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まずは政治から

 廷内に居た閣僚達は一様に皆押し黙っていた。静まりかえった廷内は、人の息遣いすら聞こえてきそうだ。

 その様子を見て、ウィリアムは更に続ける。

「その沈黙を見るに卿らが臣民より課せられた責務を怠り、卿らの利権が偉大なる先達が培った努力の(いさお)の元に成り立っていた事にやっと気がついたか?」

 その言葉を聞いて、ある者を(うな)垂れ俯き、またある者は目を逸らした。

「だが、卿らは幸運である。何故ならば、卿らは自らの奢りを、民に対する欺瞞を、汚された誇りを、気づき是正する機会を与えられたからである。いつか誰かが言わねばならぬ事だったのだ。もし、誰もその嘘を指摘し得ぬまま過ぎていたならば、我らがブリスケンは遠からずして亡国となり果てていただろう。だが、卿らは今日気づく事ができたのだ。それは紛れも無く、僥倖である。」

 そう言って、ウィリアムは指をパチンと鳴らした。

 その音を聞くや否や、今まで物言わぬ彫像のように立っていた宮内省の役人達がいそいそと紙の束を閣僚達に差し出した。

 未だ青ざめた顔で(ひざまず)いていたドナルドにも手渡される。

「これは・・・・。」

「二週間後に、今年度の予算を決めるための予算委員会の公聴会がある。そこで余が陳述する『国家強靭化論』その懸案を纏めた草稿だ。」

 その言葉を聞いて、ドナルドは困惑したような表情を浮かべる。

「しかし、代行府の組閣をお許しにならないのに、予算案などと・・・。」

 ウィリアムは唇の端を歪めた。

「安心せよ、代行府の権限は与えられた予算を行政に対し分配し、公使することだ。つまり、予算案の計上は代行府の権限に非ず。議会の権限である。である以上、組閣をしなくとも予算案を詰める事自体は可能だということだ。」

 廷内の閣僚達がその言葉にざわめく。

 代行府の長である執政を任命せず、しかし代行府が分配し行政という形で公使する予算は決める。

 これはつまり・・・。

 ハッと、その意味する所に気がついたドナルドが震えながら口を開いた。

「つ、つまり陛下は執政の任命権を楯にして、陛下御自らが立てた予算案を議会に通せと、我々を恫喝(どうかつ)しておられるのですか?」

「恫喝などという言葉を使うな、不敬であるぞ。それに勘違いするでない。余は卿らに、この案を通す事を強制するつもりはない。ただ、余の『国家強靭化論』を理解した上で、それを指標として、卿らが何を考え、どう行動し、どのような結末を描き出すのか、余はそれが見たい。そして、それを見た上で、余にその資格有りと認めさせたならば、その時この儀杖と親任状を卿らに授けよう。」

「それならば、このような回りくどい事などしなくともただ一言申し上げて下されば・・・。」

「卿らが言って聞くような者達ならば、余はこのような事をせずとも良かったのだがな。」

 ウィリアムはため息をつく。

「まぁ、良い。言っておくが、生半な論が通るなどと思うなよ。余の案を受ける受けざるに関わらず、この国難を越える覚悟が無いならば、余は絶対に組閣は認めんぞ。例え五年でも十年でも、卿らが誠にこの国家に尽くす気になるまで、余は卿らに譲歩する事は無い。その事をゆめゆめ忘れず、来る二週間後、首都オルニアスで会おう。それでは、去らばだ。」

 その瞬間、

「ウィリアム王、ご退場遊ばされます!」

 という声と共に、宮内省の役人達が拍手を始める。

 ウィリアムはそのまま壇上から降りて、呆然とするドナルドの脇を行き過ぎ、やはり呆然とする閣僚達の間を抜けて、謁見の間の中央を来た時と同じように悠々と歩いていく。

 新代行府の閣僚達は、ウィリアムを押し止める事もなく、ただその背中を見送るしかなかった。 

 こうして、ブリスケン史上最も衝撃的な親任式は、組閣保留のままに幕を閉じたのである。

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