CategoryⅣ『未来系Unlimited Space Frontier』02
私達の乗った軌道エレベーターがゆっくりと加速を始める。私達は機内アナウンスの許可が下りるまで、シートベルトを締めてシートに束縛されなければならない。大気圏にいる間は風などの影響を受けやすく、揺れるのだ。
「ねぇねぇ、耳がキーンってするよ」
「つばを飲み込むと良いよ。キャンディーあるけど食べるかい?」
「うんっ」
私は耳に人差し指を入れて不快そうにしていたアリスにそう言って、飴玉を渡した。気圧は一定に保たれているのだろうが、そのあたりは飛行機と変わりない。
軌道エレベーターが動き出して数分。列車のように連結されたエレベーターはぐんぐんと高度を上げていく。対流圏を越えるのはものの数分で、それを越えると機体は安定して、揺れは少なくなる。
軌道エレベーターの速度は時速200km。一度動き出してしまえば雲の浮かぶ中空の世界をあっという間に過ぎて、30分ほどで大気圏を抜けて宇宙へと飛び出してしまう。
私はアリスと呼ばれる少女と共に、年甲斐も無く、その景色を見るため窓にかぶりつく。
ある程度の高さに達すれば、地球の丸みを直にはっきりと見ることが出来るようになる。青い地球と漆黒の宇宙とを隔てる、ぼやけた蒼く薄い大気の層は幻想的ですらある。
とはいえ、それを越してしまえば、後は眼下に地球が見え、周囲一面に星空が見える代わり映えの無い景色が数日間続くことになるので、記念すべき景色を私は動画に収める。
アリスはというと、すっかり私に懐いてしまったようで、動画を撮っている最中も、「私も撮って」などとせがんだり、眼下に映る地球を指差しては、「ねぇねぇ、見て、島があんなに小さく見えるわ。あそこは何処かしら」などとじゃれてくる。
私も元の世界に息子と娘がいたので、彼女を見ていると昔の娘と話しているような気分になるのでついつい構ってしまう。
「ガラパゴス諸島だね」
「ガラパゴスっ、私知ってるわ。ダーウィンで有名な島でしょ?」
「うん。ゾウガメやイグアナが住んでる、世界遺産にもなっている場所だね。良く知ってるね」
「前にテレビで見たの。まだステイツは見えないのかしら?」
「もう少しかかるね。アリス、君はアメリカ人なのかい?」
「ええ、そうよ。マサチューセッツのケンブリッジにお家があるのよ」
「ああ、MITで有名な」
「ねぇねぇ、アキオの故郷はどこ? ここから見える?」
「ここからは見えないよ。日本っていうんだけど、知ってるかな?」
「日本? 知ってるわ。昔、パパとママと一緒に行った事があるもの」
「そうなのかい? ところでアリス、君のご両親は―」
「アキオ、『大丈夫』なのよ」
その時、一瞬ザリッという耳鳴りがして―
「そうか。大丈夫なのか」
私は何を疑問に覚えたのだっけ? 分からない。分からないならそれでいいじゃないか。
「ねぇねぇ、そういえば、もう宇宙なんでしょ? どうして無重力にならないのかしら?」
「まだ地球の近くだからね。ロケットなんかは軌道に乗れば遠心力と重力が打ち消しあって無重力になるけど、軌道エレベーターがそうなるのは静止軌道に到着してからだよ」
「んー、難しくてよく判らないわ」
「そうか。でも徐々に判るようになるよ。七日たてば嫌でも分かるようになる」
この高度ではまだ地球の重力の井戸の中だ。その分、地上と変わらない生活が可能になるが、数日も経てばそうもいかなくなる。シャワーが使えるのも、普通に食事が取れるのも最初の数日だけだ。
私は一旦アリスを残してシートに戻る。景色もあまり代わり映えがしないからだ。アリスはまだ飽きずに楽しそうに窓の景色を楽しんでいるようだが。
「やあ、アキオ。ずいぶん懐かれたみたいじゃないか」
と、正面のシートに座りながら電子ペーパー(おそらく新聞を読んでいるのだろう)を広げるボブに冷やかされる。
「ははっ、どうしてだろうね。僕はそんなに子供に好かれる性質じゃなかったのに」
