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CategoryⅤ『幻想系Never End Fairy-Tale』03





「うおっ、すげー、マジで船が飛んでる」


「飛空艇とか胸熱」


「帽子飛んじゃうっ」



空は青。眼下には雲海。本来ならば水上を這うようにしか航行できない船は、ここに高く飛翔し、飛行機雲を軌跡に残し空を翔る。


甲板の上は強烈な風が前方から後方へと抜けるが、初めて空を行く船、飛空艇に乗った新米の冒険者たちは、我先と甲板に上がって空を翔る船の雄姿に目を向ける。空を飛ぶということは、確かにそれだけヒトを魅せるものなのだろう。


唸りを上げるのは風の音と、船の両舷に付属する推進器、大きな4枚羽根のプロペラが回転する音だ。エンジンは好調の音を響かせ、船はおよそ70ノットの速度で巡航する。


全長150mの船体は『船』とは言うものの、その形状はどこか流線型に近く、特に前半分の船首は白く塗装されたコーン状の先の丸い細長い円錐状で、後ろ半分にはフィンや推進器といったものが装飾とともに装備されており、海に浮かぶ船というよりは、SFに登場する宇宙船のような外観だ。



「これ、『西風の旅団』が所有してる船の1つなんだって」


「は? じゃあ、他にも持ってるのか?」


「らしいよ。ほらっ、アレ」



視線を雲海に向けると、鯨か何かのように雲から抜け出すもう一隻の飛空艇が現れ、この飛空艇と並ぶように飛行する。その形は今乗ってるそれに似ているが、色彩に違いがある。姉妹艦なのだろうか?



「俺らってもしかしてすげーギルドに入ったのかな?」



西風の旅団は創設からまだ20年も経っていない冒険者ギルドであるが、その実力と保有する戦力は一国の軍隊をも凌ぐと言われるほどの有名なギルドらしく、なんと5隻もの飛空艇を所有するらしい。



「やれやれ、飛空艇ぐらいではしゃぎまわるとは初心者丸出しだな」



甲板の上でやたら浮ついている新米冒険者たちを横目に俺は肩をすくめた。確かに飛空艇は目を見張るものがあるが、前の世界にも飛行機というものがあったのだし、子供じゃあるまいしそこまではしゃぎまわるものではない。



「ん? 俺か? 俺は紅蓮神威。この世界に転生したばかりだが、いつかはこの世界最強の勇者になる男だ。そしてゆくゆくはゼフィ、団長の相棒となり世界を制する英雄となる者だ」


「ねぇ、君ぃ、誰と話してるのぉ?」


「はうあっ!? 貴様、いつの間に俺の背後に!?」


「ん~? さっきからいたよぉ?」



俺は唐突に背後に現れた女に少しばかり面を食らう。女は長く鳶色の髪をストレートに伸ばし、金で装飾された赤い鎧を身に纏った女性だ。しかし、この女、俺に気づかれずに背後をとるなどかなりの手練に相違ない。



「どうしたのぉ? 私の顔に何かついてるぅ?」



しかしどうやら敵意はなさそうだ。はっ? なんということだ、どうやら彼女は俺の王気(オーラ)にあてられたのだろう。きっと一目で俺の虜になってしまい、思わず俺を逆ナンしようとしたに違いない。しかし俺にはゼフィさんという運命の相手がいる。ここは穏便に、彼女を傷つけないよう心を砕かねば。



「あっ、そうだぁ。おーい、みんなぁっ。そろそろ中に入ってぇ。これから高度上げてスピード出すからーっ」



と、俺を逆ナンした女性が間延びした声で新米の冒険者たちを呼んだ。どうやらシャイな女性のようだ。思わず俺に話しかけてしまった事を恥じ入り、ごまかすために新米共に声をかけたのだろう。



「わかりましたっ、ミーアさん」


「っていうか、これ以上スピード出るんですか?」


「んーとねぇ、時速450kmぐらいのスピードがぁでるんだってぇ。すごいよねー」



新米どもが彼女の下に集まってくる。しかしなるほど、彼女は俺のゼフィたんの腹心なのだろう。だからこそ俺に感づかれずに俺の背後をとることができたのだろう。のんびりとした口調は相手を油断させるためのブラフか。


とりあえず今は俺も新米諸君と同じ身分。ここは彼女の指示におとなしく従っておこう。『今は』だがな。くっくっく。そういうわけで俺たちはミーアの呼び掛けに応じ、甲板から船内へと続く階段を下りていく。船内は比較的広く、廊下もゆったりとスペースが取られている。



「そういえばミーアさん、俺たちこれからどこに行くんですか?」


「んー? 言ってなかったかなぁ?」


「はい、聞いてません」


「んーと、じゃあぁ、皆ぁ、ミーティングルームに集まってくれるぅ? ちょうど渡さなきゃいけないものもあったしぃ」



新米冒険者の数は俺を含めて60人ほど。まだまだ卵の殻もとれていないひよっこばかりだ。まあ、周りの連中は俺もそうであると思っているだろうが。滑稽なことだ。


甲板から階段を2階降りて、通路を行くとミーティングルームに到着する。ミーティングルームは正面に白く大きなパネルが壁に貼ってあり、それに向かい合わせになるように長机と長椅子が用意されている。そして机の上には人数分の資料と、透明な水晶のシンプルなデザインの腕環、そして何か文字が刻印された銀色の指輪、そしてショルダーバッグが並べてある。


