竜に乗って
牛達の群が、見る見る小さな固まりになる。草原が小さな原っぱになり、小さな村はミニチュアの模型のようになる。
竜はどんどん高度を上げて、空高く舞い上がる。セレムは落ちないよう、しっかりと竜にしがみついていた。あっという間の速さで、竜は雲に届きそうな高さまで上がっていった。
「そんなに力入れてしがみつかなくても大丈夫だよ」
セレムの後ろに乗って竜の手綱を引きながら、ギルが笑って言った。
「……」
三歳の時以来竜に乗っていないセレムは、まだ緊張していた。竜が勢いよく高度を上げると、ビュンビュンとまともに風を受ける。風の強さに竜から振り落とされそうだ。
「水平飛行になったら速度がゆっくりになるから」
ギルがそう言って間もなく、竜は上昇を止めて、大きく羽を広げると水平に飛び始めた。
「わぁ…」
ようやくゆっくりと下を眺める余裕が出来たセレムは、真下に広がる深い森の姿を見て思わず感嘆の声を上げた。セレムの村からはもうかなり離れた場所を飛んでいる。ラルフが亡くなってからは村を出たことのないセレムには、見るもの全てが新鮮に映る。森が過ぎ、湖が広がり、また新たな森が始まる。
「海まで行ってみようか」
「うん」
セレムはいつの間にか笑顔になっていた。体中が興奮している。竜で空を飛んだ喜び。セレムの心は一気に明るくなったような気がした。
ギルの合図で、竜のルピィはゆっくりと方向を90度変えて速度を上げて飛び始めた。速度が速くなっても、セレムはもう恐くなかった。竜のコーリーに乗っていた時の感覚がおぼろ気に思い出された。ラルフと空を飛んだ時も、今と同じ風景を見ていたに違いない。
間もなくして、眼下に海が見えてきた。キラキラと朝日を浴びて光る青い海。少し下を飛ぶカモメ達の群れ。所々小さく船も見える。雄大な海。初めて海を目にするセレムの心は感動で震えていた。
「もう少し行くと山脈があって、降りられる場所があるから、そこまで行ってみよう」
ほんの少し飛行するつもりが思わず遠出をしてしまった。けれど、ギルとセレムには時間のことなど全く頭になかった。
海を越えてしばらく進むと、山々が見えてきた。広大に広がる山脈。高く険しい山々も、竜から見下ろせば美しい風景画のようだ。人間の足では決して足を踏み入れることが出来ない山も、竜なら一っ飛びだ。
「?…」
険しい山々を見下ろしている時、セレムの目に何か光るものが映った。一瞬だが、確かに山の中で何かが光った。
「何だろうあれ?…今何か光った」
「光った?」
セレムが指さす方をギルも見たが、その時はもう光りは消えていた。
「もう見えないや。光るって言えば、竜の卵もかえる寸前によく光るんだよ。でも、ここらで竜の卵なんて見たことないからね。カラスが何か光るものを見つけて来たんじゃないかな?」
「そうかな…」
セレムにはもっと強い光りのような気がした。もう一度グルグルと周辺を旋回したが、光るものは見つからなかった。
「竜の卵なら大発見だよ。最近はこの辺では全然見つからなくなったからね。竜の数も減ってきたんだ」
「……」
竜がだんだん姿を消していくのは寂しい。新しく生まれる竜の卵ならいいのにと、セレムは思った。
読んで下さってありがとうございました!
もう少し書く予定でしたが、長くなりそうなので次にします。(^^;)竜にも色んなイメージがありますが、私がイメージしてるのは「ハク」のような日本の竜じゃなくて、恐竜に近いような西洋の竜です。想像の生き物だからどんな動物なのかよく分かりませんね…(^^;)