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救わなきゃダメですか? 異世界  作者: 青山 有
第一部 異世界
35/367

第35話 北の門

2015年7月12日 誤字脱字修正

 集合時間までまだ一時間以上あるにもかかわらず、北門の外にある草原は、騎士団、衛兵、探索者で溢れていた。

 その高揚感たるや、オーガ探索の比じゃない。異様な雰囲気が草原に漂っている。


「あそこね、ギルドの看板が見えるわ。周りに注意しながら、あの看板にできるだけ近づけて」


 白アリが右手奥を指し示しながらメロディに指示を出す。


「はいっ、かしこまりました」


 少しビクつきながらも白アリの指示に従い、馬車をゆっくりと進める。


「で、どうしますか? どこか目ぼしい貴族に雇われますか?」


 黒アリスちゃんも馬車の窓から外の様子を見ながら聞いてきた。


「貴族に雇われるのは面白くないな。それにどんな貴族なのかの情報もない」


 道道、メロディの有用性を説いた。そして、奴隷に落ちた理由としばらくはケアが必要な――商品未満の奴隷であること、暗に何もしていなかったことをほのめかした。

 その努力のかいもあってか、黒アリスちゃんの態度はかなり柔らかくなっている。後少しだな。


「だいたい、あたしたちは見習いなんだから、貴族だって見向きもしないでしょう? 仮に雇われたとしても二束三文よ。扱いだって酷いに違いないわ」


 御者席から器用に馬車の屋根伝いに移動して、中に入りながら白アリが言う。


 移動している馬車の屋根の上で中の話し声が聞こえるのか。凄い聴力だな。これも身体強化の賜物か?

 多少のリスクを負っても早目に身体強化は取得すべきだな。

 

「二人とも美人だしな。変な貴族に雇われてもトラブルになりかねない。ここは素直に、騎士団の配下に配属してもらおう」


「何? 赤いキツネだけじゃもの足りなくて、あたしたちまで狙ってるの?」


「え? そうなんですか?」


 ありったけの勇気を振り絞ってのお世辞だったのに白アリが悪意満載で受け取ったため、それに影響されて黒アリスちゃんまでもが痴漢を見るような目で俺を見ている。


「違うよっ! 純粋に心配してるんだろうがっ!」


「まぁ、良いわ。着いたわよ、早く手続き済ませちゃいましょう」


 俺の弁明は軽く流され、白アリと黒アリスちゃんは馬車を降りて手続きの列へと並んだ。


 ◇


「あんたたち三人で順番待ちしてなさい。順番が近づいたら、赤いキツネ、あんたが呼びに来なさい。はい、行って」


 白アリから誰が主人なのか分からないような指示が飛ぶ。


 あの、白アリさん? 赤いキツネの主人は俺なんですけど? そう告げたかったのだが、当の奴隷たちは主人である俺やテリーへの確認もなく、白アリに従う。

 俺とテリーの心情を察して行動なのか、ただ単に、白アリが怖いからなのかはわからない。


 理屈の上ではともかく、俺もテリーも心情的にはやましさ満載である。

 白アリに何かを言うでもない、黙って見ているだけだ。


 テリーも合流したこともあり、この待ち時間の間に今後の身の振り方について話し合った。

 俺たち探索者は与力や陣借りで参戦している貴族に雇われるか、領主軍である騎士団の配下として配属されるか選ぶことができる。


 当たりの貴族なら自由度も高く、報酬も期待できるらしいがハズレだと目も当てられない。もともと、貴族のお抱えを狙っている訳でもないので、全員一致で騎士団の配下として、申請することになった。


 ◇


「こちらが先日お話ししたフジワラさんとその同郷の方たちです。奴隷が少し増えていますが」


 ミランダさんが俺たちをギルドマスターへ紹介してくれた。


 やはり、昨夜のカウンターの上で演説をした初老の男性がギルドマスターだった。


「お前がフジワラか。パーティー登録をする、お前がパーティーリーダーだ」


 握手をする右手をガッチリと握って離さずに言う。


「あの、俺は見習いですけど?」


「戦時特例だ。ここに、見習いはいねぇよ。全員一人前の探索者だ」


 右手をガッチリと握られた状態で疑問をぶつけるが、一蹴された。逃がさないぜ、と言った心の声が聞こえてきそうだ。


「やっぱり、あれ? 管理職にしちゃえば残業代払わなくとも良いからしちゃえ、ってのと一緒?」


「それにかなり近いものがあるな。この場合、一人前の探索者なんだから、何があっても自己責任ってことじゃないのか?」


 白アリの身も蓋もない解釈に半分同意しながら付け加える。


 その間も右手はホールドされたままだ。


 もしかして、パーティーリーダーを承知するまで離さないつもりじゃないだろうな?


「分かりました、では、俺がリーダーでパーティーの申請をします」


 観念して告げた。


 パーティーは俺と白アリ、黒アリスちゃん、テリー、そして奴隷三名とフェアリー二匹である。

 フェアリーも申請時はメンバー扱いなのか。


「ところで、お前らはどうするんだ? どこか貴族から声でもかかっているのか?」


「いいえ。声も何も、俺たちはさっきまで見習いですよ」


 ギルドマスターの言葉に、半ば皮肉混じりで答える。


「何、早いところは早いさ。特に光魔法を使える魔術師のいるパーティーはな」


 やはり、光魔法は希少価値があるようだ。


 そうなると、イーノスさんたちがあまり驚かなかったのか、そっちの方が気になるな。


 騎士団の配下への配属を望んだ場合、後方支援チームとなる。光魔法が使えることがその最たる理由だが、先鋒集団へ加えるには実績がなさ過ぎるそうだ。


 なるほど、最初は様子を見たい訳だし後方支援チームで良いな。

 俺たちは四人で顔を見合わせる。三人が無言でうなずく。よしっ! 事前打ち合わせ通り慎重に行動することで一致した。



 数十メートル離れたところで何やら騒ぎが起きている。よく見れば二・三ヶ所で騒ぎが起きていた。

 もめ事か?