席は自由との事だったので、俺は一番後ろの席へと座る。全員が席に着くと、ミーアが前方の白いパネルに手を触れた。するとパネルに何やら緑色のに光る文字が浮かび上がり、ミーアはそれを指で触れながら操作していく。タッチパネルのようなもになのだろう。そして部屋の照明が落ち暗くなる。



「ではみなさぁん、前に注目してくださーい」



ミーアが白いパネルに注目するよう呼び掛ける。パネルには『ぼうけんのしおり』と可愛らしい文字でが浮かび上がっている。配られている資料の標題も同じものなので、ミーアは冒険者のためのプレゼンテーション、つまりチュートリアルを行うのだろう。



「ではぁ、あらためて自己紹介させていただきまぁす。私はぁミーア・H・プオラカナホといいまぁす。今からぁオリエンテーションをしますのでぇ、よろしくお願いしますねぇ」


「「「はーい」」」



なんとも間延びした喋り方の女性である。そしてノリの良いことに彼女の言葉に返事する者が数人。これから危険な冒険を行うというのに腑抜けた連中だ。こういう奴から先に死んで行くのだろう。もちろん俺は生き残るがな。



「ではまずぅ、この旅行のぉ目的をぉ説明しますねぇ。今回の旅行はぁ、皆さんにぃ戦い方をぉ覚えてもらうこととぉ、レベルアップしてぇ強くなってもらうのがぁ目的になりまぁす。いわゆるパワーレベリングですねぇ」


「レベルアップとかRPGかよ」


「ファンタジーなんだからアリなんじゃね?」


「じゃあ何か? 経験値とか積んだらファンファーレとかなってレベルが上がるのか?」


「っていうか、ステータスとかどうやって確認するんだ?」


「PLとかどう考えてもMMOです、本当にありがとうございました」



がやがやと新米冒険者たちが騒ぎだす。たかだかレベルアップぐらいで騒ぐなど、所詮はMOBでしかない連中だ。第一、ステータスなんぞ頭の中でメニューを思い浮かべれば…、何!? メニューが出ないだとっ!?



「はぁい、静かにしてくださぁい。たぶん何人かはぁ勘違いしてると思いますけどぉ、ここはゲームの世界じゃありませんのでぇ、ヒットポイントとかぁマジックポイントとかはぁ有りませぇん」



な、なんだと!?



「ですのでぇ、普通はぁ、どんなに鍛えてもぉ、ナイフで頸動脈とかぁ急所を刺されたらぁ死んじゃいますしぃ、おっきい動物に踏まれたりしたらぁぐちゃってなっちゃいます」



な、なるほど。かなりシビアな世界観のようだな。べ、別にこれからの戦いにビビっているわけじゃないぞ。その、なんだ、命は大切だからな…。



「あとぉ、普通はぁ、どんなに敵を倒してもぉ、急に強くなったりぃ、突然今まで使えなかった魔法が使えるようになったりはぁしませぇん。人間はぁ人間のスペックをぉ越えられませぇん。魔法はぁ地道に勉強してぇ、自力で覚えてくださぁい」



魔法も一から覚えなければならないらしい。まあ、確かにレベルアップしたらふと新たしい魔法が使えるようになるなどの方が非現実的であるのは判るが。



「ですがぁ、それだと色々面倒臭いのでぇ、転生者の先輩たちが頑張ってぇ、ゲームみたいにぃ手っ取り早く強くなる方法をぉ作っちゃいましたぁ。それがぁ、皆さんの前にあるぅ指輪と腕輪でぇす。サイズはぁ自動的に調整されますのでぇ、とりあえず腕輪を嵌めてくださぁい」



そう促され、腕輪を左手首に通してみる。すると大きかった腕輪は自動的に小さくなり、手首にぴったりとフィットするような大きさになる。



「じゃぁー、最初はぁ『メニュー』とつぶやいてくださぁい」


「「「「メニュー」」」」



ミーアに言われたとおりにメニューとつぶやく。すると、左手首に嵌めた水晶の腕輪が輝き、ウィンドウ、パソコンやゲームに良くあるような四角い青色の平面が腕輪から投影される。ウィンドウにはいくつもの項目や文字が配列してあり、それはよくあるRPGのメニュー画面に良く似ていた。


メニュー画面の左側には『マップ』『魔法』『スキル』『アイテム』『装備』『ステータス』『アビリティボード』『メモ』『カレンダー』『フレンドリスト』『メール』『チャット』『BBS』『メニューを閉じる』などの14個の項目が縦に並んでおり、右側には俺自身の横顔とBP:0%、SP:100%、MP:100%、EXP:1000との表記がある。



「出来ましたかぁ? ちゃんとメニュー画面開いてますかぁ? 慣れてくるとぉ頭の中で思い浮かべただけでぇこの画面を出す事が出来まぁす。じゃあ、『アビリティボード』と書いてある所をぉ指でぇ触れてくださぁい」



『アビリティボード』と書いてある項目に指で触れる。するとメニュー画面が切り替わり、左上にアビリティボードと標題がついた画面に変わる。左側には『アビリティ一取得』『パッシブアビリティ』『取得アビリティ一覧』『戻る』という項目が並び、右側には六角形の蜘蛛の巣状に線が引かれた図が表示されている。


蜘蛛の巣状の図には線の交差点と線上に○があり、その○の中には『筋力+10』『体力+10』『敏捷+10』『器用+10』『魔力+10』『精神+10』をはじめとした様々な文字が書いてある。



「いいですかぁ、この世界はぁゲームではありませんのでぇ、普通は簡単にはぁ強くなれませぇん。ですがぁ、この腕輪『ソウルリング』を付けているとぉ、ゲームみたいにぃ敵を倒してぇレベルアップすることがぁできるのでぇす」


