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40 戦士と決闘カタクリズム

少し日をまたぎましたが、投稿します。

 


 作戦は成功した。


 俺たちの目的は、狩人の次の一手を引き出すことだ。

 街中に張り巡らされた罠、そして空間跳躍ワープの魔法陣。

 それを防ぐべく、まずは街を無人にすることで、罠を崩す。

 更には狩人が勇者の家へ向かうように仕向け、逆にこちらが罠を仕掛けて捕らえる。

 今、ヤツにとってこの状況は逆境でしかない。一方こちらは、戦士と憲兵たちがヤツを取り囲むという一番有利な状況だ。敗北することはないだろう。

 ここまで追い込まれてしまえば、狩人は否応なく奥の手を出さなければならない。


 つまり俺たちは今夜狩人の切り札を知ることができ、ひょっとすると狩人を倒すことができるかもしれない。

 例え取り逃がしたとしても、ヤツが王都中に仕掛けた罠も、切り札も、その手の内全てを知り尽くした状態で次の夜に臨める。


「……さあ、狩人。僕の前で足掻いてみなさい。今度こそ貴様が罪を意識し、罰に怯えて暴れて貰うことで、裏切り者は正しく裁かれることができるのですから」


 戦士は槍を構える。

 王都の十字路の中心で狩人と相対する。

 周囲の憲兵により照らされた姿は、昼間以上にくっきりとその影を路地に映し出す。


「クハハハ、暴れ足りないのは貴様の方だろう? その憎悪の燃える様、我が瞳にでさえ確と映り込むぞ!!」


 ヤツの赤い目が残像として線となる。短刀で戦士の槍を受け流す。空いた片方の手で胸元に掴みかかる。そのままクルリと身体を反転させながら懐に入り込むと、戦士を地面に叩きつけようと腕を振りかぶる。だが、戦士は技を読んでいた。受け流された槍は勢いそのままに手の中で一回転し、胴金で目前の狩人の側頭部を殴りつけた。鈍い音と共に、狩人の首は根元から飛び出しかける。すんでの所で戦士の胸元から手を放し、勢いを殺すよう受け身をとった。しかし打突された部分から血が流れだし、狩人は手で流血を拭うと険しい顔になる。が、立ち上がる暇もない。


「クッ……休む隙も与えぬか!!」


 戦士は地面を蹴って接近する。槍は地面と平行に、真っ直ぐ。腰をねじり、槍をもった手が風を切って突き出された。狩人は身を槍から逸らしつつ、短刀を持った腕を振り上げ、その柄を勢いよく槍に叩きつける。ガチンという金属音。槍の軌道がほんの少しだが曲がる。狩人のボロボロの服をかすめ取る。狩人は跳躍し、その場から遠ざかると構え直す。そして技を打った後の隙を狙いかけるも、既に戦士は槍を次の攻撃姿勢へと入っていた。


「……どうしました? 得意の鋼線は使わないのですか」


「フ、貴様の首を絞めるのに使ってやろうかとも思ったが、その槍技には分が悪い」


「……貴方を殺すべく、何度も鍛え上げましたから。まさか死んだはずの人間が蘇るとは思いませんでしたが」


 そういうと、戦士は再び攻撃に転じる。息もつかせぬ槍の連撃。対する狩人は、致命傷を避けるので精一杯とった感じだ。

 本来は死角となるべき槍使いの懐。

 短刀や手の動きに対して、振りの大きい槍では間に合わない。

 しかし戦士の攻撃は、既に敵の動きを先読みして動いている。

 故に、例え狩人が何度体術を仕掛けるべく近づこうとも、逆に槍の一撃に当たってしまうこととなる。

 更には、本来恨みで我を忘れるはずの戦士が冷静で、優勢に振る舞っているものの狩人が焦っている。この精神状態の差は、勝敗を大きく分けているようにみえる。


 周囲にいる憲兵は、一応腰の剣を抜けるようにはしているものの、ただその激戦を眺めるのみだ。

 俺だって、勇者の家から窓越しに二人の姿を眺めていることしかできない。

 家の配置が路地の角であるため、十字路中央の攻防がハッキリと見える。

 窓もほんの少しだけ隙間を空けてあり、その声や斬り合いの音も聞き取れる。

 おや、外の様子が気になったのだろうか。

 暫く腰を下ろしていた勇者が、俺の横に来て外を見た。



「やはり……魔王の息子は、狩人なのか」


 ぽつりと呟く。

 俺はその声に小さく頷いた。そして勇者の顔色を窺ってみた。

 ……何だろうか。さっきまで真っ暗な部屋の中央にいたせいで分からなかったが、すこしばかり瞳に光が入ったようにみえる。

 だが、今注目すべきは狩人の戦闘だ。俺はすぐに視線を窓の向こうへと戻した。

 すると、少しばかりだが狩人に変化が見られてきた。

 出血のせいか足取りは乱れ、終始防御することで精一杯となっている。


「ハァ、ハァ……貴様ァ……わざと急所を外しているな!? 相手をいたぶることが、戦士の断罪とでも言うつもりか!?」


「……いいえ、これでも貴方を警戒しているのですよ。死んだ途端に時間が巻き戻る魔法でも隠されていては、大変ですから」


「そんな、ふざけた理由があるか!!」


「……まあ、そうですね」


 狩人の言葉が少し俺の胸に刺さった。

 だが確かに、そんな魔法があることは経験してみないと実感しにくい。

 ……ということは、狩人は俺の死に戻りの魔法について何も知らないのか?

