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救わなきゃダメですか? 異世界  作者: 青山 有
第二部 動乱

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第226話 ガザン王城

 ガザンの歴史を調べることとその他諸々の調査は優先的に行うとしたが、今回持ち上がった疑問はリューブラント陣営に戻り次第全員で検討する懸案事項とすることでボギーさんも聖女も合意をした。

 当面の作戦目的の遂行を最優先することが結論である。

 

 さて、大軍を以て攻め落とすのは難しい都市であり城ではあるが、俺たちの潜入を阻むものではないのも事実だ。

 どんなに堅牢で複雑であろうが構造だけではどうにもならない。それは宝物庫や国庫、倉庫も一緒である。

 

 俺たち五人――俺とボギーさん、聖女、メロディ、ネッツァーさんは忙しく人が行き交う王城の中にあって閑散とした、他に人の姿の見当たらない通路を歩いていた。


 城内に潜入後、空間感知で城内の様子――特に行き交う人たちと宝物庫、国庫の位置と状況を確認する。


 便利すぎるな空間感知。

 見取り図を俯瞰するように城内の様子が分かるだけでなく、見えるはずの無い場所に居る人たちの動きをリアルタイムで把握できる。


 警備兵はもとより、城内見物をしつつも、使用人たちを避けて宝物庫へと向かう。

 突き当たり左側の通路から間もなく警備兵が姿を現すが、彼らの視界に捉えられる前に俺たちは手前側にある通路を三歩ほどの余裕を持って右に折れる。


 先ほどからこの調子で誰とも会うことなく城内を闊歩していた。


 いよいよとなれば空間魔法で転移すれば良いので気楽なものである。


「この先に衣装部屋があるのでちょっとだけ寄っても良いですか?」


「服? 私も服欲しいー。ねー、ミチナガー、良いでしょう?」


 この先にある衣裳部屋を指差しながら聖女が聞いてくると、俺が反応するよりも先にマリエルがもの凄い勢いで反応をした。


「別に構わないが部屋の中にメイドさんが二人ほど――」


「昏倒させますから大丈夫です」


 俺の言葉の途中で聖女が新しく手に入れた短槍を軽く素振りしながら満面の笑みで答えた。その頭上、三十センチメートルほどのところでマリエルが空中をスキップしている。


「まさかそれで殴るつもりじゃないだろうな? 死ぬからな。それにマリエル、お前に合う服はないと思うぞ」


「いやですねー、可愛らしい女の子にそんな乱暴なことはしませんよ。風魔法で昏倒させるから大丈夫です」


「えーっ! やだーっ! 私も服が欲しいよー」


 二人に向けた俺の言葉に余裕の笑みでにこやかに返す聖女の横で、マリエルが空中をジグザグに飛びながら激しく抗議の声を上げる。


「マリエルちゃん、大丈夫よ。後で白姉に頼んでサイズを直してもらえば良いのよ」


「うん、そうする」


 涙ながらに訴えるマリエルの対応に逡巡する俺をよそに聖女がひと言でマリエルを説得した。いや、誤魔化したと言うのが正解か。


 だいたいサイズを直すと言うよりも生地を利用して新しく作ると言った方が正しいんじゃないのか。


「メロディちゃんも一緒に行きましょう。良質の服を大量に手に入れるチャンスなんて早々ないからね」


 聖女の言葉に心が揺らいだのだろう、メロディが上目遣いで申し訳無さそうな顔をしてこちらを見る。そのメロディの横でマリエルが両の拳を胸元で祈るように組んでこちらを見ていた。


