静かな夜明け
眩しい光りが目に飛び込んでくる。頭上には木々の枝と葉が揺らめき、葉と葉の間から木漏れ日が差し込んでいた。
「……やっと気がついた」
声のする方へ目を向けると、そこにはレナが立っていた。そのすぐ側には竜のレピィがいる。 レナはほっとした様子で微笑んだ。
「その体の葉っぱどけて、これを羽織りなよ」
「葉っぱ?……」
セレムの体の上には、大小の木の葉がかけられていた。葉っぱをくわえたフェアリが、セレムの周りをピョンピョン飛び跳ねている。
「フェアリがかけてくれたんだね?」
セレムは上半身を起こし、葉を取り除いた。寒さしのぎにはならなくても、フェアリの精一杯の気遣いが嬉しかった。
「足は痛む?」
レナはセレムに毛布を渡しながら、セレムの足をそっと触った。
「うん……昨日からずっと痛む」
「傷は深いようだけど、骨は折れてないみたいだよ」
「あの……」
セレムは、この場所にレナがいることを不思議に思う。
「どうしてここに?」
「今朝早くあんたの家に行ってみたら、森で行方不明になったって騒いでたんだよ。夜明けと同時に村の人皆で探しに行くんだって言ってた。だから、あたしは一足先にレピィで森に来てみたんだ」
「……ありがとう」
「あたしはギルに言われて、たまたまあんたを迎えに来ただけだから……」
レナはそっけなく言うと、セレムから視線を外して立ち上がる。
「ここの森ってかなり深いから、空からだとなかなか見つからないと思ってたんだ。そしたら、何か鳥のようなものがスッと現れたんだよ。遠くの方でよくは見えなかったけど、白っぽくて光りに包まれてた。それは、竜のようにも見えたよ」
「竜?……」
「もちろん、この近くに竜なんているわけないけどね。その光りが気になって後を追いかけてみたら、光りの消えた下にあんたがいたんだ」
「……」
もしかして、それはラルフとコーリーだったのではないだろうか?夕べのことが思い出される。ラルフはいつも側にいて、見守っていると言った。あの言葉は嘘じゃなかった。そう思うと、凍えた体までも温かくなるような幸せな気分になれた。
その時、森のあちこちから村人達の声が聞こえてきた。
「セレムー!セレムー!」
「セレムはこっちだよ!早く来て!」
レナは木霊する声に向かって叫んだ。その声を聞いて安心しきったセレムは、もう一度まどろみの中に落ちていった。
次にセレムが目覚めたのは、柔らかく温かい自分の部屋のベットの中だった。足の痛みも消えていた。セレムは横になったまま、窓に目を向けた。窓から差す光は既に傾きかけている。かなり長い間、セレムは眠り続けていたらしい。
ベッド脇のテーブルの上には、鮮やかな美しい花が生けられてあった。甘く柔らかい香りが漂ってくる。
その時、部屋のドアが静かに開いて、母親のメーシーが入って来た。メーシーはセレムが目覚めているのを見て、ほっとした笑みを浮かべた。
「良かったわ……あまり長く眠ってるから、このまま目を覚まさないのかと思った。気分はどう?」
「悪くはないよ」
セレムはベッドの上に身を起こした。
「レナはもう帰ったの?」
「ええ、あの子のお陰で早くあなたを探し出すことが出来たわ。明日また様子を見に来てくれるそうよ」
と、開いたドアの隙間から、フェアリが飛び跳ねながら入って来た。フェアリは勢いよくジャンプすると、セレムのベットに飛び乗った。
「あっ、ダメよ!セレムの足の上に乗っちゃ 」
メーシーは慌ててフェアリを下ろそうとするが、フェアリはしっかりとセレムの腕の中に収まった。
「大丈夫だよ」
セレムは腕の中のフェアリを抱きしめて頬ずりした。フェアリも嬉しそうにクゥクゥと鳴いた。
「本当に、あなたは竜のことになると夢中になってしまうんだから……」
メーシーは軽くため息をつく。
「まるで……ラルフのようだわ」
メーシーは抱き合うセレムとフェアリを見つめながら、口元を弛めた。
「……母さん、ラルフとコーリーは、いつも僕達を見守ってくれてるから」
セレムはメーシーを見ながら静かに言った。
「え?……」
「兄さんは、いつも僕達の側にいてくれるから、寂しくないよ」
「……ええ、そうね」
メーシーはセレムの言葉に瞳を潤ませた。