 俺たちが手続きの完了を待っている間にそちらへ興味を示すと、ミランダさんが話しかけてきた。


「有力なパーティーの獲得で貴族同士がもめているようですね」


 貴族としても新たに優秀な探索者を配下に加えれば、自分の手柄や出世にダイレクトに関わってくる。そりゃぁ、必死にもなるだろう。

 出兵前から仲間と言うか同じ国の軍隊内部で争っている場合だろうか?


「それにしても、随分と探索者が多いですね。こんなにいましたっけ?」


 俺の疑問にミランダさんが即答する。


「他の町からも来ています。騎士団への入隊や貴族のお抱えを狙っている探索者からしたら、こんなチャンスは滅多にありませんからね」


「へー、よくもまぁ、これだけ集まったわね。もしかして夜通し駆けてきたのかしら?」


「その通りです。近隣の町や貴族が集まる時間が欲しかったので集合を昼にしていました。実際の出発は夕方になると思います」


 白アリの独り言のような疑問に、ミランダさんが親切に解説をしてくれた。


 他の町からも来ているのか。それに加えて貴族だろう、あのもめ事を見ると益々トラブルの予感しかしない。


 今回は領主が領地防衛の名の下に派兵がされる。しかし、後ろ盾は王国である。

 そして長引けば、王国軍が介入してくる。


 いや、それ以前に親交のある他の領地持ちの貴族を筆頭に、恩を売りたい連中や手柄が欲しいヤツらがこぞってこちらへ向かっているそうだ。

 益々カオスな状態になりそうだな。


 もめ事は関わらないようにおとなしくしてやり過ごすとしても、せっかくの時間だから有効に使いたいな。

 俺としても出発までにいくつかの実験をしたいので早いところ解放して欲しいのだが、騒ぎのせいで手続きの速度が落ちている。


 メロディのスキルがどういうものか分かった以上、その成果を実際に目で確認したいのは四人とも共通の思いだろう。

 彼女の奴隷になった原因が原因だけに、すんなりと力が発揮できるかも気になる。


「よし、終わったぞ。光魔法を使える魔術師として登録してある。一先ず後方の予備部隊への配属だ」


「ありがとうございます」 


 書類と認識票を受け取りながらお礼を言う。


「だが、光魔法を使える魔術師を要望している貴族は多い。騎士団の配下となるよりも実入りは良いぞ。気が変わったら知らせてくれ」


「ねぇ、あそこの女の子だけのパーティー、変なのに絡まれてるんじゃないの?」


 白アリが別の方向を指差しながら言い、黒アリスちゃんが白アリの指す方向に目を向ける。


「そうですね。何だか、もの凄く嫌な感じですね」


 二人が見ている方向からもめ事のような喧騒が聞こえてくる。

 よせっ! やめろっ!

 白アリと黒アリスちゃんたちに背中を向けたまま、祈るような気持ちで受け取った書類を確認する振りをする。


「間違いありませんよ、あの女の子は一緒に来た娘ですよ」


「助けましょう」


 え? ちょっと? 白アリさん? 今、何て言った?

 もめ事に自分から首を突っ込むんですか?


 自分たちの立場を分かってますか?

 ここは目立たず、騒がず、騎士団や貴族に犠牲になってもらって、情報収集じゃありませんでしたか?

 そのためにも、今はおとなしくしていようよ。


「ほらっ! 行くわよ」


 白アリと黒アリスちゃんが三人の奴隷を連れてもめ事の渦中へと向かって行く気配がした。


「追いかけようか」


 テリーが肩を叩きながらうながす。

 もしかして、集合場所へ到着してから初めて口をきいた?


 いくら何でも空気すぎるだろう、とは思うが口には出せない。

 まぁ、気持ちは理解できる。俺にも若干の責任があるような気がするのもあって、あまり言えない。


 しかし、メロディをはじめ、奴隷の三人は何の疑問も持たずに白アリの指示に従っているのだろうか? 奴隷とはそういうものなのだろうか?

 ご主人様の言うことを聞くと教えられたが……


「行って良いぞ。早く追いかけろ。その方がお前らのためだ」


 ギルドマスターの表情は『書類なんか確認してないんだろう? お見通しだよ』とでも言いたげな目だ。さらに三人の奴隷――メロディとティナ、ローザリアの所有者である俺とテリーに向かって続けた。


「大変だな、お前らも」


 理解ある感じではあったが同情されたか? 同じような経験をしたことがあるのだろうか? 或いはそんな連中を見てきたのだろうか? そんな連中を見て来ての反応だろうか? どちらもありそうだよな。


 女奴隷を買って同じパーティーの女性に頭が上がらなくなる、そんな探索者が大勢いるのだろうか?

 ……いて欲しいな。……いないか。


 そんなやり取りをしている間に五人が加わり、騒ぎが拡大している。

 俺とテリーは顔を見合わせると、拡大する騒ぎへ向けて一目散に駆けた。

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