「まあ、華があっていいじゃないか。もし彼女がいなくて、野郎四人でこの客室に閉じ込められてたらきっと息が詰まってた」
「そう言いながら、ボブ、結構Mr.ベルナーと打ち解けているみたいじゃないか」
私がアリスにじゃれ付かれていた間、ボブはベルナー氏と談笑で盛り上がっていた。どうやら気さくな人柄らしい。
「いや、君たちほどではない。ただ、Mr.バークレイとは趣味が合ってね。サイクリングなのだけれども」
「そういや、ボブは休日、よく自転車で遠乗りするんだったな」
「アキオの趣味はゴルフだったっけ?」
「下手の横好きという奴だよ。そういえばジムにサイクリングのシミュレーターがあったはずだが」
「本当か?」
室内には個人個人のシートに有機ELディスプレイと電子端末が用意され、テレビに映画やゲームなどが楽しめる。ボブは端末で機内の施設に関する情報を検索して、
「Mr.ベルナー、どうする?」
「利用させてもらうよ。ずっと座りっぱなしでは身体がなまるからな。Mr.アズマ、君はどうする?」
「考えておくよ。いずれ使わせてもらう」
軌道エレベーターは7日半という長い滞在時間において、小重力環境下における健康面への配慮からジムが用意されている。サイクリングやジョギングの他、筋力トレーニングができるようになっている。
「ねぇねぇ、何見てるの?」
と、アリスが景色を眺めるのにも飽きたのか、私の傍にやって来てディスプレイを覗き込んだ。
「このエレベーターの施設がどうなってるか見てるんだよ。ここがジムで、ここはバーかな?」
「ねぇアキオ、じゃあ探検にいきましょ?」
唐突なアリスの提案。私は助けを求めるようにボブに視線を送るが、薄情にも彼はニヤニヤと笑いながら、「お姫様のエスコートご苦労さん」などと言う。
エスコートではなく、子守の間違いではないかと私は文句を言いたくなったが、アリスの前なので言うこともできず、
「ダメかしら?」
無垢な表情が私を覗き込む。なるほど、断る目など始めから自分には無かったわけである。
「わかったわかった。じゃあ、一番上から見ていこうか」
「ありがとう、アキオ!」
まあ、彼女のこの笑顔が対価というのなら、子守もまた悪くは無いだろう。
私達はまず機内エレベーターに乗って最上部、先端ユニットに赴く。先端ユニットは展望室となっており、星空を楽しむことが出来る。とはいえ、今は昼であるからして、太陽の直射光を防ぐために大半の窓には遮光シールドが張られている。
「あまり面白い場所じゃないわ」
「夜にまた来るといいよ。満天の星空とはいえないけど、地上よりもたくさんの星を見れるはずだから」
大気と言う層を抜けた今、天上の星を遮る雲も、大気の揺らぎも無い。星は瞬かず、よりくっきりとした光として見ることが出来るはずだ。気密構造の軌道エレベーター故に窓は小さな円形で、とても満天の空を見るとはいかないだろうが。
「次は何処に行こうかしら?」
「スポーツジムはどうだろう。いろいろと運動器具が揃っているらしいよ」
というわけで、次に向かうのは先ほどボブとの会話に出てきたスポーツジムとなっているユニットである。ジムにとられているユニットは二つらしい。
一つ目のユニットは、ジョギング用のランニングマシンが3つ、サイクリングマシンが2つ。他に幾つかのトレーニング器具が設置されていた。
先客が既に居り、男性でランニングマシンを使い軽いジョギングを行っている。まだ重力が地球とあまり変わらないのでゴムバンドはつけていないが、無重力に近くなると身体を床に固定するためのゴムバンドが必要になる。
と、お転婆なのかアリスはランニングマシンに勝手に乗って、スタートをしてしまう。私はやれやれと首をすくめる。
「ねぇアキオッ、このランニングマシーンって面白いわ。動かしたとたん、周囲の景色が変わるのよ」
「ん? RSD(網膜走査ディスプレイ)なのか。さすが金をかけているな」
