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救わなきゃダメですか? 異世界  作者: 青山 有
第二部 動乱

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224/367

第224話 噂

溜まっている誤字・脱字は週末まで修正をお待ちください。

 リューブラント侯爵領を出陣して七日、予定の半分以上の距離を進んでいるがここまでの行程は極めて順調である。

 行程も順調なら軍勢も順調に増えていた。出発時点では十万に満たなかった軍勢も既に十二万に達しようとしている。ベール城塞都市まであと数日、軍勢は日に日に増えているのでこの調子ならベール城塞都市に到着する頃には十五万の数さえ望めそうだ。


 かつての『王の剣』リューブラント侯爵、起つ。


 これに続いて、睨み合いを続けている最前線――ベール城塞都市に国軍の司令官と西方の守りの要である西方守備軍の司令官が入城したとの報せが飛び込んできた。出陣した翌日のことだ。

 現役の『王の剣』と『王の盾』である。さらに現国王が軍を率いて王都を出発しベール城塞都市へ向かったとの報せが入った。


 ガザン王国側も必死だ。ベール城塞都市が最終防衛ラインとばかりに戦力を集中してくる。


 現在、ベール城塞都市は睨み合いが続いている。俺たちの合流を待っているのもあるが攻め切るだけの戦力が整っていないのが実情である。

 拮抗した最前線に国軍と西方守備軍、さらに王家の直轄軍が加わればガザンは押し返すだけの戦力が整う。


 拮抗した戦力と言っても守備側と攻撃側での話だ。

 合流したからと言って攻勢に出られるだけの戦力となるかは疑問である。


 普通に考えれば国軍、西方守備軍、直轄軍が合流すればカナン側は戦力差から撤退するか増援を待つかだ。

 今回、ベルエルス王国とドーラ公国が背後にいるので援軍は望めない。となれば、撤退だ。

 ガザン側はカナン側の撤退を待って追撃すれば良い。守備を固めて時を稼ぐ。


 だが、今回はリューブラント侯爵軍の存在がある。待っていては挟撃、良くてもカナンと合流されては追撃戦など無理な話となる。

 取れる最善の手はリューブラント軍が到着する前にカナンを敗走させることだ。


 陣容、兵数や装備は関係ない。直接戦争に関与していない人たちの興味は現国王軍、ベール城塞都市がカナン遠征軍を敗走させる前に、かつての『王の剣』――リューブラント軍の剣が国王に届くかだ。


 そして今朝、現ガザン国王がベール城塞都市に入城した。


 ◇


 反乱ですか? それとも謀反ですか?

 いいえ、民衆を憂いての蜂起です。敢えて言うなら正義のための挙兵です。


 跡取り息子を現王の失策で失うことになったので恨んでいるのでしょう?

 いえいえ、恨むなどとんでもない。息子の武運が拙かっただけのこと。


 でも、本当は恨んでいるのでしょう?

 まさか、仮に恨みがあるとすれば民衆に大きな負担を負わせた罪、己の欲やエゴのために民衆を愛する人々を死地へと赴かせた罪で、人を恨むなどあり得ません。


 でも、グランフェルトのクーデターは恨んでいるのでしょう?

 娘は可愛いです。ましてや孫娘となればなおさら……恨むなどとんでもない。私は怒っているのです。


 などと言う噂が流れたかどうかは定かではないが、こちらに都合の良い噂は行軍速度の何倍もの早さで広がっていった。

 どこの世界の人間も噂話は好きなようで助かる。



 もちろん、空間転移を活用して情報収集と情報操作のためにガザン王国の各地へと飛び回って、噂の拡散状況は随時確認をしている。いや、ガザン王国に留まらずさらにその向こうにある周辺諸国へも足を延ばしていた。

 そして、必要に応じて金もばら撒いている。戦争というのは本当に金が掛かるものだと実感した。


 ここで役に立つのが偽造身分証――偽名のギルド証だ。


 ギルドへの登録は本名である必要はない。なので、一人で何枚もギルド証を作成することは可能だ。

 身元保証や身分証などなくとも申告だけでギルド証は作成できる。そうやって作成されたギルド証が身分証明証となる。現代日本で生きてきた俺たちからすると信じられないようなシステムである。

