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救わなきゃダメですか? 異世界  作者: 青山 有
第一部 異世界
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第172話 オーガ討伐隊(4)

 森と草原との境に姿を現し、弓を引き絞っている十一匹のオークへ向けて風魔法を放つ。

 放つ魔法は二種類。


 一つは突風の魔法で弓から放たれた矢を吹き飛ばす。

 もう一つは風の刃。合計二十二発の風の刃をオークが構えている弓の弦とそれぞれの利き腕の腱へと撃ち込む。


 突風が飛来する矢を巻き上げながら森の中へと運び、突風の中を切り裂いて風の刃が目標を捉える。

 甲高い音を響かせて弓が武器としての用をなさなくなり、オークの悲鳴と咆哮ほうこうが利き腕の損傷を知らせ、戸惑いと怒りがオークたちの間に広がっていく。


「後ろの方にいるオーク、右手を怪我してる」


「うわーっ!」


「凄ーいっ!」


「今の風魔法?」


「魔法だよ、風魔法だよっ!」


「矢が森のほうに流されていっちゃったよ」


 後方から村人の歓声が上がる。

 歓声に混じって聞こえてくる会話がやけに具体的なので気になって振り返ると、塹壕ざんごうに隠れているはずの人たちが顔を出してオークたちの様子をうかがっていた。


 随分と危機感の薄い村人たちだな。もしかして過去に探索者の経験があるとか、腕利きの探索者だったとかないよな?

 まあ、恐怖で顔も上げられないよりは状況を視認してなおパニックにならずに済んでくれているのは助かるが。


「手前側の地面も水魔法でグチャグチャにしました」


 村人たちに意識を向けていた俺に向かってロミが指示の完遂を告げる。オークが迫ってきているためか口調も表情も緊張を隠せずにいる。


 ロミの声に反応して、意識をバリケード前面の地面と泥濘ぬかるみに足を取られているオークたちへと向ける。

 バリケードの前面に作られた泥濘ぬかるみは十分に機能しそうだが、念のためもう少し深いところまで水を浸透させておくか。

  

 先行していた十三匹のオークはロミの作り出した第一の泥濘ぬかるみに足を取られて速度を大幅に減じる。

 そこへジェラルドとウルリヒ、アルたち三名が矢を射掛けるが大きな成果には至っていない。距離があることも理由だろうが、皮鎧と厚い筋肉と皮下脂肪に阻まれて矢が致命傷を与えられずにいた。


