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気配遮断

 レクシャに抱きしめられながら泣いていたルノワールが泣き止み、ちょうど彼女が頼んだ料理が運ばれてきた。奏とレクシャの二人は少しだけ冷めてしまった料理を、ルノワールは今来たばかりの熱々の料理を少し申し訳なさそうにしながら、それぞれ食べ始めた。


 三人とも飲み物は水だ。アルガルドでは、人間族は15歳が成人である。酒は自己責任であり、赤ん坊でなければ何歳から飲んでも文句は言われない。だが、15歳以下が酒を飲むことは少ない。理由は、若気の至りで調子に乗って酒を飲み、酔っぱらったまま街の外に出て、魔物に殺される事案が一時期多く発生したからである。



 少し三人で話し合った結果、お酒を飲むのはパーティーでの初クエストが無事完了した後という決まりになった。


 

 ほう、俺はこの世界では既に成人なのか。あっ、レクシャもか。日本にいた頃は、成人なんてまだまだ先だろうとか思ってたんだけどなぁ。



「あのカナデさん、レクシャさんのお二人に、聞きたいことがある……です」


「「?」」



 三人が料理をもう少しで食べ終わるという頃、ルノワールが奏とレクシャの二人に真剣な表情をして語りかけた。



「お二人は宿に泊まっている……です?それとも、家を借りてる……です?」


「わたしたちは、料理屋から出て、すぐ前に見える宿に泊まってるわ。そういえば、ルノちゃんは泊まる所とかどうしてるの?宿じゃないだろうし……」


「私は気配遮断という能力を使えば、魔物にも気づかれないので野宿です……。今までは、凶星のせいで大勢の人がいる場所に留まるのはダメだった……です」


「ルノちゃん、ずっと一人で野宿してたの!?それにしても気配遮断?魔物に気づかれないって相当よね」



 ルノワールは俺たちが想像していたより、遥かに逞しそうだ。そりゃあ、11歳からほぼ一人で生きてきたんだから当然か。


 しかし、気配遮断か。今なら〈確認〉できるかな?



〈気配遮断〉

自由発動型。直視さえされなければ、そこにいることにほぼ気づかれなくなる特殊能力。ただし、物音を立ててしまったり、嗅覚が発達している相手には気づかれる可能性がある。相手に見つかった状態で能力を発動した場合、相手の視界から外れてしまえば、気づかれにくい状態に移行することができる。



 うん……、すごく暗殺とかに向いてそうな特殊能力だ。隠れて物音さえ立てなければ、普通の方法じゃ見つからないな。かくれんぼ最強説!この世界にかくれんぼがあるのかは知らないが。どうでもいいけど〈確認〉してみるか。



『かくれんぼ』

ちょっと何を言ってるのか分からないです




 ……ええ!?


 なにこれどうなってんの!?


 バグじゃないよね?明らかに〈確認〉先生の意思を感じるんだけど!今までと口調違うし!絶対、くだらないこと聞いた俺に怒ってるじゃんこれ……。謝っておこう。


 

 本当にくだらないこと聞いてすいませんでした。



 無反応だ。これで返事がきたら、それはそれで少し怖いからいいんだけどね。一応、宿に帰ったらもう一回謝っておこうかな。




 でも、今回で確信できた。人のステータスにある能力や称号なんかを詳細に〈確認〉したいなら、相手の口から自分の能力名や称号名を直接聞かなければいけないらしい。勝手に自分の能力名をべらべら話してくれる敵がいたら、能力の詳細を能力者本人よりも理解できるかもしれないな。まぁ、そんな都合のいい敵がいればの話だけどね。それに、理解できても回避不可能な代物だったらアウトだし。






「気配遮断を使用すると、例えばこの料理屋さんにいる人たちは私の存在を認識しづらくなる……です」


「へぇ~!その能力があれば鬱陶しい視線に悩まされることもなくなるわけね!便利だし、食い逃げとか簡単にできそうよね」



 気がついたら、レクシャとルノワールの二人で気配遮断能力の話をしているじゃないか。レクシャ……、その発想が出てきてしまうのは、俺と思考が同レベルだということを証明するようなものだぞ。こっち側に来たくなければ、もう少し言動に気をつけた方がいい。言葉に出して注意はしないけども。


 あと、俺たちに慣れてきたのか心を開いてくれてるのかは分からないけど、ルノワールの口調が滑らかになってる気がする。最初は、人見知りっぽくたどたどしかったのに、徐々に普通に話せるようになってきている。言葉の最後に「です」を付けるのは癖なのかな?まぁ、可愛いからなんでもいいや。



「その発想はなかった……です」


「べ、別にわたしだって本気で言ったわけじゃないのよ?食い逃げなんてわたしはしないわ!」



 ルノワール……その発想は危険だから今すぐに忘れなさい!君は健全でいてくれ!そこの金髪ツインテールの言動を真に受けるな!


 レクシャは誰に言い訳してるのだろうか?「食い逃げなんてしないわ!」とか高らかに宣言してるけど、それ当たり前のことですからね。




 そんなやりとりをしながら、俺たちは料理を食べ終えて、追加注文することなくちゃんとお金を払ってから店を出た。三人で銅貨40枚だった。会計時、ヤクモモ草のサラダが一番高くてレクシャがショックを受けていた。値段書いてあっただろ……。


 

 

 

 宿では、俺の右隣の部屋がレクシャ、 左隣がルノワールになった。本当はルノワールとは一緒の部屋の方がいいんだが、出会った初日から同じ部屋で寝るというのはハードルが高い。隣の部屋と言っても距離的には十分近いので不幸とかは大丈夫だと思われる。


 そして、明日の早朝からギルドに行く約束をしてこの日は各自部屋に戻った。


 奏は部屋に戻り、体を拭いていないことに気が付き、受付にお湯と布を貰いに行った。すると、レクシャとルノワールも同じことを考えていたらしく、「また明日」と別れて5分後に再び出会うというなんとも間抜けなことになってしまった。気まずい空気の出来上がりである。


 

 そして、三人が無言でお湯を待ってる姿が、なぜかケイミーちゃんの笑いのツボにはまってしまったらしく、腹を抱えて笑いながら動かなくなってしまった……。あの~、ケイミーちゃん?お湯……。


 

 

 しばらくお湯が運ばれてくることはなかった。



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