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ついに冒険者

 冒険者ギルドに行くため奏とレクシャの二人が宿屋の一階に降りると、相変わらず鎧姿で座っている受付のジャックが声を掛けてきた。



「お前ら、出かけんのか?」


「ええ、今日中にカナデの冒険者登録をしときたいのよ。コイツとは一緒のパーティーになるんだから!」



 ジャックの問いに元気よくレクシャが答え、奏に期待の視線を向けた。



 そうかそうか。そんなにうれしいか。しかし、慣れてないもんだから、美少女にそんなに見つめられると照れる……。



「おっ、これから冒険者登録か!それにパーティーか!思えば俺が冒険者登録してから、ちょうど30年か。お前らの冒険はこれからだな!いや~、若いってのはいいねぇ~」


「何言ってんのよ。おじさんだってまだまだ現役でしょ?」


「がはは!ちげぇねぇ!」


「じゃあ、行ってくるわね」


「おう、張り切って登録してこい!」



 やっぱり、ジャックのオッサンも冒険者だったのか。粋な冒険者探してるくらいだからそうだとは思ってたが。


 ん?ちょっと待てよ?オッサンは30年前に登録したと言った。現在、オッサンは39歳だったはず……。ということは9歳で登録したってことか?冒険者って子どもでも登録できるのかよ……。たぶん、この世界では常識なんだろうから、レクシャにいちいち質問しないが。



 こうして奏たちは、東エリアとは反対の西エリアにある冒険者ギルドへと向かった。



 冒険者ギルド前に到着して、まず奏が思ったことは「なんで扉だけウェスタン?」である。建物自体は、白を基調としたそこそこ立派な造りなのに、扉だけは西部劇に出てくる酒場を思わせるような作りになっている。


 扉を押して中に入ると、そこは冒険者たちでごった返していた。正面に受付らしきスペースがあり、5人の受付嬢が冒険者たちの相手をしている。一番左の受付嬢の前以外、それぞれ4人の前に列ができており、冒険者たちが騒ぎながら並んでいる。右側には簡易な酒場のような場所があり、冒険者たちが互いに大きな声で話しながら酒を飲み、料理を食べている。



「なぁ、どこの冒険者ギルドもこんな感じなのか?」


「この街の冒険者ギルドの混み具合は異常よ!王都の冒険者ギルドも、ある程度は混んでたけどここまでじゃなかったわ!それに加えて、朝とこの夕方の時間が一番混むことを失念していたわ……」



 夕方というのを抜きにしてもこのギルドの混雑具合は異常らしい。何かお金になる魔物でもこの辺に出没したのだろうか?



「まぁ、この混雑のことは置いておくとして、あの一番左の受付嬢のところに列がないのは、もしかして登録専用の受付とかなのか?」


「そうよ!ついに登録出来るわね!ちょうど話してた冒険者もいなくなったみたいだし行きましょっ」



 

 

 受付嬢の前に立って、初めて気づいたのだがこの子は神爺が言ってた獣人じゃないか!?かわいい犬耳が頭についてるぞ!初めて見た!いかんいかん。耳を凝視してる場合じゃなかった。



「冒険者登録をしたいのですが」


「冒険者ギルドへようこそ!私は受付をしてるミザリー・フィオネスと申します!まずは、この紙に記入をお願いします。記入後に冒険者としての注意事項を説明しますので!」



 ニコニコ元気な子だね!ピコピコ動く犬耳もグッド!なんて、チャーミングな耳なんだろうか。



 そんなことを思っていたのがばれたのかは知らないが、後ろに控えてるレクシャが咳払いをしてきたので、奏は仕方なく渡された紙に情報を書き始めた。


 記入項目は名前、年齢、得意武器、特殊能力、魔法だった。名前と年齢を書いた段階で奏は受付のミザリーさんに質問した。



「これは全部書かなくてはいけないのですか?」


「いえいえ、名前と年齢だけで登録する方もたくさんいるので大丈夫ですよ!詳細に書いていただければ、いざという時にこちらがサポートしやすいというだけですので」



 なるほど、俺は名前と年齢だけでいいや。後ろのレクシャに聞いてみると「わたしも名前と年齢だけで登録したわ!」と言っていたので大丈夫だろう。サポートって、わざわざこちらの情報を渡す対価としては、ちょっと弱すぎるし。



