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39 戦士と攻略キアロスクーロ

また遅れてしまいましたが、投稿です。

少し長くなっております。


 


 狩人の迷宮を崩す。

 そして今宵こそ、ヤツの暴走を終わらせるのだ。


 最初の準備として、憲兵たちを家に隠れさせる。

 敵は民家に押し入って襲撃したことはないため、露見する心配もない。

 流石の狩人も家の中にまで罠や魔法陣を仕掛けてはいなかったのだろう。帰宅した住人との鉢合わせ、下手すれば罠に気付かれて取り外される可能性もあるからな。


 とはいえ、憲兵たちも突然の命令には困惑したそうだ。

 実際の交渉は戦士がしたものの、俺の存在を隠したまま襲撃者の罠について説明したため、不可解に思われた。あるいは上からの正式な任務行動を無視して、突然現れた戦士の指示に従ってもいいものかと。

 だが、戦士の立場は魔王討伐の一件から王国でも有数のものとなっていること。そして論より証拠とばかりに街中の魔法陣を見せ、更には封鎖された四方の道を確認させると納得して作戦に従ってくれた。


「どうやらこの魔法陣……視覚的に隠されている他にも、認識阻害の魔法がかかっていたみたいです。魔法陣があると意識してみなければ、決して発見できないように」


 だというのに魔法陣を簡単に見つけてしまった勇者は流石ですね、と戦士は笑った。

 なるほど、だから俺も最初は魔法陣があることに気付かなかったのか。

 いくら薄く上から色を塗られていたとしても、街全体に模様があれば気付きそうなものだとは思っていた。

 それに、勇者も魔法陣を見つけはしたものの、しばらくそれを何かの落書きだと誤認していた。彼の観察眼はもしかすると聖剣の力なのかもしれない。しかし、勇者もそれが魔法陣であるとは見抜けていなかったのである。

 それを模様が魔法陣とわかる俺が認識したことで、初めて街中に魔法陣の存在が浮かび上がった。二人で行動しなければ、今も狩人の対策に頭を捻っていただろう。


「封鎖された道についても、その憲兵も殆どの道が通行不可能なことに気付いてはいませんでした。そもそもこの区間から出ようとは思わなかった、と。この重大性と認識のズレも、やはり今夜の事件と関係あると考えるべきでしょう」


 俺が賢者と共に街に来たとき、確かに王都は出入りができた。また、俺が魔王の部下にベランダへ連れ去られたときも、憲兵が王都中を移動する様子がみえていた。

 だが一度魔王の部下に殺され、賢者が存在していない世界となってからは、王都の出入りができず、憲兵の移動も制限されている。

 この違いも魔王の部下が生み出したのだろう。いまだ死に戻りの魔法の仕組みと条件がハッキリとしていない分、確証はないのだが。


「そして……この作戦における人員配置の確認ですが、貴方は勇者とこの家へ待機。勇者の自宅は、見た目こそ古びていますが、施された守護魔法は王都有数のものですから、二人で居る分には安全でしょう」


 今回の目的は狩人を倒すことではなく、ヤツの行動を見届けること。だから、俺たちが出歩く必要はない。

 俺たちは非常時のさい、この夜を最後まで見届ける役割を担っている。


「僕は……勇者パーティーの戦士として憲兵たちと行動します。僕がいることで彼等への鼓舞にもなりますし、狩人を戦法は既に知っていますから戦闘もこなせます。それに……彼と縁深い僕なら、狩人の注意を引きつけられますから」


