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驕れる者久しからず

 マルスが一人でしゃべっている最中、奏はずっと考え事をしていた。



 あ~どうしよ。犯人見つけちゃったよ……。


 というか、なんであんなにたくさん特殊能力持ってるんだよ。勇者の存在が霞むくらいいっぱい持ってんじゃん。限定支配とか名前からしてヤバそうだし……。さっきからジャックのオッサンも含めて、冒険者たちが全員俯いて沈黙してるのも気になる。さては、何かしたなあいつ。


 しかし、取得経験値2倍とかそんな能力存在したのか……。かなり羨ましいけど、今はそれどころじゃない。奴が持ってる硬化って能力はジャックのオッサンも持ってたはず。



 まさか……。オッサンのステータスを〈確認〉と。


 


 うわぁ、ジャックのオッサンの特殊能力がなくなってるよ……。やっぱり、奴の称号にある《強奪者》ってそういうことか。となると、奪った手段は特殊能力にある〈強欲な手〉だろうなぁ。そうとしか考えられないネーミングだ。


 どうにかして、奴の口から〈強欲な手〉について聞き出さなきゃな。能力が奪われたままなのかどうか〈確認〉したいんだが……。ここで、あいつを倒したとして能力が持ち主に戻ってくるのかどうか。まぁ、このまま奴を野放しにしておくという選択肢がないことだけは確かだ。さてと、奴がアホであることを祈るか。




 奏は一旦考えを打ち切り、やっとマルスの言葉を聞く態勢に入った。



「――――なんだよね?魅了系の能力でも持ってるんでしょ?ぼくはそういう能力も欲しかったんだよなぁ。なんて今日は運がいいんだろう!新しい能力が3つも手に入るなんて!」



 マルスはまだしゃべり続ける。



「あれ?あのBランクの魔物を倒したのって君たちだよね?もしかして、君の後ろにいる可愛らしい女の子たちも強力な特殊能力を持ってたりするのかなぁ?ああぁ……、きっとぼくは女神に愛されてるんだね。そうとしか考えられないよ!前からずっと――――」



 え~っと、どうやら話を聞いていない内に、随分とぶっ飛んだことになってるらしい。こいつは危険だ。レクシャとルノワールはどこかに避難して貰ったほうがいいな。こんなヤバい奴が二人に近づくとか考えられない。


 あっ!そういえば最適な避難場所を俺は持ってるじゃないか!


 後ろにいるレクシャとルノワールにさりげなくアイコンタクトした。そして、両手の手のひらをそっと二人の方に向け、自分の手に触れるように求めた。


 レクシャとルノワールの二人はすぐにその目的に気づき、俺の手のひらにそっと触れた。



(こういうことでしょ?)


(ああ、二人とも気づいてくれて助かった。いきなりで悪いんだが、今から万能無限箱を出現させる。扉が現れたら、二人ともすぐに中に入ってくれ。レクシャ、今回は絶対に入れるから大丈夫だぞ。ルノワールも怖がらないで頑張って入ってくれ)


(ええ!?いい子にしてたら入れる仕組みじゃなかったの?)


(今は時間がない。後で必ず説明するから。頼む)


(カナデがそれだけ言うってことは、あの変態かなりヤバいってことね?分かった。後で説明してくれるなら、おとなしく入っておくわ。け、怪我とかしたら許さないんだから!)


(師匠!変態さんをやっつけるです!でも、気を付けて下さいです)


(任せておけ)



 三人で密かにやりとりを終えた直後、扉を出現させた。そして、言われた通り迅速に二人は扉の中に入っていった。


 扉に入る直前、ルノワールに黒狼石の短剣を渡されて初めて、自分の武器が折れていることを思い出したのは内緒である。


 二人が入ったのを見届けた後、俺はすぐに扉を閉めてマルスに向き直った。


 マルスは今の出来事に目を丸くして驚いている。



「はぁ?なんだい今のは?彼女たちはどこに行ったんだ?」


「答えるわけがないだろ」


「もしかして君も複数の能力を持っているのか?……あはははははは!」


「……」



 うわぁ、今度はいきなり笑い出したよ。変態に加えて、なかなかにエキセントリックな奴だな。



「ますます、ぼくに運が向いてきたようだ!能力を奪った上で君を殺す寸前まで痛めつけて、彼女たちが泣いてぼくに許しを請う姿が見たかったんだけどなぁ。どこに行ったのかも分からないんじゃ、どうしようもないね。まぁ、やることはそんなに変わらないか!君を殺せば、彼女たちも出てくるかもしれないし!」


「その前に二つ質問していいか?」


「ん~?なんだい?ぼくとしては早く殺したくてうずうずしてるんだけど。その冷静な表情をぐちゃぐちゃにしてやりたいなぁ。まぁ、せっかくもうすぐ死ぬんだ。ぼくが答えられることなら答えてあげてもいいよ」


「そりゃどうも。じゃあ一つ目。あの胸に風穴を開けられた冒険者たちはお前が殺したのか?」



 十中八九こいつだろうけどな。



「もちろん!ぼくのこの最強の特殊能力!〈強欲な手〉で能力を奪った後、殺してあげたよ!殺すかどうかはその時の気分次第なんだけどね。千里眼なんて持ってたものだから気分が乗っちゃってさ!あそこで死んでる冒険者たちは運が良かったよね。このぼくに殺されたんだからさぁ。それから、連れてきた冒険者たちも当然これから殺すよ。流石に、街の中で殺すわけにはいかないし本当に面倒だよ。でも、運が良かったよ!ちょうどBランクの魔物騒ぎに便乗できたんだからさ!あそこで死んでる冒険者たちがピンチだって話したら、みんな慌ててついてきてくれたよ!横にいるジャックとかいう人からも能力を奪えたことだし最高だよ!支配効果がなくなる前には、みんな死んでると思うけど。お友達と同じ場所で殺してあげるぼくって、優しいと思わない?一つ誤算があるとすれば、この場に君たちがいたことだよねぇ。まぁ、嬉しい誤算だけどね!」


「分かった。もういい」


「あれぇ?まだ一つ目だけど?」


「もういいと俺は言った」



 〈強欲な手〉の詳細を〈確認〉したところ、能力を奪われた者が生きていた場合、能力を奪った者を討伐すれば能力は戻るらしい。




 この世界に来て、いつかはこういう時が来ると予想はしてたが、まさか初めてがこんな下種野郎になるとはな。俺はためらわない。ここでためらったら、もしこの先俺の大切な人たちに危機が迫った時に、後悔することになる気がする。そんな結末はいらない。



「ぼくを前にしながらのその態度。この世界に生まれ落ちたことを後悔するくらい、惨たらしく殺してあげるよ!」


「俺が生まれたのは地球だ。馬鹿」




 


 マルスは知らない。本当の反則というものを。


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