「では、これでお願いします」


「はい!カナデ・サオトメさんですか。珍しいお名前ですね!ご出身はどちらなんですか?」



 出身か~。まさか「異世界から来ました」とか言えないしなー。神爺がアルガルドは地球の5倍の大きさとか言ってたし遠くから来たってことでいいだろ。



「かなり遠くから来ました」


「なるほど。アルガルドは大きいですからね。私の知らないところから来たんですね!なんたって、このレグルス大陸だけでも把握しきれませんから!」



 どんだけデカいんだよこの大陸……。



「冒険者プレートは今日作れるものなんですか?」


「はい!今から魔法技術士がお作りしますので15分ほどお待ち下さい!その間に冒険者ランクのことと冒険者として活動する上での注意事項を確認しちゃいましょう」



 

 ――ミザリーさん説明中――




 説明を聞きながら思ったことは、冒険者ランクの細かさである。子どもも登録できるが、12歳未満は街の中で、それも報酬の安い非常に単純なクエストしか受けられないらしい。ジャックのオッサンは9歳の時に、この制度で登録したのか。12歳未満は冒険者ランクで一番下のランクGで、どんなに頑張ってもランクの変動はない。


 12以上はランクFから始まり、最高ランクはSSS(トリプルエス)まである。もっとも、現在の冒険者で最高ランクはSまでしかいないらしい。SSSはもはや伝説レベルなんだと。どうして作ったSSS……。


 Aランクまでは、それぞれのランクに下位と上位がある。俺はFの下位スタートということだ。SSSランクどころか、Sランクの影すら拝めない位置である。


 冒険者としての注意事項は、大まかに言うとクエスト失敗による罰金とクエスト遂行期間を過ぎた場合による罰金。それと、冒険者同士の争いは基本ギルドは関与しないというものだった。




 ミザリーさんの説明が終わった頃、ちょうど俺の冒険者プレートが完成したらしい。ミザリーさんが笑顔で「これでカナデさんも冒険者ですね!」と言って渡してきた。


 実に可愛らしい犬耳っ娘だ!いつかはそのピコピコと活動的な犬耳を触りたいものですな!



 気付いたらギルド内も、だいぶ人が減っていた。俺たちもそろそろ宿へ戻るとしよう。



「丁寧な対応ありがとうございました。では、俺たちはそろそろ行くとします」


「丁寧だなんて……そんな!でも、そうですか……。もう、帰っちゃうんですね。私としても、久々に丁寧な言葉使いの方が来てくれて嬉しかったです。これからは私の姿を見かけたときは、どんどん声を掛けて下さいね!」


「ええ、もちろん。どうせ明日来ると思いますけどね」


「そうなんですか!では、また明日お会いできることを楽しみにしてます!」




 こうして俺たちはギルドを出た。





 宿への帰り道、渡された冒険者プレートを見てみると緑色だった。おそらくFランクの色なんだろうなー。レクシャのは緑じゃなくて黄色だし。プレートを見てるとレクシャが声を掛けてきた。



「ねぇ、カナデ。あんたって天然ジゴロとかいうやつなの?」


「ジゴロ?何を言ってるんだ?しかし、すごく感じのいい人だったなミザリーさん。明日会えるのを楽しみにしてるって、お世辞だと分かってても男としては嬉しく感じるものだ」





 この時、レクシャは思った。あれはお世辞以外に別の感情も混じっているように感じた。もしかしてカナデの魅力値ってすごい高いのではないかと。


 そして、宿に到着してから気づいてしまった。カナデが冒険者になったことを素直に喜んでいたら、パーティー登録するのを忘れてしまったことに。



 

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