「どういうことですか?」


「この腕輪をぉ付けて敵を倒すとぉ、相手の魂的な何かをぉ腕輪が吸収しぇ、経験値、EXPに変換することができるのでぇす」



魂的な何か…か、えらく物騒な話だ。しかしこれさえあれば、レベルアップ云々の問題は解決できる。まさに俺のためにある物じゃないか。



「現在皆さんの持ってるぅソウルリングにはぁ、あらかじめぇ、1000ポイントのEXPが付与されていまぁす。じゃあ、これから説明するのでぇ、アビリティを取得してくださぁい」



ミーアがミーティングルームの前方の壁にある白いパネルに、俺たちの腕輪が投影する画面と同じものが表示されており、レーザーポインターのようなものを使いながら説明していく。俺たちはそれに従う形で腕輪が投影する画面を操作していく。


曰く、アビリティボードとは所々に○が乗る蜘蛛の巣状の図のことらしく、EXPを消費することでこの○の部分、すなわちスロットを解放することができるらしい。解放すると魂的な何かの力によって、筋力や魔力を底上げすることが可能になる。


六角形の角に当たる部分にある○は『筋力+10』『体力+10』『敏捷+10』『器用+10』『魔力+10』『精神+10』などの基礎に関わるアビリティであるが、角と角の間の線上にある○には『索敵』『剛腕』『思考加速』『麻痺毒耐性LV1』などのスキルや『ヒール1』『アンチドート1』『ファイアーボルト1』などの魔法らしきものもある。


とりあえず言われたようにEXPを50消費して『筋力+10』を解放してみると、なにやら不思議な未経験の力のようなものが身体全体に行き渡るのを感じた。これで筋力が上がったのだろうか? 試していないのでわからない。



「いいですかぁ? 解放したスロットはぁ、封印することでぇEXPにもう一度還元することができまぁす。失敗してもぉ、自分が目指す役割に応じてぇ振り直すことができますのでぇ、安心してくださぁい」



スロットを一度解放しても、失敗したと感じたら閉じたり解放し直したりできるらしい。なかなかの親切設計である。



「ではぁ、『戻る』を二回押してぇ、メニュー画面に戻ってくださぁい」



そうして説明が続く。まずは俺の横顔の隣にあるBP、SP、MPのバーについて。



「顔の横にあるぅBPというのはぁ、バリアパワーの頭文字をぉとったものですぅ。今はぁ0%になっていますねぇ? じゃあ、皆さんに配られているぅ指輪を付けてくださぁい。あっ、左手の薬指に嵌めちゃぁだめですよぉ」



言われるように右手の中指に指輪を通す。すると、BP:0%と表示されていたものが、BP:100%となり、BPの横に緑色のバーが出現する。



「今嵌めてもらった指輪がぁ、バリアリングというものですぅ。これを嵌めるとぉ、身体の皮膚を覆うようにバリアが形成されまぁす。これでぇ、ナイフで刺されたりぃ、高いところから落ちてもぉ、簡単には死なないようになりまぁす。でもぉ、BPが0になっちゃうとバリアが無くなっちゃいますのでぇ気を付けてくださぁい」


「バリアの強化とかは出来るんですか?」


「いま皆さんに配られているのはぁ銀製の指輪でぇ、それほど高性能なものじゃありませぇん。ドラゴンのブレスを一回だけ防ぐ程度のものでぇす。青銅製、銀製、金製、ミスリル製、隕鉄製、オリハルコン製の順に強力になっていきまぁす」



つまり、この指輪のバリアがRPGでいうHPに相当するのだろう。頼りなさげな指輪であるが、これが俺の命綱となるのだろう。



「BPはぁ魔石を使うかぁ、魔法の『ヒール』で回復できるようになってまぁす。薬草食べたりぃポーションを飲んでもぉ回復はしませぇん」



まあ確かに、薬草喰って怪我がすぐ治るなんていうのも非現実的ではある。そういう意味ではバリアというシステムは効率が良いのかもしれない。



「SPはぁスタミナ、MPはぁメンタルを意味しまぁす。腕輪が所有者の肉体疲労や精神的疲労をぉ常時観測して、数値として表示してくれまぁす。肉体疲労が蓄積するとぉSPの値が減りぃ、力が出なくなったりぃ、素早く動けなくなってしまいますのでぇ注意してください。スタミナはぁ『体力』の値に依存していてぇ、『体力』が多いほど減りにくくなりまぁす。

次はMPですがぁ、精神的疲労や負荷が蓄積するとぉこれの値が減りぃ、集中力が無くなってぇ、魔法を失敗したりぃ、攻撃の命中率が低くなったりしまぁす。MPはぁ『精神』の値に依存していてぇ、『精神』の値が多いほど減りにくくなりまぁす。

これらはMP・SPはぁ休んでいればぁ自然回復しますがぁ、回復魔法の『リゲイン』やぁお薬なんかでも回復することができまぁす」


「MPは魔力とかマジックポイントとは違うのか?」


「さっきも説明しましたがぁ、この世界はぁゲームじゃありませぇん。MPは集中力に関係する数値なのでぇ、ちょっとした魔法ならぁ使ってもぉ減りませぇん。ただぁ、戦闘中はぁ色々と気疲れするのでぇ、そういうストレスが原因になってぇ減っていきます。あとぉ、スタミナであるSPがぁある程度減るとぉ、連動してMPも減っていきまぁす」



