表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/38

ぷにぷにほっぺと緊急通信

 うおぉぉぉ!何が起こっているんだ。よく見たら二人の薄い胸が俺の両腕をわずかに圧迫している!というか二人とも俺の腕を抱き枕みたいにして寝ている。なんて素敵な目覚めだろうか。これってセクハラとかじゃないよね?不可抗力だから大丈夫だよね?あぁ、レクシャとルノワールに挟まれてとても幸せだなぁ……、じゃなくて!いや幸せだけどもこの状況は一体なんだ?落ち着いて考えてみよう。


 あっ、もしかしてまだ夢の中なのかな?ムラムラしすぎてついに俺の隠された欲望を夢さんが叶えてくれたのかな?これだけ思考が出来るんだから現実だと思いたい。両腕が幸せすぎて動かせない今、夢かどうか確かめるにはやっぱりこの方法で行くか。先生お願いします!



『ここは夢の中ですか?』

……違います。



 そ、そうですか。応答ありがとうございます。あれ?ちょっと怒っていらっしゃる様子かな?『かくれんぼ』の時と似た空気を感じる。ごめんなさい。


 さて、この二人をどう起こすか。正直ずっとこのままでいたい気持ちの方が強いのだが、あれから既に40分以上経っていると思われる。かなりお腹も空いた。外も暗くなっている。ちょっと先生を怒らせたかもしれないので時刻の〈確認〉はしない。ふむ、これが自業自得というやつか。


 そういえば、この状況で時間停止を発動させたらどうなるんだろうか。現状二人は俺の両腕をそれぞれ抱いている。時間停止中、こちらに対して相手からの敵意がない場合は干渉できないんだったよな。思い返すと停止中、敵以外に触ろうとしたことなかったなぁ。既に干渉されてる状態からの時間停止。面白そうだしやってみるか。



 時よ止~まれ。



 止めた瞬間、俺の両腕を抱き枕にしている二人の温もりを一切感じられなくなった。そして、いつの間にか両腕は二人の手から解放されていた……。ああ、本当に解放されてしまった。俺のハッピータイムが終わりを迎えてしまった。しかし、まだ時間は5秒以上残っている。意地でもこの手で二人に触れてみせる!不可能を可能にする男!そんな存在に俺はなりたい!ということで、そりゃ。



「なん、だと……」



 起き上がってレクシャのルノワールのほっぺを同時に突こうとしたところ、肌に触れる直前でふわっとした何かに指を弾かれた。まだだ、俺はあきらめない。もう一回だ。くそっ!もう一回!ダメか……。


 ……心が折れたと見せかけたところでラストにもう一回!


 おおっ!この両手の人差し指の先端から伝わってくるぷにぷにとした触り心地は!触れる、触れるぞ!ついに時間停止中は干渉できないという壁を乗り越えたのか。これはまさしくもち肌ほっぺ!二人とも最高のほっぺを持ってるね。これはずっと触っていたいほっぺですな。癒される。



「あ、あんたいつまで人のほっぺ触ってる気なのよ」


「師匠、くすぐったい……です」


「……スマナイ、オキテタノカ」



 あれ~?これはもしかして二人のほっぺに触れたのは単純に時間停止が解けてたからだったり?なぜこんな普通に考えれば分かることに気づかなかったんだ俺……。停止中はちゃんと残り時間が分かる親切設計なのに……。どれだけほっぺに触れたことが嬉しかったんだろうか。そして、長いことぷにぷにしてたみたいだ。うわぁ、めっちゃ恥ずかしい。


 というか寝ている女の子のほっぺ突いて喜んでるとかただの変態じゃん!おまわりさん、俺です。



「べ、別に責めてるわけじゃないのよ。薄目を開けてカナデの顔を見てみたら、無表情でほっぺ突いてたから気になっただけで……。ど、どうせ突くんだったらもっと嬉しそうに突きなさいよ!」


「私のほっぺ気持ちよかった……です?」


「勝手に触ってすまない。二人とも最高のほっぺだった。というかなんでここで寝てたんだ?」



 よかった。変態と罵られたらどうしようかと思った。新しい性癖に目覚めたりしたら大変だからな。しかし、相変わらずレクシャの言い分は少しずれてないか?嬉しそうに突いてたら、それはそれで気持ち悪いと思うのだが……。そもそも二人とも触ったこと自体に関しては責めないんだね……。



