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救わなきゃダメですか? 異世界  作者: 青山 有
第三部 異世界の理
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第321話 二つの魔道具

 眼前に広がるなだらかな丘陵地帯は深い緑色に交じってところどころ茶色が目立ち始めていた。その丘陵地帯の先にある森は紅や黄色と、日本人である俺にとってどこかホッとする色合いへと変わっていてる。

 早朝の太陽は霞んで見える尾根に、その姿を半分ほど隠していた。


 視線をグランフェルト市の方角へと向けると、薄っすらと広がる朝もやの中、数キロメートル先に市の防壁が見える。


 隣に立っていたテリーが早朝の陽射しを見やりながら口を開く。


「さすがにこの時間だと少し肌寒いな」


「上空はもっと寒いぞ」


 俺の言葉にテリーは、白アリたちと一緒にいるカズサ元第三王女に視線を向ける。


「アリスたちがメロディちゃんに作らせていた魔道具の中に携帯用のカイロがあったな? それを貰えるか?」


「携帯用のカイロよりも、『温度調節のブレスレット』がある。そっちの方がいいんじゃないか?」


 ラウラ姫に贈った『自動発動型 重力障壁のブレスレット』の応用で作られた魔道具で、全身を覆うように展開した微弱な重力障壁の内側を適温に保つ機能を持っている。

 自動発動の機能を付与しないことで作成の難易度が下がり、展開する重力障壁を微弱なものにすることで魔力の消費を抑えることが出来た。


「それは助かる。アリスに言えばいいのか? ――」


 テリーの質問に無言で首肯すると、テリーは視線をアイリスの娘たちに囲まれた白アリへ向けてつぶやく。


「――それにしても、また便利なものを作ったな。いや、メロディちゃんが優秀なのか」


「魔道具作成のレベルも上がったが、変動誘発のレベルも上限に達した。明日以降もメロディには魔道具の作成をしてもらう予定だ」


 そう、明日から潜る予定の『夜の森の迷宮』では、メロディを非戦闘員として扱い、ダンジョンの攻略中も魔道具の作成に専念してもらう。


「賛成だ。戦闘要員なら事欠かないし、その方が効率的だ」


 俺は『ところで』と話題を切り替えると、テリーが合流してほぼ丸一日、お互いに通達事項が多すぎて聞けずにいたことを切り出す。


「カズサ元第三王女はどうなんだ?」


 彼女に付いては周辺事情も含めて聞きたいことはたくさんあるのだが、聞きづらいこともあり、つい曖昧な問いかけとなってしまった。

 テリーもそれを察したのだろう、バツが悪そうに苦笑すると話を始めた。


「ガザン侯爵家として家督を継ぐことに、最初こそ抵抗があったようだが今は納得している。元第二王女の処遇についても同様に納得をしている」


 エドワード・ガザン元国王の子どもで生き延びたのは、結局のところ三姉妹だけだった。息子たちはほとんどが戦死し、戦死を免れた者たちも逃亡中に夜盗に襲われ、誰も生き残っていない。

 元第一王女はベルエルス王国の王弟に嫁いでいるので良しとして、逃亡中だった元第二王女も無事に保護されていた。 


「家督の方はどうだ?」


「問題ない。俺と結婚してガザン家を侯爵家として残すことに同意してくれた。カズサ個人も精神的にも落ち着いていて、俺が傍にいる限りは大丈夫だ――」


 問題はテリーが傍にいられなくなった場合か。

 テリーはにやにやしながら、『妹ってあんな感じなのかな? 頼ってきちゃって、可愛いのなあ』などと、現実の妹を知らない、能天気なことを口にしてさらに続ける。


「――問題は元第二王女の方かな。カズサを同伴して何度か挨拶に行ったんだが、顔を泣き腫らしていたり沈み込んでいたりと、良くない感じだった」


「一か月後の論功行賞までになんとかなると思うか?」


 俺たちが『夜の森の迷宮』から戻るのに合わせて論功行賞が予定されている。


「さあ、ヤツに男としての魅力と器量が俺の十分の一もあればなんとかなるんじゃないのか」


 俺の質問に口元を綻ばせると、実に晴れやかな表情でそう言った。


 ◇


 俺はテリーと共に皆が集まっている比較的平坦な場所へと移動した。

 転移で出現すると、アイリスの娘たちを含めて女性陣の幾つもの甲高い声が耳を打つ。


「白姉、私やりたいです。最初は私でお願いします」


 珍しく積極的な黒アリスちゃんのハキハキした声に続いて、エリシアが飛び跳ねながらオレンジ色のツインテールを揺らしてアピールする。


「はい、はい、私やりますっ、私もお願いしますっ!」


「エリシア、怖くないの?」


 驚いたように目を丸くする最年少のリンジーに、エリシアが『何を言っているのよ』と言った様子で答え、ミーナが続く。


「えーっ? 楽しそうじゃない」


「そうよね、なんだかすっごくワクワクする」


「するよね? ワクワクするよね? 早く空を飛びたいーっ」


 そんな年少組の三人の横で苦笑しているアイリスの年長組の三人も、大理石の大型テーブルに並べられた指輪と、ブレスレットやガントレットにチラチラと視線を向けていた。


 俺とテリーが到着したのに気付いたロビンが声を掛ける。


「例の『飛翔の指輪』、大人気ですよ」


「なんだ、『収納の指輪』と『収納の腕輪』の方が画期的だと思ったけど、アイリスの娘たちの反応を見る限りそうでもなかったのか?」


 面白さでは『飛翔の指輪』に軍配が上がるだろうとは思っていたが、見向きもされない程の大差が開くとは予想していなかった。


「違います。『収納の指輪』と『収納の腕輪』の説明はまだです」


 俺のセリフにロビンがかぶりを振って答えると、テリーがあきれた口調で言う。


「なるほどね、『飛翔の指輪』の説明だけでこの騒ぎか」


 まあ、驚くよな。

 俺自身、マルセル子爵領の攻略中に白アリから『飛翔の指輪』の説明を聞いたときは驚いたし、その機能を目の当たりにしたときはすぐに言葉が出なかった。


 白アリが『飛翔の指輪』の話を切り出したときのことを思い出す。

 