RPGのMPマジックポイントのようなものかと思ったが、少し違うらしい。



「意識するとぉ、頭で思い浮かべただけでぇBP・SP・MPのバーが視界の左下に表示できるようになりまぁす。がんばって出来るようになってくださぁい」



その後、重要な情報を文字として残しておける『メモ』機能や、予定やスケジュールを管理できる『カレンダー』機能、友人のメールアドレスやプロフィールを記録できる『フレンドリスト』、電子メールに似た『メール』機能、テレパシーのような念話が出来る『チャット』機能、情報をネットワーク上の掲示板で共有できる『BBS』の機能が説明される。まるでMMORPGだ。



「慣れてくるとぉ、『チャット』や『メモ』などの機能はぁ、意識上に思い浮かべるだけでぇメニュー画面を介さずにぃ使うことができまぁす。特に『チャット』はぁ物音を立てずにぃコミュニケーションができるようになるのでぇ、ぜひ活用してくださぁい」



そしてフレンドリストの作り方が説明される。どうやら互いに了承した上で、互いの腕輪、ソウルリングを触れさせることで、許可した情報だけを相手に渡すことができるらしい。ミーアがさっそく隣同士のヒトと実践してみましょうと言い、俺もそれに従う。



「えと、初めまして、僕はフェリクスっていいます」


「俺は紅蓮神威だ。よろしくたのむ」



互いの腕輪を触れさせる。そしてフレンドリストを見てみると、『フェリクス・A・D・ロラン』という名前が追加された。



「『フレンドリスト』にぃ入っているヒト同士ならぁ、メールやぁチャットなどのやり取りがぁできるよぉになりまぁす。ではぁ、次はぁパーティーの作り方を説明しますねぇ。パーティーというのはぁ、戦闘の時にぃお互いに助け合うぅお友達のことでぇす」



パーティを作るとパーティー同士の『チャット』が常時可能になる他、敵を倒した時にEXPを公平に分配することが出来るようになるらしい。なんでも、回復役や盾役(タンク)にも経験値が行き渡るようにするためだとか。ちなみにパーティを組む人数は無制限だが、多すぎると混乱するので3~6人ぐらいで組むのが良いらしい。



「パーティを作る場合はぁ、盾役のヒトとかぁ、回復役のヒトなどをぉバランス良く混ぜてくださぁい。ではぁ、次にぃ『アイテム』とぉ皆さんに配られたバッグのぉ説明に入りたいと思いまぁす。今はバッグの中にはぁクリスタルが6つとぉ、回復薬3つぅ、解毒薬3つぅ、2L水筒が1つぅ、寝袋1つぅ、テント一式が入っているはずでぇす。『アイテム』を押してぇ確認してくださぁい」



メニュー画面の『アイテム』の項目を押すと、確かに言われたとおりの物がリスト状になって表示されている。そしてその一覧の一つ、『クリスタル』に指で触れると新たなウィンドウが表示される。そのウィンドウにはクリスタルの画像と説明文、そして『取り出す』『キャンセル』の二つの項目が表示される。



「ではぁ、アイテムのリストの中から『クリスタル』を押してくださぁい。新しいウィンドウが開きましたねぇ。では『取り出す』を押してくださぁい。次に個数を決めるドラムが出ますが、指でドラムを回転させてぇ002個に合わせてくださぁい。それでOKを押してくださぁい」



言われたとおり『取り出す』を押すと、その横に001と表示されたウィンドウが出現する。数字はスロットマシンの回転するドラムのようになっていて、指で触れるとそれを回転させることが出来るようになっている。俺はそれを操作して002に数値を合わせ、『OK』を押す。


すると目の前に二つの水晶の塊がごろりと現れて机の上に落ちる。水晶は六角柱の透明だが、少しばかり曇りが入っていて、宝石としての価値は低そうに見える。



「皆さん出来たようですねぇ。ですがぁ、これだとぉ手順がかかってぇ戦闘中では使い勝手が悪いのでぇす。ですのでぇ次はぁバッグから直接取り出す方法とぉ、頭に思い浮かべてぇバッグからぁアポートする方法をぉ教えまぁす。

じゃぁ、バッグの中を覗き込んでくださぁい。たぶん真っ暗だとぉ思いまぁす。どぉでしょぉかぁ? はい、でわぁ、次にぃ、バッグの中に手を入れてぇ、『水筒』と頭の中で思い浮かべてぇ掴んでくださぁい」



言われたとおりにバッグに腕を突っ込む。すると、見た目の大きさに反して腕がすっぽりと肩までバッグの中に入ってしまう。やろうと思えば人間一人ぐらい簡単に入れることができそうだ。そして『水筒』を思い浮かべて取り出そうとするが、あまり上手くいかない。



「はい皆さん取り出せましたかぁ? あれぇ、出来ないですかぁ? あっ、あー、あー、そうですねぇ、水筒がどんな形のものかぁ皆さん判りませんでしたねぇ。えーと、ではぁ、さっきのメニュー画面からぁ『アイテム』欄に入ってぇ水筒を選んでくださぁい。画像がありますよねぇ。それを思い浮かべてぇバッグから手で取り出してくださぁい」



すると今度は手ごたえがあり、無事に水筒を取り出すことが出来る。水筒は大きな皮の袋にキャップがついたような形をしていて、元の世界の魔法瓶と比べはるかに原始的だ。



「慣れてくるとぉ、思い浮かべただけでぇアイテムをバッグから取り寄せることがぁできまぁす。ではぁ、今から6人一組のぉパーティーを10個作ってぇもらいまぁす。クジがいいですかぁ? それとも自由に決める方がいいですかぁ? はぁい、ではぁ自由にパーティを組んでくださぁい」