私もランニングマシンに乗ってみる。コース設定などがあり、設定をアリスのものに合わせてスタートをしてみると、周囲の景色が一変した。ゆるやかに蛇行する広大な河川の堤防の上を走るコース。
RSD(網膜走査ディスプレイ)は目の網膜に直接画像を投影して、仮想現実を体験できるシステムだ。しかも、送風による自然の風の再現もなされているらしい。
しばらく走っていると、若干の違和感。どうやら、元の世界にいた私よりも、この身体は鍛えられているらしく、普段であれば運動不足がたたってすぐにバテてしまうだろうはずなのに、息切れも起こさない。
そうして私はしばらくの間、アリスの走るスピードにあわせて並走をする。
「スカートじゃ走りにくいわ」
「じゃあ、そろそろ切り上げようか」
「競争しようと思ったのに残念だわ」
アリスは息を荒くして、傍にあったベンチに座り込む。私は飲料のコーナーからスポーツドリンクを買ってアリスに持っていった。
「はい、どうぞ」
「ありがとうアキオ」
「どういたしまして。疲れたかい? もう戻ろうか?」
「いえ、少し休んでから、もう一つの方に行きましょう」
「了解」
5分ほどの休憩を挟み、私達はもう一つのジムに向かう。そこは天井が高く、エレベーターの横にコンソールがあり、他にテニスラケットや各種のボールなどが棚にしまわれているだけで、前方には無数の正方形のブロックを敷き詰めたような壁があるだけの部屋。
ここは球技のシミュレーターのようだ。ボールを前方の壁に飛ばすと、正方形のブロックが角度をつけてせり出してボールを打ち返すというような施設らしい。
「ねぇねぇアキオ、バドミントンも出来るんですって。やってみない?」
ということで、お姫様のわがままに付き合い、こんどはバドミントンをする羽目になる。とはいえ、EASYモードなので、そこまで激しい運動にはならないだろう。というわけでラケットを手にしてスタート。
軽い遊戯程度の難易度なので、シャトルはポーンポーンと山なりに宙を飛び、私達は軽くそれをラケットで打ち上げて、向こう側に飛ばす。RSD(網膜走査ディスプレイ)は相手側の架空の選手を映し、シャトルを打ち返してくる。
「おっと」
と、油断してしまったのか、私は大きく空振りをしてよろけてしまった。
「もうっ、ダメじゃないアキオ」
「ハハッ、ごめんよ」
そんな事をしながら、20分ほどバドミントンを続ける。流石に軽い遊戯でも息が上がってきた。
「ふぅ。アリス、少し休憩しないかい?」
「そうね、次の所で休みましょう」
「なら、カフェラウンジに行こうか」
というわけで次はカフェラウンジへと向かう。カフェラウンジは3つほどのユニットを合体させ互いを隔てる壁をぶち抜いた縦長の、螺旋階段で3つのフロアを繋ぐ構造のコーナーだ。
既に暇を持て余した客が新聞を広げながらコーヒーと軽食を楽しんでいる。ちなみにカフェの売りは無重力コーヒーらしいが、最終日にしか注文できないらしい。
丁度のどが渇いていたので飲み物を注文する。
「アリスは何がいい?」
「あの絞りたてオレンジジュースというのがいいわ」
「了解」
私は普通にアメリカンコーヒーを注文する。アリスの注文した絞りたてオレンジジュースは、本当に目の前でオレンジを圧搾してジュースにしていた。
アリスが適当に席をとり、私は飲み物をテーブルに運ぶ。
「ねぇ、なかなかお洒落なカフェじゃない?」
軌道エレベーターの中のカフェテラスはどこか不思議な形の椅子やテーブルが置かれていたり、前衛的なオブジェが飾ってあったりしているが、それらが不思議と調和して、なんともいえない、レトロフューチャーを思わせる作りになっている。
ちなみにカフェではあるが喫煙は出来ない。というより全室禁煙だ。密閉空間での火事は洒落ではすまないからだ。元の世界ではヘヴィスモーカーであった私は電子タバコで我慢するしかない。