「さ、最高のほっぺ?よく分からないけどありがと。それでここで寝てた理由だけど、ルノちゃんと話し合った結果こうなったのよ。カナデがあの能力強奪者を倒したでしょ?その後、あんたの雰囲気というかなんていうか言葉じゃうまく言えないんだけど、かなり落ち込んでるように見えたのよ。言葉で元気づけるよりは少しでも寄り添おうかなって。すごい恥ずかしかったけど……」



 俺ってそんなに分かりやすいのかな。二人を心配させてしまったってことか?確かにマルスを倒した後、少し思うところがあったのは事実だけど……。



「表情は変わってなかったけど悲しそうな目をしてたです。そこで、レクシャさんと一緒に師匠を元気づけるにはどうするのが一番かを考えた……です。その結果辿り着いたのが、二人で師匠の両側から添い寝するという方法です。ダメだった……です?」


「……なんだか情けないところを見せてしまってすまない。実は、人を殺めるという行為は初めてだったんだ。それと添い寝に関しては素直に嬉しかったよ。二人ともありがとう」



 元気づける方法として添い寝を選択してしまうあたり、二人の不器用さが出てて可愛い。だけど、こんなにも心配されてるとは思わなかったな。俺のことを結構見ててくれてるんだなぁ。本当にありがたい。



「お礼を言うのはわたしたちの方よ。実際、あの場にカナデがいなかったらみんな殺されてた可能性が高いし……。それにわたしもまだ人を殺めた経験はないから軽々しいことは言いたくないけど、命を奪うことに悩むのは当然なんじゃない?大事なのは殺めた後、その問題に対して自分の中でどう踏ん切りをつけるかだと思う。あと、あんたはもっと情けないところくらい見せてもいいのよ?わたしたち仲間でしょ?」


「……レクシャ」


「レクシャさんの言う通りです。師匠は私たちの頼りになるリーダーとしてパーティーの支えに、そして私たちは私たちでそんな師匠を支えていきたいと思っている……です。私も人の命を奪ったことはないですけど、おそらく初めて人の命を奪った時は色々考えることもあると思う……です。悩みがあったらお互い相談し合えるような関係がいいと思うです……。少なくとも私はお二人に出会い、境遇について相談したから今があるです」


「ルノワール……」



 真面目な話、俺はもう自分の中ではマルスを殺めたことについては踏ん切りがついている。この先、奴と同じような、もしくは奴以上の存在が敵として襲ってくるかもしれない。というかこの世界を旅する上で、ほぼ確実だろう。その時を想定して、相手の命を奪う覚悟くらいはできているつもりだ。ためらうことはないだろう。ただ、やっぱりそういう時に近くに信頼できる仲間が居てくれるかどうかで心のもちようも変わってくるんだろうなぁ。心の底から二人が居てくれてよかった。




「レクシャとルノワールが居てくれて本当によかった。こんな俺だがこれからもよろしく頼む」


「「!?」」



 あれ?なんだこの反応は。心の底からお礼を言ったら驚愕した表情をされたんだけど……。



「俺、今なにか変なこと言ったか?」


「そうじゃなくて!カナデ、今ほんの少しだけど微笑んだ?」


「わ、私も今そう見えたです……!」



 微笑む?この俺が?まじで?自分でもそんな表情見たことないし、想像すらできないんだけど。さすがに見間違いじゃないの?



「えっと……。気のせいってことはないのか?」


「確かに一瞬わずかに微笑んだように見えたのよ!だってルノちゃんも見てるのよ?(なにこれ、カナデの少し微笑んだ顔見ただけですごい心臓がドキドキしてる……。顔も熱い。とてつもない破壊力ねあの微笑み)」


「はいっ師匠が優しい表情をしたように見えたです!(も、ものすごく神秘的な何かを感じたです。師匠の顔を直視できないくらいの神々しさだったです!素敵です)」


「まぁ、二人が言うならそうなのかもな。自分ではいまいちピンと来ないが」



 それにしても二人とも興奮しすぎじゃないの?ちょっと微笑んだように見えたってだけでこうなるのか。普段全く他人を褒めない人に一度だけさりげなく褒められたみたいなものか?ギャップというやつかな。俺の場合も似たようなもんですかね。



