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和解

 大きな振動を感じて、セレムは目を覚ました。見るとベッドの上で、フェアリが飛び跳ねている。フェアリが跳ねるごとに、ベッドは大きく浮き沈みした。セレムは大きく伸びをすると身を起こした。昨日はほとんど眠って過ごしたが、お陰ですっか元気を取り戻してきた。

「フェアリ!やめろ、ベッドが壊れる」

 体重も増え力も増してきたフェアリが元気良く跳ねると、ベッドは悲鳴をあげているかのようにギィギィと鳴った。フェアリは羽をパタパタさせて、ベッドの下に着地し、鳴き声をあげた。

「どうかしたの?」

 フェアリはそわそわした様子で、窓辺まで跳ねていった。セレムはベッド脇に立てかけていた杖にもたれながら、ゆっくりと立ち上がった。傷の痛みはなくなったが、完治するには一週間くらいかかるらしい。それまでは杖の力を借りなければならない。 セレムが窓を開けて外を眺めてみると、空から竜のルピィが降りてくる姿が見えた。ルピィの背には、ギルと珍しくコルバが乗っていた。


「ほぉほぉ、久しぶりに竜に乗ってみたがいいもんじゃの。セレムの怪我も思ったより軽そうじゃ」

 セレムの家に案内され、ゆっくりと椅子に腰を下ろしながらコルバが言った。

「セレムの村もセレムの母君も美しいわ」

 メーシーはコルバとギルにお茶を入れながら微笑んだ。

「竜使いには、あなたのような年輩の方もいらっしゃるんですのね?」

「コルバ爺さんはとっくに現役を引退してるよ」

 ギルは笑って、メーシーの入れたお茶をすすった。

「わぁ、美味しいな、このお茶」

「ありがとう。お代わりは何杯でも出来るから、ゆっくりしていってね」

 メーシーはお茶の入ったボトルを置くと、居間を出ていった。

「でも、これからはコルバ爺さんも時々は竜に乗らなきゃいけないね。1人でも大丈夫?」

「バカにするでない!ワシは何十年も竜に乗ってきたのじゃぞ。まだまだ現役じゃ」

「そうかな?なんか心配だよ。セレム、コルバ爺さんのこと頼んだよ」

「え?……」

 状況の見えないセレムは、きょとんとした顔をする。

「ああ、そうか。セレムはまだ知らないんだよね、シンとレナと僕がアリシアの住む南の国に行くってこと」

「南の国に?……みんな行ってしまうの?」

 これから竜使いとして、竜の谷の皆と楽しく過ごそうと思っていたセレムには衝撃的な出来事だった。

「もっと早く言えば良かったね。アリシアが来た時から分かってたんだけど」

「……」

「セレムや、心配するでない。ワシは竜の谷に残るからな。もうこの年じゃ先は見えとるわ。ワシは竜の谷に骨を埋めたいんじゃよ。南の国は竜達の楽園かもしれんが、ワシは生まれ育った竜の谷を離れる訳にはいかん」

 コルバは、目を伏せるセレムに言った。

「セレムにも、まだまだ教えることは山とあるわ」

「フェアリが大きくなるまでは、僕のルピィを残して行くよ。ルピィでここと竜の谷を行き来すれば良いよ」

 ギルは微笑むと、袋の中から何かを取りだし、セレムの前のテーブルに置いた。

「これは……」

「ギル手作りの角笛だよ。竜使いの必需品だからね、セレムも持ってなきゃダメさ」

 セレムは木彫りの角笛を手に取った。

「ありがと。大切にするよ……南の国にはいつ出発するの?」

「一週間後。初雪が降るまでには立たなきゃね。でも、また帰ってくるから。半年もすればフェアリは大きくなって空を飛べるようになるだろうし、そしたらルピィも南の国に行く」

「南の国か……」

 竜達がたくさん住んでいるという南の国。竜達の楽園のようなその国に、いつかセレムもフェアリと一緒に行ってみたいと思った。

 と、セレムの横で大人しく座っていたフェアリが、突然起きあがるとピョンピョンと跳ねながら玄関の方へ歩いて行った。

「フェアリ?」

 フェアリは玄関のドアの前でジャンプしながら、前足でドアを掻いた。

「誰か来たのかな?」

 だが、ドアはなかなか開かなかった。フェアリはそわそわしながら羽をパタパタさせて大きくジャンプすると、ドアの取っ手に前足をかけドアを内側に開いた。

「……」

 ドアの向こうには、アンナが立っていた。籠を抱え、上目遣いに中の様子を気にしている。

「おや、可愛いお嬢ちゃんじゃ」

「アンナ……」

 セレムと目が合ったアンナは、ためらいがちに目を伏せて立ちつくす。フェアリは跳ねながら、アンナのドレスの裾をくわえて引っ張った。

「アンナ、入っておいでよ。綺麗な花をありがとう」

 セレムはアンナが届けてくれた花を思い出し、笑顔を向けた。アンナに対する怒りは、もうとっくに消えていた。

「足はもう治ったのかい?」

「……私の足の怪我なんて、たいしたことないわよ……」

 アンナは手にした籠におでこをつけて口ごもり、シクシクと泣き出した。セレムの優しい言葉は、アンナを余計に悲しくさせた。

「もしあのままセレムが戻って来なかったら……私も生きていけなかった。死んじゃおうって思った……」

「アンナちゃんや、命を粗末にしちゃいかんな。セレムはこうして戻って来たんじゃ。もう大丈夫じゃぞ」

 コルバは愛おしそうに目を細めながら、ほぉっほぉっと笑った。

「ねぇ、その籠の中に何か入ってるの?さっきから良い香りがする。フェアリもすごく気になってるみたいだよ」

 ギルは、フェアリがアンナの籠めがけて跳ねるのを見て言った。アンナは顔を上げると、涙を拭った。

「私が焼いたケーキよ。フェアリにもあげるわ。みんなで食べましょう」

 アンナはフェアリに引っ張られながら、家の中に入って行った。


 美味しいお茶とアンナお手製のケーキで、皆は楽しいひとときを過ごした。帰り際コルバは、セレムに怪我に効く薬草をたくさん渡した。

「薬草のことも、これから色々教えてやるわい」

「コルバ爺さんの薬草学はなかなか勉強になるからね。僕も薬草に詳しくなったんだ」

「この薬草を傷口に塗ったり、煎じて飲んだりすれば、怪我などたちどころに治ってしまうぞ」

「ありがとうございます」

 セレムは感謝しながら、たくさんの薬草を受け取った。

「アンナ、あのケーキすごく美味しかった。作り方教えてよ」

 ギルはアンナに言った。

「ダメ!あれは私だけの秘密のケーキだもん、誰にも教えないわ」

「えー残念だなぁ。僕が作るケーキに負けないくらい美味しかったのに」

「あら、あんたのケーキより私のケーキの方がずっと美味しいわよ」

 アンナは頬を膨らませると、ツンとすましてギルから顔をそむける。泣いていたアンナは、すっかり元気になっていた。

「怒ってるアンナの方が、ずっとアンナらしいね」

 ギルは笑いながら、そっとセレムに耳打ちした。セレムはクスッと笑い、頷く。

 後、一週間。ちょうどセレムの傷が治る頃、竜の谷の皆は南の国に去って行く。空を飛んでいく竜の姿を見つめながら、セレムは少し寂しい気持ちになった。

読んで下さってありがとうございました!

今回が今までで最高の長さとなりました。(^^;)お話もいよいよ後一回エピローグとで終わりです。気を引き締めて頑張ります!

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