 俺がシブシブ了解の返事をすると三人とも喜色の表情も露わにドレスの並んだ部屋へと転移した。

 まあ、物色するのではなく根こそぎ接収してくるのだから時間は掛からないだろう。


 俺は気を取り直してボギーさんとネッツァーさんに向き直ると移動をうながす。


「では、こちらも取り掛かりましょうか。出来れば宝物庫と国庫だけでなく、書庫や資料室の本や資料も持ち帰りたいですね」


「ああ、賛成だ。書庫や資料室の方が重要かもな」


 俺の言葉にボギーさんが即座に同意をして第一目標である宝物庫へと転移をする。それを追う形でネッツァーさんを伴って俺も宝物庫へと転移をした。


 ◇


 宝物庫は全体の面積が体育館ほどの広さで五つの区画に区切られていた。

 剣と魔法の異世界にある宝物庫らしく、武器や防具、魔法の道具と思われるアイテムの類が相当数にのぼった。もちろん、絵画や彫刻などの美術品もかなりの数が格納されていた。


 だが、宝物庫の中で一際目を引いたのは(うずたか)く積まれていた日本で言うところのDIYで利用するレンガほどの大きさの金や銀の塊だ。もちろん普通に宝石や真珠なども確認できる。

 それだけじゃない。なぜか結構な冊数の書物まであった。どちらかと言えば書庫や資料室にある書物よりも宝物庫にある書物の方が気になる。


「戦争を繰り返している割には裕福そうだな」


「では始めましょうか」


 俺たちと一緒に宝物庫の中に転移したネッツァーさんが無言で宝物庫の中を大人しく見回している間に全ての品物を接収すべく俺とボギーさんは行動を開始した。


 ◇


 宝物庫での作業に続き国庫での作業を終えたところで、衣裳部屋での作業を終えた聖女とメロディ、マリエルと合流をした。

 合流後、資料室へと転移をして資料を軒並みアイテムボックスに収納する。


 資料室から書庫への移動の合間に先ほど資料室で入手した資料や帳簿に目を通す。

 まだ書庫を残しているが今回の最大の成果は資料室で入手した資料や帳簿の類かもしれない。或いは宝物庫にあった書物か。いずれにしてもこの国は不自然なことが多すぎる。


 そんなことに思いを巡らせながら視線を前方に彷徨さまよわせていると上機嫌なマリエルが視界を()ぎった。

 いつもならここまで構わないでいると甘えたり騒ぎ出したりするのだが、今回は先ほど入手した服を材料に自分の服を作ってもらえるとあってか笑顔を絶やすことなく浮かれている。


 俺の後ろを歩いているメロディを視界に捉えると、こちらもどこか楽しげな表情で足取りが軽い。

 理由はマリエルと一緒だろう。


 今回ばかりは聖女に感謝をしたいところだな。

 聖女に目を向けるとこちらも上機嫌で短槍を振り回していた。服を入手して嬉しいのもあるのだろうがそれ以上に新しい短槍を手に入れたことが嬉しいようだ。出発のときからずっとこの調子で片時も短槍を手放していない。


 聖女が手にしている短槍はアーマードスネークの鱗から削りだした短槍だ。これをベースにミノタウロスの迷宮で倒した亀の甲羅を加工して刃と石突きの部分を作っている。

 そして、アーマードスネークを素材とした短槍の大きさであれば魔石を七つ埋め込むことが出来る。いや、実際に七つ埋め込んでいる。五つは重力制御、残る二つを修復。性能も価値も先般壊した重力の短槍を凌駕(りょうが)している。そりゃあ、上機嫌にもなるよな。

 

 聖女の振り回す短槍に意識を向けていると、ボギーさんが裏拳で壁を軽く叩きながら口を開いた。

 

「城の内部構造もしっかりしている。これは江戸時代の日本人じゃあネェな。ヨーロッパの築城に携わっていたヤツの仕業じゃネェか? 或いは……」


 恐らく、空間感知で城の内部構造を確認したのだろう、ボギーさんもこれまで見てきた城との違いに驚いている。


 だが、二百五十年も前の知識であの防壁を作れるのか?