まあ、今回の出張で禁煙が出来るならそれに越したことは無いと思われる。
「ねぇ、次は何処へ行こうかしら?」
「まだ行っていないのは…、バーとシャワー室、それに最後尾展望室ぐらいかな」
「カジノは流石にないのね」
「まあ、そのあたりはテレビゲームで代替しているだろう」
流石にこれ以上の娯楽施設は無いらしい。
「ねぇねぇ、私、この調理室を見てみたいわ。宇宙のキッチンなんでしょ?」
「調理室は関係者以外立ち入り禁止みたいだね」
「そうなの?」
「流石に自由に出入りできたら衛生上も良くないしね」
それに、軌道エレベーター内で本格的な調理が行われているとは思えない。おそらくは旅客機の機内食に近いものだろうし、重力が小さくなる後半の数日はレトルトなどの宇宙食が中心になるだろう。
次に向かったのはバー。カウンターで仕切られた空間は薄暗く、バーテンダーが昼間から飲みに来ている客の為、カクテルを作っているのが見える。
「昼間からやっているのか」
「ねぇ、アキオはお酒飲むの?」
「飲むよ。といっても僕はビールばかりだけどね」
日本酒はあまり飲まない。洋酒もあまり手を出したことは無く、もっとも、元の世界にいた頃は豆を原料にした、第三のビールと呼ばれるビールと呼ぶには躊躇われる安酒ばかりを飲んでいた。
なので、この手のショットバーには最近とんと行っていない。行くのはチェーン展開しているような居酒屋ばかりだ。そう思うと、なんとなく悔しくなってきたのであとでボブとベルナー氏を誘って飲みに来ようか。
「ふうん。私、ビールってよく判らないわ。どうして大人はあんな苦いものを美味しそうに飲めるのかしら」
「って、アリス、飲んだことあるのかい?」
「パパのをちょこっと飲んでみたことがあるだけよ」
まあ、それぐらいなら何処の家庭でもあるだろう。大人の真似をしたがるのが子供だ。自分にもそういう経験がある。というか、昔、親戚が集まった時に叔父が無理やり私に日本酒を飲ませたなんて記憶もある。
「まあ、ここはアリスとはあまり縁のある場所じゃないな」
「そうね。次行きましょう」
次が最後。最後尾の展望室。このユニットは直列にいくつものユニットが繋がっている軌道エレベーターの後端にあたる場所にあり、床の一部が透明の窓になっていて、そこから直に地球を見下ろすことが出来る(太陽の直射光は入らないように配慮はされている)ユニットだ。
望遠鏡も設置されていて、この展望室からが一番地球が良く見えるので、何人かの先客らが窓にへばりつくようにして自分達が住む惑星を見下ろしている。
「ねぇねぇ、見てアキオっ、真下に地球が見えるわ」
「大分、高いところまできたね」
それでも高度200km~300kmほど。地球全体を視界に捉えるにはまだ高度が足りない。
「望遠鏡、使っても良いかしら?」
「いいよ」
携帯電話を望遠鏡の読み取り機に近づける。ピッという電子音が鳴り、電子マネーが振り込まれて望遠鏡が使えるようになる。
アリスは望遠鏡を覗くのに夢中になっている。私はそんな彼女を横目に入れながら、近くの壁に体重を預けた。
久しぶり、本当に久しぶりに子供と戯れたせいか、かなり気疲れしたように思う。思えば元の世界では、ここ何ヶ月も子供達に会っていなかったことに気づき、私はふっと自嘲気味に笑う。
子供達がアリスぐらいの年齢だった頃はそれなりに上手くやっていたと思う。宇宙飛行士としての夢は追いかけられなかったが、高校の物理の教師としてそれなりに頑張っていた。
それが狂ったのは―
「やめておこう」
私は新しい自分として生まれ変わったのだ。あの頃のことを思い出しても、それを切り捨てた私にとっては何の意味も無いことだ。私は天井を見上げ、ふうと息を吐いた。
と、その時、突然、周囲の様子が変わる。
同じ展望室にいる乗客たちが何やら頭を抱えてうずくまり始めたのだ。私はその異変に一瞬気が動転するものの、近くのうずくまる女性に声を掛ける。
「大丈夫ですか!?」
