34 賢者の密会エルゴースム
今は日曜の25時なので、ギリギリ投稿予定日に間に合ったともいえるし、普通にアウトとも言えますね。
遅れて申し訳ありません。
「本当に、賢者なのか?」
俺は疑った。
感動の再会などというより、彼女に会えるはずないと思っていた分、疑い深くなってしまっている。
「その………何か証拠はないのか? 例えば、俺と賢者しか知らないような秘密とか」
「そうね、逆に私も貴方が本物かどうか知りたいわ。だから……………私の名前を言ってみなさい」
本物だと確信を得た。
この質問はたった昨日から始まった、二人だけの秘密の遊戯であるのだから。
だからこそ、俺は堂々とこう答えるべきなのだろう。
「すまないけど………分からない。もう少し待ってくれ」
□□□
「まず最初に、私は怒るわ」
賢者は眉をひそめて、いつも異常のジト目で俺を見た。
今、何もない空間の中で俺と彼女だけが存在している。
周囲は真っ暗、しかし彼女の姿はハッキリと見て取れた。
そして俺は、未だに賢者が目の前にいることを信じられない。
何故こんな空間に飛ばされたのだとか、賢者は今までどこにいたのかとか、考えるべきことは多くあるのに、再び彼女の顔を見ることができた感動で何も言えずにいる。
小さな身体に大きな魔女帽子。黒いローブの上に垂れ下がる虹色の髪。
何度も頭に浮かんでは離れなかった、今までずっと見てきた懐かしい顔。
呼吸を忘れ、彼女が目の前にいることに俺は打ち震えていた。
そんな俺の様子を察してかは知らないが、彼女は一方的に俺を叱りつける。
「一つ、今回は許すけれど、二度と魔法陣をあんな風に使わないことね。魔法陣は精密なものなのに、それを無理矢理起動させればどうなるか、散々教えたと思うのだけれど?」
「……ごめん」
誤りつつも、俺は賢者の忠告を思い出し、同時に彼女と語り合った日々の記憶が一気に蘇る。
王都に来る前の生活。彼女と最初に会ったあの日。彼女の言葉に助けられたあの瞬間。
全てが大事で愛おしい、俺の支えとなっていた思い出たちだ。
しかし、俺が上の空ということで、彼女は更に不機嫌となる。
「話を聞きなさい。魔法陣の暴走によって引き起こされる現象は、誰にも予測できない。今回みたいに王都中に張り巡らされた魔法の場合、下手すると王都が爆発する可能性だってあるの。そもそも魔法陣を描いた敵にも、貴方の居場所や行動がバレてしまうし、これ以上は下手に触るべきではないと思うわ」
「……わかった」
「それと、もう一つ言いたいことは」
「……はい」
「貴方にようやく会えて、私はとても嬉しく思っていることよ」
そう言って微笑んだ彼女に、俺は涙を流しそうになる。
しかし、彼女はすぐに険しい表情へと戻る。
「余り話し込む時間はないわ。さっきも言った通り、貴方が魔法陣を暴走させたことは敵に知られている。そして私は、この魔法陣の回路をこっそり乗っ取って、先に貴方へと回線をつなげているの。あまりモタモタしていると、私たちの会話が相手に漏れてしまうわ」
俺は空間跳躍の魔法陣を強制的に起動させていた。
そこへ賢者が一部を改造、いわゆるハッキングをすることで俺を彼女と会話できる空間へ疑似転移させたらしい。
この黒い空間も場所から場所へ転移する間に存在する、どこでもない空間だそうだ。
「それで、貴方は今の状況がどれだけ分かっているのかしら」
「あ、ああ。今、俺は王都で死に戻りを繰り返しているんだけど……」
俺は自分の纏めた言葉を簡潔に伝えようと努力する。
先ほどケーキ屋で情報整理を行ったおかげで、最短の時間で重要な案件を伝え切った。
第一の夜で賢者と別れた後、魔王の部下に攫われて殺された。
第二の昼間では、射手と戦士に再会して自身の死に戻りと、賢者がこの世界から居ない存在になっていることに気付く。そして夜には勇者から魔王の息子の正体を聞き出すも、魔王の息子の暴走により俺は殺される。
そして現在、三回目の王都の昼間に、俺は勇者を引き連れて王都を探索している最中で会った。
「……これが俺のとった行動と、知った情報の全てだ」
「そう、また死に戻りを繰り返しているのね。よく飽きないでいられるわ」
「いやもう十分に飽きてるよ。普通に王都の観光がしたくて溜まらないところだ」
「でも、そうね……死に戻りに関してなら、あともう少しで抜け出せるのではないかしら。魔王の息子に関してなら、それ以上の追究は必要ないわ。私が何とかしておくから」
賢者は俺の持つ情報を既に知っていたらしい。
俺よりも遙かに真実へと近づいている雰囲気すらある。
そういえば、彼女はこの世界だとそもそも存在していない設定になっているが……と訪ねてみる。
「ええ、それは私も初耳だったけれど、私はもう納得したわ。気にしなくて良いかしら」
「どういうことだ? というか賢者は今、何処に居る?」
「私はずっと王都に居る。でも、貴方には見つけられない。貴方が死に戻りを脱出しない限りわね」
「それって、もしや俺が平行世界に迷い込んでいるからか? 賢者のいない世界線に迷い込んだせいで、俺は賢者と出会えないってことじゃ……」
「何それ? 貴方と私が会えないのは、まあ……ちょっとした魔法が掛かっているとでも思いなさい。」
それを聞いて、少し安心した。
やっぱり賢者は俺の記憶状の存在とかではなく、間違っているのは周囲の人の方なんだ。
それが分かっただけで、気持ちがすっと楽になる。
しかし賢者は……なんか具体的な情報をぼかした話が多いな。
「それは仕方ないことなの。貴方を助けられるよう努めては居るのだけれど、こればかりは貴方個人がどうにかしないと、終わらない悪夢だから」
「……?」
「余り私が情報を与えすぎてしまうと、むしろ脱出が困難になってしまうのよ」
いやいや、何でそうなるのか。
謎を解くためには、どんな情報だろうと教えるべきではないのか。
疑問点は残るが、先に賢者が言葉を切り返してきた。
「それと、私からも訊きたいことがあるのだけれど……貴方が勇者から聞いた、魔王の息子の話についてよ」
「さっき言った通りだ。魔王の息子は、元勇者パーティーの裏切り者だったらしい」
「その件に関してだけれど、もう少し詳しく聞かせて貰えるかしら? 私は元気になった勇者と会えてない分、その大切な情報が欠落しているの」
確か、賢者と一緒に勇者の元へ訪れたときは、賢者は魔王の息子についても、勇者の仲間の一人がその正体とも気付いていなかった。
そうだ、これは魔王の息子を倒す上で、とても重要な情報だ。
なぜ勇者が魔王の息子に怯えるのか。魔王の息子が、「魔王の息子」と名乗るのか。
……裏切り者とは何なのか。
俺は記憶を蘇らせ、賢者に勇者の言葉を騙ることにした。
まず、なんと言うべきだろうか。
「そうだな……最初に結論を言うと、魔王の息子は、王国にとって最悪の裏切り者だったんだ」
語ってやろう。
勇者が裏切り者に求めた死の意味を。
次回は日曜日24時までに投稿できるよう頑張らせて頂きます。