 さすがにこの距離じゃ露出した部分を狙撃するのは無理か。

 弓矢を利用する探索者は多い。魔術師なども普段の武器として弓矢を装備している人は多い。

 だが熟練度合いとなると然程さほどでもない人たちが多いのも確かだ。

 あくまでサブウェポンとして普及しているのであってメインウェポンではない。人気は槍と剣、斧あたりである。


「弓矢は『敵に少しでも怪我を負わせられれば良い』くらいの気持ちで撃ち続けてくれ。ロミは風の刃でオークを一匹ずつで良いから確実に仕留めようか」


 そう告げて見本を示すように先頭を駆ける二匹のオークの首を風の刃で切り裂く。


 同時に後方から村人の歓声が聞こえた。

 本当に余裕があるよな、この人たち。槍とか投石でも十分なので今からでも迎撃の手伝いをしてもらおうかな。


「凄い、この距離をあんなに正確に……」


「肌の露出している部分――出来れば首、ダメなら顔に攻撃を集中させてくれ」


 俺の放った風の刃がもたらした結果を、茫然とした表情で見ながら言葉に詰まったロミに向けて、風の刃を放つだけでなくそれに精度を求める。


「え? あ、はい。頑張ってみます」


 俺の要求にかなりの戸惑いを見せたが、すぐに正面へと向きなおりオークへ風の刃を放つ。


 仲間だったオークの死体を踏み越えてこちらへ向かっているオークの顔面に四つの傷が作られて血が噴き出した。

 しかし、致命傷には至っていない。逆上した様子で遮二無二しゃにむに前進を続ける。


「ひるむなっ! 精度を上げることを意識して風魔法による攻撃を継続しろっ!」


 自身の放った風の刃にもひるむことなく尚も前進を続けるオークの迫力にひるむロミを激励する。


 俺の言葉に無言で反応して迫るオークへ向けて風の刃を放つ。

 今度も致命傷には至らなかったが右目を傷つけることに成功した。ここから見た限りでは右目の視力を完全に奪ったようだ。


 なおも風の刃を撃ち込むロミに褒め言葉をかける。

 そして後方の十一匹のうち後退を始めた四匹の頭部に向けて固体窒素の弾丸を撃ち込んだ。固体窒素を頭部に受けた四匹のオークはその場に崩れ落ちるようにして倒れる。


 その様子に後方の村人から歓声が上がり、感想が述べられる。

 本当に余裕あるよな、あんたたち。


 ロミが傷つけたオークをジェラルドの放った矢が仕留めた。

 顔面血まみれでろくに視界が利かなかったであろうオークの頭部に見事に命中した。


 そしてその後方を進んでいたオークが、仕留められたオークにつまずき転んだところに矢が突き刺さる。

 首筋に四本の矢を受けて絶命した。


 距離が近づいてきたことにより矢の貫通力と命中精度があがった。

 さらに二匹のオークを仕留め、なおも迫るオークたちにも次々と手傷を負わせていく。


 距離が近づいたことにより命中精度が上がったのは前衛職の三人だけではない。

 ロミの放つ風の刃の命中精度も上がっている。


 ロミの放った風の刃が三匹のオークの首筋を切り裂いた。首から血しぶきを噴き上げて泥濘ぬかるみの中へと倒れこんでいく。


 順調にオークを倒していくが、四人では厳しいか。もう少しオークの数を減らせると思ったが、俺の予想よりも弓矢での攻撃で数を減らすことが出来なかった。

 予想以上にオークの筋肉と皮下脂肪は厚いようだ。


 俺も援護射撃として固体窒素の弾丸を第一陣であるオークのうち、生き残っている五匹に向けて放つ。狙いは全て利き腕。狙い違わず全てヒットする。

 これで残存するオークで利き腕が無事なものはいなくなった。もちろんそれだけじゃない、第一陣のオークたちは矢を受けて利き腕以外にもかなりの傷を負っている。


 第二陣の生き残り、七匹のオークが第一陣の生き残りである五匹に追いついたが、利き腕を損傷した状態で戦力を集中されたところで脅威にはならない。

 実際に一番それを肌で感じているのは村人たちだろう。オークが傷つき倒れるたびに歓声を上げているだけでなく、既に村人の半数以上は塹壕ざんごうから抜け出して戦闘を見学していた。


 いや、村人じゃないな。この状況を最も鋭敏に感じ取っていたのはオークたちのようだ。合流と同時に撤退をする様子を見せている。

 利き腕を損傷しているにもかかわらず仲間を助けるために合流したのは見上げたものだが、バリケード手前の泥濘ぬかるみに予想以上に手を焼いている。


「魔力切れの心配は要らない。出し惜しみをするな」


 ロミの背中に手をかざして魔力を供給する。


「はいっ!」


 自身に魔力の補充がされる感覚に驚いて、一瞬だが風の刃の撃ち出しが止まるが、小気味良い返事と共にこれまでに倍する風の刃が撃ち出されていく。


 撃ち出される風の刃の数が増えれば敵に与える損害も比例して増える。

 距離が近付いたことと、ジェラルドとウルリヒがロミの魔法に呼応するように弓で効率良く矢を射だしたことで敵の足が完全に止まった。


「アル、ジェラルドとウルリヒのようにロミが標的とした個体に矢を集中させて確実に数を減らすことを優先させるんだ」


 手近な個体を優先して射ているアルに正規の探索者である二人の対応を見習うように指示を出す。


 敵の足が止まり確実に数を減らすルーチンが出来上がった。後は作業だ。

 念のため、空間感知の索敵範囲を拡大させるが半径一キロメートルに脅威はない。


 辺りにはオークの叫び声と村人の歓声が響き渡る。その中、四人の探索者は槍と風の刃でオークの数を確実に減らしていく。


 息をしているオークはもう三匹だけだ。それも虫の息状態である。

 今回の戦いで陣地を築くことと敵の足場を乱すことの有用性を理解してもらえただろうか。


 そして何よりも、魔法は同じ魔法でも工夫次第で効果に大きな差が出る。

 それを理解してもらえれば苦労した甲斐があったというものだ。


 最後のオークの咆哮ほうこうが村人の歓声にかき消された。


 ◇


「あの、魔石と討伐部位の分配ですがどのようにしましょうか?」


 ジェラルドが遠慮がちに聞いてきた。


 普通、今回のような場合は最も上位の階級であるジェラルドがそれぞれの働きに応じて分配をするのが通例だ。

 最初から階級が下の俺を立ててくれていたが徹底してるな。


「俺は魔石も討伐部位も要らないので四人で分けてくれ」


 ジェラルドと彼の後ろで成り行きを見守っていた三人に向けて伝え、そのまま拠点に向けて歩き出し、さらに続ける。


「さあ、拠点に戻って食事にしよう。午後にはオーガが出てくるかもしれないんだから腹ごしらえをしておかないとな」


 拠点へ向けて歩を進める俺を追うように集まってきた子供たちが騒がしい声を上げながら群がってきた。

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