しかし、女性は何も答えず、うめき声を上げるのみ。何らかのトラブルが発生したのだろう。私は近くにある端末を使い、エレベーター常駐のスタッフに連絡を入れようとする。いや、しようとした。その時、
「「「「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」」」」
うずくまっていた乗客たちの口から怖気のするような叫び声が発せられ、彼らの身体がボコリボコリと隆起したり陥没をして、同時に何か黒いものが浸食し始めた。
そして、両手で覆っていた顔面の皮膚を、まるでそれが特殊メイクのマスクであるかのように引き剥がし始め、そうしてその裏から白い仮面が現れた。
彼らの身体は老若男女問わず、いつの間にか背が高くがたいの良い男性の体へと変化し、服装は黒いスーツへと変貌していた。そうして髪の毛は黒い帽子へと変化し、白い仮面にはトランプの絵柄と数字が浮き出した。
乗客たちは僅か数秒の間に、奇妙な怪人へと変貌を遂げたのである。
「何だ…、何なんだこれは!?」
意味が分からない。私は目の前の超常に腰を抜かし、ずり落ちるように床にへたり込む。何が起こったのか理解できず、目を疑い、えも言われない恐怖に私はオロオロとするばかりだった。
が、視界の横に捉えた少女、アリスの姿を認めて少しばかり正気に戻る。そうだ、何をしているんだ。とにかく彼女を守らなければ。私はふんばり、立ち上がろうとする。
「アリスっ、逃げるんだっ!!」
しかし、そんな私に怪人たちは目もくれず、ただアリスを取り囲むようににじり寄り始める。そんな中、アリスは、
「つまらないわ」
何を言っている?
「本当に芸が無いんだから。一回目と二回目はそれなりに面白かったけれど、飽きたわ。本当に貴方達は、というより貴女、つまらない」
アリスは底冷えするような冷たい視線で周りの怪人たちを見回し、アリスはパチンッと指を鳴らす。
そうすると、彼女の足元の床がめくれ上がった。それは、カードを裏返しにするような。一枚がめくれ上がったのを皮切りに、アリスを中心として床が、壁が、天井が、次々とパタパタと音を上げてめくれ上がっていく。
めくれ上がった後には虚空があった。正確に言えば、クリスタルのように透明な床と、天の川を思わせる煌びやかな無数の星に彩られた虚空。まるで宇宙空間のような場所。
展望室であったこの場所は裏返り、無限の広さを持つ広大な空間へと変貌していく。アリスと怪人たちと、そして私は、その広大な空間の中にぽつんと取り残されたような形でこの不可思議な空間にあった。
怪人たちはその変容に戸惑うように周囲を見回し、『それが自分達にとって良くない状況』であると判断して、一気にアリスに飛び掛る。
しかし、ここでもう一度アリスが指を鳴らす。次の瞬間、光が-
◆
「ねぇ、アキオっ、アキオっ、起きて!」
「ん…?」
まぶたをゆっくりと開ける。そこには可愛らしいアリスの顔が眼前にあって、彼女は私を揺すっていて、
「アレ…? 私は?」
「もう、アキオったら、私が目を離している隙に居眠りしちゃうなんて。酷いんだから」
「私が居眠りを?」
そうなのだろうか? 良く思い出せない。彼女が望遠鏡にかじりついてからの記憶が不鮮明だ。
「そうよ。アキオったら私みたいな可憐なレディーを放っておいて、寝ちゃうんだもの。失礼しちゃうわ」
「それは、すまないね。しかし……ん?」
どうやら本当に居眠りをしていたらしい。確かにそれは怒られても仕方が無いこと。どうやらアリスと一緒に大人気なく遊んだことだとか、宇宙に昇る前に引継ぎや何やらで、仕事を大急ぎで片付けていて疲れがたまっていたことが原因だろう。
「とにかく、本当にすまないアリス。埋め合わせはいつかするから。とりあえず部屋に戻ろうか」
「そうね、探検も一通り終わったし。帰りましょ」
そうして私達は機内エレベーターに乗り込む。『無人』の展望室を後にして。