表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
救わなきゃダメですか? 異世界  作者: 青山 有
第三部 異世界の理

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

330/367

第330話 夜の森の迷宮(3)

 聖女が複数の光球を天井付近に出現させると、直線で二百メートル以上ある長い通路を埋め尽くさんばかりのオークの群が、煌々とした明かりに照らし出される。

 筋肉質な体に、豚を擬人化して凶悪な面構えにしたような顔を乗せた魔物が、手にした武器を振り回せる程度の間隔を空けてこちらへ向かっていた。


「随分と増えたな」


 先程ベスに百匹がどうとか言ったが、目に見えるだけでも百匹近くいそうだ。


「嫌……」


 腰だめに銃を構えたまま、ベスが後退る。

 オークの群を目の当たりにした女性としては正常な反応だ。魔法銃を握る手が震えている。


 ボギーさんがベスの視界を塞ぐように身体を左側に寄せると、左手に持った銃でソフト帽子をずらし、自身の視界を広げた。


「分不相応に立派な鎧を着こんでいるオークがいるようだが、どこで手に入れたンダ?」


 ボギーさんの疑問ももっともだ。入手元を是非とも知りたい。


 オークたちの装備はバラバラ。衣服すらまとわずに武器だけを手にした個体から、数こそ少ないが真新しいフルプレートの鎧を着こんでいる個体まであった。

 ボギーさんに続いて、テリーが肩をすくめて面倒臭そうにつぶやく。


「なんだか、やたらと大きくて頑丈そうなヤツや色の違うヤツまでいるな」


 明らかに上位種だ。そして、そんな上位種程、体格が良く頑丈そうであったり、武器・防具を問わず装備が充実していたたりする。


「完全武装ですね。手にしている武器も気のせいか高価そうですよ」


 一際高価そうなプレートの鎧を装備した個体を見つめて、


「あの鎧だったらいい値段で買い取ってくれそうですよ」


 そう言うと、俺とテリーに視線を向ける。だがあいにくと聖女の値踏みに付き合うつもりはない。


「さっさと片付けて、こいつらが出てきた裂け目の調査に向かおう。俺たちだから対処できるが、三級以上の探索者で構成されたパーティーでも、人数や魔術師の数によっては壊滅する規模だ」


「もう、フジワラさんは付き合いが悪いですね。分かりました、お値段の話は調査後にしましょうか」


 そう言う聖女に続いて、なんとも気怠そうな、ボギーさんとテリーの声が重なる。


「だな、とっとと片付けちまおうか」


「放置しておくわけにはいかないよな」


 テリーと聖女、ボギーさんが裂け目の調査に同意すると、ようやく光球の明かりに目が慣れたメロディが悲鳴を上げる。


「嫌ーっ!」


 魔道具作成の手を止めたメロディが尻尾を丸め、頭を抱えるようにしてオークたちに背を向けてしゃがみ込んだ。

 まあ、オークは醜いからな。面食いのメロディとしては当然の反応だろう。


 メロディは一先ず置いておき、俺はベスの背後へと移動すると、震えるその手をそっと包み込むように俺の手を重ねた。


 前線では迎撃態勢で待ち構えていたティナたちの嫌悪の声が響く。


「こないでーっ!」


「うわっ! 気持ち悪い!」


 どうやら彼女たちも光球の明かりに目が慣れたようだ。

 最前線で盾と槍を構えていたティナがもの凄い勢いでテリーを振り返り、顔を引きつらせて訴える。


「テリー様、私も魔法銃に換装してもいいでしょうか?」


 すると、彼女の横に並んでいたローザリアが即座に反応した。


「ティナ、ずるいっ! テリー様、私も魔法銃を使わせてくださいっ!」


 彼女たちのやり取りの間に震えが収まったベスの手を、魔法銃から優しくゆっくりと引きはがす。

 自分の手を見つめていたベスが俺のことを振り仰ぐ。アイスブルーの瞳からは、未だ恐怖の色は消えていない。涙も浮かべているが、落ち着きを取り戻したのは確かなようだ。


「ティナとローザリアも魔法銃に換装しろ。一定距離以上近づいたら接近戦に切り替えるからそのつもりでな」


 テリーが苦笑しながらティナとローザリアに魔法銃使用の許可を出すと、薄っすらと涙を浮かべたアレクシスがすがるようにテリーに訴える。


「明かりを消して、暗闇に向けて乱射とかしちゃだめでしょうか?」


 ティナとローザリアの要求が通ったので期待したのかもしれないが、さすがにそれはだめだろう。

 即座にテリーが否定の言葉を響かせる。


「ダメだ――」


 泣きそうになったアレクシスをそのままに四人の奴隷たちにテリーの指示が飛ぶ。


「――しっかりと狙って撃て。特にアレクシスは一撃で仕留めるつもりで、頭部に命中させることを心掛けるんだ。ティナとローザリアは心臓に一発と腹部に二発ずつ撃ち込め。ミレイユはフルオートの魔法銃二丁を使え。弾幕を張って敵の足を止めることに専念しろ」


