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初戦闘

 突然だが現在俺はゴブリン?に追われている。それはもうすごい勢いで追いかけられている。なぜこんなことになっているのか。



 時は数分前に遡って――



 能力を確認するために手頃な動物でもいないかと王都から離れてひたすら平原を歩いてたら、遠くの方に人っぽい影が見えた。最初は子供だと思ったよ。だって遠くからでも分かるくらい明らかに身長が小さいからな。こんなところで迷子かな?なんて呑気に近づいて行ったら子供じゃなかった。というか人じゃなかった。


 手に棍棒を持って全身緑色で涎を垂らしている醜い顔をした生物だった……。ゴブリンかな?ここが異世界だと余裕で失念してた俺の馬鹿野郎!


 

 失礼しました



 あっなんとなくこれはヤバい奴だと本能的に直感し踵を返そうとしたところで緑色のゴブリンっぽい生物と目が合ってしまった。



「……」


「……」



 お互い数秒無言で見つめ合い……あれ?棍棒持ってるけど意外とノンアクティブな奴なんじゃね?なんて思ったのがダメだったらしい。



「ゴガァァ!」


「!?」



 こちらが無力な人間で獲物だと判断したらしく、棍棒を振りかざし急に襲いかかってきた。涎を振り撒いて襲ってくるその姿は怖いというよりキモいという感想を俺に抱かせた。


 少し不安もあるが能力を使うのはこいつがちょうどいいかもな。俺は心の中で時間停止っ!と念じた。



 ピタッ



「……」


「……止まったのか?」



 ゴブリン(仮)が棍棒を振りかざし涎を垂らしたまま完全に停止していた。それはもうものの見事に一切動きを見せる様子はない。自分の息遣い以外の音が少しも聞こえなくなり、よく見れば奴の口から中空にまき散らされた唾が浮いている。いや、停止しているといった方が正しいか。本当にすべてがその場で停止するんだなぁ。ファンタスティック!



「ゴガァ!」


「!?」


 

 うおっ!

 

 再びゴブリン(仮)が動きだしやがった。そういえば5秒だったっけ……停止時間。もう一回停止させるか。



 停止!


 

 ……あれ?



「ゴガッ!」


「危なっ」



 今度は止まる様子など微塵も見せず、棍棒を振り下ろしてきた。咄嗟に避けることに成功したものの、棍棒は俺の左肩口を掠めてワイシャツを破いていった。


 顔色こそ無表情のまま変わってないと思うけど、内心冷や汗ものだよホント。地球にいた頃は棍棒で攻撃されるなんて経験ないんだから当然だよね。まぁ、レベル1にも関わらず冷や汗で済んでるんだから良しとするか。



「しかし、これはまずいな。時間空けなきゃ使えないのか……。よし、逃げよう」



 

 

 ――こうして現在に至るんだけど





 俺がゴブリン(仮)から背を向けて逃げ始めたと同時にゴブリン(仮)もこちらを追いかけ始めた。ゴブリン(仮)は身長174cmの俺より小さい120~130cm程度なので当然歩幅も小さくなる。


 よしっ!予想通り足はそこまで速くなく、徐々にゴブリン(仮)と距離が開き始めた。少し距離が開いたことで心に余裕が生まれたから、逃げながらも冷静に状況を整理することが出来る。


 今更だが自身の時間停止能力について知らないことが多すぎるな。自分のステータスのことをもっと知る必要がある。調べるためにどこか一時的に隠れられる場所を探そう。あとは相手の情報も知っておきたい。街まで微妙に遠くてしんどいから、逃げるだけじゃなく何か状況を打破できる手が欲しい!



 ポーン



 頭の中に変な音が響いた。



「なんだ今の機械的な音は……」



 聞き間違いじゃないよな。なんなのかすごい気になる……。



 それからまたしばらく無駄にスタミナがある緑色の化物と、全く楽しくない追いかけっこをしているうちに段々と前方に森が見えてきた。化物との距離はだいぶ開いていたので、平原と森の境目付近に生い茂る草木の中へと飛び込み、身を隠した。


 少ししてから森の近くに来たゴブリンは、俺を見失ったようで辺りを探るように見回している。



 今のうちに……。



 ステータス!



サオトメ カナデ  男 天人 16歳


レベル1

HP15

MP20


攻撃力:12

防御力:10

素早さ:15

魅力:60

運:50


【絶対能力】

時間停止(5s)

【特殊能力】

確認、空き(4)

【魔法】


【称号】

異世界人、勇者、絶対神の孫




 ん?


