日常の終わり
昼食を終えて一息ついていると、二人の女子が俺の机の近くに来て止まった。その二人は俺もよく知っている女子でクラスのアイドル瀬川ちなつとクラスのマスコット的存在である海老原琴美だった……。チラッと様子を見てみると二人はなんだか少し険しい表情をしている。
この二人に何かしたっけ?してないはず……。だって話したことないし。いや、待てよ。もしかして今日の朝、瀬川ちなつと数秒目が合った件か?で、「何見てるのよ……この変態!」となるわけだな。
さすがにそれはないな。思考がネガティブに飛び過ぎたようだ。第一、瀬川ちなつってこんなキャラじゃないしな。たぶん……。というか、海老原琴美はホントにロリッ娘だなー。ロリでツインテールとか……。ん?ツインテールだからロリに見えるのか……?。まぁ、どっちでもいいか。かわいいし。三日月タイプのラビット・スタイル!ひとつ確実なのはナイスツインだということだ!
ちなみに俺はロリコンじゃないよ……?ホントだよ?ツインテールが好きなだけだしっ!
そんなしょうもないことを考えてたら瀬川ちなつが声を掛けてきた。
「あ、あの今少しいいかな?」
「ああ……」
何の用だろうか。「ちょっと表出ろや」とかじゃないよね?あと君も絶対ツインテール似合うよ。見てみたいなー。大和撫子のツインテール。海老原琴美と二人並んで美少女ツインテ姉妹といったかんじに……。ムフフ……。想像したら理想郷が見えたよ。ダメだ。これ以上想像したら鼻血が出そうだ……。少し控えよう。
しかし、こういう時に無表情は役立つなー。どんなにいかがわしい想像をしてもばれないからな。
「わ、私と琴美ちゃんがかn……早乙女くんと同じクラスなのはし、知ってるよね?」
「当然だ……」
半年間同じクラスで勉強してきて知らない方がおかしいだろ。俺を何だと思ってるんだ瀬川ちなつよ……。確かに滅多に人と関わらない俺だが、さすがにクラスメートのことは把握してるぞ。
「そ、そのせっかくクラスメートなのに今まで全然話せてなかったから……あ、あの……」
「ちなつ……。ほらっ、がんばって!私もいるから。一緒に言おう」
一体これから何が始まるのだろうか。よく分からんけど緊張してきたぞ……。あれ?なんだかクラスが静かだな。しかも、四方八方から視線を感じるぞ……。
「「私たちと友達になってください!」」
その刹那、教室がさっきとは比べものにならないくらいシーンとなり、一拍置いて教室のあちこちから声が上がり出した。
男子の場合は――
「う、嘘だろ……。我らがアイドル瀬川さんが自分から声を掛けただとっ!?」
「やはり顔なのか!すべては顔なのか!」
「琴美ちゃん!イケメンは危険なんだ!イケメンは敵だ!」
「あっ、はいっ、一重を二重にして鼻を少し高くs……」
「お前どこに電話してんだ!落ち着け!」
女子の場合は――
「まさかっ、先手を取られるなんて!わたくしとしたことが一生の不覚ですわっ!」
「牽制しあってたのがバカみたい……。こうなったら私も……」
「わたしは沢木くん派だから。沢木くん派なんだからっ!」
「どうせだったら早乙女くんと沢木くんの二人の絡みが見たかったのに。誰にも見つからないように放課後こっそり会う二人!そんな二人は遂に禁断の関係へ……!ぐヘヘ……」
「えっ、ただ友達になるだけの話だよね?みんなどうしちゃったの?」
ついに私と琴美ちゃんは今まで勇気が出なくて踏め出せなかった一歩を踏み出せたよ~!。緊張しすぎて奏くんに話しかけようとする度にうまく呂律が回らなかったけど……。それに危うく脳内と同じく「奏くん」って呼びそうになっちゃったよ!いきなり名前呼びして気安い女とか思われたくないし……。
それにしても、クラスの女の子たちが奏くんに対して色々思ってるのは薄々気づいてたけど、今回で確信したよ!ライバル多すぎだよっ!みんなやっぱり狙ってたんだねぇ。彼は人気のある3人の中のひとりになってるけど、それって誰が選んでるのか前から疑問に思ってたけどこんなにもファンがいたら納得だよ……。
でも、ホントに琴美ちゃんが一緒に居てくれてよかったよ……。私一人だったら恥ずかしくてこの空気に耐えられそうにないし……。ありがとう琴美ちゃん!一応、恋のライバルなんだけどね!
あぁ……。このクラスのみんなが注目してる中、もし断られたら……。
琴美ちゃんと一緒にどこか遠くへ旅にでも行きたいなぁ。一緒に行ってくれるかなぁ……。
あっ!そんなことを考えてる間に奏くんに動きが!
すべてを魅了するような奏くんのその口から言葉が紡がれようとして――
なんだか異常なほどクラス中がざわざわしているが、そんなことはもはやどうでもいい。今、俺の内心はうれしさで満ち溢れている。うれしすぎて爆発しそうだ。「友達になってください」と二人は確かに言ったよな。こんな一緒に居ても絶対に楽しくなれないような奴と友達になってくれるなんてっ!やっと俺にもちゃんとした友達が!こんな時にも無表情なのが申し訳ないが、そろそろ昼休みも終わるし恥ずかしそうに顔を赤くしてる二人に早く返事をした方がいいだろう。
よしっ!
出来る限り二人に俺のうれしさが伝わるように「よろしく」と言おうとした瞬間
突如、その場に立っていられない程の強烈な揺れがクラスを襲った。
そして、教室は眩いばかりの白い光に包まれた――――