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謁見

 視界を覆っていた白い光が弱まり、目を開けると部屋中に豪華な装飾がある巨大な空間に俺は立っていた。足元には一目で分かる魔法陣らしきものが輝いている。周りを見渡してみるとクラスの奴らもちゃんといた。全員これでもかというくらい目を見開いて驚愕の表情を浮かべている。


「なんだよこれ!どうなってんだ!?」


「教室じゃない!?ここどこだ?」


「何が起きてるの?怖いよぉ」


「夢じゃなさそうですわね……。どういうことかしら……」


 

 そりゃそうだろう。俺の場合、神爺の謎の茶室空間を経由しているので事態を正確に把握できているから冷静でいられるが、他の奴らはたった今まで教室にいた感覚なんだからな。で、目を開けたらクラスごと知らないところにいて絶賛混乱中のようだ。



 「勇者様方、ようこそガルズ王国へおいで下さいました」



 突然、聞きなれない声がしてその声の方を向くと俺たちと少し離れた所に、白いローブを着た魔法使い風の老人が立っていた。その後ろにも十人以上白いローブを着た奴らが控えている。皆杖みたいのを持っている。



 その老人を見ながら、ああ……ホントにファンタジーの世界に来てしまったんだななんて思っていると



「一体ここはどこなんですか?なにが起きたんですか?あなた方はこの事態に関係していると考えていいのでしょうか?」



 努めて冷静に振る舞っているが、まだ混乱から抜け出せていないはずの沢木が老人に声を掛けた。さすが沢木だ。こんなわけの訳の分からない状況でもクラスのリーダー的役割を担っている。こいつが一番勇者っぽいな。というか、ローブの爺さん。何が「ようこそおいで下さいました」だ。ただの拉致しただけじゃねーか。さて、この老人はなんて答えるのかな。



「一つ目の質問に対しての答えですが、この世界は勇者様方がいらっしゃられたところとは違う、アルガルドと呼ばれる場所です。そして、ここは偉大なるマキシム国王陛下が治めるガルズ王国です」


「な、何を言っているんですかあなたは?地球じゃない?冗談はやめてください」


「冗談ではありません。二つ目と三つ目の質問の答えになりますが、皆様方にはこの国を、このレグルス大陸を悪逆非道なる大魔王の手から救って欲しいのです!そのために私たちは皆様方勇者を異世界から召喚したのです!」



 ここでクラスの奴らが騒ぎ始めた。



「ふざけんな!早く元の世界に帰せよ!」


「そうよ!私たちにそんなことできるわけないじゃない!」


「ちゃんと帰れるんだろうな!?」


「なんだよ大魔王って。そんなヤバそうな奴にわざわざ立ち向かう義理はないぞ!」


「勇者って……。ただの高校生なのよ。わたしたち……」



 うん。これが普通の反応だ。帰れないこと知ったらこいつらどうなるんだろうか。王国は全力でその事実を隠すんだろうけどな。みんなスルーしてるが、さりげなく「偉大なる」って言ったな。独裁者に近いのかもしれない。それより、さっきから黙ってる沢木が気になるな。



「そんな……。本当に地球じゃないのか。それに悪の魔王に、それを討つ勇者か……」



 なんかひとりで沢木が呟いてるんだが……。ちょっとー怖いよ君。君だけみんなと違う反応なんだけど。



「そこのローブのあなたにお願いがあります。国王陛下に会わせて下さい。すべてはそれから決めます。みんな!混乱するのも分かるけど少し落ち着こう!これじゃ何も事態が進まない」


「わ、分かったよ。確かにこれじゃ何も進まないしな」


「沢木くんが言うなら……」


「とりあえず国王とやらに会ってみようぜ!」



 おっ。なんかよく分からないけど沢木の言葉で場がまとまったな。てかこの場合、事態が進んじゃダメだろ。君たちの希望は帰るだけじゃなかったのか。国王になんて会ったらますます帰るなんて言いづらくなると思うぞ。まぁ、俺としては早くこの国から抜け出したいわけだが偉大なる国王とやらの顔を見てみたい気持ちもかなりある。どんな傲慢な王なのか確認しとかないとな。