 ▽


 マルセル子爵領の仕上げの打ち合わせを終えた後、俺と白アリ、メロディの三人になったところで、


「そういえば、赤い狐が面白い魔道具を作ったのよ、それも二種類も」


 資料に目を通していた白アリが思い出したように切り出した。


「面白い?」


 相変わらず俺の知らないところで、魔道具作成に余念がないな。


「それでね、ダンジョンに潜る前に少し時間が取れないかしら。そうね、丸一日くらい欲しいかな」


 俺が了承の言葉を発しようとすると、『チェックメイトのメンバーはもちろん、アイリスの娘とその奴隷たちも含めて全部ね』と白アリが付け足す。


「ジェロームもか?」


「そうね、ダンジョンに潜るメンバーだけしか考えていなかったわ。どうしよう?」


 いや、それを今、俺に聞かれても答えようがないだろう。


「その前に、どんな魔道具なのかと何をするのかを教えてくれ」


 俺の言葉に白アリが『待っていました』とばかりに満面の笑みで『これが、凄いのよ』と前置きしてから説明を始める。


「今までのマジックバッグなんて目じゃないんだから。なんとっ! アイテムボックスが使えるようになる魔道具よ」


 そう言ってテーブルの上に置かれたアイテムは二つ。艶消しのような黒色の指輪と同じく黒色で幅広の――男性向け腕時計のベルト三つ分ほどの幅があるブレスレットだった。


「まさかとは思うが、この指輪とブレスレットがそうなのか?」


 この指輪とブレスレットでマジックポーチやマジックバッグ並みの収納力があるなら、魔道具の歴史が変わる。いや、輸送の歴史が変わる。

 白アリはテーブルに置いた指輪をつまむと自身の目の高さまで持ち上げて、口元を綻ばせて話し出す。


「この指輪でおよそ五十キログラム、大き目のマジックポーチと同等の収納が可能よ。マジックポーチと違って、収納する物の形状はポーチの口の大きさに影響されないし、出し入れする口も手の届く範囲ならどこでも出せるわ」


 指輪の向こうに得意げな白アリの顔が見える。


 マジックポーチやマジックバッグとアイテムボックスの大きな違い。

 収納する物の形状を選ぶこととマジックポーチやマジックバッグは口を開けてそこから対象物の出し入れをする。だが、アイテムボックスは形状を選ばないことと任意の空間に出し入れする口を自在に出現させることが出来る。


「輸送に革命が起きるな」


 白アリは右手の人差し指と親指でつまんだ黒い指輪と俺に向けた視線をそのままに、左手を黒いブレスレットに伸ばす。すると、手にした黒いブレスレットを黒い指輪と並ぶように、やはり目の高さまで持ち上げた。


「次がこのブレスレット。こっちは千キログラム、一トンの収納が可能なの。やっぱり形状を選ばないし、出し入れする口も手の届く範囲なら任意の場所に出現させられるわ」


「量産出来るなら輸送革命を起こせる――」


 俺の言葉に『でしょう』と笑顔で答える白アリと、嬉しそうに尻尾をブンブンと振り回すメロディを交互に見ながら問いかける。


「これは量産可能なのか? コストはどれくらいかかる? それと、他の魔道具職人でも作ることは可能か?」


「ベースとなる素材はアンデッド・オーガの角。それと【空間魔法 レベル4】と【重力魔法 レベル5】を持ったハイビーの魔石が大量に必要よ――」


 そこで一瞬メロディに視線を向けてすぐに説明を再開する。


「――魔道具作成能力に加えて魔道具職人も【空間魔法 レベル5】と【重力魔法 レベル5】が必須なの」


 そう言い切った白アリの横でメロディが小さく首肯する。


 なるほど、俺がいるときにこっそりと作っていたのか。

 まあ、それはいい。だが、そうなると事実上俺たちと一緒にいるメロディ以外は作れないってことになる。


「数が揃うまでは門外不出扱いだろうな」


「精々高く買ってもらいましょう」


「それで、もう一種類の魔道具は?」


 確かに凄い魔道具だが、これなら実験に丸一日を要求することはない。


「今度はね、この指輪とブレスレットとガントレット。なんと、飛行魔法よ、空を飛ぶことができちゃうの」


 飛行魔法?

 メロディに視線を向けると少し頬を染めてはいるが、どこか誇らしげな様子だ。


「素材はアンデッド・オーガの角から削り出した腕輪とか指輪にハイビーの魔石を合成して作成したものよ。ハイビーだけじゃなく、デスサイズでも試したけどそれぞれ長所と短所があって面白かったわ――――」


 そう言って、それぞれの特徴を語り出した。


 ハイビーの魔石を合成した方は、スピードと航続距離が落ちる。だが、魔力消費が少ない上、旋回能力が高くなる。

 デスサイズの魔石を合成した方は、スピードと航続距離が伸びる代わりに魔力消費が大きく旋回能力が低くなる、というものだった。


「アンデッド・オーガの角とハイビーの魔石ってさっきの『収納の指輪』や『収納のブレスレット』と同じ素材なのか?」


「そうよ。素材は一緒でも作り方が違うと違った魔道具になるから不思議よねー」


 そう言いながら黒光りする指輪を装着して、それに魔力を流すと白アリの身体がふわりと浮き上がった。

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