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救わなきゃダメですか? 異世界  作者: 青山 有
第三部 異世界の理
323/367

第323話 素材集め(1)

 俺たちは全員揃って、アンデッド・オーガの角を求めて、ベルエルス王国との国境となるグラム山脈のふもと付近にある山岳地帯へと向かっていた。

 移動手段はいつものワイバーンではなく、『飛翔の指輪』を使っての初めての長距離飛行だ。


 高度を雲の上に取ると、早朝の冴え冴えとした空気の中、陽光を反射して閃々(せんせん)と輝くグラム山脈がその威容を現す。すると、女性陣の間から感嘆の声が漏れた。


「素敵ー」


「うわー、光ってるよ」


「綺麗ですねー」


 万年雪を頂く山頂付近はもとより、雲の上に見えている部分は全て雪に覆われ、早朝の蒼い空を背景に白銀に輝く。

 俺自身その光景に見入っていると、隣を飛行していたベスが目に光るものを浮かべてつぶやく。


「綺麗です。やっぱりダンジョンの中や森の中よりも空がいいです」


 感動して泣いているんだよな? 『夜の森の迷宮』に潜るのを思い出して泣いているんじゃないよな?

 ここは、少し褒めて機嫌を取っておくか。


「感動したのか?」


 異世界にきて地球では見られないような、不思議な風景や美しい風景はたくさん見たが、眼前にある風景は五本の指に入る景色だ。


「はい、感動しました。白いはずの雪が銀色に輝いています。起伏のある山の斜面のせいで波打っているようで、本当に綺麗です。こんなの初めてです」


「ああ、本当に綺麗だ――」


 穏やかな口調でそう言うと、同意してもらえたことが嬉しかったのか、ベスのはなやいだ笑顔がこちらに向けられる。そのタイミングで俺のセリフがベスの耳に届く。


「――まるでベスの髪のようだな」


「な、何を言っているんですかっ。か、からかわないでくださいっ」


 早口でそう言うと、視線を地上へと向けて黙り込んでしまった。


「からかってないって。ベスの髪は本当に綺麗だ」


「か、髪ですよね、髪」


 地上に向けていた視線をチラリと俺の方へ向けたベスの頬は、わずかに赤く染まっていた。


「綺麗と言うにはまだ何年か掛かりそうだな。大人になればきっと美人になるぞ」


 おどおどとした様子の彼女の顔を覗き込むように近づくと、すぐに顔を背けてこれまで以上に早口になった。


「だから、私はこれでも十八歳なんです。成長が遅いのは種ぞ、人種のせいでなんですよ」


「美人になるには何年か掛かるかも知れないけど、ベスなら絶対に美人になるって。それに今でも十分に可愛いぞ」


 これは本心だ。俺の周りは外見的には美人や可愛らしい娘が多いのだが、何というか、庇護欲を刺激するような可愛らしい異性が少ない気がする。

 ラウラ姫も可愛らしいし、いじらしいのだが、後ろにセルマさんが見え隠れしてしまう。


 そこへ行くとベスは面白いし、可愛らしい。つい、構いたくなってしまう。


「だから、そういうことを言わないでください」


「分かった、綺麗とか可愛いと思っていても、皆がいるときには口にしない。二人きりのときに言うようにする」


 そろそろ降下を始めないとならないな。

 俺はよそ見をしているベスに近づき、『危ないから手をつなごう』と言って左手を差し出す。


「ミ、ミチナガ、様はすぐにそうやって、綺麗とか可愛いとか口にしちゃうから――」


 俺のことを見やるとすぐに目を逸らして、


「――白姉様や黒ちゃんに怒られるんです」


 そう言いながら、おずおずといった様子で右手を差し出してきた。


 俺は、そのまま無言で固まってしまったベスの手を取り、目的地であるふもと付近の山岳地帯へと向かった。


 ◇ 


 俺がベスを伴って山岳地帯へと降り立つと、半数以上のメンバーが既に着地していた。


 ふもと付近とはいってもそれなりに標高があるせいで、魔術での温度調節をやめると、少し肌寒さを感じる。


