ルノワールという少女
いきなりの猫耳少女出現に戸惑い、揺れるしっぽを凝視し固まる奏。それとは対照的に「ええ、大丈夫よ」と自分の隣の席を勧めるレクシャ。奏の場合、しっぽに気を取られすぎである。
「ありがとう……です」
「いいわよ別に。カナデもいいわよね?」
「もちろん」
おっと、いけない。地球では上下左右自由に、自然な動きで揺れるしっぽを持つ猫耳少女なんて、いなかったもんだから思わず見とれてしまった!ミザリーさんのしっぽはカウンター越しでよく見えなかったから仕方ない……。
しかし、ミザリーさんという犬耳少女の次は、猫耳少女か……。昨日は、レクシャに出会えたわけだし、俺はなんて幸せ者なんだろうか。宿屋のジャックのオッサンやケイミーちゃんもいい人だし……、この出会いに感謝しないとな。
そんなことを思っているうちに猫耳少女が既に座っていた。
「あの……せっかく、お二人のところを……ごめんなさいです」
「べ、別に二人だからって、や、やましいことはしてないわよ!」
「そ、そうですか……」
レクシャよ。誰もそんなこと追求してないだろ……。なぜ自分から変な方向に行ってしまうんだ!いまさっきまで、猫耳ちゃんにしっかりとした対応してたじゃん!猫耳ちゃんが困ってるよ。ここは俺とバトンタッチだな。
「すみません、この人少し変な子なんです」
「そ、そうなんですか……」
レクシャが「誰が変な子よ!誰が!」とか騒いでいるが気にしない。
まだ、戸惑っている猫耳少女を今のうちに観察してみると、黒いひらひらしたワンピースみたいな服の上から、レクシャと同じような薄い胸当てをしている。
えっ、何?その薄い胸当て流行ってるの?レクシャのステータスでは胸当ては装備として反映されてなかったけど……。防御力ないってことだよねそれ。異世界ならではのファッションっていうやつかな?
なんか、不思議なオーラを感じる子だしステータス〈確認〉やっとくか。
ルノ・ヴィノワール 女 猫獣人 14歳
レベル18
HP109
MP35
攻撃力:92(+13)
防御力:80
素早さ:152
魅力:33
運:15(-10)
武器:黒狼石の短剣(攻撃力+13)
【特殊能力】
気配遮断
【魔法】
なし
【称号】
凶星
はい、出ました!この子何かあるなと思ったらこれだよ。レベルが俺とレクシャより高いのは、よくあることだ。素早さがかなり高いのも、まぁ理解できる。特殊能力からしてかなり優秀そうだ。
でも、運が-10されてるのはなんでだ?それでは、運が5しかないことになる。俺が最初に遭遇したゴブリンでも運7はあったので、ゴブリン以下の運になってしまってるのかこの子……。
となると……怪しいのはこの称号にある凶星だな。というかこれしかない。こんな不吉な称号もあるのかよ!この子、大丈夫なのか?
調べたいけど、他人のステータスにある能力や称号を詳細に〈確認〉しようとしても何も起こらないんだよな~。これは、レクシャに試して実証済みだ。自分のはできるのになぁ。何か条件でもあるんだろうか?
「あ、あの……そんなに、見つめられると……その……です」
「……すまん」
やってしまった。この〈確認〉は相手の目の前にあるステータスを凝視しないといけないからなー。どうしても、相手に見つめていると思われるのが難点だ。チラ見で解決できればいいんだが……。うん、無理そうだ。自然な感じで相手を観察する技術の方が簡単だろう。
「あんた、またやってたの?わたしの時も見つめてた時があったわよね。き、急に見つめられると結構恥ずかしいんだからね!次からは事前に一言入れてから見つめなさいよね!」
「斬新な怒り方だな」
「お二人とも……仲が、いいんですね……」
レクシャのその言い分だと、俺は「今から君を見つめるよ」とか言えばいいのか?自分で想像しといてなんだが、思わず吐血しそうなくらいキモいな。却下だ却下。
仲は確実にいいのかもな!人から言われると照れるが……実はすごい嬉しかったりする。レクシャも恥ずかしいのか若干顔が赤くなっている。かわいい。
「よしっ、せっかく相席したんだしこの子に自己紹介するわよ!わたしはレクシャ・レッドフォード。そして向かいの席にいるのがカナデ・サ……、カナデよ。そう、カナデよ!」
ルノちゃんも料理を注文し終わり、全員で料理を黙って待ってるのも微妙なので、レクシャが自己紹介を始めた……って、レクシャが全部言うのかよ!そして、紹介するなら責任持ってちゃんと言いなさい!絶対コイツ俺のサオトメを忘れてやがるな。
「よろしく、お願いします……です。レクシャさん、カナデさん。私は、ルノ・ヴィノワール……です」
「よろしく!ルノちゃん?ヴィノちゃん?何て呼んだら一番いいの?」
「ルノちゃん……って呼んで、もらえたら嬉しい……です。でも、ルノワールって呼ぶ人も多い……です」
「じゃあ、わたしはルノちゃんで!そして、カナデはルノワールね!」
「あ、あの……こんなに、仲良くしてもらったのは初めてだから、本当に嬉しい……です」
そう言って恥ずかしそうに顔を俯かせた。俺にルノワール呼びを強制したレクシャには不満があるが、ルノワールもいい響きだし別にいっか。
そんなことより!なにこの黒猫耳美少女!可愛いんだけど!超可愛いんですけど!おっとりした目元なのもすごくいい。
レクシャも同じことを思ったみたいで、「なにこの子!可愛い!」とか言いながら、ルノワールを抱きしめていた。
しかし、最後のルノワールの言葉には考えさせられるものがあるな。こんなに可愛らしいのに「仲良くしてもらったのは初めて」と言っていた。気になりだしたら止まらない俺は、意を決してルノワールに、さっきの言葉の詳細を聞いた。
ルノワールは一瞬話すかどうか迷う素振りを見せたが、何かを決意した表情になり、自分の境遇について話し始めた。