 特殊能力のところに確認の文字が見えるぞ。空きも5から4に減ってる。確認ってもしかして能力なのか?全然特殊能力っぽく見えないんだが……。


 もしかしてさっき逃げてる時、頭の中に響いた音って特殊能力が開花したお知らせみたいな感じだったのか?なんで俺だけこんな仕様なんだ……。


 で、この確認能力を確認したいわけだが……。


 


〈確認〉

自由発動型。何かを知りたいとき、その知りたい情報を確かめることができる特殊能力。確認対象との距離が10m以上離れると有効範囲からはずれる。





 おお。なんか頭の中に情報が流れてきた。でもこの情報アバウトすぎやしませんか?これってどんなことでも確かめられるのかな。試しに時間停止について〈確認〉したらどうなるか。




[時間停止]

絶対神が与える絶対能力。発動した場所から近くにいる対象だけといった一定範囲などではなく、世界が停止する。停止させる時間は本人の成長次第で伸ばすことが可能。こちらに敵意がある相手にしか干渉できない。時間停止中、敵意がある相手以外に直接危害を加えようとしたり、触れようと行動してもその存在に干渉することはできない。リキャストタイムは5分。



 

 今度は詳しい情報が流れてきた。地味だけど便利だな〈確認〉能力!


 それにしても世界が停止するってもはや神の所業だよ!まだ5秒間だけど、俺の成長次第では伸びるわけだし能力的に本当に反則だよこれ。5分おきに世界を停止させることができるとか……。中二全開だなぁ。


 しかし……、一番重要なのはそんなことではない!な・ん・で、触れるのが敵意を向けてくる相手だけなんだよ!男が一度は夢見るような能力を持っていながら、えっちぃことに使えないのかよ!


 時間停止っていったら普通そっち方面にも使いたいじゃないか!かわいい女の子がいても、数秒触ることも許されないなんてっ……。少しの間パフパフもできないなんてっ……。異世界に来て一番ショックな事実だよ。


 待てよ……?諦めるのはまだ早いかもしれん。敵意さえあればいいんだから俺に敵意を向けてくる女の子を探せばいいのでは?問題は敵意ってのがどの程度の敵意なのかだよなー。ほとんど殺意に近い敵意なのか、ただ単に対抗心っぽいかわいらしい敵意なのか……。


 さっきのゴブリン?を見る限り前者な気がしないでもない……。


 すぐ近くに化物がうろついてるのに、女の子に停止能力を使うことばかり考えてる俺って一体……。



 あぁ、ゴブリン(仮)の姿が視界の前方に映って急にブルーになってきた……。



 でも、まだ見つかってないようだな……。果たしてあの化物にも〈確認〉が使えるのかどうか試してみよう。もしこれが成功したら、この〈確認〉能力は相手の情報も丸裸にできることになる。頼むぞ!



ゴブリン オス 


レベル9

HP:35

MP:0


攻撃力:20(+2)

守備力:16

素早さ:13

魅力:2

運:7

 

武器:棍棒(攻撃力+2)

能力:殴打

 




 よっしゃ!ステータスを〈確認〉できた!これは使える!


 ……やっぱりゴブリンだったか。これでレベル9なのか。俺のと比べて魅力と運がかわいそうになるくらい低いな。魅力2ってお前……。確かに見た目はアレだけどさぁ。ゴブリンの種族自体がこうなのか、こいつだけがこうなのか。種族だろうなぁ。※奏の魅力と運はクラスメートたちと比較してもかなり高いです


 どうやってあいつを倒してやろうか。


 あっ……、俺武器持ってないじゃん。本当に異世界なめてるなぁ。ここらで気を引き締めなきゃな。少しの油断が命に関わる世界だ。気をつけよう。


 


 ちょっと考えた後、今回は足元近くに落ちている少し大きめの石を武器に使うことにした。石で魔物を倒そうとするあたり……、なめてると思われても仕方がない所業だよなぁ。もし、この場に俺とゴブリン以外の第三者がいたなら「お前は本当に気を引き絞めているのか」とかツッコまれてたかもしれない。


 でも、俺には常人とは明らかに違う点がある。


 それは時を止められるという最強の一点だ。



「悪く思うなよ」



 再び時間を停止させると同時に走りだし、前方で停止しているゴブリンの顔面に、持っている石を思い切り振り下ろした。



 ゴッ!



 鈍い音がしてゴブリンの額が割れ、緑色の血が吹き出し、殴られた勢いで立っている時と同じ姿勢のまま倒れ込んだ。ここまでで使用した時間は2秒。


 そこから残りの3秒を使って数回殴り、停止が解けた瞬間ゴブリンは絶命した。


 

 人型の生物を殺したことによる忌避感は不思議とそこまで湧いてこなかった。この世界で俺が生きていくためには必要なことだと割り切っていたからかもしれない。





 こうして初めての魔物討伐は無事終了した。生き残れてよかった~。でも、無事に討伐できたのは喜ばしいけど一つ気がかりなことがあるんだよな。それは――




「レベルが上がってないんだが……」



 

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