 砲撃にも耐えられそうな角度を持った構造だ。当時の知識をベースにひとりの天才が現れれば可能性はあるか……


「こっちも凄いですよ」


 聖女が先ほど入手した帳簿のうちの一冊をヒラヒラと手に持って、俺とボギーさんが振り向いたタイミングで続けた。


「北に海に接する領地を持っているにしても塩の生産量と流通量がリューブラント侯爵領の十倍以上あります。これの前に目を通した帳簿に出てきた岩塩の産出地からの採取だけでは絶対に無理ですよ、これ」


「鉄の産出も多かったし国力の基盤はそのあたりでしょうか」


 聖女同様に先ほど入手した帳簿の情報を思い出しながら聖女とボギーさんへ視線を走らせた。俺たちの前につれてこられた過去の転移者がかかわっていたとしたら塩の製法が伝わっている可能性もある。


「塩と鉄だけならまだ良いが火薬まで出てくると前線をいつまでも放置しておくのは(まず)いな」


 ボギーさんが火の点いていない葉巻を口に運びながら苦虫を噛み潰したような表情をみせて一冊の帳簿を差し出す。


「火薬の痕跡か可能性がありましたか?」


「火薬に直結するかは分からネェが、硝酸塩鉱物――硝石の産出と硝石そのものの管理が王家直轄になっているぜ」


 俺は差し出された帳簿を受け取るとボギーさんの人差し指の挟まれていたページをすぐに開いて視線を走らせる。


 そこには過去五年間にわたる、五箇所の産出地から産出された硝石の産出量と王家の倉庫に格納されている硝石の量が記載されていた。

 この帳簿を見る限り国内の他の所領からの産出は見られないし、国外から輸入されている形跡も見られない。だが、この二年間の硝石の産出量はその前の三年間と比べて数倍に増加していた。


 分かることは硝石を王家が秘匿しており管理下においていること。

 硝石の利用用途まではこの帳簿からは読み取れないが、以前から硝石に価値を見出しており二年前からさらにその価値が上がっているということだ。


「銃が存在するかも知れないということですか?」


 聖女が思いきり不吉なことをさらりと言葉にする。まあ、顔が強ばっているので事の重大さはそれなりに理解をしているようだが。


「銃や大砲とかの火器があるかまでは疑問だが黒色火薬くらいはあってもおかしくない」


「だな。黒色火薬は『存在する』と考えた方が良さそうだな」


 聖女の疑問に俺とボギーさんの答えが重なり、そこへ聖女の新たな疑問が続く。

 

「でも、国軍司令官だったリューブラント侯爵からも黒色火薬については聞いていませんよね? 国軍司令官にさえも秘匿しているってことですか?」


「確かに不自然だよな」


 俺はそれだけつぶやき思案をする。黒色火薬を『王家の秘法』扱いしていたとしても、国軍の司令官――『王の剣』とまで呼ばれた将軍にまで秘匿するものだろうか?


「まあ、そこは今考えても仕方ネェ。帰ってから本人に確認しようぜ」


 考え込んでいた俺の肩を軽く叩き火の点いていない葉巻を(くわ)えたまま口元を緩めて、さらに続ける。


「これだけ堅牢な王都での防衛を避けてベール城塞都市を防衛の拠点とした方が気になるな。嫌な予感しかしネェ」


「ここと同等かそれ以上に堅牢だってことでしょうか?」


「加えてある程度の損害を出しても構わないと考えたかもな」


 聖女のボギーさんへ向けた質問に俺が答える。 


「損害、ですか?」


 想像はついたようだがそれを認めたくないといった様子でうかがうように聞き返してきた。強ばった表情のまま黙り込んだ聖女へ向けて俺とボギーさんが次々と答えた。


「都市の一画ごと敵対兵力を爆破するとかだ」


「嫌な選択だがあり得るな」


 俺たちは揃って無言となり、十字路となっている通路を右折する。

 俺たちが右折しきったタイミングで先ほどの通路の前方にある丁字路から、見回りの衛兵が現れるのを空間感知で確認しつつ足早に通路を進んだ。

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