ギルド長の反射
大森林からディーレの街への帰り道、俺は自分のステータスを見てしまったことで盛大に混乱していた。
増えてる……。なんか特殊能力と称号が増えてるよ!しかも、この能力って外道が持ってた特殊能力じゃん……。つまり、どういうことだ?硬化能力はちゃんとジャックのオッサンに戻っていたことは〈確認〉した。現に俺の特殊能力に硬化は増えていない。これって生存している人には能力が戻り、既に亡くなっている人の能力を外道を倒した俺が貰ったってことか?前者は事前に分かってはいたけど、後者は知らなかった……。
それは結局のところ、俺が強奪者から能力を強奪したことになるんじゃないですかね?マルスのことを外道と呼んだけど、俺も大差ないんじゃ……。〈強欲な手〉の詳細にそんなこと書かれてなかった気がするけど、〈確認〉先生もすべてを教えてくれるわけじゃないってことか。まぁ、今さら何を言ったところで言い訳にしかならないし、この件は宿でゆっくり考えよう。
ディーレの街の冒険者ギルドに到着した頃には、空は茜色に染まり始めていた。
「ギルド長を呼んでくれねぇか?緊急なんだ」
「ギルド長ですか?少々お待ちください」
ジャックのオッサンがギルドの受付の女性に頼んでくれてるみたいだ。ギルド内にはミザリーさんの姿はない。それにしても、オッサンはここの冒険者たちにかなり慕われてるんだな。この時間ギルド内はいつも通り混んでたのに、皆不満も言わずオッサンに順番を譲ってくれたのがいい証拠だ。別に怖がられてるわけじゃないよね?俺もああいう人望のある天人になりたいものだ。
受付の女性が2階に行き、しばらく待っているとその女性が降りてきて「2階へどうぞ。ギルド長がお待ちです」とジャックのオッサンとその後ろに控えてる俺たちに言ってきた。ちなみに受付の女性がギルドの酒場近くにある階段を登り始めるまで、2階の存在を知らなかった俺は当然知ってたかのように無表情でその場に立っていた。なるほどギルド長は2階にいるらしい。高いところにいるなんて長っぽいね!
マルスに殺されそうになったオッサン以外の冒険者たちは一階で待機している。大勢で押しかけたらギルド長がショック死するかもしれないという結論に至ったためだ。俺たち三人はジャックのオッサンとともに女性の後ろについていき、2階の一室に入った。部屋の中は広めで、中央付近のソファーにはぷるぷると体を震わせたおじいちゃんが腰掛けていた。おじいちゃんの頭部は、天井からの魔法による光を見事に反射している。まるで朝の訪れを感じさせる優しいお日様のようだ。ありがたや。
ふと横を見るとレクシャとルノワールが目を細めて眩しそうにしている。いや、どんだけ眩しいんだよ!たしかに光ってるけども、そこまでじゃないだろ!そう思ってジャックのオッサンを見ると、オッサンは鎧を纏った太い腕で目を保護していた。なんなのこの人たち!ここまでくると眩しそうにしてない俺が異端みたいじゃん!やめてよ!
「おお、来たか来たか。とりあえず向かいのソファーに座ってくれ」
ギルド長のおじいちゃんは、この光景がありふれた日常であるかのように慣れた様子だ。たぶん普段からこういう感じなんだね。了解。
「対応が早くて助かるぜギルマス」
「お前さんが緊急というからにはよっぽどの自体なんだろう。ほれ、さっそく話してみなさい」
どうやらオッサンとギルド長はそれなりに信頼関係を気づいているらしい。そして、ぷるぷる震えてたから心配したけどしっかりとした話し方だ。長としてそれは当然かもしれないけども。
「まずBランクの魔物ボバートの件だが討伐が完了したぜ。まぁ、討伐したのは俺じゃなくて横に座ってる坊主たちなんだけどな!嬢ちゃんたちの戦いの方は見てねぇが、この坊主は間違いなく俺なんかより強いぜ!なんせ、いつ斬ったのかも分からないような攻撃をするんだぜ!最初に坊主を見た時から何かびびっと来てたんだよなぁ。俺の目に狂いはなかったってことだな」
「おお!それは久々に良い知らせだな。この街に来ている何人もの冒険者があの大森林に向かったようだが、ここ一か月で帰ってこなかった者も大勢いたからのう……。それでそこの若者たちがボバートを討伐したということだが本当か?見た所FランクにEランク、そして君はCランクのルノ・ヴィノワールだったかのう。君のことは知っておったよ。いい仲間に出会えたようで何よりだ」
オッサンが俺たちを紹介したことでギルド長の目が完全にこっちに向いたな。それにしても、ギルド長はどうやらルノワールのことを心配してくれてたみたいだな。どっちかというと俺とレクシャがルノワールに出会えて何よりなんだけどね。良き出会いに感謝を。猫耳に感謝を。
おっと、まずはギルド長に自己紹介だな。
「俺の名前はカナデ・サオトメです。実は昨日冒険者になったばかりですが、一応パーティーのリーダーをやらせてもらっています。ボバートを倒せたのは運も大きかったと思います」
ここは謙虚に行かないとね。調子に乗ったルーキーほど痛いものはないからね。気を付けないと。問題はマルスの件だよなぁ。どう処理されるんだろうか。
次にレクシャとルノワールが順々に自己紹介をしていった。
「わ、わたしはレクシャ・レッドフォードと申しましゅ!」
「ご存知のようですが、私はルノ・ヴィノワール……です。よろしくお願いします……です」
あれ?レクシャって意外と緊張しやすいタイプなのかな?「申しましゅ!」だって。ヤバい、超かわいい。鼻血出そう。
「ほう、謙虚で丁寧なルーキーだのう。わしはこのディーレの街で冒険者ギルドの長をしているガルフィン・マードレだ。しかし、新人を含めてたった三人でBランクのボバートを討伐したとは……、世の中何が起こるか分からないものだのう。わしの父親と同じように自分の髪が一本もなくなった時も何が起きたのか分からなかったが……。それでボバートの死体はどうしたんだ?あれは全身素材のはずだが」
「ああギルマス、そのことなんだが……」
ギルド長……。さりげなく今回の件と自分の頭の状況を一緒にしないでくれますかね?というか、それ遺伝を認めたくなかっただけでしょうが!