 テリーの言葉にアレクシス以外の三人が、それぞれ武器を持ち換える。


 アレクシスは銃身の長い狙撃に特化した魔法銃を、通路の中央で立ったまま構えた。アレクシスの左右を固めるようにティナとローザリアがテリーの持つアサルトライフルを模した形状の魔法銃を構える。

 テリーとローザリアの間にいたミレイユが、ドラムマガジンにタングステンの弾丸を満載した二丁の魔法銃を構えて立つ。


「皆さん、銃を使うんですね」


 新たな短槍を使っての戦闘を期待していたのか、聖女は残念そうに肩を落として、短槍からアサルトライフルの形状を模した魔法銃へと持ち替えた。


 直線で二百メートル以上の通路を地響きにも似た足音を轟かせて、百匹以上のオークが迫る。


「無駄口はそこまでだッ! 来るゾッ!」


 ボギーさんの声が全員の意識を迫るオークへと向けさせた。

 続く俺の号令。


「撃てーっ!」


 オークの群へ向けられていた七丁の銃から一斉に弾丸が乱れ飛び、二丁の拳銃からは闇魔法の分子分解をまとった弾丸が撃ち出された。


 細かな連携は不要。

 数で押してくるオークの群に対して、こちらも連射による弾数たまかずで応戦する。


 貫通力に重点を置いたミレイユの持つ魔法銃から、フルオートで幾つものタングステンの弾丸が撃ち出された。敵の右翼から左翼へとミレイユの魔法銃が横薙ぎに振られる。

 高速で射出された尖頭弾――先のとがった弾丸は、最前列のオークたちを撃ち抜き、後列のオークたちにまで致命傷を与えた。その銃口が敵の左翼に到達すると再び敵の右翼へと向けて、たどった軌道を再びなぞる。


 狙いをつけずにばらかれるミレイユの弾幕とは対照的に、ティナとローザリアは近づくオークを優先してテリーの指示通り、心臓と腹部に弾丸を集中させた。

 弾丸を腹部に受けたオークはその衝撃で大きく後方へ弾かれる。


 完全に混乱したオークの群。その中にあって冷静に動こうとする個体を見事な嗅覚で探し当て、アレクシスが頭部を撃ち抜く。

 それでも尚前に抜け出すオークには、テリーと聖女が容赦なく弾丸を見舞う。


 屈強そうな、体躯たいくが大きかったり色が違ったりする上位個体を選んで、ボギーさんが闇魔法をまとった弾丸で仕留めていった。


 火薬で撃ち出された弾丸とは違い、魔力で撃ち出されるので発砲音も無ければ反動もない。

 弾丸が空気を切り裂くわずかな音とオークを撃ち抜く、肉体を破壊する音が響く。それに続いてオークたちの断末魔の叫びと苦痛を訴えるような呻き声が辺りに木霊する。


 傍から見れば凄惨な光景だ。

 眼前で繰り広げられているのは、一方的な虐殺。だが、俺たちの力が劣れば、或いは俺たち以外の力の弱い者たちがこの場に居合わせたら、立場は逆だった。


「凄い……あの魔道具――」


 いつの間にか俺の腕を掴むのをやめて、迫りくるオークの群が屍の山と化していくのを茫然と見ていたベスがつぶやく。


「――強力なのは知っていましたが、数の多い敵に対してここまで有効な武器だとは想像もできませんでした」


「今回、敵を圧倒できたのは、遮蔽物の無い一直線に延びる通路という地形もあってだ」


「それでも……」


「加えて、ミレイユの持つフルオートで連射できる魔法銃の存在が大きい」


 フルオートの魔法銃をあそこまで継続して撃ち続けられる、それだけの魔力量を有した者はそうはいない。

 俺の視線の先にいる、魔法銃二丁のドラムマガジンを交換するミレイユへとベスの視線が移る。


「今まで多数を相手にするには、広域の攻撃魔法くらいだと思っていました」


「その認識は基本的に間違っていない。あのフルオートを継続して使用できるのは、ミレイユだからだ。あと辛うじてリンジーが使えそうだな」


 それと、ベス、お前だ。


「魔力消費は大きいですが、魔術師数人で一丁の銃を使えば、それなりにあの『弾幕』というのを使えますよね」  


 驚いたな。

 魔法銃の特性をそれなりに把握しているとは思っていたが、フルオートを実戦で見るのはこれが初めてのはずだ。


 魔術師を射手兼魔力供給とすればできるし、俺たちもそれを危惧している。

 リューブラント国王に見せれば絶対に欲しがる。俺たちが教えなくても、試行錯誤してすぐにあの運用方法に思い至るだろう。そうなれば危険度は黒色火薬の比じゃない。


 何といっても、連射ができる上、魔法で撃ち出すので反動がない。

 やはりリューブラント国王には、黒色火薬を利用した火縄銃程度で我慢してもらおう。


「終わったようですよ」


 ベスの乾いた声が俺を現実に引き戻した。

 第一グループが異変に気付いてこちらへ向かってきているのを確認すると、


「さあ、それじゃあ、第一グループもこちらに合流したようだし、裂け目の調査に行こうか」


 俺はベスの肩に手を回して、オークたちの屍の山へと向けて歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