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二人旅

 奏とレクシャの二人はディーレの街を目標に街道を歩き始めたのだが、移動中、奏はレクシャにしきりに話しかけられていた。



「カナデって歳いくつなの?」


「16だが」


「へぇ、わたしの1つ上なんだ」


「レクシャは15だったのか」



 まぁ、事前に知ってたけどね。「実はレクシャのステータス調べたんだ」とは言えない。特に女性に対しては口が裂けても言えない。



「意外?わたしの色気からしてもっと年上かと思った?」


「どの口が色気とか言ってんだ。むしろもっと年下かと思った」


「なっ!わたしがお子様だって言いたいの?」


「いいじゃないか。女性は若く見られたい生き物だって誰かが言ってたぞ?」


「わたしは大人に見られたい年頃なの!」


「はいはい」



 レクシャに色気を求めるのは難しいだろうなー。あと5年くらい経ってもこんな感じで変わらなそうだもん。大人ぶりたいところとかは素直でかわいいけどな!



「何よ!そっちは大人ぶっちゃって。1つ上の余裕ってやつ?」


「これからは俺に敬語を使ってもいいんだぞ」


「使わないわよ!手ぶらで旅に出る奴なんかに!」


「ごもっともで」



 そこを突かれると痛いな。ぐぬぬ……何も言い返せない。やるなレクシャよ!



「ふん、分かればいいのよ」


「お詫びにこうしてリュック持ってるからその件は今後話題に出すの禁止」


「リ、リュックのことはあ、ありがたいと思ってるわ!」


「張り切った結果、余計なものを詰め込みすぎて旅に支障が出る重さになっちゃったんだっけ?」


「しょ、しょうがないでしょ!女の子の一人旅は何かと大変なの!」


「今は二人旅だけどな」



 しかし、よく考えるとレクシャのレベルで一人旅って厳しくないか?現にゴブリンに囲まれてたわけだし。俺が通らなかったら怪我の1つや2つ負ってたかもしれないんだよなぁ。なんだかディーレの街で俺と別れた後が心配になってきたぞ。せっかくここまで話せる仲になれたんだし、しばらく一緒にいられる方法はないものか……。



「そ、そうね!ふ、二人だもんね……(二人きりなのよね)」


「レクシャの一人旅とか危険極まりないからな」



 なんだ……?最後ぶつぶつ言って聞こえなかった。レクシャのレベルは3だったから今まで王都周辺で冒険者をやってたのかな。慣れてきたからディーレの街に拠点を置くのかもしれない。



「どういう意味よ!わたしだってもう一人前なんだから!」


「ゴブリン相手にもたついてたのは誰だっけか?」


「うっ、あれは1対3だったからで……」


「一人前の冒険者はそんな言い訳はしないと思うけどなー」


「そ、それは……」



 おっ、レクシャが立ち止まり、俯いて体をぷるぷる震わせている。しかし、ここで甘やかすわけにはいかんのだ!命に関する重要な問題だからな。こっちが一人で不利だからといって、相手は待ってくれないからな。これは俺自身にも言えることだが……。


 

「……」


「……」


「……おい。少し俺が言い過――」


「そうだわ!なんで思いつかなかったのよ!わたしのバカ!」



 立ち止まってぷるぷるしているレクシャがあまりに庇護欲をそそったので、つい俺が声を掛けようとしたが、途中でレクシャの声に遮られた。あっ、この子全然反省してないや。顔を上げたレクシャはすごく充実した顔をしていた……。



「いきなりどうしたんだ?」


「カナデ!あんたとわたしでパーティーを組みましょ!」


「パーティー?」


「そうよ!パーティーよ!これで二人でいても何の問題もないし、あんたと離れなくて済むわ!」


「え?」


「あっ……」



 レクシャが顔を真っ赤にして、あたふたしながら「今のは……違くて!う、うそなのよ!び、びっくりした?」とか言って必死に弁解している。超かわいい……何このかわいい生き物!そんなに俺と離れたくないのか~。たぶん、一人で冒険者やってたけど実は寂しかったんだろうな。差し詰め俺はレクシャのお兄ちゃんみたいな扱いなのかもなぁ。



「分かった。パーティーを組もう」


「ホントに!?嘘じゃない?」


「ああ。本当だ。俺はまだ冒険者ですらないけどな」


「よかった!冒険者なんてギルドで登録すればすぐになれるわよ!」



 レクシャが顔に花が咲いたような笑顔を浮かべて喜んでいる。俺としては金髪ツインテール美少女の笑顔が見れただけで、昇天しそうなくらい嬉しいのだが。生きててよかった!異世界ありがとう!俺は今、幸せです。



