赤い果実
「よく間違えられるから平気だよ」
ギルはばつが悪そうなアンナに言った。
「コルバじいさんやシンにもよく言われるよ。お前達は反対の性別だったら良かったのにって」
「誰?知らない人ばかり」
「竜の谷の仲間。僕達と一緒に住んでるんだ」
「竜の谷…」
セレムは口を開く。ラルフも時々行っていた竜の住む谷間。村からはかなり遠い所だが、竜で飛んでいけばすぐに行ける場所だった。
「ギル!何やってんだよ!この村は早めに切り上げて、隣りの町に行くよ」
村人相手に商売をしていたレナが、野菜や果物の入った籠を抱えてやって来る。
「レナには男みたいだって言わないで」
ギルは人差し指を口にあてて、セレムとアンナに囁いた。
「竜が水を飲んだら行こう。ここは人が少ないから立ち寄らなくても良かったんだよ」
レナはそう言いながら、レピイというグレーの竜に籠を乗せた。
「待って、私まだ買ってない」
籠の果物を見ながらアンナが言う。
「もうおしまい。今日はあと三つも町を回る予定だから、またにして」
アンナをちらりと見て冷たく言い放つレナに、アンナはカチンとくる。
「いいじゃない、まだたくさん残ってるんだから」
「ダメだって言ってるだろ。ほんとはこんな小さな村に寄るつもりなかったんだからね」
「あんたって見た目だけじゃなくて、中身も男みたいだわ!」
「!!……」
レナは竜に籠をくくりつける手を止めて固まる。
「あ〜、もう一回水汲んでくるよ…」
険悪ムードが高まる中、ギルは飲みかけの竜のバケツを慌てて持ち上げた。
「ポームだ」
我関せずと突っ立っていたセレムが、突然口を開く。不意をつかれて他の三人がセレムに注目する中、セレムは竜の背中の籠から赤い果物を手に取った。リンゴに似た、赤く丸い果物。遠い昔、セレムも食べた記憶がある。
甘く懐かしい香りに、セレムは思わずポームを口に運び一口かじった。
「あっ!…ちょっと何すんだよ、売り物に!」
レナの怒鳴り声も気にせず、セレムは黙々とポームを食べる。
「私も一個もらうわ」
アンナは笑って籠からもう一つポームを取り出し、セレムの真似をして頬張った。
「…お金はちゃんと払いなよ」
美味しそうにポームを食べる二人を見ながら、レナは軽くため息をついた。
「君、名前はなんていうの?ポームのことを知ってるなんて珍しいね」
ギルは竜のバケツを下ろして、セレムに話しかける。
「ポームは竜の谷でもあまり採れないんだよ」
「……」
セレムは食べかけの赤いポームを見つめた。よく覚えていないが、きっとラルフが竜の谷で採ってきてくれたに違いない。
「彼はセレム、私はアンナよ。私たち幼なじみでとっても仲が良いの」
セレムの代わりにアンナが答える。それを見て、レナは鼻で笑った。
「あんたは自分の名前も言えないの?まるで、アンナって子の人形みたいだね」
「何よ!セレムは大人しいだけじゃない!」
カッとなったアンナはレナに詰め寄る。
「…ポームはきっとラルフ兄さんが採ってきてくれたんだ。 ラルフが竜の谷で見つけてくれた…」
「?……」
独り言のように呟くセレムを、レナとギルは不思議そうに見つめた。