「そう!たぶん微笑んだのよ。そういうことにしときましょ。ということで話も一応まとまったしそろそろ夜ご飯食べに行くわよ!なんたって今日は初クエスト成功のお祝いなんだから!」


「乾杯する……です!」


「だな」









 昨日と同様、宿の向かいにある料理屋へ行くことに決まり、店に入ると4人用テーブル席が3つほど空いていた。よかった、昨日ほど混んでないみたいだな。3つのテーブル席の内、レクシャが店内の右奥にあるテーブル席に座りたそうにしてたのでそこに座った。どうやら奥まった場所が好きらしい。


 それぞれ注文を終えて、さっそく乾杯するための飲み物が運ばれてきた。俺が注文したのはビールっぽいキューロという名前の飲み物で、レクシャとルノワールは赤ワインっぽい色のロゼッタという名前の飲み物だった。ちなみにキューロはアルコール3%、ロゼッタはアルコール1%未満らしい。1%未満ってほとんどジュースと変わらない感じだな。というか俺たち大丈夫かな?三人とも初めてのお酒だからね。



「それじゃあ、パーティーでの初クエスト成功とエクス・ボバートという難敵の撃破に乾杯」


「乾杯!」


「乾杯です」



 飲んだ結果から言うと、ルノワールが少し酔っぱらった。ほんのり顔が赤い気がする。本人曰く、獣人は基本的にアルコールに弱いらしい。この乾杯のために知ってて飲んだんだね。 次からは普通に水か異世界ジュースでいい気がする。俺が飲んだキューロの場合、酔っぱらいはしなかったけどなかなかに表現しづらいぶっ飛んだ味だった。俺の舌がお子様過ぎるだけかもしれない。



「そういえばこの街にはいつまで滞在する予定?わたしは世界を旅して色々な秘境とかを発見してみたいわ。そして、パーティーとして強くなるのはその過程ね。目指すは最強パーティーでの秘境探索よ!カナデとルノちゃんは大まかな夢とかあるの?」


「俺は人探しのためと純粋に自分の興味から世界を旅するのが目標だ。漠然に人探しって言ってもこれだけ広い世界だし見つからないだろう。だから、向こうから見つけてもらうためにある程度の知名度は必要かもしれないな。そこら辺に関して、レクシャの最強パーティーになる夢とかは俺にとっても重要そうだな」


「私はこの《凶星》という称号を付けた魔王にもう一度会って、出来るのなら倒したいです。そのためには世界の様々な場所に行った方がいいかも……です。その過程で強くなれるかもですし、最強パーティーという目標はいい案だと思う……です」



 とりあえず個人としてもパーティー全体としても強くなるのが全員の目標と一致してるな。



「じゃあ、とりあえず宿は今日を入れてあと4泊分既に払ってるから、それまではこの街で旅の準備やクエストをする形にするか?」


「うん、賛成!」


「それがいいです」



 ちなみに、運ばれてきた料理を食べながら、レクシャとルノワールに魔法を身に付けるにはどこに行くのが一番いいか質問してみた。どうやら二人も魔法を覚えたかったらしく、有名な魔法図書館があるという東の隣国セーヌ共和国を目的地とすることにした。この国にも図書館はあるらしいけど、お偉いさんや国の重要人物しか入れないらしい。俺がこの国の勇者のままだったら入れたかもなー。出てきたことに微塵の後悔もないけども。



 そんなことを話していたら料理屋入り口から、なんか慌てふためいた男が店内に駆け込んできた。どうしたんだろう。なんかすごい嫌な予感がするんだけど……。予感よ外れてくれ!



「大変だ!かなり大型なドラゴンが北の山岳地帯から離れてこの街に飛行接近中らしいぞ!北のライネの冒険者ギルドからギルド間緊急通信でこっちにドラゴンが向かってるって連絡が入ったんだ!」



 うわぁ、予感的中だよ!確かドラゴンは魔物の中でも最強の一角という説明があったはず。ちょっとトラブル多すぎませんかねぇ、この街は。それともこの世界ではこういうことが比較的頻繁に起こるのか?ギルド間緊急通信なんて代物があるくらいだから可能性は高いな。


 というか何しにくるのよ、ドラゴンさん……。帰ってください、ドラゴンさん……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