は…班決めだと? くっ、なんということだっ! 俺の王気が強すぎて皆が俺を敬遠してるではないかっ! ぐっ、やめろっ、思い出すな! 学校の体育の時間の二人一組になってください…を思い起こしてしまうではないか!(←いつも一人ぼっち)


ということで、最後に一人余って、5人のパーティーに入れてもらいました。



「パーティ出来ましたねぇ。それではぁ、お互いの役割を決めてぇ、アビリティボードでぇ自分のキャラ作りをしてくださぁい。盾役のヒトはぁ『体力』と『筋力』を中心にぃ、魔法使いを目指してるヒトはぁ、『魔力』と『精神』を中心にぃ、偵察役のヒトはぁ『敏捷』と『器用』を中心にぃ、攻撃役のヒトはぁ『筋力』『敏捷』『体力』の順にぃ割り振るといいですよぉ」



ミーアは説明を続ける。がやがやと話し合い、誰が回復役で、誰が盾役かなどを決める。俺はダメージディーラーとしての剣士を目指しているので、筋力と敏捷を中心にEXPを割り振る。


すると、ミーティングルーム正面左のスライド式のドアが突然開かれる。そして現れたのはブロンドの髪のスレンダーな体形の女性を筆頭とした、5人の男女たちであった。それぞれプレートアーマーを装備する大柄の男や、ローブを纏った魔法使いらしき細身の男、軽装の鎧を身に付けた背の高い女性、小柄ながら立派な鎧を身に纏う少女である。



「ミーア、オリエンテーションは終わったかしら?」


「あっ、ケイトさん、イェンさん。一応今ぁ、パーティを組んでもらってぇ、EXPの割り振りしてもらってるトコでぇす」


「新人の様子はどうだ?」


「皆素直でぇ、いい子たちばかりですよぉ」


「お前にかかれば皆いい子ですまされるよな」



そうしてケイトと呼ばれたブロンドの女性が正面に立ち、俺たちを見まわす。



「あー、私が今回の新人研修の責任者をやる『西風の旅団』副団長のケイト・ロックウェルです。それぞれの役割は決めましたか? パーティは10個作ってもらったはずですが、それぞれのパーティに補佐役の団員を割り当てるのでよろしくお願いします」



どうやら彼女に連れられた男女らは俺たちのパーティを補佐するベテランの団員らしい。俺たちのパーティに割り当てられたのは、先ほどからオリエンテーションをしてくれていたミーアらしい。のんびりした彼女だが本当に大丈夫だろうか?



「ではぁ、さっきも紹介しましたがぁ、ミーアといいまぁす。そういえばぁ、パーティのリーダーさんは決めましたかぁ?」


「あっ、はい、俺がやることになりました」



答えたのはヘチョンという男で、役割は盾役タンクである。俺がこのパーティに入る前から仕切っていたので、俺がリーダーに立候補する余地はなかった。まあ、心の広い俺だからして、それぐらいは許してやるというものだ。



「じゃあ、これからはぁ私が皆さんをぉお手伝いさせてもらいますのでぇ、フレンドリストよろしくですぅ」



そういうことで、俺たちはミーアのソウルリングに自分のそれを触れさせ、ミーアをパーティの中に入れる。



「ではぁ、これからぁ武器とかを配りますのでぇ、一緒に倉庫についてきてくださぁい」


「武器ですか?」


「はい、皆さんのレベルでぇ使える最良の物をぉ用意してますのでぇ、好きなのを選んでくださいねぇ」



そうして俺たちはミーアについて行き、船の倉庫へと向かう。倉庫は飛空艇の一番下の階層にあり、階段を下りていくと、木製のコンテナが積み上げられている部屋にたどり着く。


そこで俺たちはコンテナから自分の武器を選んでいく。俺は金属の板金が付けられた軽装の鎧を選ぶ。それなりに重いものであったが、曰くチタン製なので鉄製よりは軽くて丈夫らしい。しかし、チタンとはなんだかファンタジーらしくない。


他に脛当てやガントレットといった防具を手に取る。そして武器は刃渡り90cm程度の鋼鉄製の剣を2本だ。ズシリと重い質量だが、筋力を上昇させた今の自分ならば軽く扱えるはずだ。二刀流で敵を切り裂いていく俺、超格好いい。


ところで、



「なんで剣に黄色い宝石がついてるんだ?」


「ん、あ、おれの戦鎚にもついてる」



ヘチョンの選んだ武器であるウォーハンマーにも同じ宝石がついている。俺の剣には柄の部分に黄色く透明な宝石が付いている。



「あぁ、それはぺリドットという宝石でぇす。太陽をぉ象徴する宝石ですよぉ」


「どうしてついてるんですか?」


「えっとですねぇ、これから行く場所に出てくる魔物がぁ、アンデッドなんですよぉ。それでですねぇ、光の魔力が籠った武器じゃないとぉ、幽霊とかにぃダメージ与えられないんですよぉ」


「ア、アンデッドって、ゾンビとかそういうのですかぁ?」


「はいそうでぇす。でも大半がスケルトンとぉ幽霊なのでぇ、そこまで気持ち悪いのはぁいませぇん」



とりあえず納得して、他に予備の剣やダガーなどを手に取り物色を終える。しかし、敵はアンデッド、しかもスケルトンやゴーストか。まあ、生き物、俺がこの前倒したコボルトなどよりは血が出ない分気が楽かもしれない。


