伝力
ルノワールが討伐対象であるコッコピーポの1匹目を瞬殺し、三人は討伐証明部位のくちばしと爪を死体から剥ぎ取っていた。
「そう、ここをこういう風に切れば剥ぎ取りやすいわよ」
「付け根からバサッとやるのがコツです……」
「……こうか?」
今行われているのは、レクシャとルノワールによる奏に対しての、討伐証明部位の剥ぎ取りレッスンだ。美少女二人に一から手解きしてもらえるのだから、なんとも幸せな男である。世の男が見れば、間違いなく嫉妬で舌打ちするだろう。
「うまいじゃない!わたしなんて最初、気持ち悪くて触れないところから始まったのよ」
「この調子ならすぐに上達する……です」
「そりゃよかった。二人とも教えてくれてありがとうな」
「こ、これくらい大したことにゃいわよ!」
「ど、どういたしまして、です……」
お礼を言ったらレクシャがまた、猫化した。
本物のにゃんこ美少女と時々にゃんこ化する美少女……。素晴らしいじゃないか!地球にいた頃に、どうしても行きたくて一回だけ猫カフェに行ったことがあるけど、その時とはまた違った癒され成分だ!結論、猫+美少女は最強ということでお願いします。
いや、待てよ?犬耳っ娘のミザリーさんも可愛いことは周知の事実だ。ということは、俺の想像力が貧しいから分からないだけで、兎耳+美少女や狐耳+美少女、もしかしたら角+美少女とかも可愛いのかもしれない!女の子に何かを足すことで、さらにその女の子が可愛くなる。いいね!
この世界には無限の可愛いの可能性が溢れてるんじゃないだろうか?ヤバい!その女の子たちを一目見るだけでも、アルガルドを旅する意味が5倍にも10倍にもなるよ。母さんを見つけ出すのをメインとしながらも、この世界の可愛いを見つけまくるという旅でもいいじゃないっ!よし、決定だ!
しかし、意外だな。レクシャは最初、剥ぎ取り苦手だったのか。「こんなものただ切り取ればいいだけじゃない!」とか言って、最初から全然大丈夫そうなイメージだったんだが……。やっぱりレクシャも女の子らしいところがあったんだな。
「カナデ……、あんたまた失礼なこと考えてなかった?」
「……ベツニ」
「カナデさん、片言です……」
「……」
ぐっ……!ルノワールまでレクシャの援護射撃を!
なぜ、ばれた?前から思ってたけどそろそろ確かめる時だろう。その意味もなく鋭い理由を!
「なぁ、レクシャ」
「なによ」
「別に俺がレクシャに対して失礼なことを考えてたとか、そんな事実は微塵もないのだが、レクシャは勘が鋭い方なのか?いや、本当に失礼なことを考えてたとか全然ないのだが、少し気になってな」
「露骨に怪しいわねあんた!」
くっ……!俺としてはごく自然に尋ねたつもりだったんだけどな。完全に怪しまれてるな。やるな、レクシャ!我がライバルとして認めてやってもいいぞ。
もっと自然に物事を尋ねるスキルを磨き、いずれは相手が気づかない内に、ぽろっと本音をこぼしてしまうくらいまでいきたいものだ。
「怪しくなんかないさ。少し気になっただけで」
「まぁ、いいわ。そういえば、まだわたしの特殊能力について話してなかったわね。カナデの能力でステータスにある能力名だけは、既に分かってるんだろうけど」
「その特殊能力が、レクシャの勘が鋭い理由と関係してくるのか?」
「ええ、カナデやルノちゃんみたいな、すごい能力じゃないけどね」
まさか、特殊能力の話になるとは思わなかったな。ルノワールも首を傾げている。
「伝力だっけか?」
「そう、わたしの特殊能力は伝力。わたしはすごく弱いテレパシーみたいなものだと思ってるんだけどね」
「テレパシー……です?」
「うん。例えばルノちゃんの気持ちがどうしても知りたいと思った時に、なんとなく、本当になんとなく程度なんだけど、感情が伝わってくるのよ」
「ってことは、俺の気持ちを知りたいと思ってたのかレクシャは」
「うっ……、べ、別にそういうのじゃないわよ!」
そういうのって、どういうのなんですかねレクシャさん。すごく可愛らしいからどうでもいいけどね。
それにしても、テレパシーか……。確かにそんな特殊能力があってもおかしくはないな。もし、強いテレパシ―だったら、俺のムフフな妄想がレクシャに筒抜けになってたわけか……。なんて恐ろしい!一歩間違えれば、レクシャとの関係に暗雲が立ち込めるところだった!まぁ、ツインテールが好きなことぐらいは、ばれても大丈夫そうだけどね。
しかし、レクシャ本人があまり自分の能力を理解してないのか。これは、能力名も本人から聞いたことだし〈確認〉で、伝力の詳細を見るべきだな。
「レクシャ、今から能力の詳細を〈確認〉したいのだが、構わないか?」
「確認?ああ、そういえばわたしの口から能力名を聞いたことで、出来るようになったわけね。そうね……、何か新しい発見があるかもしれないし、お願いするわ」
「分かった。少し時間をくれ」
「いくらでも待つわよ」
「私は周りを見張ってる……です」
「ありがとう、ルノちゃん」
じゃあ、〈確認〉するとしますか。
〈伝力〉
自由発動型。相手に何かを伝えることに特化した特殊能力。また、相手が伝えたいことを受け取ることも可能。完全に発動させるには、相手に触れる必要がある。相手に触れないで発動した場合、能力の効果が10%程度しか発揮されない。
これは……、テレパシーどころじゃないな。
使い方を工夫すれば、この能力は相当化けるかもしれない。もし、伝えるものは何でもいいのだとしたら、これから戦闘面で馬鹿みたいに有利になるはずだ。相手に触れないと十分に効果が発揮されない能力だから、レクシャも今まで把握しづらかったんだろうな。
レクシャは自分の能力があまり使えないことを、少し気にしてるみたいだったから、今判明した詳細を早く教えてあげなくては!そしたら、喜ぶだろうね!俺とルノワールに君の太陽のような笑顔を見せてくれ!
金髪ツインテールが好きとか、なんだかんだ言いながらも、結局一番好きなのはレクシャの笑顔というデレデレな奏であった。