魔王の魔眼
ルノワールは少しずつ、自分の境遇について語り始めた。
「私は、皆の嫌われ者……なんです。私が……近くにいるだけで、周りの人たちが不幸になる……です。だから本当は、レクシャさんとカナデさんと……今も一緒に居てはダメなのです!二人が普通に接してくれて、嬉しくて、私は、最低……です」
「ルノちゃん、落ち着いて。どんな理由でもルノちゃんを嫌ったりしないから!不幸なんてわたしがぶっ飛ばしてやるわよ!わたしたちは大丈夫だから!そうでしょ、カナデ!」
レクシャは本当に真っ直ぐな人間だな!そういうところは素直に憧れるよ。
真面目な話、まだ会ったばかりだが、ルノワールを嫌うことは絶対にない。猫耳美少女がこんなにもつらそうな顔をしてるんだ。それなりの理由があるんだろう。この顔を見て、何を思わない奴なんて、ゴブリンの棍棒でスマッシュの刑にしてやる。
「当然だ。猫み……ルノワールを嫌うことはあり得ない。レクシャの頭が丸刈りになるくらいあり得ないことだ」
「今の後半部分いらないでしょ!シリアスな空気を壊すんじゃないわよ!」
「ふふっ、本当にお二人と出会えて、よかった……です。カナデさん、そうやってわざと空気を、和ませてくれたの……です?」
「……そうだ」
「そうだったの!?ごめん、さっきの発言はわたしが浅はかだったわ!無表情で冗談を言われたからつい」
ただシリアスな空気が苦手で冗談を言ったら、なんかいい感じに誤解された。今更、本気で冗談を言ってましたなんて言えない。墓場まで持って行こう。
「いや、いいんだ。今のは俺の無表情による誤解から起こった悲しい出来事だったんだ。お互い水に流そう」
「そうね……。そ、そういう器の大きいところとか……(かっこいいかもなんて)」
最後、なんて言ったんだ?
まぁ、いいや。
現在の一番の問題は、盛大に脱線したがルノワールのことだ。
「ルノワール、不幸になった直接的な原因について知っていたら話してくれないか?」
「私は……ある称号が付いた、その瞬間から運が極端に低くなった……です。名前は、凶星というものです……」
ルノワールが自分の称号について、悲しそうな面持ちで話し始めた。
「その称号にある凶星のせいで不幸が始まったのか?」
「はい、この称号が付いた瞬間……私の運が-10された……です。現在の私の運は、5しかないです……」
やっぱり、称号のせいで運が下がったことは間違いないようだな。ステータスを見た時に不自然過ぎたもんな。
「5!?運が下がるなんて聞いたことないわよ!?それも-10なんて……」
「なぁ、ルノワール。どうやってその称号が付いたか覚えているか?」
「はい、3年前、魔王に……遭遇して、視線があった瞬間に付いた……です」
「「!?」」
俺とレクシャは絶句した。俺の方は、純粋にまさか魔王がここで出てくるとは思わなかったためだ。レクシャの方は、違うみたいだ。
「それって魔眼じゃない!?目を見ただけってところが魔眼の特徴そのままだわ!魔王ってこの大陸にはいないって聞いたことをあるわよ?ルノちゃんはどこで遭遇したの?」
「グラバトス神聖国にある、墓地ダンジョンです……。魔王は、真っ黒なオーラを纏っているから、すぐ分かった……です」
へぇ、この世界の人たちはどうやってそいつが魔王だと判断してるのか疑問だったが、黒いオーラが出てるのか。非常に分かりやすいな。
でも、よく危害を加えられなかったな。遭遇したことは不運としか言いようがないが、物理的に攻撃されなかったのは不幸中の幸いってところか。大魔王もオーラとかあるのかな?それと、グラバトス神聖国ってどこだ……。このままでは話に置いて行かれる!
そこで、頭の中にある疑問をダメ元で〈確認〉してみたところしっかり情報が流れてきた。
『大魔王』
魔王が異常な悪意に囚われることにより、称号が変化し、さらに姿まで変わり果てた者。大魔王が歩くだけで周囲の草木が枯れる程の赤黒いオーラを放つ。その行動理念は、純粋に悪意しかない。1000年前出現した大魔王は、勇者が倒したとされているが詳細は不明。
『グラバトス神聖国』
ガルズ王国から約1000km北東に行った所にある国で、領土はガルズ王国の2倍ある。国が独自の神を崇めており、国民の信奉率は高い。
『魔眼』
特殊能力の一種。目を見た相手に何らかの害を与える眼。様々な魔眼があり、強力なものになるとランダムで相手のステータスにある数値を大幅に下げたりすることができる。状態異常系の魔眼によって害された者は、害を与えた魔眼保持者を討伐しなければ元に戻ることはない。
本当にありがとうございます!〈確認〉先生!