男たちは重厚な格好の良い鎧を身に纏い、女性陣はデザインの良い綺麗だったり可愛らしいものを着て鏡の前で唸っている。そうして皆が各々の武具を装備すると、新米たちも一丁前の冒険者に見えるのだから不思議だ。



「ええとぉ、皆さぁん、武器だけじゃなくてぇロープとかぁカンテラ、ピッケルとかも忘れないでくださぁい」



なるほど。ゲームでは武器と回復アイテムさえあればどうにでもなるが、実際の旅ではそういった照明器具や工具なども必要になるのだろう。



「ではぁ、もうすぐ目的地にぃ着くのでぇ、皆さん自由にしてぇ待っててくださいねぇ」







飛空艇が降り立ったのは高い山々に囲まれた盆地状の中腹の草原。盆地の中央には湖があり、さらにその中心には一つだけ島がある。降り立った飛空艇2隻の前で一度全員集合させられ、副団長のケイトという女が前に立ちスピーチを始める。


二隻の船に乗せられていた新米冒険者の数はざっと100人以上か。かなりの数であるが、この中でも俺は頭一つ飛びぬけた存在に違いない。周りの奴らは所詮モブだ。



「-と、いうわけでまずは武器の扱い方、魔法の使い方などを練習してもらう」



まず最初は基本的な戦闘の手段をレクチャーするとのことで、教導をする転生者の戦士の所に集まる。そこで一通りの剣の振り方、間合いの取り方などを教導される。とはいっても、俺は初日に、思い出したくはないが、あのPKの二人に剣の振り方を教わっていたので楽に終えることが出来た。


そうして午前が過ぎ、昼食の後に目的の迷宮へと向かうらしい。迷宮、ファンタジーの醍醐味の一つだ。胸が高鳴る。


そうして昼食後、俺たちは目的地である迷宮に向かって副団長を先頭に歩いて行く。山あり谷あり、沢を渡り、森の獣道を進む。しかし、何故か魔物といえる敵は出現せず、鹿がたまに目に入るぐらい。



「わりとモンスターとかって出てこないんだな」


「ちょっと拍子抜けぇ」


「おいおい、油断するなよ」


「でも、さっきから全然敵でないじゃん」



最初緊張していた新米冒険者たちも、ごく平和なほのぼのとした道中に弛緩し、私語が増えてくる。本来なら魔物が現れることを警戒するべきであるが、俺でさえも周囲に気を配ることをやめてしまっている。



「ええっとですねぇ、実はぁ、この世界の危険なモンスターはですねぇ、狩り尽くされてしまっているのでぇす」


「どういうことですかミーアさん?」


「はいぃ、えっとぉ、ソウルリングによるレベルアップのぉシステムが完成したのがぁおよそ12年前なんですけどぉ、その頃はまだぁインターネットも今みたいに整備されていなかったのでぇ、娯楽が少なかったのでぇす」


「はぁ」


「で、ですねぇ、手っ取り早く強くなれてぇ、しかもスリルが味わえてぇ、さらには皆の役に立てるというわけでぇ、転生者の先輩方がぁ調子に乗って魔物を倒し過ぎちゃったのでぇす。でですねぇ、そのせいでぇ世界中から魔物が絶滅してしまったのでぇす」


「ぜ、絶滅ですか?」


「はいぃ、最初は人間の生活圏内だけだったんですけどぉ、大手のギルド同士でぇ狩り場の奪い合いまでおきてですねぇ…。魔物だって生き物ですからぁゲームみたいにぃ無限に湧いて出てくるわけじゃないですのでぇ…」



そして飛空艇という移動手段を手に入れた転生者たちは世界中で魔物を狩った。それはもう、目も当てられないぐらいに狩りまくったのだそうだ。結果として古参の転生者たちはドラゴンも一対一で倒せるぐらいに強くなったらしい。


そして、そんな一騎当千な転生者たちが世界各地の肉食性の危険な魔物を正義の名のもとに経験値にした結果、気付いた時には世界から魔物という魔物がきれいさっぱり絶滅していたらしい。ゴブリンでさえ絶滅の危機に瀕していたというのだから、他の魔物はかくやという具合である。


結果として起こったのが生態系のバランスの崩壊だ。食物連鎖の頂点に位置する大型のモンスターや、中小の害獣、魔物の根絶は、食物連鎖のピラミッドの下層にあたる草食動物などの増加を招き、森の生態系が崩壊。人里に魔物は現れなくなったが、こんどは野生動物などの食害が問題となってくる。


また、魔物の減少により割りを食ったのは、新参の転生者たちである。彼らは倒すべき魔物がおらず、結果として冒険者としての職を奪われた。まあ、それだけならば問題は転生者の中のそれに限られた。


最大の問題は国家が対魔物に備えて保有していた軍隊だった。魔物がいなくなれば、いままで力を割いていた魔物退治に予算を喰われずに済む。結果として各国は軍備を持てあまし、結果として国家同士の戦争が頻発するようになった。そしてもちろん戦争には転生者たちも巻き込まれた。


これはまずいとギルド同士の話し合いがもたれ、国家間の戦争におけるギルドの立ち位置、つまり談合とか慣れ合いをするための取り決めや、絶滅が心配されるモンスターを保護する条約が結ばれたのだそうだ。


結果としてモンスターを倒してはいけない禁猟区が設定され、また新たにモンスターを倒すこともギルドの許可が必要になった。懸命の保護活動の結果、狼やコボルトなどの個体数はゆっくりであるが増加している。非常に喜ばしい事らしい。



