奏vsコッコ隊長
レクシャの能力の詳細を〈確認〉した奏は、結果を言うために彼女の顔をチラッと見てみると、珍しく不安な面持ちを隠せない様子だった。
非常に落ち着きがない。そわそわしすぎて、普段奏の前では見せない、自分の髪や爪をいじるといった行為を繰り返している。何度もツインテールにした髪の先端を、指先でくるくるしている。
これは、写真も当然撮りたいが、それよりもムービーを撮りたい。もし、ムービーが撮れたら、後でレクシャに見せる。そして、顔を真っ赤にさせながら「そんなものいつ撮ったのよ!」と怒られるまでの流れが、容易に想像できる。
やっぱり、レクシャはからかってこそだよね!
おっと、こんな妄想してる場合じゃない。レクシャに報告しなくては。
「レクシャ、能力の詳細が分かったぞ」
「ど、どうだったの?やっぱり、役に立ちそうもなかったりする?」
「いや、俺の予想が正しければ戦闘にも応用できる特殊能力だ」
「本当!?詳しく聞かせて!」
おっ、やっと笑顔になった。その笑顔が見たかった!
「もちろんだ。レクシャの伝力というのは……」
奏がレクシャに詳細を教えようとした時だった。
「コッコピーポ数匹が来る……です!」
周りを警戒していたルノワールが声を張り上げて、コッコピーポの接近を知らせてきた。
「もうっ、いいところだったのに!ルノちゃんどっちから来てるか分かる?」
「レクシャさんの後方から……です。距離は30m程……です」
ルノワールは大体の距離まで分かるのか。優秀だな。
コッコたちとは、まだ少し距離がある。レベル上げもしたいし、ここは俺とレクシャで対処するべきか。
「レクシャ、俺たちで対処するぞ。ルノワール、今回は下がっててくれ。何か状況に変化があった時は、援護を頼む」
「いいわ!やってやろうじゃないの!」
「了解……です。お気を付けて……です」
その場で奴らが来るのを待ち構えていると、密集している木々の間からチラチラと、4匹のコッコピーポがこちらに向かって歩いて来ている姿が視認できた。
「ちょっ、4匹って!わたしは左の2匹をやるわ!」
「了解。苦戦しそうだったらちゃんと言えよ。絶対に助けてやる」
「あ、ありがとう。って苦戦しないわよっ」
「来るぞ」
ついにコッコたちが、木々の間を完全に抜けて、こちらに姿を現した。
んっ?
……一番右端の一匹が、通常のコッコよりどう見てもデカい。
すごく気になったので瞬時に〈確認〉した。
ドン・コッコピーポ オス
レベル26
HP:105
MP:0
攻撃力:54
守備力:35
素早さ:49
魅力:6
運:14
能力:切り裂き、串刺し
なんだ!ドン・コッコピーポって!
レベル的にも明らかに普通のコッコじゃない。
「カナデさん!その魔物はコッコたちのボス……です!」
ボスって、コッコたちのリーダーみたいなものか?コッコ隊長と呼ぼう。
「ギィエェェェェ!!」
「!?」
こちらが〈確認〉するために動きを止めた一瞬の隙を見逃さず、ドン・コッコピーポは身を屈めて、くちばしを前に突き出した。そして、地面を強く蹴り、ロケットのように突進しながら俺の懐に迫っってきた。
「カナデ!危ないっ!」
「避けるです!」
えっ?
わたしとルノちゃんが気づいたときには、ドン・コッコピーポはカナデの目の前で、もがき苦しみながら地面を転がり回っていた。両目と首から青い血を流しながら……。何が起こったの?
他のコッコピーポたちも何が起きたのか全く理解できていないようで、完全に足を止めていた。
そしてカナデは冷静にドン・コッコピーポの胸に青銅の剣を突き刺し、止めを刺した。
「まだ3匹いるんだ。油断するなレクシャ」
ちょっと!ツッコミどころが多すぎて油断どころじゃないのよこっちは!ルノちゃんも茫然としちゃってるじゃない!
