ルノワールの実力
レクシャがいい子になる宣言をし、ルノワールの威嚇をなんとか静めた後、本来の目的のリュックを扉の中に入れた。リュックは吸い込まれるように、黒い空間に消えて行った。
「すごいわね!本当に入ったわ!」
「リュックが黒いのに食べられた……です!」
ありゃ、ルノワールはまだ怖いみたいだな。こればっかりは慣れてもらうしかないな。その内、この能力の便利さに酔いしれるだろうさ。だって、超便利だもん、これ。
「でも、これだけ荷物が少ないって怪しまれないか?」
現在、奏たちのパーティーの荷物は、レクシャとルノワールが、それぞれ腰に少し大きめのポーチを付けているだけである。
「これから行く大森林だと日帰りの予定で、クエストを受けてる冒険者もかなりいるし大丈夫よ。討伐証明を入れられるものさえ持ってればね。泊まり込みで討伐をする冒険者は、結構な荷物を持ってるけど」
レクシャの言葉に、ルノワールが続く。
「それに、クエスト中は、冒険者が他の冒険者を気にする余裕はない……です」
「そうなのか」
ほう、考えてみればその通りだな。みんな自分のクエストのことで頭がいっぱいだもんな。どうやら、自意識過剰だったらしい。あらやだ、恥ずかしい。
「でも、たまに討伐証明以外に毛皮とかを売れる魔物もいるから、日帰りでも大きい荷物を持ってる冒険者もいるわ」
「結局はそれぞれの冒険者次第……です」
「なるほどね」
うんうん。とりあえず気にする必要はないってことだな!了解した!
「ここで、ずっと話しててもしょうがないし、そろそろ行くか」
「そうね!待ってなさい、コッコピーポ!」
「行く……です!」
オルレオ大森林。そこは太古の昔から存在し、様々な生物が暮らす、自然豊かな場所。そして、未だに数多くの秘境が眠っているとされる場所である。しかし、人々は知らない。遥か昔、この場所が魔境の一つであったことを。
「Bランクの魔物って大変じゃない!コッコピーポどころじゃないわ!」
「でも、出くわす可能性は低い……です」
現在、奏たちは大森林を目の前にして、ここに出現したというBランクの魔物について話していた。奏が大森林に入る前に、武器屋で聞いた情報を二人に話したからである。
本来、Bランクの魔物とは、討伐するために平均Bランクのパーティーが2つ以上必要とされている。レベル10以下の新人冒険者がいるパーティーなど、まず遭遇してしまった段階でデッド・エンドである。
ちなみに、今回奏たちが遂行するコッコピーポ10匹討伐は、Dランクの依頼である。現在、ルノワールがCランクの下位なので、受けることができた依頼だ。
「確かに、こんなに広い大森林で出遭う確率なんて低いわね。でも、これでディーレの街に冒険者が多かった理由が分かって、スッキリしたわ」
「私も理由までは知らなかったので、納得……です」
うん。二人の会話を見守ってたけど、うまくまとまったみたいだな。
「よし、行こう」
こうして、奏たちパーティーはオルレオ大森林へと足を踏み入れた。
大森林の中は、陽光がよく届き、比較的明るい場所だった。
ここはアルガルドなので、姿かたちは想像できないが、様々な種類の鳥っぽい鳴き声がいたるところから聞こえてくる。
奏たちはコッコピーポを探すために、周りを注意深く見回しながら森の中を歩いて行った。
森に入ってから、30分ほど経った頃、パーティーの先頭を歩いていたルノワールが突然、足を止めた。ルノワールの聴覚は、かなり発達してるので、すぐに状況の変化に気づける。可愛らしい黒猫耳をピクピクさせて、周りの様子を探っているようだ。
そして一言。
「前から来る……です」と呟いた。
数秒後、前方の木々の間からそいつは姿を現した。全身青色で、ゴブリンにくちばしと鋭い爪を足したような姿。間違いなく説明で見た、ファンシーな名前のアイツだ。
ステータス〈確認〉っと。
コッコピーポ オス
レベル10
HP:42
MP:0
攻撃力:28
守備力:19
素早さ:18
魅力:4
運:9
能力:切り裂き
ゴブリンと違い、武器は持ってないな。いや、持ってないように見えるけど、能力からして鋭い爪がアイツの最大の武器なんだろうな。
まずは、ルノワールの戦闘を見てみたい。
「ルノワール頼めるか?」
「了解……です」
結果、コッコピーポの命は一瞬で散った。
コッコピーポがこちらの姿を確認するや否や、「キエィィィィィ」と本当に奇声を上げながら突っ込んできた。その様子は、ゴブリンと同じくキモいという感情を奏に抱かせた。
その突っ込んでくる様子を、冷たい目で見ていたルノワールは、意外と素早いコッコピーポの切り裂き攻撃を軽く躱し、瞬時にコッコピーポ背後に回り込み、首を掻き切った。首から青色の血が勢いよく吹き出し、コッコピーポは地面に倒れこみ、そのまま動かなくなった。
一撃である。それも、おそらくオーバーキルだ。
奏とレクシャはその光景を静かに見つめながら、素直にこう思った。
ルノワール強くね?と
そして、奏とレクシャは本気で決意した。
レベルを上げようと。