初飛行
翌日。竜の迎えを待っていたセレムは、クレスに乗ったアリシアが迎えに来たことに驚く。
「昨日はよく眠れた?フェアリはすっかりあなたに懐いてるようね」
「はい……」
フェアリはセレムの腕の中で眠っている。まだ赤ん坊の竜は、食べる時以外眠っていることが多い。
「どうかした?」
アリシアを見つめたまま突っ立っているセレムに、アリシアが聞く。
「あの、ギルが迎えに来ると思ったから……」
本当はアリシアに見とれていた。朝日を浴びて光る金髪とアリシアの笑顔が眩しかった。
「毎日ルピィが来るのは大変だからね。ルピィは長距離を飛ぶのはあまり得意じゃないのよ」
「そうなんだ」
ギルも竜で飛ぶのはあまり好きじゃないと言っていた。竜にも竜使いにも特徴や性質があるのだろう。
「フェアリは飛ぶのが好きになるかな?」
「そうね、それはあなた次第だと思うわ。飛ぶことの素晴らしさをよく教えて、体力もつけておくと良いわ」
セレムは、大きくなったフェアリに乗って空を飛ぶ姿を思い描く。竜に乗れば、世界中を旅することも出来る。アリシアが住んでいるという南の国にも行けるかもしれない。
「きっと好きになるよ。僕も竜で飛ぶのが好きだから」
「頼もしいわ。この子はクレスより逞しい竜になるかもしれないわね」
アリシアがクレスの長い首をさすると、クレスはゴロゴロと喉を鳴らした。クレスの銀色の体も光りを受けて輝いている。
眠っているフェアリを籠の中にそっと入れて、クレスの背に乗せる。セレムもクレスに乗った。クレスは大きく羽を広げると、ゆっくりと空に飛び立つ。
上空に上がると、ロバを引いて歩いているアンナと母親の姿が道に見えた。隣の町まで、花を売りに行っているようだ。アンナはセレムの方を見上げている。
「あの子はセレムの友だち?」
アリシアがアンナ達に気づき、下を覗く。
「ずっとこっちを見ているわ」
「……うん」
セレムはアンナから視線を外した。アンナに悪かったと思うものの、大切なフェアリを傷つけようとしたことは許せなかった。
竜の谷に着いたセレムは、小さなフェアリをコルバとギルに任せて、初めて1人で竜に乗ることになった。 留守番をしていたルピィが、大人しく座ってセレムを待っている。もう何度も竜には乗っているけれど、自分が操縦するのは初めてで緊張した。
「大丈夫よ、セレム。飛ぶのはルピィに任せて、あなたは手綱を持って私についてくるだけでいいわ」
クレスに乗ったアリシアが微笑む。ルピィは体を低くし、小さく鳴いてセレムを促した。
「うん……」
セレムはゆっくりとルピィの背に乗った。自分の前に誰かの背がないと、いつもより視界が広く見えた。
「近くの湖まで行ってみましょうか。途中でシンとレナに会えるかもしれないわ」
そう言って、アリシアはクレスを誘導し、静かに地上を飛び立った。そして、上空に上がったところで止まり、セレムを待った。
「ここまで、上がってらっしゃい」
セレムはやや緊張気味にルピィの手綱を引いた。
「ルピィ、飛んで」
ルピィは羽を羽ばたかせると、一声鳴いて空に舞い上がりクレスの横に並んだ。
「すごい!竜はちゃんと言うことを聞いてくれるんだ」
自分に従い竜が空を飛ぶことに、セレムは感動する。
「そうよ。竜との信頼関係が出来ていれば、竜と気持ちが通じ合えるようになるわ。竜と竜使いは一心同体、強い絆で結ばれているものだから。そのうち、竜もあなたの心を理解してくれるようになるわよ」
竜の気持ちが分かり、竜も竜使いの気持ちが分かるようになる。いつかフェアリとも、そんな関係になれるだろうか?セレムの夢は膨らむ。
竜に乗ったアリシアとセレムは、ゆっくりと空を飛んでいった。