プロローグ
世界には人間が解明できない様々な謎がある。
それは歴史の謎、宇宙人、伝説。いろいろなものなどがあてはまる。
だが、僕が最も難解でやっかいな謎だと思うのは人の噂や創作によって出来た怪談や物語である。
それらには、思いがこもっている。みんなにつたえたい、楽しませたい、笑わせたいなどと言った物はもちろん、呪う、殺意、悪意がこもったものがある。
それらを信仰する人もいたり、その話の後を想像したりする人もいる。
しかし、信仰した物語は着々とその後の物語が作られ、進行していく。
その後の物語を想像すると、その物語は創造される。本の上でも、現実でも。
僕はこの、高校二年生の夏休みに不可思議な出来事と遭遇した。
それは科学なんかで説明できるようなものではなかったし、ましてや人為的なものとも思えなかった。
どちらかというと、オカルトのようなものだ。
そして僕はその出来事をおさめるために三つの代償を払った。
それは今でも僕の体を蝕んでいる。
後悔していないと言えば嘘になるが、あそこであの選択をしていなければ僕ではない、一人の女の子が犠牲となったのだから、決して尊くはない無駄ともいえる犠牲を払うはめになったのだから、それよりかはよっぽどいい。
この物語は、数奇で、不可思議で、不可解で、オカルト的で、決して論理的ではなく、正しくもなく、この世の裏側を、真っ黒さを存分に証明してくれる物語だ。
さあ、地獄は始まる。
●
十月、それは少し温暖化気味の今の世の中ではまあまあ過ごしやすい部類に入るだろうと言う季節。
一般的な部活や同好会からは、すっかり三年の先輩の姿は消えている季節。
そんな季節だが、相も変わらず、僕は学校への道を歩いている。
家から学校までは約三十分。普通なら、自転車を使っているぐらいの距離である。
なに、こんなのは剣道部のエースである僕にはこのぐらいの距離別に苦にはならない。冬にはジョギングがわりにこの道を走ろうと思ってるぐらいだ。
運動にもなる・・・というのも本当なのだが、僕は歩くと言う事が好きなのである。
こうして一歩、一歩と歩を進めていくとここには自分がいるんだと実在しているんだという気になる。
そしてこの僕、春夏秋冬 四季は長い髪をゆらしながら学校に向かう。
そう、長い髪・・・高校生活も後半になったというのに未だに百六十cmをこえない中学生のような背。女の子のように艶やかで、腰よりも長く伸びた真っ黒な髪、血の気が通ってないかのような白色の肌、女の子のようなくりくりした目。、感情の希薄さ、感情をまるでうつさない真っ黒な目は人とあまりつきあいたくない僕としては非常にありがたい・・・話が微妙に逸れてしまったが、要するに僕こと、春夏秋冬 四季はこんな姿だが、れっきとした一般男子だということだ。特殊な立場など持っていない、というかいらない。
と、いつの間にか学校が見えてきた。三十分だとは言ってもぼーっとしてれば時間も早く過ぎるか・・・。
ともあれ僕は、学生という立場の僕が通っている清遊高校に向かう。
●
がらがら、と音を鳴らして教室のドアを横に引き、そして自分の席に向かう。
その中に僕に話しかけてくる子はいない。当然だ、あの夏休み以降僕は一部の人間との接触をとことんまで避けている。
何、ただこのクラスで一番権力の強いやつに喧嘩を売っただけである。
それがきっかけでそいつらに目をつけられ、後は自動的にみんなが離れていった、そんなところだ。
まあ、そうなることを狙ったのだから別にかまわないのだけれど。
でも、
「おい、春夏秋冬」
こうなることを考えてなかったなあ・・・。
「きいてんのかよ、おい!」
はいはい聞こえてるよ聞こえてますよ。まあ、これが唯一のミスだ。
いや、別にいじめられてるわけじゃないんだ。
「聞こえてるよ、何だ?勇気」
「おう、いやなに、ただ駅前にラーメン屋ができたから食べにいこうかと思ってな」
ベタ!ベッタベタだな!なんか、優しい不良が一番取りそうな行動をチョイスした。みたいな!
「ああ、ごめん。今日は剣道部の活動があるから・・・」
「そうか・・・ならしょうがないな・・・」
「今週の土曜日だったら暇だからいけるけど」
「ああ、じゃあその日に食いに行こうな」
そういって、佑夕 勇気は自分の席に戻っていった。百九十cmで細マッチョで顔もまあまあかっこいいのだが、高校デビューで失敗してそのまま、この学校をしめる番長(今時の言い方であってるかどうか不安だが)になったというなかなか痛いことをしてしまったやつである。
ちなみに、子猫好きらしい。だから、古典的な不良か!
仲良くなったきっかけは、チビなのに俺に向かってきたから(世紀末的な考えか。あとチビっていうなぶっ殺すぞ)らしい。これもベタ。
まあ、まんざらでもないけどな。
そして、先生が入ってきて授業が始まる。
●
授業も終わり、体育館の格技室(かくぎしつ)に僕はついた。
言わずもがな、剣道部の活動をするためである。
誰もいないロッカールームで髪を邪魔にならないようにポニーテール風にまとめ、道着を着る。
そして、一足先に素振りをしていると、キィッという音がして誰かがはいってきた。『あいつ』か?いや逸れにしては早い。
そしてはいってきた人物は、
「やあ、四季君」
彼女は早紀 宮|(さき みや」この学校で一番の美少女と言っても過言ではない。黒い髪に、知的な印象を感じさせる、鋭い目はとてもかっこいい。
「先輩。珍しいですね顔を出すなんて」
「ああ、君に話があってな」
僕に話?剣道部の活動じゃなくて?
「うむ、君の領分の話だ」
その言葉を聞いて、スッと頭が冷却される。
「なんですか?」
「ああ、実はこの学校で異常なまでに、そして何の前触れもなく『七不思議』が広まり始めているんだ」
「異常なまでに、そして前触れもなく・・・・」
これは、
「これは当たりかな」
「君もそう思うか?」
「はい、また『異生産』である可能性が高いかと」
「そうか、ならこの話を君に持ってきて正解だったな」
そこで、先輩は苦笑した。
「君はまだそんな風に人とのつながりを切ってるのだな」
「・・・・・」
「もう、いいんじゃないのか?」
「いえ、」
でも僕は、
「あれだけの罪を犯した僕にはそんな資格はありません」
ただ目をそらしているだけなのは分かっている。だけど、やっぱり僕は怖い。
「そう・・・か。なら、元気でな。」
それに、と先輩は言った。
「私ももう卒業だ。それまでには、新しい交友関係を持たないといけないのだから、それまでには決断しないといけないぞ」
そう、先輩ももう卒業。いつまでも現実から逃げていても意味がないのだ。
「じゃあな、それとこの紙を渡しておく。そこには七不思議の内容が書いてある。役立ててくれ」
そう言って先輩は格技室から出て行った。
・・・今日の夜から調べようかな。七不思議を、
僕の高校生活二年目にして、僕が初めて友好関係を深め、それを関係のないものによって引きちぎられる、とある少年の悲劇の物語、ハジマリハジマリ。
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