君の存在
「ねえ、一樹って高校どこにするの?」
学校の帰り道、俺は隣を歩く優香に質問を受ける。
優香は立ち止まって俺の方を黙って見つめる。
季節は冬。もう十二月も終わろうかという日だ。
マフラーの間から漏れてくる白い吐息が、空気中で分散して消えていく。
「そうだな……流石に決めないとまずいよな……」
俺は頭を掻き、笑いながら答える。
はっきり言って進路など全くと言っていいほど考えていなかった。
そんなに焦らなくても、その時になって自分の行けるところに行けばいい。
おれはそんな風に考えていた。
「当たり前でしょ!」
だから俺は思わず、後ろに下がってしまった。
まさかこんなにも強く言われるとは思ってもいなかったからだ。
優香は昔からの知り合い。
世間一般でいう、幼馴染ってやつだと思う。
だから優香のことは大体知っているつもりでいた。
でも、俺は優香がここまで強く言ってきたのを今まで見たことがない。
「まあ、そんなにな。……焦らなくても」
俺は優香をなだめるために肩を掴もうとする。
しかし優香を俺の手を払った。
「もう少し真面目に考えなよ!」
そう言って先に歩いて行ってしまった。
その日の夜。
俺は優香に電話をかけた。
「なあ、何でそんなに怒ってるんだよ」
俺に優香が怒っている理由が分からなかった。
何度聞いても答えてくれない。
「なあ……」
「うるさいな! もう……覚えてないなら……いいよ」
そんな優香の言葉で電話は終わった。
覚えてないならって。
なんのことだ。俺は何か忘れているのか。
俺には思い当たる節がなかった。
それでも俺は頭をフル回転させて過去のできごとを思い出していく。
先月、一緒にカラオケいったな。そこでは何もなかった。
優香は楽しそうに歌っていたし、どこにもおかしな様子はなかった。
一年前。
ああ、優香の恋愛相談に乗ってやった。
確か内容は、告白されたから返事はどうしようだったかな。
俺はその時、自分が付き合いたいと思ったら付き合えばいいと答えたはず。
優香はすこし残念そうな顔をしていたけど、多分原因それじゃない。
中学の入学したばかりの頃。
同じクラスで丁度席が前後になった。
「あ、あのことか!」
俺は慌てて電話をかける。
早く謝りたい気持ちだけが先走る。
いつもよりも時間が長く感じた。
「ゆ、優香! ごめん俺が悪かった!」
「わかってくれた?」
優香は、バカと微かに俺に聞こえる声で呟いた。
優香はずっとこの約束を覚えていたのだ。
二人一緒の学校に行くという約束を。
「優香……」
「な~に?」
優香はすでに分かっている様な感じだった。
でも俺に直接言わせたいのだろう。
俺は少し照れくさくなりながらも、その一言を口に出す。
「お前と一緒の学校に行きたいんだ。……だから俺に勉強教えてくれないか?」
俺の顔の温度が上昇していくのがわかる。
相当恥ずかしい。
やはり幼馴染は特別なのか。
俺が今どんな状況かを分かっているのか。
電話の奥からクスクスと笑い声が聞こえる。
「……優香?」
「やっと言ってくれた」
いつまで待たせるのよと言いたげな口調。
それと同時に嬉しそうな。
「いいよ。でも、私は厳しいからね」
そして優香も少し恥ずかしそうだった。
「一緒の学校にいこうな」
「……うん!」
初の投稿となります。
実際、自分が中学三年生ということで単なる願望を書いてみました。
文才なんて一ミクロンたりともありませんが、楽しんでもらえれば幸いです。