「あの」


「PvPとかぁGvGのルールとかはぁ、またこんどレクチャーしますからぁ、安心してくださぁい」


「いえ、そうじゃなくて、これから行く迷宮も、あんまり倒しちゃだめなんですか?」


「あっ、それは大丈夫でぇす。これから行く迷宮はぁ、転生者が気軽にモンスターを倒してぇレベルアップするために作られたぁ、人工の迷宮なのでぇす」


「は?」



曰く、霊脈を利用してアンデッド系モンスターが無限湧きするように魔法的に設計された迷宮らしく、団長であるゼフィが陣頭指揮をとって作ったらしい。


ちゃんと時間をおくと、スケルトンやゴースト、さらにはリッチやドラゴンゾンビまで様々なアンデッドが湧く、一大エンターテインメント施設とのこと。



「それでもぉ、一回一掃するとぉ、一週間は熟成させないとぉ迷宮として復活しないんですけどねぇ。あ、見えてきましたねぇ。あれがぁ皆さんが冒険するぅ初心者用迷宮『はじめてのめいきゅうLV.1』でぇす」


「え?」



そこには開けた平地が広がり、その中心に小屋、一見すればただの小屋のようなものが見える。壁こそ石積みで出来ているものの、板葺き屋根の貧相な小屋。とても迷宮の入り口とは思えない。そしてケイト副団長が小屋の前で集合の号令をかける。



「それではまず、ここにキャンプを張ります。テントはバッグに入っているはずなので、各自組み立てるように。組み立て方が分からない場合は、各班の担当の指示に従うように」



というわけで俺たちはテントを張ることになった。初めての体験であるが、大体の方法は分かるというものだ。



「あっ、グレン君、そこじゃない」



…まあ、何事もやってみなくては分からないというものだ。しばらくテント設営に苦闘した後、薪拾いや水場になる渓流へと案内されるなどして時間がたつ。


もっとも大変だったのは食料の確保で、川での漁については魔法を川にぶち込むことで気絶したものを回収するだけでいい。苦労したのは動物だ。弓兵役が弓で野生の鹿や兎を仕留めるのだが、それを捌くのに苦労する。生き物の命を奪って、それを食べられる状態に処理すること自体が難しいというより、気持ち悪い。


そんなこんなで日が暮れ、迷宮に入るのは明朝ということになる。俺たちは苦労して捌いた鹿肉やキノコを使った煮込み料理に、焼き魚を夕餉とし、明日への英気を養うこととした。


そして明朝、担任となるミーアにたたき起こされ、副団長の前にパーティごとに集合させられる。



「じゃあ、1班の皆さん、中は暗くて滑りやすいので、カンテラに火を入れて順番に入っていくように。引率の担任となる先輩方は貴方がたのすぐ後ろで控えていますので、とりあえず自由に中を散策してください。あと、地下3階からは敵が強くなりますので、引率の先輩冒険者の許可なしに下りないように。では始めてください」



その後、10分間隔で次の班が洞窟の中へと入っていく。俺の班は4班なので少しの間、パーティの作戦を練る時間が得られた。まあ、俺には不要だが、他のメンバーの安全を考えると致し方がない。



「では行こうか」



パーティの構成は盾となる戦士役のヘチョン、同じく女戦士のトーヴァ、弓兵のニール、女魔法使いのシュエラン、ヒーラーのホラント、そして主人公の俺、紅蓮神威だ。ヘチョンとトーヴァが壁となり、ニールとシュエランが火力となり、ホラントが回復を担う。そして俺は颯爽と壁を抜けた敵を狩るのだ。


大きなチタン製の盾を背負うヘチョンがカンテラを右手に、ひんやりと湿った空気に満ちる階段を下りていく。石造りの迷宮の中に下りると、そこはどこまでも暗闇が満ちている不気味な雰囲気を放っており、足元にはおそらく人間の頭蓋骨や肋骨などが砕けたものが散乱していた。


そうしてしばらく歩いて行くと遠くから叫び声などが聞こえてくる。どうやら先に行った連中が戦闘をして無様な姿をさらしているのだろう。


迷宮の回廊はそれなりに広く幅は5m程度ある。そして迷宮の名に恥じず、入り組んだ迷路になっていて、ともすれば来た道すらおぼつかなくなりそうだ。俺たちはヘチョンを先頭に暗い迷宮をカンテラの灯りを頼りに進んでいく。すると、



「ひっ」



ヘチョンがひきつった顔で短い悲鳴を上げ、カンテラを床面に落とす。突然、目の前にあった骨の山から骸骨の兵士が組み上がり、襲いかかってきたのだ。ヘチョンは盾を構えることも出来ず、両腕で顔を覆って骸骨兵士の突撃を真っ向から受けた。



「ちょっと、何やってるのさっ!」



骸骨兵士の錆びた槍に突かれるのにただ身を任せるヘチョンに代り、剣を抜いたのはトーヴァだった。トーヴァは盾を構えて骸骨兵士に斬りかかる。しかし、腰の抜けた一撃だったためか骸骨兵士をしとめることが出来ず、ただ相手を後退させるにとどまる。


そうしている内に前方から4体の骸骨兵士が増援として現れる。ヘチョンはようやく盾を構え、戦鎚を構えることが出来た。ニールは弓を放つがいくつかの矢は仲間の背中や後頭部に命中している。しかたない、ここは俺が前に出て敵を華麗に翻弄するしかなさそうだ。



「とうっ!」



俺は槍を構える骸骨兵士の中へ飛び込む。二刀流の俺に死角などない。剣を振り回し骸骨どもを斬り伏せる。手に伝わるのは骨を切断する手応え…ではなく、堅い骨に弾かれているような感覚。あれ? あんまし効いてない? と、そこにシュエランの放つ火の玉が降り注ぎ、



