ本能のままに泣いて逃げ続ける。

 この状況は一体何なのだ。我が計画もこの惨劇の前に崩れ去り、周囲の住民と何ら変わらず翻弄されるばかり。

 誰もがわめき、恐れ、得体の知れぬ脅威に怯えている。


 まるで。まるで。



 魔王の進撃が蘇ったようではないか。



 □□□


「といった感じか」


 狩人の驚く顔を眺め、俺は立ち去る。

 これで彼は空間跳躍を封じられ、今夜に向けての罠の準備はできない。

 奴の先手を取れたという満足感に溢れつつ、まだやるべきことがあるのだと気を引き締めた。勝負は始まったばかりだ。


 計画の第一段階。

 まずは魔法陣の機能を封じ込める。

 魔法陣が有る限り、狩人はどこにでも空間跳躍し、更にはこのまがい物の世界は維持させられてしまう。

 しかし、王都にある無数の魔法陣のうち、その一つを壊したところで意味はない。

 やるのなら半分を、少なくとも一部の地域全ての魔法陣全てをたちまちのうちに壊さなくてはならない。


 無数には無限を。

 俺の身体にある魔王の魔力を注ぎ込めば、どうなるだろう。

 前に魔法陣を無理やり起動させたことで、俺は賢者と再会できた。

 そのときに私用した魔法陣は故障したのか、俺が手をかざしても反応しなかった。

 ならば、魔力を同じ方法で流し込めば、再び魔法陣を壊せるのかもしれない。

 しかも空間跳躍の魔法と関わっているから、魔法陣は魔法陣同士と繋がりあっている。

 あのとき以上の魔力を一気に乱暴に流し込んでしまえば、壊れる魔法陣の数は図りしえない。


 だが反面、賢者が忠告した通り、俺にも危険が生じる。

 回路が暴走したとなれば、当然その供給源である俺にも被害が生じる。

 敵から居場所を特定されるならまだ良い。最悪俺にも暴発した魔力が逆流して爆発するかもしれない。

 しかし実際、少々身体が痺れた気もするが、ここら一体の魔法陣を破壊したにしては案外何ともない。

 もしかすると、魔力が逆流してきても、俺が更なる魔力を流し込んで暴発を防いでいたのかもしれない。

 瓶の口をホースで封鎖し、高圧力で水を入れると、蓋から水が漏れる前に瓶自体が破裂した、みたいな。


 まあ、ともかく。これで狩人の空間跳躍ワープを封じ、なおかつ魔法陣というこの世界の杭を取り去ったわけだ。

 これにより、俺の推測通り世界は歪みだした。

 王都を囲む空の一部が歪み、大きすぎるシャボン玉のように天球はぐねぐねと不規則に波打つ。

 ただし、魔王の部下も黙ってみてるわけではない。

 紫色の亀裂がその歪んだ面に向かって奔り、亀裂が細かく分岐する。

 そしてその先端一つ一つが触手のように歪みを捉え、元の球形になるよう引っ張って形を維持しようとする。

 なるほど、魔王の部下の迎撃はああやって可視化されるわけか。

 俺が魔法陣を壊したことで、時間を巻き戻すこともできず、ああやって人目を引くような修復しかできないのだろう。

 それと同時に。自分の更なる予測が正しかったことも分かったのだが・・・・・・

 この様子だと、まだ足りない。まだまだ混沌を生み出さなくては。



 □□□


「こんなもので、良いのよね」


 射手は射撃を一通り終えると、屋根から飛び降りる。

 星が落ちたのかと思うほどの威力を出した聖弓は、少女が扱えるほどに小さい。

 そしてそれを何十発も放った彼女は、頬に一筋汗が伝う程度の疲労だ。

 本人も、何時もより頑張って弓を使ったのに、思ったより疲れがないと感じたようでキョトンとしている。

 それは多分、愛の女神が貴方をより一層応援しだしたからですよ、などとは思いつつも黙ることにした。


「ああ、狩人の空間跳躍も潰れて、慌てて教会へと向かっているはずだ」


 実際、射手は教会にいない。

 居るのは全く無関係な人通りの少ない場所。

 魔王の息子の影響で住人が出払った、その一角である。

 ここなら射手が矢を放った姿をみられず、ましてや屋根の上ではその正体を掴めない。


「それで、本当に怪我人はいないんだな?」


 人を殺さず傷つけず。

 これは計画に必要なことであると同時に、人々を守ろうとする勇者たちが持つ大前提の倫理観だ。

 しかし・・・・・・これだけの被害を出しながらそれを成し遂げるとは、俺はいまだに信じられない。

 だが射手は、当たり前よと頷いた。


「ワタシの千里眼をなめないでよね。ちゃんと、人がいないと確信できた場所しか打ってないわ」


 そう、射手の目もまた女神の加護により強化されていた。

 それは狙撃手において最も重要な、視覚情報。

 今の彼女の瞳には、うっすらと黄金の光が輝いてみてる。

 建物一つを消し飛ばすほどの射撃を数キロ先へ放ちつつ、誰も怪我をさせない。

 空き家や人のいなくなった道を狙って、彼女は矢を放った。

 いや、事実はそういうことなのだが、それができる射撃の腕前と目の良さ、そして人の動きを読む観察力の超人的な技能がなければできない芸当だ。、


 これで、第一段階は終了。世界は順調に歪みだした。

 射手には裏方へと回って貰い、不用意な狩人との接触を避ける。

 憲兵たちは戦士の命令もあり、崩壊した家の調査や避難誘導に人員が割かれているはずだ。

 これで邪魔者はいなくなった。

 もうそろそろ戦士の準備も整い、計画は第二段階へと進むだろう。

 ただ、ここからは勇者にとって少しきつい仕事となる。



「では、人々を一層絶望に追い込まなくては」



 そんな台詞を呟いてみると、ほんの少しだけ、魔王ヤツの気持ちが分かった気がした。


次回投稿は・・・・・・2週間以内にしたいのですが、遅れそうな場合は活動報告にて連絡したいと思います。

気長に待っていてくれるとありがたいです。

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