「ベス、寒くないか? 『温度調節のブレスレット』そのまま発動させ続けて構わない。無理はするなよ」


 ベスなら三つや四つの魔道具を並行発動できるそうだな。いい機会だから試してみるか。


「はい、これくらいは、まだ大丈夫です」


「いや、微弱で構わないから『温度調節のブレスレット』をそのまま発動させておけ。それと『自動発動型 重力障壁の指輪』を何度か任意に発動させてみてくれ」


 干渉し合って発動しないことはないと思うが念のため確認しておこう。


「はい、分かりました」


 そう言うと、他のメンバーが武器の用意をする間、『温度調節のブレスレット』と『自動発動型 重力障壁の指輪』の並行発動を試みた。


 干渉しないどころか、実にスムーズに並行発動させている。発動までの時間も短い。

 慣れてきたらもう一つ追加してみるか。


「生贄の嬢ちゃん、随分と上手いじゃネェか――」


 ボギーさんは俺のすぐ傍に着地するなり、楽しそうに言うと、視線を試作品の魔法銃を用意しているメロディへと向ける。


「――この調子なら、試作品の魔法銃も並行発動させながら使いこなせそうダナ」


「ええ、可能なら『飛翔の指輪』で敵の攻撃範囲外を飛行しながら魔法銃で攻撃する戦闘スタイルを習得してもらおうと考えています」


「いいじゃネェか。生贄の嬢ちゃんや赤い狐にはそっちの方があってそうだ」


 いや、メロディに戦闘は向かないだろう。【 変動誘発  レベル5】もあるので、出来れば戦闘中も魔道具の作成をしていてほしいくらいだ。


「ミチナガ様、大丈夫そうです。どちらも問題なく発動しました」


「お疲れ様。上手いものだな。今、ボギーさんと二人して感心していたところだ」


 ベスがボギーさんに軽くお辞儀すると、ボギーさんは照れ隠しなのか、帽子を目深に被りなおしてテリーたちの方へと歩いていった。


 ◇

 

 最後尾の二人、アイリスの娘のリーダーであるライラさんと、サブリーダーのミランダが山岳地帯に降り立った。

 これで全員か。


 見回すと先行していた黒アリスちゃんとロビン、それにマリエルとレーナも見当たらない。

 偵察に出たようだ。


 俺が周りの様子を確認していると、ベスがため息交じりに誰にともなく言う。


「それにしても、ものの見事にワイバーンを売り払いましたね。まさか即日とは思いませんでした」


 見張りと警備だけじゃない、ちゃんと航空兵力や移動手段として役立っていた。それに黒アリスちゃんとボギーさんのアンデッド・ワイバーンは残してある。


「必要ならまた買えばいいことだからな」


「見張りとか警備に役立っていたのに、なんだか勿体無いです」


 ワイバーンに乗って、初めて空を飛んだときのことを思い出しているのか、少し寂しそうな顔をしている。


「ベス、ここから少し離れたところにワイバーンが生息している。帰りに一匹仕留めて使い魔にするか? その気があるなら付き合うぞ」


「え? 使い魔って、アンデッドですよね? どちらかというと、生きている方が……」


 最も得意な闇魔法を真っ向から否定かよ。


「使い魔ならアイテムボックスに収納できるし、主人の言うこともよく聞く。それにベスはモンスターテイムが出来ないだろう?」


「理屈は分かっているんですよ、なんというか、アンデッドよりも生きている魔物の方がいいかなあ、って」


 どことなく困ったような、寂いような様子で笑顔を作ると『心情的なものです』、とつぶやいた。


「モンスターテイム、今からでも習得を頑張ってみるか?」


「え? 習得できるんですか?」


「ダンジョンに潜っている間、空き時間に練習をしてよう。テリーたちもモンスターテイムの練習をする予定だから一緒にやればいい」


「ありがとうございます、頑張りますっ!」


 弾む声でそう言うと『まさかダンジョンの中でスキル習得の練習が出来るとは思いませんでした』と付け加えていた。

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