 いや、そうでもないか。ネットで複数アカウントを作るのに近いか。

 事実、犯罪者や訳ありの人たちが身元ロンダリングに利用している。


 ギルドだってそんなことを際限なく黙認していては管理運営の負荷が大きくなるだけだ。さらには信用問題に発展しかねない。

 なので、偽造身分証の作成など、作成可能だからといって大手を振ってやるようなことではない。そんなギルドに睨まれるようなことはそうそうやらない。


 俺たちが大手を振って偽名のギルド証を何枚も利用できるのもリューブラント侯爵の支援があればこそだ。

 さすが大身の領主である。同じ貴族でも領地を持たない貴族ではこうは行かない。


 ◇


「いやー、参ったよ。女の子たちを連れていたら絡まれちゃってさ」


 辺境に位置する領地へ情報収集に行っていたテリーが、現地で入手した噂をまとめた書類を渡しに来たがその表情は実に満ち足りている。

 どうやら辺境の地で十分に楽しんできたようだ。


 そういえば、先ほど報告にきた聖女も満ち足りた表情をしていた。

 確か、アイリスのミランダと一緒に情報収集に行っていたのだったな。現地で暴れてきたのかミランダが犠牲になったのかは知らない。ここは三人の心の平和のために下手な詮索はしないでおこう。ミランダも女性ばかりのパーティーに所属しているんだ。もしかしたら慣れているかもしれないしな。


 自分に無理やり言い聞かせながら皆が集めてきた資料に視線を落とす。




『リューブラント侯爵、反乱』

『リューブラント侯爵、蜂起』

『リューブラント侯爵、起つ』


 立場の違いがそのまま表現の違いになっているが、リューブラント侯爵が軍を率いてベール城塞都市を目指している噂はガザン王国全土に瞬く間に広がっていた。

 いや、ガザン王国に留まることなく周辺諸国へももの凄い速度で拡散をしている。




 新旧『王の剣』の激突

 鉄壁のベール城塞都市に立て籠もる国王、そして『王の剣』と『王の盾』

 迫るは先王の時代に勇名をはせた、かつての『王の剣』――リューブラント侯爵を擁する薄幸の姫君、ラウラ・グランフェルト


 号外の見出しだ。




『錆びて刃こぼれをした剣など恐れるに値せず』


 現役の『王の剣』であるバウアー国軍司令官のコメントだそうだ。


 どうやってコメントを取ったんだ? いや、そもそも自分のことを『王の剣』とか言わないだろう、普通。

 少なくともそんな恥ずかしい人の下で戦いたくないよな。


 いや、その前に国軍の司令官はローマイアとか言う伯爵だか侯爵だったはずだ。

 バウアーってどこのどいつだよ。




 皆が集めてくれた資料には今回の戦争、特にガザン王国内の内乱を面白おかしく評していた。

 各地で吟遊詩人や演劇の脚本家が活躍しているようだ。

 噂は俺たちが考えていた以上に尾ひれ背びれが付いて広がっているようだ。


 様子見を決め込んでいる領主や他国の噂や対応などは娯楽として捉えているのではないかと疑うほどに酷い。

 まあ、対岸の火事とは本来そういうものなのかもしれないが……酷いな。


 ◇


 やはりと言うか、王都でのリューブラント侯爵は敵役であった。しかし、ラウラ姫に対しては好意的とまではいかないが同情を集めている。

 グランフェルトのクーデターのことは知らなかった人たちが多いようで、俺たちがもたらした情報により、ラウラ姫に同情が集まったようである。


 相対的に王家の評判は下落する。


 グランフェルト領へ近付くほどにラウラ姫に好意的になるのは分かるが、全く逆方向にある辺境の領主の下でも概ね好意的である。

 ガザン王家、リューブラント侯爵、ラウラ姫のいずれに好意的か、各地のリサーチ結果は今後の作戦立案の参考にさせてもらおう。


 ◇

 ◆

 ◇


 軍が野営に入り夕食の準備が進む中、俺たちは自分たちの食事の準備を終えたところでミーティングを開始した。

 例によって他の兵士たちとは違うメニュー、食材の調達から調理まで自分たちでやっている。いや、正確には白アリを筆頭とした女性陣が調理してくれた。そんな夕食を摂りながらのミーティングだ。当然、誰も近寄れないようにテイムした魔物や使役獣、ワイバーンを周囲に配置してある。