「ええ。もちろんですとも。勇者様方にはぜひ国王様にお会いいただいて、この国を救うにふさわしい方だと判断していただきたいと元より思っておりましたので。では、私の後についてきて下さい」


「それはよかった。勇者として国王に会うのは当然ですから」



 あれ?今、沢木の奴「勇者として」って言ったよな。ついさっき「すべては国王に会ってから決める」って宣言してなかったかい?もう勇者の自覚が出てきちゃってるよ。



「早乙女くん……。私たちどうなっちゃうのかな……?」


「早乙女くんはこんな時でも落ち着いてるんだね。なんか安心するな~」



 国王に会うため移動してる途中で海老原琴美と瀬川ちなつが話しかけてきた。そういえば、この二人と話してる最中に飛ばされたんだよな。神爺に出会えた俺と違い、クラスの奴らと同じようにこの二人も今不安に押し潰されそうなんだろうな。ここは男として励ましてやらねばなるまい。



「海老原さん……大丈夫。勇者として召喚されたんだ。ひどい扱いはされないと思う。瀬川さん……俺なんかの近くにいて安心できるならしばらく傍にいればいい」


「そ、そうだよね!勇者だもんね。少し安心したよ。ありがとう!」


「えっ!そ、傍にいていいの?」


「ああ」



 こんな時に無表情が役に立つとは思わなかった。ちょっとは元気になったかな。二人とも少し顔が赤いのが気になるがどうしたんだろうか。でも、こうやって二人の俺に対しての好感度を上げていけばいずれはムフフな展開に……。








「この先が国王陛下のおられる謁見の間です。いかに勇者様方とはいえ失礼のないようにお願いします」



 召喚された場所から5分ほど歩いたところで謁見の間の扉の前に着いた。この扉も豪華な装飾がなされており、その扉の前には重そうな青い鎧を着た騎士らしき衛兵が二人いる。衛兵はここまで俺たちを案内してきた老人と一瞬アイコンタクトし、こちらが武器を持っていないことを目視で確認したあと扉を開いた。


 (目視でいいのかよ……。何かあっても対処できるということか?)


 扉が開き、まず目に飛び込んできたのは謁見の間の奥にある玉座に偉そうに座っている立派なカイゼル髭の少し太った中年のオッサンだ。その両隣に人が立っている。こちらから見て左にいるのが額にほくろのある大臣らしき人物。

 

 右にいる若く整った顔立ちをしている女性が王女だろう。肩まで伸ばした髪はスカイブルー。この世界では色を気にしないほうがいいかもな。似合ってるし。少しだけタレ目で、優しげな雰囲気が滲み出ている。あれっ?俺が思ってた王女となんか違う。派手すぎない綺麗な青いドレスを着ており、こちらを興味深そうに見ている。言い直そう。ガン見している。


 そして、国王の近くに行くまでの通路の両脇に一定間隔でズラッと並んでいる青い鎧の騎士らしき方々。なにかあった時に真っ先に対処する人たちだろう。この人たちに仕事をさせないようにクラスの連中には少し静かにしていてもらいたいものだな。おそらく沢木がいるから大丈夫だとは思うが。



「その者たちが召喚された勇者か?モーゼよ。事前に聞いていた人数より随分と多いな。予想では10人くらいではなかったのか?」


「はい。こちらの予想よりだいぶ多いことは確かですが、勇者様が多い方が何かといいのではないかと……」


「ほぅ……。お前もよく分かっているではないか……」



 あの白ローブの爺さんモーゼっていうのか。どうでもいいが。まぁ、多いよな数。だって30人いるもの。昼休みで教室に戻っていなかった奴は2人だけだし。そいつらは転移に巻き込まれなかったわけだが……。


