旅立つ前に
ゴブリンを倒し終わった奏はレベルが上がったであろう自分のステータスを〈確認〉していた。ちなみに、レクシャはなぜかゴブリンの左耳を切る作業をしている。後で理由を教えてもらおう。
サオトメ カナデ 男 天人 16歳
レベル2
HP24
MP35
攻撃力:20(+2)
防御力:19
素早さ:25
魅力:60
運:50
武器:棍棒(攻撃力+2)
【絶対能力】
時間停止(5s)
【特殊能力】
確認、空き(4)
【魔法】
【称号】
異世界人、勇者、絶対神の孫
ステータスの上がり幅が大きいんだが……。勇者はみんなそうなのか?攻撃力も棍棒さんのおかげで22になるし。MP上がってるけど、肝心の魔法がなけりゃ意味ないよね。魅力と運は上がらないのか。レベルが上がるたびに運も上がっていったら、幸運な人の数がすごいことになるから無理もないか。魅力はよく分からん。
この際だから、自分のステータスで調べてない箇所を〈確認〉しとこう。
『天人』
天使と人との間に生まれたハイブリット種族。天使の特徴を引き継ぎ、レベルが上がる際にステータスの上昇値も大きくなる。また、特殊能力が2つという特徴も引き継いでいる。天使の血が流れていることで無表情になりやすいが、人間の血も流れているので表情を変えることが可能。
《魅力》
その人が持っている天性の才能。本人次第ではさらに上がることもある。魅力値が大きければ大きいほど、人を惹きつけやすい。
《運》
生まれ持ったもの。30あれば幸運と呼ばれる。
<棍棒>
ゴブリンが自分で作った木でできた棍棒。攻撃力は作ったゴブリンの腕次第で変わる(誤差の範囲)。
【特殊能力】
魔法とは違い、MPを消費せず使える能力。能力の幅が非常に広く、戦闘向けの能力はもちろん非戦闘向けの能力まである。同じような能力に見えても実際は全く異なる性質だったりと、能力の種類は数えきれないほど存在する。一見弱そうな能力でも、使い方や能力自体を詳しく理解することで、驚異的な力に化けることがある。
(空き)
特殊能力欄に存在する自分にしか見えない表示。何らかの特殊な条件がありこの状態になるようだが詳細は一切不明。その時、自分が本当に求めている能力が手に入るという規格外な効力を持つ反則じみたもの。
【魔法】
MPを消費して使う。魔本などを見て努力して覚えるか、ダンジョンなどで魔道書を手に入れて吸収するやり方もある。非常に稀だが、称号次第ではその恩恵で覚えることもある。また、生まれた時から才能があり、魔法を有している者もいる。勇者などは召喚された時から、その身に魔法を有していることが多い。
……レベルアップ時のステータスの上昇は天人の恩恵だったのか。今は空き(4)だが、元々あった特殊能力の空き(5)は、異世界人、勇者、天人の恩恵を合わせた数だったと……。
(空き)の説明にある何らかの特殊な条件って、確実に茶室空間を経由することだろ。結果的には、いい感じになったけどさ。茶室空間を経由することで生じる特殊能力の(空き)のことくらい、一言欲しかったよ神爺。たぶん忘れてただけだろうな。
次に、魅力は……これ本当なのか?人を惹きつけるって。いや、〈確認〉先生を疑ってるわけじゃないんだが。レクシャは魅力35だったから俺より低いことになる。ツインテールで俺より魅力が低いのはありえないだろ!
運は……あれ?30が幸運だと?50の俺は……豪運とか激運とかなのかな。こうして金髪ツインテ美少女と出会えたわけだし信憑性はある。もしかしたら運のおかげで次々に女の子と出会えたりして……。そしていずれはハーレムなんてことに……ムフフ。
「カナデ……。あんた今、無表情で分かりにくいけど変なこと考えてなかった?」
「……失敬な。そんな事実はない」
「……」
「無言でこっちを見るな」
マジか!?まさか俺のムフフな妄想に感づいたのかレクシャ!何者だこいつ……
「まぁいいわ。それよりステータスは確認できたの?」
「一応な。そっちも耳を剥ぎ取るという謎の行動は終わったのか?」
「謎じゃないわよ!冒険者ギルドに持ってくのよ!」
「耳が売れるのか?」
ゴブリンの左耳なんか買い取ってどうするんだろ?
「討伐証明なのよ……って、カナデはそんなことも知らないの!?」
「あれだ……。田舎から来たんだ」
「さっき王都から離れたいって言ってたわよね……。それよりあんた冒険者じゃなかったの!?」
「これからなる予定だ」
そうか、レクシャは冒険者だったのか。それより討伐証明とかあるのか!やっぱり早めにレクシャと出会えてよかったな。
「な、なによ。ジッと見つめられても困るんだけど……」
「いや、レクシャと出会えてよかったと思っただけだ」
「な、な、ななな何言ってんのよ!バカ……」
「赤くなってどうした?」
奏はそろそろ自分が相当な無自覚タラシであることに気づくべきである。
「な、なんでもないわよ!」
「そうか。じゃあ行くか」
「そうね。カナデ……あんたもしかして手ぶらなの?」
「そうだ。お金は持ってるけどな」
現在、レクシャは大きめのリュックを背負っている。戦闘中は邪魔になるのでその辺に放り投げておいたらしい。旅をするのに持ち物を入れるものは確実に必要になるわけで……。この場合、手ぶらで旅に出ようとする奏が異常なのである。
「まったく……どういう神経してんのよあんたは」
「すまんな。急いで出てきたものだから」
「ここから王都に戻るより、この先のディーレの街に行った方がわたし的にはいいんだけど」
「ああ、それでいい。せめてリュックくらい持とうか?」
俺も男だ。これくらいの気遣いはできるのだ。
「や、優しいのね」
「そうでもないさ」
奏が天然のタラシなら、レクシャはレクシャでかなりチョロイ女であった。男に免疫がないのも考えものである。
「途中で一回野宿をすることになると思うけど大丈夫?」
「大丈夫だ。というかそのセリフは普通男が言うものだろ。近くに俺がいて大丈夫なのか?」
「だ、大丈夫よ!カ、カナデはわたしに変なことしたりしないでしょ?」
「当たり前だ」
そんなことする奴はクズである。いくら俺の心の内で欲望が渦巻いていようともそんなことは断じてしない。
「なんかそこまで言い切られると逆に腹立つわね……」
「俺にどうしろと……」
残念加減ではいい勝負かもしれない二人だった。