「すごい嬉しそうだな」


「う、嬉しいわよ!初めてのパーティーなんだんだから!それに……」


「ん?」


「なんでもない!」



 チラチラとこちらを見ているがどうしたレクシャ。


 おっ、早足で先を歩き始めた。



「どうした急に歩き出して」


「パーティーを組むんでしょ?そうと決まれば早くギルドに行って登録したいじゃない!」


「元気なことで」


「ほらっ、カナデもちゃんとついてきて!」


「はいはい」



 こうして俺たちは予定より早く野宿するポイントにたどり着いた。ここまで来る途中、何度かゴブリンと出くわし、戦闘になったが特に苦戦することもなく討伐できた。レクシャはその最後の戦闘でレベル4になったらしく、俺から「おめでとう」と言ったら笑顔で「ありがとう!」と答えていた。こういう何気ないやりとりを普通にできるあたり、レクシャとはかなり打ち解けたと思う。それにしても、本当に素直でいい子だな。何があっても守ってやらねば!



「テントも張り終わったことだし少し早いけど夕食にしよっか。お腹すいてる?」


「そう言えば今日昼飯食べてなかった。なんだかごちゃごちゃしてたからすっかり忘れてた」


「まったくあんたは……。しょうがないわね~。これからは同じパーティーになるんだし、わたしが持ってる食料を分けてあげるわ!」


「悪いな」


「いいわよ。これくらい」



 それから俺たちは、少し硬めのパンに塩っ気の足りないハムみたいのを挟んで食べた。レクシャが「あんまりおいしくないわね」と呟いたのが聞こえたが、こちらは食料をいただいてる身分なので同意しないで黙々と食べた。水に関しては木製の水筒のようなものから二人で分け合って飲んだ。レクシャが「間接キス……」と言って顔を赤くしながら飲んでたが、やっぱり嫌だったのかな。当然、俺がこのイベントに感謝したことは内緒である。


 寝る時はどちらかが見張りをすることになり、今回は疲れていそうなレクシャを寝かせることにした。本人は「疲れてないわ!交代で見張るわよ!」とか言っていたが、今回だけは俺が見張りの練習をしたいということで納得してもらった。


 しばらくテントを背にして見張っていると、テントの中からレクシャが声を掛けてきた。



「カナデ……聞こえてる?」


「ああ」


「本当はね、カナデがわたしとパーティーを組んでくれるかすごい不安だったの」


「なんでだ?」



 レクシャがこうして自分の胸中を話してくれるのは、テントを隔てていることで視線が合わないというのもあるんだろうな。昼間のレクシャだったら、こんな遠慮がちな空気は考えられないからな。



「今、失礼なこと考えてた?」


「……カンガエテナイヨ」



 なんでこの子は時々、人の考えが分かるんだ?女の勘ってやつですかい?



「微妙な間があったけど……まぁ、いいわ。不安だった理由はね、わたしが弱すぎてカナデの足を引っ張るんじゃないかと思ったの」


「そんなことはない。実際、レクシャの相手の攻撃を躱す技術はすごいと思う。焦らなくてもレベルはこれから上げていけばいい」



 俺なんてレベル2だぞ。俺のレベルを知ったらレクシャは絶句しそうだな。



「ありがとう。それに提案した時にカナデが真顔だったのも不安になった一因よ?」


「あのなー、あの時だけじゃなくレクシャと出会った時から常に無表情なんだが」


「ふふっ……。それもそうね!あ~なんか言いたいこと言えてスッキリしたわ!お休み!」


「そりゃよかった、お休み」



 しばらくして、テントの中からは物音が聞こえなくなりレクシャが寝たことが分かった。


 俺も見張りに専念しますかね……。







 一方、レクシャはテントの中でまだ起きたまま考え事をしていた。



 考えてみればカナデとは今日出会ったばっかりなのよね。最初はムカつくイケメン無表情って印象だった。なのにもうパーティーを組む関係にまでなっちゃってるんだから不思議ね。王都にいた頃は、わたしとパーティーを組もうとする奴らは欲望丸出しで、いやらしい視線を隠そうともしなかったのに……。カナデの視線はかなりの頻度でわたしの頭に向いてるし。カナデはちょっといじわるだけど、一緒に居て安心できるのよね。あっ、気づいたらわたし、アイツのことばっかり考えてる……。寝よう。





 


 こうして奏とレクシャの二人旅の初野宿は、深夜に魔物が襲撃してくることもなく無事終了した。




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