「熱いぁぁぁぁぁっ!!?」


「えっ? ごめんなさいっ」


「ああ、ええっと、今回復するからな」



ホラントのヒールのお陰で、ファイアーボールの直撃を受けた俺のBPは元通りに回復する。だが火に包まれていた俺は石床を転がっていたので仰向けになっており、そして派手に剣を振り回したため骸骨兵士の注目と言うか敵意を一身に受けていた。つまり、



「痛いっ、痛いっ、ちょっ、助けてっ!」


「ああっ、もうっ、あんた何やってるのよっ!」



骸骨兵士に包囲されて槍で突かれる俺。とりあえずトーヴァの盾を使ったタックルで骸骨兵の包囲が解かれる。ヘチョンもようやく動き出し戦鎚を振り回す。しかし、その振り回した戦鎚が今度はトーヴァに当たる。



「あ、あれ?」


「ちょっとっ、痛いじゃないのよっ!」


「あっ、すまん」



そして焦って支援しようとしたニールの矢によってダメージを受ける前衛二人。こんどこそとファイアーボールを放つシュエラン、火の玉はとうやく、骸骨兵士に直撃した。俺は這いながら前衛二人の間を抜けて後方に命からがら抜け出した。



「やった、私できるじゃない!」


「ニールさん、ちゃんと敵を射ってください」


「グレンっ、お前邪魔」


「な、なんだとっ!?」


「おいっ、今度は後ろから来たぞ!」


「ふっ、今度こそ俺の活躍の場っ! そいやっ!」



今度はホラントがいる後方から骸骨兵士が現れる。前衛二人は今目の前の敵にかかりきりなので、俺がここで敵を留めなければならない。献身的な俺格好いい。俺は自慢の二刀流で骨に斬りかかる。



「ウリャっ! トリャっ! これでもかっ!」



槍を持った骸骨兵と死闘を演じる俺。しかしこの骸骨堅い。おそらく前衛の二人が相手にしている奴よりも強力な個体だろう。俺がここでふんばらなければパーティが瓦解してしまう。と、目の前に現れたのは新たな骸骨兵。



「二体同時にだとっ!?」


「ニールさん、ちゃんと敵を射ってください」


「ヘチョン、がむしゃらに金鎚振り回さないでよっ! 私に当たってる!」


「えっと、あれ、誰を回復させればいいんだろう?」


「いっくよーっ、ファイアーボール!」


「ぎゃぁぁぁぁ、熱いぁぁぁぁぁっ!?」


「ああっ、グレンがまた火達磨に!」



そうして後方から戦線は瓦解。骸骨兵士がホラントやシュエランのいる後衛に侵入する。それを見ていたミーアはため息をつき、短剣を抜く。その後は早かった。一撃の名のもとにミーアは骸骨を刈り取っていく。そののんびりとした口調に似合わずアサシンだったらしい。そして、



「じゃぁあ、反省会をぉしましょうか」







「やあファフナー、久しぶりだね」



高さ50mはあるだろう大洞穴に少女の声が響く。その声に洞穴の主は顔を上げて少女を見下ろした。洞穴の主は竜である。黄金の鱗を持つ地上最強の化け物。それを前にするのは一人のエルフの少女。彼我の体格差は歴然にして、比べようもない。



「『西風』か、久しいな。して、何ようでここに来た? まさかただの挨拶だということはあるまい」


「まさか、僕だって好き好んで君の前に現れたりはしない」


「では何か西風の。まさか積年の決着をつけにきたわけじゃあるまい」


「それもまあ、面白そうではあるんだけどね」



冷ややかな空気が二人の間に吹き抜ける。両者はにらみ合い双方とも引くことも動じることもない。そして最初にエルフの少女が「くっ」と嘲笑うかのような笑みを浮かべる。



「どちらが優れているか、そんな無駄な議論をするために来たわけじゃないけど、君が望むなら僕も応じよう」


「議論! 議論と言ったか西風の。我らがすべきはそんなままごとではないはずだ。闘争。闘争こそ我らにふさわしい」


「ふん、ニートが吠えるなよ」


「ネカマに言われたくはないな」



両者は睨みあう。そして-



「エルフ耳こそ究極!!」「獣耳こそ至高!!」



…………………………?



「いや、エルフ耳こそ最強だろう」


「いや、獣耳だっ! あのモフモフ感はたかがエルフには出せない味がある」


「てめぇ、やるかこのトカゲ野郎! 黒焼きにしてやんよっ!」


「お前こそ、泣いても許さないからなナルシスト! 焼きエルフにしてくれるっ!」


「ガルルルッ!」


「グルルルッ!」



荒ぶる鷹のポーズで威嚇するエルフ、それに応じるドラゴン。そんな一人と一匹の間に、一人の少女が割って入った。



「あの、ゼフィさん、お茶がはりました」


「あ、うん、メリルさんありがと」


「アナタも、大人げない事はやめてくださいな」


「うん、わかった」



正座してお茶を飲むエルフとドラゴン。ニコニコ笑って二人を眺めるのはメリルさんという、その、ドラゴンの奥さんだ。メリルさんは犬耳の美女さんなのである。巨乳である。力関係は言うまでもなく、メリル>ファフナー。



「でも、やっぱりカワイイは正義だと思うんだ」


「その意見には同意する。で、何しに来たんだお前」


「いや、ちょっと手伝ってもらえないかなって思ってさ」








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