 議題は当初より予定していた『特別物資の補給』と『寄り道』だ。


 俺はメインターゲットである王都の状況を皆に端的に伝える。


「さて、王都がガラ空き状態だな」


 白アリとテリーがメインディッシュのワイルドボアのステーキにナイフを入れながら、ターゲットに同情するように気の毒そうな表情をする。実際は小バカにしているのは間違いない。


「あたしたち相手に一箇所に戦力を集中させるとか間抜けね」


「まあ、分散させたらさせたで各個撃破の憂き目に遭うだけだから、あながち間違ってもいないのだけどな」


 俺たちの最大の強み。個人的には現代知識や概念だと思うのだが、側からみれば少数精鋭での機動力と火力だろう。

 いやまあ、正確に言えば空間転移で距離などないに等しい状態にできることだ。そして個人で高火力を生み出すことができる。


「戦力の乏しい後方を襲撃するのを何回かやっているから罠を張られている可能性もある。慎重に行動しようか」


 白アリとテリーの言葉に笑顔を見せるアイリスのメンバーに注意をうながすようにわずかな可能性だが注意を促す。


 敵に対する侮りは俺たちよりもアイリスのメンバーや奴隷たちの方が大きい。

 敵側に俺たちチェックメイトのような強力な魔術師の集団がいるとは露ほども考えていない節がある。


 自分で注意を促しておいてなんだが、罠を張られている可能性は限りなく低いと思う。

 そもそも、敵にそんな余裕はない。乾坤一擲、ベール城塞都市での勝利を逃せば後はジリ貧だ。たとえ俺たちと同じような転移者を擁していたとしてもベール城塞都市へ配置するはずだ。


 作戦の概略はリューブラント侯爵軍が出発する数日前から決まっていた。

 出発前日にリューブラント侯爵へ報告もしているし、了解も得ている。


 ワンパターンだが、敵が戦力を集中したところで、機動力を活かして敵戦力の薄いところを襲う。今回であれば王都と王家とともに出兵した領主たちの所領がターゲットとなる。


「王都を襲撃する。今回出兵している領主の所領も同様だ。西方は実入りが期待できないので無視しよう」


 食事中の皆に向けて最終決定事項を伝えた。


 作戦は単純だ。


 ベール城塞都市への進軍から一時的に外れて王都――王城とそれに与した周辺の領主たちの屋敷を襲う。

 多少の守備兵力は残されているだろうが、俺たちにとっては障害にはならない。そもそも戦うつもりもないんだが。


 リューブラント軍の行軍速度に影響を与えないように戦果は最小限に抑える。だが、宝物庫の中身全部と国庫は空にさせてもらおう。周辺の領主もターゲットである。

 ベール城塞都市までの行軍途中の寄り道、余禄のひとつ、王都襲撃。与した領主の所領と屋敷はおまけだ。


 右手に持ったナイフを置くと、白アリは小さく手を挙げて少しだけ上目遣いでうかがうように聞いてきた。


「美術品とか屋敷とかは持ち帰ったらダメ?」


「そうですね、屋敷のストックが寂しくなっていますよね」


 黒アリスちゃんも俺と白アリの顔を交互に見ながら、白アリのことを援護するように話す。


「時間はかけるなよ、丁寧に解体している時間もないし守備兵とのんびり闘っている時間もないからな」


 出来れば襲撃にあったことすら、相手に知られないのが最善なんだがなあ。などと考えながら二人に了解の意思を示した。

皆様から頂きました「なろうコン」の「応援・お祝いコメント」をクラウドゲート様より頂戴致しました。

たくさんのメッセージ、ありがとうございます。


もう、一つも無かったどうしよう(><)

運営さん、下駄を履かせてくれますよね?

可哀想な作者用のメッセージ集とか用意してますよね?


などと怯えておりましたが、杞憂と終わったことに安堵すると共に感謝申し上げます。

本当にありがとうございました。


なお、応援期間は6月10日から6月30日まであるそうです。

改めて、よろしくお願いいたします。


こちらです

↓↓↓↓↓

http://www.wtrpg9.com/novel/

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