 そう考えているうちに、戦士が狩人の短刀をはじき飛ばした。

 服の下にまだ予備の武器を持ってはいるだろうが、限りはある。

 一方の戦士は槍しか武器がないものの、未だ傷一つない。


「……ですが、貴方に死なれて困るのは本当です。聞きたいことは山ほどありますから」


「驕るか戦士よ……!! この魔王の息子相手に手加減するなど、愚図つくにも程がある!!」


「……それに貴方を今ここで殺してしまうと、魔王の魔力が漏れてしまいますから」



 ピタリ



 狩人が静止する。

 懐にいれた手が固まる。口がぽかんと開く。

 遠くからでも赤い目が見開かれているのが分かる。

 相手の様子に、戦士は警戒して距離を置いた。

 周囲の憲兵たちも戸惑い、しばし街が沈黙に包まれる。

 やがて、掠れるような声が小さく聞こえた。


「魔王の魔力、だと?」


「……? ええ、だってそうでしょう。貴方の体内に潜んだ魔王の魔力、それは人を狂わせるものです。現に、貴方も今こうやって暴走している。簡単に解き放ってはいけないものだと、知っているはずですが」


「フハハ……何を言っている? 我が目的は……行動は……全て自らの意志によるものだ。魔王の魔力、そんな汚濁の象徴なぞ、持ち合わせては、いない」


「……では、その魔王と同じ赤い目は何でしょうか? そして魔王の魔力が穢れているというのなら、貴方は何故『魔王の息子』を名乗っているのです?」


 ピシリ


 何かの避ける音が耳に届いた。

 狩人の赤い瞳がブルブルと震え出す。

 全身が汗ばみ、懐から取り出そうとしていた短刀がカラリと落ちた。

 目の前の敵を無視してしゃがみ込み、震えた声で呻き出す。


「我が瞳が、魔王と同じ……? いいや、我が魂がヤツなんぞと似ているはずがない……! 我こそが、魔王の息子で……いや、魔王と口にすることさえ……では何故、魔王の息子を名乗る? ………いいや、違う。我が目的は……魔王を…………じゃあ、僕は何なんだ?」


「……狩人?」


「僕は………これは、世界のために………」



 そして狩人は顔を上げ、大きく息を吸った。

 深く長く、のけぞり倒れそうになるほど胸を膨らませる。

 そして、光の消えた瞳で、獣のごとく吼えた。




「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!」




 傷から鮮血が漏れ出す。

 雄叫びで開かれた口はガクガクと揺れる。

 身体はこわばる。

 筋肉が不自然な脈動を何度も繰り返す。

 憲兵たちは思わず耳をふさいだ。

 何人かが思わずランタンを手から落とし、ガラスの割れる音がする。

 窓が音を立てて軋む。

 木製の扉でさえ、ガタガタと歪んで揺れている。


「おおおおおおおおおおおッッッ!! 我が、我が宿願は!! 我が所願は!! 我が願望こそはああああああッッ!!」


 自分に言い聞かせるように。

 世界全てに宣言するように、その絶叫は響き続ける。

 その様子を俺は一度見たことがある。

 暴走により自分の肉体を傷つけながら、その欲望を振りかざそうとする狂気の相。

 俺は何とか言葉にして吐き出すことで、驚き混乱した思考を整理する。


「魔王の魔力が暴走した……やはりアレが奥の手なのか?」


 けれど、それは最早自爆行為だ。

 魔王の魔力により暴れ出してしまえば、肉体が壊れる以外に制御する方法はない。

 それは自分であっても、だ。

 要するに、発動した時点でこの暴走の果ては死しかない。


 くそ、急いでヤツを倒すべきだ。

 もう話を聞くとか、奥の手を探るとか言っている場合ではない。

 このままでは憲兵たちも傷つくことになる。

 何より、狩人が暴走により死亡した結果、戦士の懸念通り魔王の狂気を含んだ魔力が周囲に広がってしまう。


 しかし、俺が今慌てて外に飛び出したとしても、狩人に殺されるのがオチだ。

 そんな事情とは反対に、壊れた狩人は咆哮を続ける。

 口は端が裂けて筋肉がむき出しとなり、叫ぶ度に体中から赤い血飛沫が深夜の道にボタボタと落ちる。

 俺の前に再び現れた獣は、再び同じ言葉を吐いた。

 一度目のあの夜、死の間際に聞いたあの呪詛。

 それを今夜、俺はこの耳でハッキリと聞くことになったのだ。




「我が!! 我が望みはあああああああああああああああ!!! ………ハァ、ハァ、魔王をッッッッ!! 今度こそ魔王をッッッ!! 殺すことだ!!」




理想の計画と現実の差が激しくなっています。

3話分の予定を2話に納めて短縮とかはしているのですが………年末完結しないと、次の小説の進みが遅くなってしまう。

次回投稿も一週間以内にできたらと思います。


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