あっ、オッサンが俺を見ながら無限箱についてどう説明しようか判断に迷ってるようだ。まぁ、このギルド長になら俺の特殊能力を見せても大丈夫だろう。能力の詳細までは分からないだろうし。
「ボバートの死体をここに出しても大丈夫でしょうか?」
「ああ大丈夫だぞ。ここのギルド職員には清掃が大好きな野郎がいるからな。遠慮しなくても大丈夫だぞ」
なぜ、オッサンが答えたのかは疑問だが、百聞は一見に如かずって言うし、すべては見てもらった方が早いだろう。この部屋は広いし、死体を置くスペースも問題ない。ついでにマルスも出して今回の件を説明しよう。遺体を見るのは嫌だけど、俺が殺したんだ。最後までしっかりしないとな。
部屋の入り口近くの空いてるスペースにボバートの死体とマルスを出そう。
ソファーから移動して扉を出現させた瞬間ギルド長の目が大きく見開き、扉からボバートの死体が出てきた時には顎が外れそうなくらい口を開けて驚いていた。一瞬ショック死というワードが頭をよぎったけどギルド長は無事だったようで安心した。
「これはたまげた!色からして変異種のようだのう。君の能力にも驚いたが詮索はせんよ。それでボバートと一緒に出てきたこの者は誰だ?既に息をしていないようだが」
「ああ、そいつはだな――」
マルスのステータスカードをギルド長に渡した後、オッサンが被害者の側からの立場で今回の件をうまく説明してくれた。Bランクの魔物騒ぎに乗じて殺人を繰り返していたことや人の特殊能力を奪う特殊能力のこと、そして自分たちも殺されそうになったことなど詳細に伝えていた。
「なるほど……。オルレオ大森林での犠牲者の多さは、この者のせいでもあったわけだ。東の隣国セーヌ共和国でも同じような死体の目撃例が多発しているという情報があったが、魔物の仕業ではなく人間の仕業だったか。しかし、人の特殊能力を奪う能力か。恐ろしい特殊能力だのう。それを討伐した君は何者だという話になるが、冒険者相手に詮索するのは野暮ってもんだ。なんにせよこの街の危機を救ってくれたことには変わりないんだ。ボバートの件も含めて後日、報酬の支払いをしよう。もちろんランクアップもするだろう」
おお!冒険者になってすぐにランクアップできるとは。それほどBランクの魔物とマルスが脅威だったということだとは思うけど。オッサンがいなかったらこんなにスムーズな話にはならなかっただろうな。宿に帰ったらちゃんとお礼をしよう。
「それとこのマルスとかいう者の持ち物だが、こういう時は討伐した者の所有物になる決まりだ。持って行きなさい」
「……分かりました」
意図せずお金や装備まで手に入ってしまった。死体から根こそぎ強奪するようで気が引けるけど、郷に入っては郷に従えだ。貰える物は貰っておこう。ちなみにマルスに殺された冒険者たちは同じくギルドに引き取られた。一時的にギルドの地下に安置するらしい。地下もあったんだ……。
そして、ギルド長との諸々のやりとりを終えて、宿に帰る前にギルド長のステータスを〈確認〉したらズッコケそうになった。
だって――
ガルフィン・マードレ 男 人間 168歳
レベル56
HP312
MP267
攻撃力:294
防御力:195
素早さ:232
魅力:24
運:27
【特殊能力】
魔法反射
【魔法】
初級土魔法、下級水魔法、中級風魔法、上級火魔法
【称号】
賢人
この世界の人間の平均寿命っていくつなんです?