しかも、俺の意思を尊重して、この国を基準にして教えてくれている!なんてすばらしい特殊能力なんだ。これさえあれば、なんでも博士になれるかもしれない。
しっかし、魔眼は厄介だな。目を見るだけって、これは俺も対策を考えた方がいいな。特殊能力を増やすとかしないといけないかもしれん。
ルノワールが遭遇した魔王って奴は、その強力な魔眼を持ってたんだろう。順序的には運が下がった結果、称号の凶星が付いた感じだな。あとは、凶星の詳細がわかればいいんだが……。
「ルノちゃんは、そのグラバトス出身なの?」
「はい、領土内にある、小さな村だった……です。11歳までは、そこにいたんですが、ダンジョンから必死で逃げ帰ってきた後、周りが不幸になったことで、追い出された……です」
「そんな……じゃあ、3年前から周りが不幸にならないように、できるだけ一人で行動してたってこと?」
「はい、でも、なぜか夜だけは不幸なことが、あまり起きないのです……。だから、今日は、気分転換にでもなればと、久しぶりに外食しにきた……です」
「カナデ!わたしはルノちゃんをどうしても放っておけない!どうにかならない?」
俺もどうにかしてやりたいのは山々なんだが、どうしたものか……。
「レクシャ、少し落ち着け。それでルノワールは、なんでそんな年齢でダンジョンなんて危険な場所に行ったんだ?」
気になるところはそこなんだよなー。この子が自分から、そんな危険な真似をするとは思えないんだが。
「村の人達が、黒い猫は不吉の象徴だからって、ダンジョンに無理矢理です……。お母さんとお父さんは、早くに死んじゃったから、止める人もいなかった……です」
「おいおい、それはひどいな」
「なによそれ!そんな村わたしがぶっ飛ばしてあげるわ!」
また、レクシャにぶっ飛ばされるものが増えてしまったな。俺も同感だが!こんな可愛らしい猫耳少女にひどい扱いしやがって!黒猫少女とか最高じゃないか!そこの村人たちには、なぜそれが分からんのです!
それにしても、称号で不幸になる前からそんな扱いだったとは。11歳児をダンジョンに放り込む村って一体……。黒が不吉って考え方は日本にいた頃も聞いたことはあったが、ただの迷信であり、真面目に信じてる人なんか見たことなかった。たぶん、その神聖国ってのが大きな原因だろうな。
そんなことを思いながらもう一度、ルノワールのステータスを〈確認〉していたところ、今度はなぜか凶星についての詳細も〈確認〉できた。
《凶星》
運の数値が5以下になったものに付けられる称号。本人を含め、周りが不幸になりやすくなる。夜の間は効果が薄れる。また、幸運な者と一緒にいることで不幸は大幅に軽減される。
デメリットしかないじゃねーか!ふざけた称号だな本当に。
でも、なんで今回は〈確認〉できたんだ?
いや、それを考えるのは後にしよう。今はそれよりも、この事実をまずルノワールに伝えなくてはいけない。
「なぁ、ルノワール」
「なん……です?」
そう言って、ルノワールが首をかしげている。猫耳可愛いよ猫耳!
じゃなくて……。
「ルノワールは俺とずっと一緒に居た方がいい」
「……へ?そ、そ、そそれって、こ、告白なの……です?」
「あ、あああんた何さらっとプロポーズしてんのよ!」
奏に見つめられながら、そう宣言されたルノワールは顔をゆでだこのように真っ赤にさせ、その場でショートしてしまった。魅力60の男に真顔でそんなことを言われたら、誰だってこうなるだろう。
奏が持っている一番の反則は、実はこの魅力なのかもしれない。
一方、レクシャはルノワールに対しての奏のプロポーズ?を聞き、盛大にパニックを起こし、反射的にツッコミを入れていた。流石である。
ここに致命的なまでの説明不足が原因で招いた、しょうもない事件が発生したのだった。
言うまでもないが、犯人は奏だ。