 槍を握りしめた戦士はそう言うと、勇者の家から出て行った。

 憲兵の潜む家の場所を確認や住人の説得などと作戦実行に向けてやることは多かったが、無事に夜までに準備を終えることができた。

 そして現在、空は星も見えない真っ暗闇。

 家に隠れた憲兵同士は、窓から一瞬小さな光を漏らすだけでも十分に合図を送れる。

 また、狩人が空間跳躍を使う直前、その魔法陣は紫色に輝き浮き出る。

 だから憲兵は相手の出現を確認でき、合図の光が相手に漏れる前に隠すこともできる。

 憲兵たちは戦闘の心配なく、相手を観察でき、俺たちは何も心配することもなく静かに待っていれば良いというわけだ。


 何も問題がなければ、だが。

 問題が起きないわけはないと、誰もが知っていた。




「あ、出て行く前に確認したいんだけど」




「なんでしょう?」


「その……無人の家に入る時って、変な感覚に襲われたりとかしなかったか?」


 俺の問いに、戦士は首を傾げてみせた。



 □□□



 暗闇の中、虫のように灯が街を飛び交い、拡散し、繋がり、それを俺たちは読み解いていく。

 光の点滅を駆使して、何番目の通りに何時現れたかを伝え合う。

 蛍のように小さく揺らめき、光は深黒野中で刹那のイルミネーションを生み出していく。

 そんな様子を、勇者の家に籠る俺はカーテンを少しめくって眺めていた。

 家からは丁度、十字路の真ん中を眺めることができ、四方へ信号が伝わる様子を観察できる。

 今も右から左へ光の点滅が流れていき、次は逆方向から信号が流れる。

 その解読を地図と照らし合わせ、狩人の動きを探っていく。

 今回の狩人が最初に現れたのは、俺が賢者と共に奴を初めて見たあの道。

 20分ほど路地付近を徘徊した後、住宅街へワープし、場所を移す。

 しかし、やはり人の気配がないせいか、次は普段なら最も活気づく大通りの方へとワープした。


「どうやら、魔王の息子は王都の通りを彷徨っているらしいな」


 俺の様子を見て、家の中央で椅子に座る勇者は呟いた。

 その表情は暗闇に隠れ、一体何を思っているのか読み取れない。

 いや勇者の考えが分からないのは、俺が勇者と戦士に死に戻りの秘密を打ち明けてからずっとだ。

 彼は自身の熱血さをどこかへ置いてしまい、言葉少なにどこか遠くを眺めている。

 やはり、俺が魔王の息子の秘密を暴いてしまったことが影響しているのだろうか。

 それにしては、反応が薄すぎるきもするのだが。


 窓の外では。光の交信の速度は加速していく。

 どうやら狩人は空間跳躍の回数を増やし、街中を駆け巡っているみたいだ。

 外の光は壊れた懐中電灯のように、それぞれが不規則に点滅をする。

 やがて、外の光はぱたりとなくなった。

 これも事前に計画しておいたことだ。

 狩人の転移する感覚が短くなった場合、それは憲兵たちが何か企んでいると気付き始めたことを指す。

 ならば不用心な情報共有はなくし、様子見をするべきだろう。


(そろそろ、狩人は自分の計画が破綻したことに気付くはずだ)


 街に出歩く人間を手当たり次第に捕まえようとしたのに、憲兵一人すら姿を見せないのだから。

 そこでヤツの考えることは三つ。

 一つ、どうして街に人がいないのか。

 一つ、もしや自分の作戦が漏れてしまったのではないか。

 一つ、だとしたら……自分は今、敵の術中にはまっている。


 敵に謀られたと知った狩人は、この場から脱出するか罠を崩そうとするはずだ。

 しかし逃げようとした場合、この区画にいるはずの魔王をみすみす見逃してしまうことになる。

 また罠を崩そうにも、そもそも人がいない以外の現象は確認できず、探してもみつからない。

 だったら……


「憲兵の信号によると、ヤツは最も人の行き来が多い大通りへと向かった、他にも人が集まりそうな場所へ空間跳躍した。つまり、確実に人のいそうな場所を探している」


 無人の街にでも人が居る場所といえば、例えば射手のいる教会。

 あそこは今でも修道士が仕事を行っており、遠くからでも灯りがついているのを確認できる。

 しかし、教会は内部を広大な芝生と庭園が占めており、隠れる場所は殆どない。

 狩人が折角作り上げた街中の罠と魔法陣というメリットが、敷地内では全く生かされないのだ。


「それよりむしろ、ヤツはこの状況を作り上げた可能性の高い人物を狙ってくるはずだ」


 都に罠を張り巡らせるだろうことを事前に予測できる者。

 その居場所は既に知っており、今宵も必ずそこにいるだろう存在。

 魔王と最後に相まみえた、魔王の行方について鍵を握る彼。

 何より……この罠について予測できるのは、魔王の息子の正体が狩人であると知っている只一人。


「……そろそろか」


 俺は窓から離れ、勇者の元へ近づく。

 彼は腰に聖剣を携え、魔王との闘いで用いた防具を身につけている。

 そして座った姿勢のまま、俺をチラリと見る。

 ランプも付けない暗室のはずなのに、勇者の瞳がぎらりと輝いて見えた。


「……来たか」


 彼がそう言ったとき、カーテンを通して紫色の光が輝いた。

 そして短い間隔の足音と共に、何者かの絶叫が聞こえた。無音の街で獣のように吼え、怒りの感情をまき散らす。


「勇者あああああああああッッッ!! 貴様ああああッッッッ!!」


 背後の壁にガンッという鈍い音がする。狩人が短刀を投げつけたのだろう。

 ヤツの吐く荒々しい息が、壁一枚を隔てた通りから聞こえてくる。


「ハァ……ハァ!!……勇者ああああッッ!!」


 敵は地面を踏みならし、先ほどまで俺がいた窓に近づく。

 窓の外に黒い影。カーテン越しに光る赤い目。ガラスを拳で叩きつける。一つ殴る度にガンッと大きな音が鳴る。俺は息を呑んだ・普通の窓なら即座ヒビが入って壊れてしまうだろう。しかし勇者の家に施された防御魔法が働いているお陰で、簡単には破れない。