「残りの3匹に関しては予定通り2匹をわたしが、1匹をルノちゃんに倒してもらうわ。カナデはそこでじっとしてなさい」
「……なぜだ」
その後、特に苦戦することもなく、残りのコッコ3匹はレクシャとルノワールによって討伐された。
「それで、カナデはあの時何をしたの?わたしには、いきなりドン・コッコピーポが倒れたように見えたんだけど……」
「私も何が起きたのか分からなかった……です。気になる……です」
討伐後、ドン・コッコピーポも含めて剥ぎ取りを終え、レクシャとルノワールは奏に疑問をぶつけていた。
どうしよう。ただ時間停止して、コッコ隊長の両目と首に剣を刺しただけなんだが……。時間を止めると、弱点を的確に狙えるから本当に便利だ。あとは、停止時間さえ伸びれば完璧なんだけどな。
「時を止めました」って言ってもいいのかな?レクシャとルノワールのことは十分信頼してるし、仲間だと思ってる。でも、それとこれとはまた違った問題だしなぁ。謎多き男ってのも、渋くてかっこいいし、今は超必殺技みたいな感じで納得してもらおう。うん、そうしよう。
「あれは5分に一回のペースで発動できる俺の必殺技みたいなものだ」
「必殺技って?」
「何……です?」
あれ、この世界って必殺技の概念がないのか?
「そもそも、レクシャは俺と初めて会った時に一回見ただろ」
「ああ、あのゴブリン2匹をカナデが瞬殺した時のこと?」
「そうだ」
「あの時はわたしもゴブリンと戦ってる時だったし、本当はよく見えなかったのよ。実際にちゃんと見るのは今回が初めてよ」
「目にもとまらぬ速さで……やっつけたのです?」
レクシャ、自信満々にわたし見ちゃったんだから的なことを言ってたよね。まぁ、いいか。
ありがたいことにルノワールもレクシャと同じ勘違いをしている。これは、この流れに乗った方がいいな。
「そうだ、あれが世に言う目にもとまらぬ速さというやつだ。尊敬していいぞ」
「やっぱりカナデはすごいわね!」
「すごい……です!師匠!」
本当にこの二人信じちゃったよ。チョロ過ぎて心配になってきたな。
ルノワールに至っては、師匠とか言ってるし。ステータス的にはルノワールの方が上なのにね。世の中って不思議だね。
この調子じゃ、簡単に悪い人に騙されそうだな。
あっ、そういえばコッコ隊長を討伐した直後に、レベルが上がった音がしたんだった。
出でよステータス。
サオトメ カナデ 男 天人 16歳
レベル4
HP72
MP94
攻撃力:55(+2)(+4)
防御力:48
素早さ:59
魅力:60
運:50
武器:棍棒(攻撃力+2)
青銅の剣(攻撃力+4)
【絶対能力】
時間停止(5s)
【特殊能力】
確認、万能無限箱、空き(3)
【魔法】
【称号】
異世界人、勇者、絶対神の孫
レベルが2つ上がったみたいだ。あれ?予想したより、数値がかなり高くなってる。天人効果もあって上昇値がすごい。ステータスの伸び率って一定じゃないのか?レベル1からレベル2になった時と、同じ伸び率かと思ったら違うみたいだな。もしかして、どんな魔物を討伐したかで変動するのかな?
雑魚をたくさん倒してレベルを上げるより、かなり格上の魔物を倒した時の方がステータス的にはいいのかもしれない。試練を乗り越えたご褒美的なやつかな。どうなんですか〈確認〉先生。どうか、わたくしめにご教示ください。
『レベルアップ時のステータス上昇率』
レベルアップ時の、自分の状態、場所、運など様々な要素によりステータスの上昇値は変動する。また、自分より格上の魔物を倒すことにより、ステータスの上昇率は高くなる。
なるほど……。
とりあえず、確実なのは強い魔物を倒した方が得だよってことですね!ありがとうございました、先生。
それにしても、停止時間5秒の壁が分厚すぎる!本人の成長次第って、それはいつ伸びるんですかね?
奏の疑問に答えてくれる者は、誰もいなかった。