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到着、ディーレの街

 早朝、見張りを終えて、奏はレクシャを起こすためにテントの中を覗き込んだ。テントの中には、薄い金属の胸当てを外して、これまた薄い胸を上下させながら幸せそうに無防備で眠るレクシャの姿が奏の目に飛び込んできた。もし、覗いたのが奏ではなかったら襲われてもおかしくない恰好である。


 



 ――数分後――



 

 

 レクシャは、奏が覗いてるのにも気づかずに、相変わらずむにゃむにゃと眠っている。一度だけ「レクシャちゃん。朝ですよー」と声を掛けたが無反応だった。起きる気配が全くしないレクシャを奏はどう起こそうかと考えていた。普通に揺すって起こすのでは面白くない。レクシャが一発で飛び起きるような案はないものかと。本当にレクシャに対しては謎のSっ気を見せる奏だった。


 一つだけレクシャを起こす案を思いついた奏は、それを実行に移すことにした。



 

 レクシャの耳元まで奏は口を近づけ……



「奏、パーティー抜けるってよ」と呟いた。




 反応は劇的だった。


 それまで閉じられていた目がくわっ!と開き、がばっ!っと体を起こして一言叫んだ。



「認めないわよ!」



 その様子を無表情で見つめていた奏は思った。


 

 あっ、今日も安定してレクシャだなと。



「ちょっとカナデ!今のどういうことよ!」


「落ち着け。起こすために仕方なく言った冗談だ」


「よかった……冗談だったの。不安になったじゃない!バカ!」


「すまんすまん。あまりにも起きそうになかったからつい」



 本当にかわいいなレクシャは!かわいそうだからこの起こし方は今回限りでやめて、次からは別の面白い起こし方にしよう。



 あまり反省してない奏であった。




 朝食は、昨日と同じパンに燻製にした何かの肉を挟んで食べた。鳥、豚、牛といった肉の味ではなく初めて食べる味だった。試しに燻製肉を〈確認〉したところ『キラーバイソンの燻製肉』と情報が流れてきた。予想よりはるかに恐怖を煽る名前だったので、奏は自然と情報をスルーした。



「さぁ!朝食も食べ終わったことだし出発するわよ!カナデ、準備はいい?」


「ああ、大丈夫だ」



 今日はディーレの街までたどり着けるということもあり、レクシャは昨日よりさらに元気全開な様子だった。見ていて元気になれる子である。



「夕方までには着けると思うわ」


「じゃあ、出発しますか」





 野営場所から出発して街道に出ると、馬車が走っていた。レクシャに聞いてみると、あれは乗合馬車というらしい。王都とディーレの街を人を乗せて往復してるタクシーみたいなものだと奏は認識した。そこで奏は疑問に思った。



「あれに乗ってディーレまで行ったらダメなのか?」


「バカみたいにお金をぼったくられてもいいなら利用するけど……」


「……遠慮しとく」


「よっぽど遠くまで行かない限り利用は控えるべきね。それにお金のある冒険者は馬車を自分で買うのよ」


「余裕で買えるくらい稼ぎたいものだな」


「わたしとカナデなら余裕よ!」



 レクシャのこの自信は一体どこから来るのだろうか?と不思議に思う奏だった。


 

 そこから少し歩き、なんだかレクシャの歩き方がわずかだがおかしくなり、顔を赤くして何かに耐えていそうな顔になっている。そのことに気づいた奏は、「なぁ、ちょっと用を足したいんだが時間もらっていいか?」とレクシャに尋ねた。その瞬間、レクシャの顔がぱぁっ明るくなり、「しょうがないから時間をとってあげるわ」と嬉しそうにしていた。


 奏はこういうことを女性の方から言い出し辛いことを知っていた。そういう方面には気が利くのに、恋愛方面には鈍感になるのはなぜなのか。



 トイレタイムが終わり、再び歩き出してディーレに向かう途中、街道沿いで左耳を切り取られたゴブリンの死体を見つけた。レクシャが「たぶん雇われた冒険者が馬車の護衛として倒したのよ」と言っていたが、なるほどそういう仕事もあるのかと奏は一人納得していた。


 なんでも、普通は王都とディーレを結ぶこの街道付近には魔物は姿を見せないらしい。なので、レクシャは一人でディーレを目指すことにしたのだが、まさかのゴブリン3匹出現で驚いたということだった。これは、大魔王が誕生したことに関係しているのか、それとも全く関係ないのか。大魔王の方だったら沢木たちに任せる。他の要因だったらできる限り俺も頑張ろうと、奏はしょぼい決意を新たに歩き始めた。


 自分周辺に降りかかる災い以外は、極力他人任せな男。それが奏である。



 

 それからしばらく歩き、レクシャの言う通り、日が落ちる前にディーレの街の門前まで来れた。門ではチェインメイルを着た兵士っぽい方が立っており、その兵士の前に人々が列を作っている。自分の身分を証明しているらしい。当然、奏はそんなもの王城のカイゼル髭やモーゼから、受け取っていない。こうなることを分かっていながら、渡さなかったであろう髭たちにイラッとした瞬間だった。


「なぁ、相談があるんだが……」


「どうしたの?」



 レクシャに身分を証明するものを持っていない話をすると、「あんた本当に何者なのよ!」とツッコまれたが、ちゃんと対処法を教えてくれた。レクシャ大好き!


 聞くところによると、兵士にお金を払えば通してくれるらしい。ザル警備すぎるだろ……治安とか大丈夫なのか?それと、街に入ってしまえば、冒険者ギルドで冒険者プレートを貰えるので、次からはそれを見せればいいらしい。


 

 今、気づいたんだがもし俺一人だったら、時を止めて門を通っちゃえばいいんだよね。相手に干渉できないってだけで、時間停止自体はできるわけだし。レクシャがいるからやらないけども。


 そんなこと考えてるうちに、俺たちの順番が来て、銀貨2枚を払ったら普通に門を通れた。ちなみに旅の道中、レクシャにさりげなく聞いて分かったことだが、アルガルドには銭貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨、黒金貨があるらしい。俺が手切れ金として貰ったお金は、金貨2枚、銀貨10枚、銅貨50枚だ。さっき銀貨2枚払ったので銀貨の残りは8枚だが。


 

 そんなことより、門を抜けた先には当たり前だがディーレの街があった。街並みは王都から近いこともあり、そこまで変わった感じはしない。街の中央には大きな噴水があり、周りは人々の憩い場となっている。あの噴水はレーネの噴水というらしい。なんだか観光スポットみたいだな。



「宿は東エリアにたくさんあるらしいわ!向かうわよ!」


「あいよ」



 奏は張り切っているレクシャを先頭にしてその後ろについて行った。




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