 勇者が多い方がいいっていうのは、素直に取れば大魔王を討てる可能性が高くなるから。今のやりとりを見る限り、やはり神爺の推測どおりそれは名目上だろう。どうせ大魔王を倒したあとで、何か理由を付けて勇者を使い他国に侵略しようとでもしてるんじゃないか。



「勇者諸君。よく来てくれた」


「あなたが国王陛下ですか?」


「ああ、そうだ。わしが国王である」


「先に言っておきますが、こちらの世界での礼儀作法をあまり知らないため何か無礼を働き、お気を悪くされたら申し訳ありません。さっそく質問してもよろしいでしょうか?」


「いいだろう。礼儀に関しては仕方ない。わしもそれくらいは理解しているつもり故、そなたらには跪けなどとは言わんよ」


「心遣い感謝します」



 おお。頑張れ沢木。お前がクラスを代表して話せば問題を起こす奴は出ないはずだ。でもコイツに任せとくと、勇者として大魔王を倒すことが確定しそうなんだよな……。


 ん?誰かの視線を感じるぞ……。


 王女が俺のことをガン見してる。見るならタイミング的に沢木でしょうよ王女さん。もしかしてさっき見てたのってクラス全体じゃなくて俺単体だったりする?顔に何か付いてるのだろうか。触ってみた感じ大丈夫そうだが……。謁見の間に入って数分でなにか気に障るようなことしたかな?っていってもただ立ってるだけなんだが……。



「勇者として僕たちを召喚したようですが、大魔王というのは悪で間違いないのですよね?正義はこちらにあるのですよね?」


「ああ、間違いなく正義はこちらにある」


「それを聞いて安心しました。こちらに正義がないのでは戦えませんから。それとみんなが気になってることだろうけど、元の世界へ帰ることはできるのでしょうか?」


「大魔王を倒せば神のお告げが来て、帰る方法が示されると言われている」



 沢木ー!。なんでもう戦うことが確定してるのお前は!?なんだよ正義って!そんなもんどの立場の人間が見るかで簡単に変わるだろうが!この国の王の言うことを鵜呑みにしてる時点でお前に正義は語れないよ。クラスの奴らの中にも何か言いたそうな奴が何人かいるけどこの場の雰囲気に怯んで言い出せないようだ。もう腹を括って俺が言うしかないか……。



「沢木……。全員が沢木と同じように正義があれば戦えるかといえば違うぞ」


「早乙女か。久しぶりに話した気がするね。でも悪は倒さないと無関係な人たちが犠牲になってしまうんだよ?そんなの僕は許すことはできないよ。クラスのみんなもそう思ってるからこそ、黙って僕と国王陛下の話を聞いてたんだよ?」



 えっ?なにこいつ本気で言ってんのか?俺たちが一番その無関係な人たちじゃねーか!こっちは異世界人だぞ!?洗脳でも受けてるのかと心配になるレベルだよお前。普段からやたら正義感が強いとは思ってたが、勇者願望が強すぎてこの世界に来て暴走したのか。沢木……もうお前呼びでいいや。



「それはただこの場で言えないだけだ。お前の判断をみんなに押し付けるな」


「こちらに来て僕たちにはおそらく勇者としての力があるはずだ。その力を使って人々を守らないでどうするんだい?国王陛下。僕たちには勇者としての力があるのですよね?」


「ああ、あるぞ。こちらに召喚された段階で特殊能力というものをその身に有してるはずだ。明日確認してもらう予定である。召喚されて今日はもう疲れただろう。各人に部屋を用意するのでゆっくり休むがよい。食事はメイドに運ばせる。それと夜中に廊下に出ないようにな。賊対策に罠が発動するようにしてあるのでな」



 国王は俺にこれ以上余計なことをしゃべらせないように話を打ち切り、クラスの一人一人にメイドを付けて部屋に案内させた。謁見の間から出る時、チラッと国王を見ると憎々しげにこちらを睨んでいた。こりゃあ嫌われたなー。王女は相変わらず俺によく分からない視線を向けていたが……。




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