「勇者……貴様今すぐ出てこい!! この場で貴様を……!!」


 そういったとき、窓の向こうが明るく光った。

 カーテンにハッキリと狩人の人影が映る。ヤツがまぶしさの余り顔を腕で覆う姿が写し取られた。


「襲撃者を確認!! 一斉に作戦を決行せよ!!」


 灯りの正体は、ランプを持った憲兵たち。

 勇者の家を守るべく、今夜も家の影に潜んでいた彼等である。

 勇者への怒りで我を忘れた狩人に近づき、不意打ちの目くらましを食らわせた。

 そしてそれを合図に、周囲の家にも隠れていた憲兵たちも一斉にランプを窓の外に突き上げる。瞬く間に、街一帯が明るく輝いた。


「ふざけた真似をするなァ!!」


 狩人はそう叫び、窓の向こうで暴れ始める。

 金属のぶつかり合う音と共に、憲兵たちと狩人の影がカーテン上に現れては移り変わっていく。

 憲兵の包囲網を何とかかいくぐると、狩人が逃走を図り、反対の路地へと向かっていく。

 窓からみえるヤツの影が小さくなっていく。

 だが、逃走は失敗だ。


「決して逃がさせるなッ!! 各員配置につけ!!」


 彼の向かった先からは、新たに待機していた憲兵たちが現れる。

 それだけではない。この道の四方から続々と憲兵が駆けつけてくる。

 俺はカーテンの隙間から外を覗くと、狩人は魔法陣のある壁へと逃げようとしていた。

 だが壁のすぐ側にいた憲兵たちが集まって剣を持ち寄り、その魔法陣に刃を突き立てた。

 バチリと紫色の火花を立てて、魔法陣は傷つき効力を失う。街に無数の魔法陣を仕掛けた分、その一個一個はもろく壊れやすい安価な造りとなっていた。


 今の狩人一人に対して、周囲には無数の伏兵。

 狩人は空間跳躍により此処に現れたため、その存在を事前に知ることはできなかった。

 しかも周囲の罠は既に場所を知られており、敵を攪乱することもできない。

 多数の憲兵の持つランプにより映し出された狩人は、歯ぎしりをしながら憎々しげに周囲を見渡す。彼は遂に、十字路の真ん中で動けなくなってしまった。


「……これで我が策略の裏を取ったとでも誇るつもりか? 生憎で悪いが、貴様ら一堂に会したお陰で探す手間が省けただけだ」


 彼の赤い目が更に輝き、何人かの憲兵は少したじろぐ。

 虚勢のはずだというのに、狩人の剣幕は真に迫るものがあった。


「では、今ここにいる皆に問うてやる……魔王はどこにいる」


「その質問の答えを、貴方が知る必要はありません」


 狩人を囲む憲兵を押し分けて、一人の青年がその正面に現れた。

 ぐるりと光の輪を作る憲兵のランプにより、彼の武器である長槍が大きく細長い影を作る。

 その矛先は、狩人の胸を刺していた。


「貴方という悪夢は、今夜で終わりになるのですから」


 戦士は静かにそう宣言し、クルリと槍を片手で一回転させる。

 その瞳は狩人と会いたいし、彼の激情が静かに燃え上がるのを感じた。

 狩人に二度裏切られ、仲間を滅ぼされた戦士。その槍を持つ拳は、強く握りしめられている。


「では、決着をつけましょう。新しい夜明けを迎えるために」


「戦士……そうか、貴様もいたか。となると、この企ては貴様によるものか? ……否、そんなことは構わぬか。ここで貴様らを全滅させれば、魔王へと確実に近づける。フハハ、良いだろう、受けて立とう!!」


 既に狩人の仕掛けた迷宮は崩壊した。

 残るは、単純な武力により相手を倒せるかどうか。

 戦士は槍を抜き、静かに構える。憲兵たちはそれを見守り、しかし腰の剣の位置を確認している。

 その中央にて、不敵な笑みを浮かべ続ける狩人。

 彼は最後に大きく笑ったかと思うと、懐から短刀を取り出し戦士の頭部めがけて投げつけた。

 戦士は手を返し、その銀に光る刃を打ち落とす。両者はそのまま前に掛けだす。

 そして、互いの武器を振りかぶった。


 決闘は今、甲高い金属音と共に始まった。


頑張って調節しているのですが、週2ペースでは年内完結は難しそうです。

そろそろ年末に入りますので、したいと思います。

今のところ、次回更新は1週間後にしたく思います。

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